第八十一話 止まらない裏切り者
「組織って一体誰なの?」
フライゴンの口から出されたあの言葉
--流石我が組織のブラックリストに載るだけのことはあるな!!--
「(組織?ブラックリスト?一体誰がわたし達のことを狙って…………)」
リーフはフライゴンの言っていた組織を気にしていた。
--あのバクフーンやないんか!?--
『えっ!!?』
不意に出されたムドウの声。彼の口からバクフーン、即ちファイアの実兄の名が口に出る。
「何で!?何で兄さんが刺客だって!?」
「何でって……んなことする奴なんざあいつしかおれへんやろ……」
「随分と酷い言われようだな」
またも不意にした冷たい声、そこには彼が言ってたポケモン、バクフーンが立っていたのだ。
「て、てめぇは!?」
「だが、ご名答だ。全くフライゴンの奴もとんだ茶番を演じたものだな。我が組織の名折れだな」
「てめぇ!!仲間だった奴になんて言い方だ!!」
仲間であったフライゴンをまるで切り捨てるようなバクフーンの言い方にハガネが激昂する。
「ふっ、ぼざいてろ。どの道お前達はここで終わりだ。我が組織の弊害になるものはこのまま生かしておくわけにはいかんのでな」
そう言いながらバクフーンは背中から炎を出し、戦闘体制に入る。
「うぅっ…………」
「いちいち癪に障る野郎だ!てめぇこそここでしまいにしてやる!!」
臆するファイアと、そんな彼とは対照的に怒りで体を震わせるハガネ。だが、それらはバクフーンの怒りを買っただけにすぎなかった。
「…………全く、かたやすぐに熱くなる、かたや私に臆して震える。お前達、冷静さを欠いたら勝負には勝てないぞ」
「全くその通りね」
「えっ…………」
「なんだと!?」
まさかリーフが敵の言葉に賛同するとは思わなかった2人、泣きそうな顔のファイアと今にも攻撃しそうなほど怒っているハガネがいたが、そんなことは気にせずにリーフは続ける。
「確かに冷静さを欠いたら勝負には勝てない。でもそれだけじゃ勝てないものがあるのを知ってるの?」
「なに?データではお前達の勝てる可能性がゼロなのだぞ。それでも勝てる余地があるというのか?」
「もちろん。あるに決まってるじゃない」
”はっきりと自分が負ける”。そう言われたバクフーンは顔には出してないものの驚きを感じていた。
「そんなデータじゃはかれない、お前には熱い魂がない!それを教えてやる!!」
「ふっ、ならばその魂とやら、見せてもらおうか。ジェット!!」
「あいよ〜!」
バクフーンの背後から、サメハダーのジェットが姿を現した。
「おうバクフーンよ、バトルの時間か?」
「あぁ、ようやく奴らを見つけれた」
「やっとだな
(やっべ〜、まだあんときの下痢がなおらね〜…………さっきまでは雑魚相手だったからなんとかバレずに勝てたけど正直あいつ等相手に下痢状態じゃ勝てるきがしね〜よ…………)」
実はジェット、一回戦のときの下剤でいまだに腹を壊しており、完全に絶不調だったのだ。しかし相方のバクフーンにはそれを伝えていない。
「どうすんねや、俺は流石にあいつとやり合うきはあらへんで…………」
「だったらオレがいk…………」
「ぼ……ぼくが……行く!!」
ハガネが出ようとしたところを遮って出たのはファイアだった。だが彼の体は恐怖からかガタガタと震えていた。
「ファイア、お前には無理だ。オレに任せておけ」
「違うんだ!!僕はもう逃げたくない!!リーフにこれ以上迷惑をかけられないんだ!!」
かつて自分の兄に対面して恐怖心をさらしたばかりに彼女に迷惑をかけていた。ファイアはそんな自分が許せずに、そしてリーフを助けるために今回のバトルを志願したのだ。
「……そうか、本当は俺が行きたかったが……。ファイア、あいつを助けてやってくれ」
「シャキッとせいよ!!」
「うん!!」
ハガネとムドウの2人に励まされてファイアは兄、バクフーンの立っているフィールドに立ち、彼と対峙する。
「ふっ、リーフよ。お前には心底同情するよ。そんなお荷物を背負って戦うとはな。いまだにガタガタと震えてるゴミなんざ置いて、お前一人だけで戦ってほうがいいんじゃないのか」
