第八十二話 一瞬の希望と絶望
「お前達では私には勝てない!!火炎放射ッ!!」
バクフーンは今までの冷静な態度からは想像もつかないような声をあげ火炎放射を放った。
「くっ!守る…………」
向かってくる火炎放射に対してリーフは守るで攻撃を防いだ。だがこれらの攻防は互いの想定の範囲内だった。
「ファイア!!」
「うん!!ファイアーボール!!」
リーフに後ろで待機していたファイアが文字通りの火の玉をバクフーンに向けて数発放った。
「お前も持ってたかファイア!!ならばこちらも!!」
「えぇっ!?」
なんとバクフーンもファイアと全く同じ火の玉をファイアの放ったファイアーボールに向けてぶつけたのだ。
「な、なんで僕の技が…………」
「何を言うか!お前と私は血のつながった兄弟だろ?」
「うぅ…………」
ファイアに放たれた”兄弟”という単語。目の前の残虐なポケモンが兄弟と言われたことがやはり信じられずに彼の心に突き刺さった。
「バクフーン!!その汚らしい口でファイア(パートナー)を汚すな!!」
「私は事実を述べたまでだ!汚すとは随分な言い方だなぁ!!岩なだれッ!!!」
バクフーンは頭上から大量の巨大な岩をリーフ達に向けて落とした。それも通常の岩なだれを凌駕する尋常じゃない数の落石が降り注いでいる。
「任せろ!!」
リーフは降り注ぐ落石を全てメタルブレードで切り裂いた。切り裂かれた岩石はリーフとファイアの周りを固めるように落ちていった。
「す、凄い…………」
切り裂かれた岩石を見てファイアはこう呟いた。普通に岩なだれを攻撃技で防ぐなど容易ではないことを容易くしてしまったのだから。
「気をつけろ!来るぞ!!」
ファイアとは対照的に戦闘体制を解かないリーフは警戒していた。
彼女の予感は当たっていた。岩の上からバクフーンが飛びかかるように空中から2人に襲いかかってきたのだから。
「爆裂パンチィ!!!」
「決めさせない!!」
バクフーンの右腕をリーフは蔓の鞭で捕まえ爆裂パンチを防いだ。だがバクフーンは左腕で鞭を掴んでしまう。
「そんなもんがきくかぁ!!それっ!!」
バクフーンは鞭をそのままリーフを放り投げようとした。
「なにぃ!!?」
しかし彼女の体は微動だにしなかった。普通ならバクフーンとチコリータの力比べならどう考えてもバクフーンである自分に軍配が上がる。そう彼は考えていたのだ。
しかしここにいるチコリータは普通ではなかった。
「フン、あいつの力の強さはオレも教えてもらったからな。流石の奴でも単純な力比べでは勝てんだろう」
既にバクフーンが呼んだ部下のポケモンをかたずけたハガネ達。かつて倒れている自分を自力で運んできた彼女の力の強さは身をもって知っていたのだ。
「ほやけどハガネ、あいつ等を助けにいかんでええんか?」
横にいた相方のエアームド、ムドウが彼に尋ねる。
「本心ならばオレも戦うつもりだ。だがここはあいつ等に任せよう」
「まっ、お前ならそう言うとおもたで」
「ぐっ!!全く動かんぞ!!」
「(いまだ!)うおおおおおおおおおおぉっ!!!」
リーフは自分の蔓を引っ張ろうとしているバクフーンを逆に引き寄せ操り思い切り放り投げる。これにはバクフーンも対応できずにまんまと地面に叩きつけられた。
「どうしたんだ?御自慢のデータとやらは?」
リーフが倒れているバクフーンに向けて普段からは想像もつかない態度で挑発してきた。ニヤリと笑みを浮かべた様子はいつもの間の抜けた彼女の面影は感じられない。
「まだまだだぁ!!!お前達ごときに私が負けん!!電光石火!!」
バクフーンは素早く体制を立て直して電光石化でリーフに突進していった。
「くっ!!」
懐に潜り込まれてまともに電光石火を受けてしまった。しかしバクフーンは追撃を止めない
「爆裂パンチ!!!」
「くっ………」
電光石化を受け、のけぞったところに容赦なく強力なパンチが炸裂。リーフは防御もできずに攻撃を食らい、勢いよく壁にたたきつけられる。
「こんのっ!!ファイアーボール!!」
「同じ手がきくと思うなぁ!!」
ファイアは火の玉をバクフーンに向けて放った。だがバクフーンが叫ぶとファイアーボールが空中で静止してしまったのだ。
「弟よ!!同じ種族としてこの技を知らんとは恥ずかしいな!!それ!!」
よく見るとバクフーンの目が光っていた。その状態でファイアーボールをファイアのもとに返したのだ。ファイアは自分の放った技を食らってしまう。
「い、一体何が…………」
「正体を教えてやろうか?神通力!!」
バクフーンが技の名前を唱えるとファイアの体が硬直した。彼が放ったのは神通力、エスパータイプの技で比較的最近になってヒノアラシ一族が覚えるようになったといわれる技である。しかしファイアはこのことをしらなかったのだ。
「か、からだが…………」
「あがこうだなんて考えないほうがいいぞ。その気になればお前をこれ以上苦しめることだって他愛のないことだ」
「がはぁっ…………」
そう言うとファイアの体を拘束する神通力が一層強くなった。ギリギリと締めつけられているファイアは苦しそうな顔をする。
「さて…………………」
バクフーンはいまだに神通力で動きを止めたファイアにツカツカと歩み寄っていった。
「ど、どうして……」
「???」
