第八十三話 決着と・・・・・・
「はぁ………やった……、やったぞ!!」
肩で息をしながらバクフーンは自分の放った炎の壁を見つめていた。彼の放った”煉獄壁”はいまだに勢いを衰えずに燃え盛っている。
「くそっ!!あかんかったんか!!」
ムドウは舌打ちをしながらもこれからリーフ達の救援の方法を思慮していた。むろんハガネも同じで、すぐにでもバクフーンに攻撃をしかけようと準備をしていた。
だが、彼らのその思考もすぐにストップのシグナルがかかった。彼らサダメは勿論バクフーンまでもが信じられないといった表情を見せる。
シュルルルルルル!!
「なんだと!?」
「なんやて!?」
「なんだこれは!?」
上からハガネ、ムドウ、バクフーンの三人が驚きの声をあげた、今まで盛んに燃えていた炎の壁が一瞬のうちに消えていった。
正確には消えたというよりは吸収されたと言い換えるべきだろう。炎が一瞬にして何かに吸収されたのだ。
--あんな炎でわたしが倒せると思ったのか?--
「っ!!」
バクフーンの視線の先には吸収された炎の原因、敵のチコリータがボロボロになりながらも立っている姿が映った。よくみると彼女の左手には緑色の球体が手にされている。
「あれはエナジーボールか?」
ムドウの言うとおり草タイプの球体を出す技といえばエナジーボールが一般的である。だが…………
「いや違う、あれはエナジーボールの雰囲気じゃない。なんかエナジーボールになんか強力な技を合体させたような…………」
ハガネが分析する。事実彼は実際のエナジーボール比ではない高密度のエネルギーを感じていた。普通のエナジーボールの中に大量の葉が嵐のように回転している。そしてこの技を見ていたのがもう一人。
「ぐっ、なんだこの技は…………」
その高密度の球体を見てバクフーンの額に冷や汗がたらりと流れる。相性云々の問題ではない。彼の勘が告げていたのだ。
--これを食らえばまず自分は立ってられない…………--
と。
そんな彼の思考など知らずにリーフはダッとバクフーンのところに走っていった。
「(あんな技!!出させる前に倒せばいいだけのこと!!)火炎放射!!」
自分に向かって突っ込んでくるリーフに向けて火炎放射を放つ。技を食らう前に弱点技で倒そうと考えた。それが仇になることに気付かずに…………。
シュルルルルルル!!
「な、なぜだぁ!!」
またも先ほどの煉獄壁と同じように火炎放射が吸収されていったのだ。しかし今度はその先をしっかりと目視できた。その正体を見てまたも彼は驚愕する。
リーフの身に着けていたオーブに炎の全てが吸収されていったのだ。火炎放射を全く受けなかったリーフはバクフーンの懐に接近していた。
「バクフーン!!これで終わりだ!!エナジー……」
リーフはバクフーンの腹にエナジーボールに似た球体を…………。
「ストオオオオオオオオオォォォムッ!!!」
全力で球体を、エナジーストームを叩きつけた。思い切りぶつけられたエナジーストームはその衝撃でバクフーンは吹き飛ばされ、破裂したエナジーストームは爆風に近い突風を発する!
「うおおぉっ!!なんやこれ!!」
「くっ!(まさかこれはリーフストームか!?)」
突風に耐えながらハガネはそう断定する。技の規模こそは違えど風といった要因がリーフストームにかなり一致していたのだ。だが今はバンギラスの自分さえも吹き飛ばされそうな風圧に耐えるのが精いっぱいで考えるどころではなかった。
--な、なぜだ…………なぜ私が…………---
エナジーストームを受け壁にたたきつけられる寸前にバクフーンはこう小さく漏らした。
「はぁ……や、やったの……」
バクフーンが壁にたたきつけられた衝撃で立ちこめた砂煙をリーフは凝視していた。彼女も肩で息をしており冒頭のバクフーンと状況か酷似している。
そして徐々に煙が晴れてきた。そこにあったのは…………。
腹にえぐれたような傷を受けて倒れているバクフーンの姿だった。
「ぐぅっ……………」
苦しそうな声を出すバクフーン。だがダメージが重く体を全く動かせずにいた。
「お前の………お前の冷たいハートではわたし達は倒せない」
倒れている彼に向けてリーフはそう言い放った。それを聞いたバクフーンの眉間にしわをよせて不快な顔をする。
「なぜだ!!なぜ負けた!!データでは私がお前達に負ける可能性などなかったのに!!」
いまだに負けを信じられないバクフーンは声を荒らげる。今の彼はそのデータに過信しているのが誰の目にも映った。
「そのデータ、わたしとお前が戦う前のデータだろ。そんなものあてになるか」
「な、なんだとぉ!!?」
彼の自慢のデータを真っ向から否定されまたも声を荒らげるバクフーン。だがリーフはそんな彼の様子など知らずに続ける。
