第八十四話 ファイアの葛藤
「あぁ〜、もう大分日も落ちちまったな〜」
既に夜になっていた空を見ながらリュウセイは呟いた。確かに時間が流れるのがあっという間に感じれた。
「そうね、色々あったからあっという間に感じたよ」
傷で痛む体をおさえながらリーフが僕と同じことを呟いた。確かに色々あったからね。アンドロメダ(バカなコンビ)が仲間になったりリーフがハガネさんの復讐を止めたり妙な組織の刺客に狙われたり、その組織の(本人曰く)No.2のポケモンに手を組むことになるなんてね。正直思わなかったよ。
〜〜♪♪
「あっ………////」
どっからか腹の虫が鳴いた音が聞こえてきた。腹の虫を鳴かした張本人はバツが悪そうな顔をして俯いていた。まったく…………リーフらしいと言えばリーフらしいけど…………。
「…………はは///。お腹すいちゃった///」
「まぁリーフは頑張ったさかい腹が減るんm…………」
$%&*@#&#%$;!!!!!
うるさああああああぁい!!一体何なんだよこの音!!
「ごめん、僕もおなかすいた♪」
今度はマンプクが照れながら頭を掻いていた。てかカビゴンって腹減ったらこんな爆音がなるものなの!!!?鼓膜が裂けるかと思ったんだけど!!
「やっぱ僕も頑張ったからね」
少々ドヤ顔でマンプクがそう言った。するとリュウセイが”おめぇはなんもしてねぇじゃねぇかデブ!”ってぎゃあぎゃあ言いながら口げんかを始めた。正直気が滅入ってあんな口げんかする気力なんて僕には起きないね…………。
「飯にするんはええけど、もう食料からっぽやで」
はぁとため息をつきながらムドウさんはそう言った。
ってえぇ!!?食料がない!!?だって確かにこの島に来る前までには大量にもってきた筈なのに!?
って考えなくても犯人は分かるけどね…………。
「こっそりつまみ食いしたくなる時だってあるじゃん♪」
その犯人、リーフは悪びれることなくそう言った。全く……油断も隙もありゃしないよ全く…………。でも、食料ないなんてちょっと辛くないですか!?
「全く……ほんっとお前達は………」
ハガネさんもため息交じりに呟いたよ。で僕らがどうしようとたむろってた時に…………、
「…………フン」
そう言って今まで会話に加わらなかったポケモンが僕達の前にドサッと音を立てながら袋を目の前に置いた。
「な、なんだこりゃ………?」
「食いもんだ。食え」
リュウセイの問いかけにその本人ジェット……う〜んこの場合さんづけいるのかな?とにかくジェットがぶっきらぼうにそう答えたんだ。
「ほんと!?いっただきま〜す!!」
ちょっ!!リーフ!?そんな飛びつくように食べなくっても!!大体いくら悪党だからってお礼の一つも言わずに手をつけるってだめじゃないの!?
「あぁ…………ありがとうございます。わざわざ食料を僕達に…………」
「あぁん!?お前、我輩のこと勘違いしてんじゃねぇのか!?」
僕がお礼を言ったらジェットはなぜか怒ったような口調で僕に怒鳴ってきた!!何で!?僕そんな嫌なこと言った!?
「いいか!我輩がお前達を助けたのはお前達に我輩の足を引っ張られないために施しを与えてやっただけだからな!!勘違いするなよ!!」
ジェットが血相を変えてまで言ってきたのはまぁ……言ってはなんだけどその程度のことだった。……これってあれだよね。俗に言うツンデレだよね。まぁなんかジェットはそんな悪いヒトじゃない感じはしてたけどまさかね…………。
「はいはい、わかりました♪」
僕は自分でもわかるほどにニヤニヤしながらそう返した。
しばらくはジェットのツンデレっぷりがうけて主にリュウセイやムドウさんが凄くいじってきた。ジェットは口でこそは怒っていたけどまんざらでもなかったのか結構嬉しそうな顔してたよ。兄さんと一緒の組織ではこんなやり取りができなかったのかな…………。
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「はぁ……」
ふと僕は目が覚めて辺りを見回した。横ではリーフをはじめとする全員がすーすーと寝息を立てて眠っていた(中にはやかましいいびきを立ててる奴らもいたけど)。
「さっきからどうも寝れないな…………」
どうもさっきから頭がさえて眠れないのだ。だから僕は起き上ってちょっとその場を離れて散歩することにしたんだ。既に目を覚まして僕の後をついていったポケモンのことに気付かずにね。
「ファイア…………」
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「うぅっ……寒い……」
適当に歩いていた僕は島の海岸までたどり着いた。やっぱこの時期に海は冷えるね。まぁそんなこと考えながら僕は砂浜に座り込んだ。
「……………………」
やっぱり気になるんだ。どうして兄さんが僕のことを………昔はあんなにやさしかった兄さんが……僕だけじゃなく仲間のジェットまで手を出すなんて………。
「うぅっ………………」
気がついたら僕の体は言いようのない不安感に体を震わせていた。どうして!?何で今になって!?このことは前から知っていたのに!?