バクフーンが口を開ける前にファイアがギリギリと締めつけられる痛みをこらえながら口を開いた。
「……兄さん……どうしてこんなことを……、こんなことしても……みんな悲しむだけ…………」
「うるさいぃっ!!!」
バクフーンはファイアの言葉を聞いたとたん、それを遮るように再び激昂して彼を殴りつけた。
「お前に私のことなどわかるものか!!お前は私が何を思ったのかわかっていない!!何も知らぬ癖に口をだすなぁっ!!」
怒り狂った状態でファイアの胸倉をつかみにかかったバクフーン。既に神通力は解かれておりすぐにでも技を出せる状態となっている。
「爆裂パンチ……」
「やめろぉっ!!!」
『なっ!!?』
突如響いた第三者の声、その声に2人共声のした方向へ振り向いた。
「なんだと!!?」
「リ、リーフ!!?」
「ファイアから離れろ!!メタルブレード!!!」
「ぐああぁぁぁっ!!!」
2人の間に割って入るように一人のチコリータが乱入してきた。驚いているバクフーンの腹に斬撃を加える。
「な、何が起こったぁ!!?」
「随分余裕だなメタルタックル!!!」
「ぐはあああああぁっ!!」
それはただの”たいあたり”だった。しかし彼女はアイアンテールの要領で全身を鋼鉄化させ、たいあたりしたのだ。そのためバクフーンの腹にはさながら鉄球が直撃したような衝撃が走る。
「な、なんなんだこの威力は!!」
目の前にいるのはすでに自分達との戦闘でボロボロのチコリータとヒノアラシ。だがそんな相手に自分までもが彼らと差異がない状態に追い込まれているのだ。
「ちょっと待てよ?なんで爆裂パンチで混乱せえへんかったんやろ?」
「恐らくリーフは爆裂パンチを受ける寸前のところで神秘の守りで混乱を防いだんだろう」
リーフ達を見守っていたハガネがそう説明した。
「だが特性深緑を考慮してもあの技の威力は強すぎる。一体何をしたんだ…………」
だが彼にも解せないところがあった。本来の特性深緑は草タイプの技にしか適応されない。だが今のリーフは草タイプとは関係ない技まで強くなっていたのだ。
「さぁな、でもこれは言える。この戦いは俺等が関われるようなバトルちゃうこったな」
「…………そうだな」
「煙幕!!」
バクフーンは体制を立て直して大量の煙を吐き出した。煙によって一気に視界が悪くなる。
「み、みえないよ!?」
「落ち着くんだ!ファイア、絶対にわたしから離れるなよ。
絶対に守ってやるからな…………」
「う……うん……」
リーフはファイアをかばうようにバクフーンの追撃に備えていた。そしてしばし時間がたつ。
「おかしい…………」
しばらく時間がたつが全く攻撃する気配がなかった。だが下手に動くのは危険と判断し煙幕が晴れるまで様子を見ることにした。
「煙が晴れる…………!!」
煙幕がようやく晴れた。そこにはリーフ達と同じように警戒した様子で動きを止めていたバクフーンの姿があった。
「どうやら同じことを考えていたようだな…………」
リーフが言う同じこと、それは恐らくお互いに相手が向かってくるところを反撃で叩こうと考えていたのだろう。結果としてお互いが硬直しただけの煙幕になってしまった。
「私としたことがお遊びが過ぎたようだな!!行くぞ!!」
バクフーンがまたも電光石化で突っ込んできた。
「同じ手が通じると思うな!!メタルブレード!!」
電光石火で突っ込んでくるバクフーンに鋼鉄の葉を思い切り振るった。バクフーンはメタルブレードで切られた衝撃で
消滅してしまった。
「私の勝ちだぁっ!!!」
「しまっ…………!!」
リーフの背後から突如として響いた敵の声に驚きながら反応し、後ろを向いた。そこには消滅した筈のバクフーンの姿が。
「終わりだぁっ!!!爆裂パンチ!!!」
バクフーンの拳が勢いよく放たれた。隙を見せてしまったリーフには避けることができなかった。これを食らえばかなりダメージの蓄積した状態では耐えられないだろう。
「危ない!!」
「!!?」
リーフに襲いかかった拳だがそれは一人のポケモンによって阻まれた。そのポケモンが代わりに爆裂パンチを食らい、先ほどのリーフと同じように吹き飛ばされる。その光景を見てしまった彼女はとある展開を予想する。
「ファ、ファイア!!」
彼女の悪い予感は的中してしまった。ファイアが彼女の身代わりとして攻撃をかばったのだ。彼も相当体力が削られており、先ほどの攻撃で力尽きたのだ。
「今度はおまえだぁ!!」
そう叫びバクフーンの体から黄色の光が発せられた。しかも彼の口から尋常ではないエネルギーが溜まっている。
「あ、あれは…………」
リーフの体に危険信号が走った。これは普通の技ではない。普通の技で太刀打ちできるような代物ではないと。
「これで終わりだぁっ!!!煉獄壁(れんごくへき)!!」
バクフーンはリーフに向かって”れんごく”に近い技を放った。文字通り”れんごく”は壁のように彼女の周りを覆っておりよけることなどは到底できない。
「うぅっ…………」
周りの炎の壁から発せられる熱に草タイプのリーフは辛そうな顔をする。ただでさえダメージが蓄積した状態でこの暑さは短時間でもかなり体力を消耗する。
「ハハハハハハ!!!これで!これで私の勝ちだ!!!」
バクフーンはそう叫び炎の壁を狭めてついには…………
リーフを完全に押しつぶした。