「そんなデータじゃはかりきれないよ。油断や過信、そして仲間の大切さをしらないお前の冷たい心がわたし達を下回ったからだ!!それに気付かなかったのがお前の敗因だ!!」
「仲間の大切さ…………」
リーフに一喝されバクフーンは彼女の言葉を復唱する。
「確かに油断や過信、それが私が負けた原因かもしれんな………、でも」
一瞬だけ穏やかな表情を見せるバクフーン。だが最後の言葉を発する時にまた元の冷酷な笑みを浮かべる。
「お前達の弱点は敵に止めをささないその甘さだ!! 火炎放………」
「電磁波!!」
「ぐはあぁっ!!」
リーフに襲いかかるバクフーンだがハガネがそれを許さなかった。電磁波が飛び、バクフーンを麻痺させる。
「てめぇ、まだ懲りずにきたねぇ真似しようとしやがったな…………。んな姑息な真似はしねぇように叩きのめしてやる…………」
「やはり見破られたか…………」
電磁波を食らい、もはや逃げ切れるような状況ではないにも関わらずバクフーンは余裕の表情を見せる。
「今回は私の負けにしてやる。だが、次はないと思うんだな」
「待て!!」
カリッ
ハガネが追うも何かを噛んだような音と共にバクフーンの姿が消えた。彼の口の中に聖なる種が加えられていたのだ。
「くそっ!!」
敵(かたき)に逃げられ怒りに震えるハガネ。そんな彼をリーフとムドウは黙って見ていた。しばし沈黙が続いたが時期にそれが破られた。
「おい!!じっとしてろ!!治療してやっから!!」
「うるせぇ!!お前らの情けなんぞ受け取るか!!」
バトルフィールドから離れた場所から喧騒が聞こえてきた。みるとリュウセイとジェットが言い争ってるように見える。
「ど、どうしたの!?」
バクフーンが消えたのかいつもの口調でリーフが話かけてきた。
「あぁ、リーフさん!!大丈夫っすか!?
って違うか、こいつが治療してやるってのに全然言う事聞かないで暴れるんすよ!!」
「フン!!どうせ見え透いた嘘をついて我輩をとらえるにキマっとるだろ!!」
勿論リュウセイは本気で治療していた。事実ジェットが暴れられるくらいまで回復しているのだから彼の言葉は間違ってはいないだろう。だがジェットがそう疑うのも無理はない。
「ったく!こうなったらデブ!!そいつを抑えつけろ!!」
「は〜い」
リュウセイにいわれてマンプクはジェットを押さえつけようとした。
「フン!!」
「あ痛っ!!」
ジェットに触れた瞬間、マンプクの手に傷ができた。痛みのために反射的に手を放してしまう。サメハダーの特性:さめはだ:で傷が入ってしまったのだ。
「敵が我輩に触れるな。我輩は行く!!」
「んだとこのサメ!!」
その場を立ち去ろうとするジェットにとうとうキレたのかリュウセイは怒り始めた。だがジェットはリュウセイの捨て台詞など聞かずに去っていく。
「うぐぅっ!!」
だが、ジェットは傷が深かったのかまたもその場で倒れこんでしまう。
「(へっ、ざまぁみやがれ!)」
「だ、大丈夫!?」
心中では彼の姿を見てほくそ笑むリュウセイに対してリーフは一目散に彼のもとに走り出した。自分も傷だらけの体なことを忘れて。
「何度も言ってるだろ!!我輩に触れるな!!」
「こんな傷だらけの状態でほっとける訳ないでしょ!?」
「どうせそんな嘘で我輩のこと保安官につきだすつもりだろ!!」
「それは違う!!」
『!!!!?』
しばし押し問答が続いたがリーフの一喝でジェットの口が止まった。
「いくら敵だからって、仲間に見捨てられて…………それでボロボロな状態じゃ放っておけないよ…………」
「わ、我輩の心配よりお前の心配をした方が…………」
「違うよ。今のあなたは心も傷ついてる。仲間に裏切られたから…………」
リーフが悲しそうな顔でジェットに語りかけた。いくらあのようなポケモンだといってもジェットとの付き合いは長い。少なからずジェットの心にショックを受けてたのは確かだったのだ。
「とにかく、今から治療するからちょっとじっとしててね」
「あっ!!リーフさん!!そいつの体鮫肌だから触ったら…………」
リーフが治療しようと両手を彼の体に触れようとした。だが先ほど彼の体に振れて傷を負ったマンプクが制止する。
「あ、あれ?」
だがそんな彼の心配は杞憂に終わった。リーフは何食わぬ顔でジェットの治療を施していたのだ。
「なぁハガネさんよ。サメハダーの特性さめはだって触れた相手を無差別に傷つけるやつだったよな?」
「う〜ん、正確には違うな。聞いた話だがサメハダーという一族は心から信頼した相手に触れられても鮫肌を抑える習性があるんだ。だからあのジェットとかいう奴はもしかして…………」
「ま、マジかよ!?」
リュウセイは信じられないような顔をしていた。先ほどまで全く自分達を信用しようとしなかったジェットがそこまでリーフのことは信用していたということになるといえる。
