第七十九話 正義のヒーロー 2
「確かこの辺だな。ゼニガメズが潜伏している倉庫というのは……」
俺はあのあとファルコ保安官に聞いたゼニガメズの目撃情報をもとに奴らが潜んでいる倉庫にたどりついた。他にも倉庫はいくつかあったが、なにやらひそひそ話が聞こえたからたぶんここだろう。
「ねぇターマンマン。行かないの?あそこにゼニガメズがいるんでしょ?」
「ちょっと待った。少し静かにしてくれないか。あいつらの話し声が聞こえるんだ」
オレは扉をわずかにあけ、奴らの話を盗み聞くことにしたんだ。
「なんだと!?変な格好したゼニガメにフルボッコにされた!?」
「ホンマやねんって!!正義のヒーロー気取りのマントとスカウターつけたゼニガメが出てきてわい等の邪魔しおったんや!!」
辺りに木箱が積まれている以外は殺風景な倉庫内部、そこでゼニガメズリーダーの赤ゼニガメとデスカーンが話しあい(?)していたんだ。えっ!?スカウターってどんなのかって? そりゃぐぐってくれ。
「お前らが絶対に街を壊されているどさくさにまぎれてアチャモを誘拐できるというからわざわざお前らを雇ったんだろうが!!もういい!お前らはクビだ!!」
「あぁそうかい!!だったら給料だせや!!ちゃんと仕事したんや!!ちゃんとバイト代だせや!!時給800ポケの四時間やから3200ポケずつ出さんかい!!」
「失敗したからだせる訳ないだろう!!」
「なんやとぉ!?」
デスカーン達一発屋は本当にゼニガメズ雇われてたようだな。つうか、何で街ぶっ壊すという仕事をたかが800ポケの時給で引き受けたんだこいつらは……。もっといい仕事あったろうに……。敵ながら今、口論をしているデスカーン達が哀れに思えてきたわ……。
「もうええわ!!帰るぞ!!」
あ〜らら、あいつ等みんな帰っちゃったよ。
「リーダー!いつまでもこんな奴にかまってないで早く!!バクフーン様の言いつけどおり炎のジュエルを奪わないとまずいですよ!!」
「な〜に大丈夫だって。あいつの兄貴の身柄はこっちのもんだから頼まなくったって向こうから来るに決まってんだろ?」
やっぱりこいつらがワカシャモを誘拐したのま間違いねぇ!!しかもあのバクフーンの命令だと!?俺は我慢できずにわずかに開けていた扉を思い切りたたきつける。
バアアアァァァァン!!
「!?」
「な、なんだ!?」
突然扉から轟音が発せられゼニガメズとデスカーン達は身構える。見ると先ほどまで閉ざされた、正確にはわずかに開いていた扉が完全に開いていたのだ。そこにはこの俺ウォーター……じゃなくてターマンマンとあいつらが欲しているアチャモがいた。
「ぬっ!?誰だお前は!!」
リーダーの赤ゼニガメが苛立った様子で問いただす。だが俺はんなことは無視して奴らのもとに近づいていく。
「ヒトに名前を名乗る時は自分から名乗るものだろう?」
本当は知っているが今の俺はターマンマンだ。奴らのことは知らないふりをしておくか。
「黙れ!!俺達の計画を邪魔しやがって!!貴様はなんだ!!正義のヒーロー気どりのガキか!!」
やれやれ、名乗ることもできねぇのかこいつらは……。まぁこいつらが素直にいう事聞くとは微塵も思ってなかったけどな。
「そこまで言うのなら仕方ない!!その腐った耳の穴をかっぽじってよく聞くんだな!!」
「なに!?」
俺の挑発的な言葉にゼニガメズが反応する。そりゃ俺だってあんなこと言われたらキレるがな。
「わたしは弱きを助け強きをくじく弱者の味方であり正義の味方!!ターマンマンだ!!」
ちょっと決め台詞と共にポーズを決めてみました♪えっ?どんなポーズかって?そりゃ正義のヒーローらしいポーズだろうよ?