「どうしたのファイア?」
「っ!!?」
後ろから聞き覚えのある声がした。そこには寝ていた筈のリーフが何食わぬ顔で僕の真後ろにいたんだ。
「リ、リーフ!?何でここに!?」
「ファイアこそ何でこんな夜中にひとりでどこほっつき歩いてたのよ?」
僕の質問には答えずに逆に彼女が質問してきたよ。まぁ確かに出ていったのは僕からなんだけどね。
「い、いや!!ちょっと寝れなくて散歩してたんだ!」
「ふ〜ん。まぁわたしもちょうど眠れなかったし隣座ってもいい?」
口ではそう言うが既に彼女は僕の隣に座ろうとしていた。こんなとこで”無理”なんて言えるわけもなく彼女は僕の隣に座った。
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「…………」
「…………」
う〜ん、正直2人になったけど話すことないよ……。正直僕、元々話すネタなんか当たり前だけど持ってきてないし……。そんなこんなでだんまりが続くとリーフの方から口を開けてきた。
「そう言えばファイアってさ、何で探検家を志したの?」
「えぇっ!?」
まさかいきなりそんなこと聞いてくるとは思わなかったよ。でも確かに本当に目指した理由って話したことなかったっけ。
「うん、実は僕最初はあるポケモンを探すために探検家目指してたんだよ」
「あるポケモン?」
今リーフの頭の上には”?”マークがついてるだろうね。今まで言う機会がなかったけど隠しても仕方ないし。
「うん、目指していくにつれて色々目的みたいなのはあったけど本当はさっき言ったことが元だったんだよ」
「そのあるポケモンって誰?」
なんか同じセリフを言っているのは気のせいじゃない筈……。
「僕の、兄さん……、あのバクフーンだったんだ…………」
その瞬間、リーフが凍りついたように動かなくなった。仕方ないよね、こんなこと聞いたら誰だってびっくりするよ。
「そ、それって…………」
「うん、さっきも言ったけど本当の目的は兄さんを探すことだったんだ。僕が幼いころに姿を消しちゃったからね…………」
そう、僕は昔から義理の父のスパークに拾われるまではバクフーン兄さんと2人で暮らしてたんだ。両親は兄さんが言うには”お前が生まれたころにはもういない”ってね。生きてるのかすら分からないんだって。
「だから父さんに色々教えてもらって僕は探検家を目指そうと思った。そして兄さんに再会しようと思ってたんだけど…………」
残念なことにあの時あったのは今まで僕が知ってる兄さんじゃなかった。リーフは”変わり果ててしまったんだね”って言いたそうな顔をしてたよ。でも僕に気を使ってか口には出さなかったけどね。
「怖いんだ…………」
「えぇっ?」
「怖いんだ!兄さんが!!あんなにやさしかった兄さんが戻ってこない…………、ばっかりか無差別に誰かを傷つけるような……そんなヒトになったのが……」
不安を爆発させた僕は自分でも何を言ってるか分からなくなった。分からないんだ……なんで……なんであんな風に兄さんは変わってしまったの!僕が何かしてしまったの!?