「なんだと!」
自分のパートナーをこれでもかと言うくらい侮辱されて、今までにないほど語気を荒らげながら怒るリーフ。だが、ハガネとは違って冷静さを欠いてるわけではなかった。
「っ!!」
バクフーンの頬をかすめるように鋼鉄の葉、メタルブレードが飛んだ。リーフは奇襲をかけたがギリギリのところでかわされたのだ。
「冷静に眼前の敵を見据えて奇襲をかけたか……なかなか肝の据わった娘だ……」
「そうやってずっと余裕かましてるつもりなの?」
まるで自分を観察するようなバクフーンの口調に少々イラッとしながらも、それでも冷静に構える。とりみだしたりしながら戦って勝てる相手ではないのだ。
「ファイア。あのサメハダー、ジェットの相手はできる?相性は悪いから厳しいのは分かってる。でも…………」
「うん!今の僕ならあいつぐらいしかまともに戦えそうにないし…………」
自分の実力ではリーフの援護どころか足手まといにさえなりかねない。そう悟ったファイアはジェットの相手をする決意をした。幸いにも腹を下し不調なためかさほど相性は気にならなかったようだ。
「ほぉ、相性の悪いジェットにぶつけるとは随分ひどいリーダーを持ったものだ」
「ごちゃごちゃうるさい。全く……弱いなんとかはよくほえるとはよく言ったものね……。御託はいいから早くかかってきたら?」
「いいだろう……後悔しても知らんがな……」
そう言い切った直後、バクフーンの姿が一瞬にして消えた。
-----来る!!-----
直感で気配を察知したリーフはバクフーンの攻撃を寸前のところでかわす。
「やるな。ならこれはどうする?」
「えっ…………!?」
見るとバクフーンの背中の炎が通常よりもはるかに大きくなっていた。大技を出すことはリーフの目に見えていた。
「(あ…………あれは!?)」
「遅い」
小さくそう呟くと彼の背中から”噴火”と呼ばれる炎タイプ最強クラスの大技を発してきたのだ。体力が一切削られてない状態での噴火を受ければ一発で倒されてもおかしくはない。
「うぅっ!守る!!」
とても受け切れる攻撃ではないと判断し、リーフはとっさに守るで噴火を防ぎきった。
「やはりな。雷パンチ」
「うぅっ…………」
守るの解除の一瞬の隙を狙ってリーフの懐に潜り込んで雷パンチを決める。だがそれも読んだのかリフレクターでダメージをおさえた。
「メタルブレー……ぐっ!……」
反撃にメタルブレードをとりだそうとしたリーフだが、突如全身に強烈なしびれに襲われて攻撃を中断してしまった。
「いい読みだ。だが…………私の方が一枚上手だったようだな」
「ぐっ、はじめからそれを…………」
「ねぇねぇ、リーフさんどしたの?攻撃防いだのにやめちゃったよ?」
「あの野郎…………わざと雷パンチの威力をおさえやがったな」
「はぁっ!?」
アンドロメダの面々にはなぜリーフが攻撃を止めたのかが理解できなかった。
「電磁波という技が知ってるか?」
「あぁ、電気ショックより弱い電気ぶつけて麻痺させるアレだろ?」
ハガネの問いかけに少々ドヤ顔を見せながら答えるリュウセイ。
「そうだ。オレも電気技を扱うからよくわかる。十万ボルトのようなハンパに強い電力よりも電磁波のような弱い電気のほうが相手を麻痺させやすいんだ」
「ってこたぁあの野郎!!わざと電気の威力おさえてリーフさんを麻痺させたってことかぁ!?」
「あぁ、これはまずいぞ……麻痺はかなりきついからな……。下手すれば一方的に攻撃されるなんてこともざらだからな」
「まさか麻痺を狙ってたなんてね…………」
「なんだ?あの一発でもう降参するつもりか?」
麻痺で上手く動くことができないリーフを見下すような態度で見ているバクフーン。対照的にリーフは強がってはいるが本心は読みで負けてしまったことにいささか敗北感を感じていた。
「誰か降参なんて…………」
「ほぉ、ならこれはどうする?」
バクフーンはフッと一瞬だけ笑みを浮かべた。その時だった…………
ドゴッ!!!