「ふ〜、これでよしっと」
「…………」
ジェットは本当に自分を治療してくれたリーフを黙って見ていた。そして彼の心境に変化が訪れていた。
「………たいか………?」
「えっ?」
「バクフーンのこと知りたいのかと聞いたんだよ」
ジェットの口から出た言葉、それは敵に自分達のことを教えるつもりなのだ。無論これを拒否する手はない。リーフは話を聞くことにした。
「そうか、あいつはな……バクフーンは………
ボスの命令には従ってなかったんだよ………」
『?????』
ボスの命令には従ってない。その言葉の意味がリーフ達には今一理解できなかった。普通ならボス格のポケモンには従う筈である。
「な、なにいってんだあんた?」
「今のは分かりづらかったか 、要するにだ我輩達はお前達を”とらえろ”とは命令されたが”殺せ”とは命令されてない。でもあいつは殺そうとしていたんだ」
「えぇっ!!じゃあはじめからあんたらはリーフ達を…………
『殺す気持ちはなかったってこと?』
不意に聞こえた声、ジェットを含む全員がその声の主に反応した。
「ファ、ファイア!?」
「大丈夫だったの!?」
「うん、それよりなんで兄さんは僕達のことを…………」
ファイアが不安な面持ちでジェットに尋ねてきた。なぜ自分達の命が命令に背いてまで狙われなければならないのか。それが気になって仕方なかったのだ。
「それは我輩にも分からん…………。ただファイア…………だったか?お前のことをしょっちゅう口にしていたようだぞ」
「じゃあもう一つ聞く。なぜお前は一緒に奴と行動しながら奴のことをボスに報告しなかった?」
ハガネがそう尋ねてきた。確かにジェットはバクフーンとよく行動を共にしてきた。命令に背いてきたのは彼が一番よくわかっていた。
「まぁ………あれだ………ボスはあいつのことを一番信用してたんだ……だから………言ってもしょうがなかったんだよ……………」
「それじゃ下手なこと言うたら逆にあんさんの信用が失われてしまうもんな」
ムドウの言葉にジェットは黙って頷いた。
「でも、バクフーンがあんたを攻撃して一人で去ったってことはこれは本格的に裏切ったことになるんじゃねぇのか」
「そうか……………………
よし!!」
しばらく黙った後ジェットは何かを決意したような顔つきになった。
「リーフよ。我が組織にも裏切り者が出た。お前達も奴に狙われている。そこでだ……………………
我輩達と手を組まないか?」
「はぁ!?」
唐突に協定戦線を言いだされリュウセイは素っ頓狂な声をあげる。だがジェットは”お前じゃねぇよ”とバッサリ言い放つ。
「も、もしかしてわたし達に協力してくれるってこと?」
「か、勘違いすんじゃねぇぞ!!あいつが我輩の組織を裏切ったからお前達を利用しようと思ってるだけだからな!!」
ジェットは口でこそはそう否定するも顔に本心が出ていた。これが俗に言う……アレだろう……。
「まぁ…………裏切るつもりはないんだし、いいんじゃないの?手を組んでも?」
「で、でもさ!?もし万が一裏切ったらどうするの!?」
ジェットを信用しているリーフに対していまだに彼を信用できないファイアが反論する。
「その時はその時。もし裏切ったりでもすれば
叩きのめせばいいだけよ」
バシッと両手を打ちながらそう言い放った。リーフは本心からこういったのではない。ジェットの裏切る余地をなくすためにあえてこのような物騒なことを言ったのだ。
「フン、全くお前はお人よしな奴だな。そんなんじゃ後で苦労するのが目に見えてるだろう」
ハガネがぼそりと皮肉を言った。だがそう言う彼もジェットのことを、というよりはリーフの言動を信用していた。
「さて、それじゃ行きましょうか」
リーフはゆっくりと立ちあがりながら歩きだそうとした。
「ぐっ!!」
だがリーフは倒れこんでしまった。誰よりも重いダメージを負っているのだから無理もないだろう。
「危ない!!」
ファイアはそんな彼女の体をキャッチしようと試みた。
「だ、だいじょうぶ!?」
「え、えぇ…………」
かろうじてリーフの体が地面に触れる前に支えることができたのだが………
「……………」
「…………」
互いの顔がこれ以上ないほど接近していた。それも吐息がかかるくらいの距離であり互いに顔を紅潮させていた。これを見たリュウセイとムドウは口には出さないがニヤニヤしながら2人を見ていた。ハガネはあきれ果てた目でリュウセイ達を見ておりマンプクは相変わらずののほほんとした顔であった。
「い、いこうか…………」
ファイアは何事もなかったかのように取り繕うが。2人共顔を赤くしており動揺を隠せなかった。しばらくこの気まずい空気が晴れなかったと後にジェットは語っていた。