そんな言いようのない不安感が爆発してとうとう僕は涙を流してしまった……。
「えっ!!?」
「ごめんなさいファイア。傷つけるようなこと聞いて…………」
僕は誰かに抱かれたことに気付いた……。見るとそこには自分の尤も大切なパートナーが僕を……優しく抱きしめていたんだ……。
「でも大丈夫。たとえあのバクフーンがファイアを本気で裏切ってもわたしは絶対に裏切らない。バクフーンがファイアを傷つけようとしても絶対にわたしがファイアを守るから」
「リ、リーフ………うん」
そこにはさっきまで悲しい顔つきではなくいつも通りの笑顔を見せてリーフは僕に語りかけてきた。なんだろう、凄く……温かい……。
僕はしばらく彼女の胸の中で涙を流していた…………。不安とか羞恥といった感情が忘れ去られていったよ。
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(ファイアサイド→三人称)
「かぁ〜!!よく寝た〜!!」
朝一番に目を覚ましたのはリュウセイだった。相変わらずでかい声である。
「やかましいぞ虫!ちょっとは我輩の快適な朝の為に黙らんか!!」
「あんだと!?てめぇこそサメの癖に偉そうな口ぬかすな!!」
リュウセイの声にたたき起されたジェットは不満そうな顔付きで彼に文句を言う。これが原因で朝一からこの2人は喧嘩を始めてしまったのだ。
「やれやれ、朝っぱらから元気な奴らやで」
「まぁまぁ、喧嘩するほど仲がいいって言うし、これであのジェットとか言うサメハダーも少しは僕達になじんだんじゃないの?」
ため息をつくムドウとは対照的に相変わらず楽観的な様子のマンプク。彼にはやはり食べ物が手にされてる。
〜〜♪♪
「おっと連絡だ」
喧嘩をしていたジェットだが彼の通信機が鳴りだし喧嘩を中断し、通信機に手をかけた(サメハダーの体でどうやって通信してるかは想像にお任せする)
「こちらジェット。どうしたのだ?」
『大変ですジェット様!!街のポケモンが凶暴化してますぅ!!』
ジェットの通信機の画面越しに彼の部下と思われるポケモン、ドラピオンがうろたえた様子で叫んでいた。その様子に先ほどまで喧嘩腰だったリュウセイも手を止める。
「何が大変なのだ!!詳しく説明せんか!!」
『は、はいぃ!!』
怒鳴り声をあげるジェットにリーフやファイアも彼の周りに集まっていた。手下のドラピオンの説明ではなぜか街中のポケモンがいきなりダンジョンのポケモンのように暴れ出したという。
「あ、あれはスパークさん!!?」
「何であそこに!?」
「スパーク?まさかお前達の仲間か?」
リーフとファイアの声にジェットが反応する。画面の後ろに2人の仲間のスパークがなぜかボロボロの状態で映っていたのだ。彼も元は敵なのか一度も会ったことないスパークのことは知っていたのだ。
「くっ!(みんなが危ない!!)!!」
「待てリーフ!!」
飛びだそうとするリーフにハガネが制止をかける。
「気持ちは分かるが今のお前にどうやって海を渡っていくというのだ!!」
そうここは島。スパーク達のいる街までたどり着くには距離がありすぎる。
「とにかくもう少し持ちこたえろ!!すぐに我輩達もそっちに向かう!!」(ピッ)
ジェットはそう言って通信機を切った。彼もファイアと同じく飛びだそうとしていた。
「ちょっと待てよ!!ハガネさんが言うとおりあんただけでどうやってあそこまで行くんだ?」
「フン!!我輩を誰だと思ってるんだ!!」
そう言いながらジェットはあごで空を見るように遠まわしに指示した。
「あっ!!あれ見て!!」
リーフが指差した先には人間が作ったものと同じような乗り物、ヘリコプターが上空に旋回していたのだ。
「組織のポケモンをなめんじゃねぇ〜よ。我輩がその気になればこんなもん朝飯まえでぃ」
そう言ってジェットはヘリから降ろされたロープにつかまった。ヘリの操縦者と思われるポケモンは彼の掴んでるロープを引き寄せるように引っ張る。
「わ、わたしも!!」
「お前の助けなどいらるか!!ここは我輩がやる!!」
リーフも同行しようとするがジェットがそれを拒んだ。
「お前には…………お前にはパートナーがいるだろう!!そいつを守ってやるのだ!」
「パ、パートナー…………」
ジェットの言葉を復唱するリーフ。それを聞いて彼女の揺らいでいた心境が固まった。残る決意をしたのだ。
「お前はお前の役割を果たせ!!ここは我輩に任せろ!!」
ジェットはそう言い残して島を去っていった。
「(さて、)おう目玉焼き!!今から街に向かうから応援をよこせ!!
なに〜!?急に行っても困るだぁ!?んだとこの目玉!!我輩がどれだけ苦労したと思ってんだ!!早くしろ!!さもねぇとお前を明日のランチにしてやっからな!!」(ピッ)
通信機で一方的に用件を伝えるだけ伝えて切った。これではどっちがボスかわからない。
「急げ!!早く街まで飛ばすのだ!!」
いつになく真剣なジェットの指示に従いヘリは島を後にした。