「ああぁっ!!」
『!!!!?』
バクフーンはリーフを足で踏みつぶした。それを見た思わずハガネ達は思わず構える。
「こうすれば大人しくする気になるだろうな」
「う……うぅっ……」
リーフの口を防ぐように足で踏みつけていた。ほぼ息ができない状態になっていたのだ。技と違ってじわじわと苦しめる手段をとったのだ。
「あの野郎!!どこまでも卑劣な真似を!!!」
我慢の限界に達したハガネは思わずバトルフィールドに飛びだそうとした。
「落ち着かんかいハガネ!!」
「これが落ち着いてられるか!!」
「ほんな興奮した状態のお前が何できんねん!!」
ムドウに制され、ハガネは足を止めた。自分がまたしても冷静さを欠いていることに気付いたのだ。
「くそっ!!どうすりゃいいんだ!!」
「ちっ!ハイドロポンプ!!」
「おっと!!」
一方でこちらはファイアとジェット。ジェットはハイドロポンプを放つがやはり体調が悪いのか。いとも簡単によけられた。
「(やっぱり動きにキレがない!!早く倒してリーフの救援にいかないと!!)」
「(ちくしょ〜。あの下痢のせいで全然力がはいらねぇじゃねぇか!)」
余裕のファイアに対してジェットは完全にペースを崩していた。実力はそこそこあるのだが如何せんこの調子だとバトルどころではないだろう。
「よしっ!!ファイアーボール!!」
「うおっと!!」
ファイアは文字通りの火の玉、ファイアーボールを放ったがこれもジェットによけられてしまった。
「あ、あぶねぇだろこの野郎!!もう少しで当たるとこだったじゃねぇか!!」
「---------っ!!」
ジェットの戯言など耳にもせずファイアはファイアーボールの行き先を見て絶句した。そこには倒れている相棒(リーフ)を踏みつけている実兄(バクフーン)の姿があったのだ。
---ど、どうしよう……リーフを助けないと……。で、でも下手に助けに行っても……
……そうだ!!---
「穴を掘る!!」
ファイアは突如として穴を掘るで地中に潜った。
「甘いんだな!!地震!!」
ジェットは思い切り地面に衝撃を与えて地震を出した。
「うわああああああああぁぁっ!!」
地中にいたファイアは地震の衝撃に耐えきれずに思わず地面から身を出してしまった。さらに炎タイプの体にに地面技を技を食らったのだからダメージも相当なものだろう。
そう、炎タイプのポケモンは…………
「ちぃっ!!」
ダメージを受けたのはファイアだけではなかった。無差別に攻撃する地震は味方のバクフーンにまでもダメージがきたしまったのだ。地中にこそいなかったもののやはり炎タイプなのでそれなりのダメージとなった。勿論リーフにもダメージはあったが草タイプなのでダメージは半減。大した攻撃にはならなかったのだ。
「(いまだ!!)」
「くっ…………!!」
地震を食らった瞬間をついて麻痺に耐えながらもかろうじてバクフーンから脱出することができた。
「(あの役立たずめ……私の邪魔を……)」
「(うぅっ……なんか我輩睨まれてるような……)」
自分の邪魔をしたジェットを睨めつけるバクフーン。睨まれたためにジェットは臆してしまう。
「今のうちに!!ファイアーボール!!」
「なにぃっ!!ぐおおおおおおおおぉぉっ!!」
完全に隙だらけのジェットにファイアは容赦なく技を浴びせた。ファイアの猛火・体調不良・紙装甲という悪条件が重なりジェットは一撃で倒されてしまった。ここで彼の名誉の為にいっておくが決して彼が弱いから倒れた訳ではない。前述の通り体調が悪くサメハダーは防御力が極端に弱いためなのだから。
「やった!!倒せた!!」
「後はお前だけだな!!バクフーン!!」
しびれをこらえながらもリーフは再びバクフーンに対して構える。
「…………」
「な、なんだ…………?」
バクフーンはリーフ達を無視して無言でツカツカとジェットの方に歩み寄っていった。
「ジェットよ。今日のお前は随分と体調が悪かったようだが…………」
「あ、あぁ…………腹壊しちまったからな」
「そうか、なら仕方ないな。ごくろうだったな…………
今までな」
『えっ…………』
バクフーンの口から出た言葉にジェット以外にもリーフ達も背筋が凍るような感覚に襲われた。
「ゆっくりと休め」
サクッ
彼はそう言って…………
ジェットの眉間をナイフで刺したのだ。
「がっ……な、なんで……」
「…………」
崩れ落ちようとするジェットに対し無言で彼を見つめているバクフーン。
「て……てめぇ今自分で何やったかわかってんのか!!」
「何って……私の邪魔をした挙句、戦略にもならず無様にもやられた用無しを処分しただけだ」
バクフーンはハガネの言葉にも淡々と答える。だがその様子は今までとどこか違っていた。
「どいつもこいつも私の邪魔ばかり……もううんざりだ……
出てこい!!!」
そう叫ぶと草の茂み等から大量の手下と思われるポケモンがリーファイを取り囲むように現れた。
「おい!!お前!んな大量に呼ぶとか卑怯だぞ!!」
「うるさい!うるさい!ルールなんて知ったことか!!お前達ばかりかあいつらまでも私の邪魔をしおって!!邪魔になるお前達なんかこの場で全員消してくれるわ!!」
バクフーンは今までの冷静な態度とはうってかわって感情を爆発させる。
「くっ!」
「かかれぇっ!!」
敵ポケモンは一斉にいまだに麻痺状態のリーフに襲いかかってきた。無論これもバクフーンの指示によるものだ。
「ストーンエッジ!!!」
「鋼の翼!!」
だが、それをハガネ達は許さなかった。彼女を守るように前に立ち、敵ポケモンの攻撃を防いでいた。
「リーフ!ここはオレ達にまかせ!」
「お前はあいつをなんとしてでも止めてくれ!!」
「お、オレ達は何を…………」
途中で割って入ってきたのはリュウセイだった。レベルの低い彼らは戦いに入るべきかどうか迷っている。
「リュウセイ達はジェットの手当てを!!」
「えぇっ!?だってあいつ敵っすよ!あんな奴を!」
敵を助けることに彼は賛同できなかった。ジェットはあのバクフーンの仲間なのだからそう考えるのも無理はない。
「いいから早く!!!」
『は、はいぃっ!!』
リーフに一喝され、アンドロメダの2人はジェットの手当てに向かった。
「まったく!!お前達はどこまで私の邪魔をすれば気が済むのだぁ!!」
「お前の歪んだ野望を止めるまでだ!!」
怒り狂うバクフーンには一切臆せずリーフはそう言い切った。彼女の後ろではやはりファイアが少し震えている。
「歪んだだとぉ!!お前達なんかに分かるものかぁ!!私の!!私の目的は決してついえることはないのだ!!」
「ファイア。ここはわたしに任せておいて」
「えぇっ!で、でも…………」
炎タイプ相手にわざわざ草タイプのリーフをぶつけることはできない。彼はそう言おうとしていた。
「大丈夫じゃないかもしれない。でもこれしか方法がないの。ファイア…………」
リーフは真剣なまなざしでファイアのことを見つめていた。ファイアも彼女のことを真剣に見つめている。
「…………うん!!僕信じるよリーフのこと」
「…………ありがとう」
そう言って彼女はバクフーンと対峙してから初めての笑顔を見せた。それは今まで恐怖の感情を抱いていたファイアの心を氷解したようだった。
「フン!!とんだ茶番だな!!まぁいい!!どちらにせよお前達は私には勝てぬわぁ!!」
バクフーンの言葉を耳にするとリーフはすぐさま表情を変え、彼の方へ向きなおした。さっきまでファイアに見せていた笑顔が嘘のような怒りに満ちた顔つきだったのだ。今の彼女の心境は一つだけ。
----絶対にバクフーン(やつ)を止める-----
そう決意しリーフはメタルブレードをバクフーンに向けた。