「なっ!正義のヒーローターマンマンだと!?」
「そうだ!!街を壊した挙句子供をいじめるキサマらは絶対に許せん!!覚悟しろ!!アクアジェット!!」
俺は水タイプの先制技、アクアジェットでゼニガメズに突っ込んでいった。威力は低いが奇襲にはこれが最適だからな。
「そうくると思ったぜ!!食らえ!!目つぶしの種だ!!」
「何ぃっ!?」
読まれたのか!?リーダーの赤ゼニガメはアクアジェットで突っ込んでくる俺に向けてたねを投げてきやがった!!目つぶしの種が俺の顔面にヒットすると種は爆発して俺の視界を奪っていった。
「くそっ!!!何もみえねぇ!!」
やられた!奇襲が思い切り裏目になっちまった!アクアジェットはスピードがあるのはいいんだがその分ブレーキが利かないんだ。目つぶしの種に気付いて速度を落とすも時すでに遅し、奴らの目くらまし作戦はまんまと成功してしまったんだ。
「よし!!いまだ者共!!やれぇ!!」
『へええいっ!!!』
リーダーの合図で一斉にゼニガメズは俺に飛びかかってきた。目が見えない俺はどうしようもなくあっという間に奴らに囲まれてしまった。
「かかれぇっ!!!」
ドカッ!!バキッ!!ボコッ!!
「うわあああっ!!!」
ドコッ!!バキッ!!グシャ!!
「お、おい!ちょっとまって……」
ドカッ!!バキッ!!ボコッ!!」
「ストッ……ストップ!」
ドコッ!!バキ!!グシャ!!」
「ストーーーーーーーーーーーーーーーーップ!!!」
赤ゼニガメの合図で他の取り囲んでいたゼニガメ達は一せいに俺のもとから離れだしたようだ。しかし、さっきまで五人のゼニガメが固まっているというかなりシュールな光景になってたろうな。
「お前らーーーーーーーーっ!!!おれを叩きのめすんじゃねぇよ!!」
「だってターマンマンとリーダーって色合いがなんか似てるから……」
はぁっ!?あいつらまさか自分達のリーダーをフルボッコにしてたのかよ!!でも確かに途中から攻撃されてる感覚がなかったな。
「でも確かにターマンマンのマントとメガネも赤かったなぁ……」
俺の後ろでアチャモも納得したような声を出していた。………なんかあんなの(赤ゼニガメ)と一緒にされるってちょっと心外なんですけど……。
「ぬうっ!?今度こそやってしまえ!!」
『おーーーーーーーーーーーーっ!!!』
ちっ!!今度こそ俺に向かってきてるんだろうな!!
「くっ!アクアジェット!!」
俺は闇雲にアクアジェットで突っ込んで反撃を狙っていった。
ゴオオオオオオオォォォォンッ!!!
「いってえええええええええええぇぇぇっ!!」
つもりだった。どうやら俺の狙いは全くのはずれであり勢い余って壁に激突しちまったんだ……。
「チャンスだ!!行くぞ皆!!」
『おおおおおおおおおぉぉっ!!』
あいつら……今度こそ俺に攻撃をしかけようとしてんだろうな……。でも俺は頭をうずくまってとてもそんな余裕なかった。
『高速スピンスピンスピンスピン!!!!!』
「くっ!!」
シュルシュルシュルシュルシュルシュル!!!!
目が見えないなら耳で聞きとるまで!!俺は神経を研ぎ澄ませて音で相手の場所を特定しようとしてみた。
「ちっ!!ダメか!!」
ダメだ!!集中力が続かねぇ!!俺にはリーフみてぇな才能ねぇしな……。んな芸当はできねぇよ……。
『くらえぇっ!!!』
「うわあああああああああああぁぁぁっ!!」
高速回転する四つの甲羅が俺の体に直撃した。目は見えないが自分の体が宙に舞っているところが体に走る衝撃と感覚で容易に感じることができた。
「ぐっ!!」
飛ばされた勢いで体は壁に激突。甲羅に鋭い痛みが走る。
「はははははははっ!!!正義のヒーローも大したことないな!!」
「覚悟しろターマンマン!!」
まじいな……奴らがじりじりと詰め寄ってくるのが嫌でも伝わってくるぜ……。でもこんな状態じゃとてもじゃねぇが反撃どころか逃げることさえもできねぇよ……。
--その光景を心を痛めながら見ていた一人のポケモン、アチャモ。目の前で傷つけられているターマンマンを見て彼の心境に迷いが訪れていた。
--ターマンマンは自分の為に、自分の兄の為に戦っている--
--全く関係のない自分達の為に--
--なのに自分は血のつながった兄弟も助けられない--
そんな自分に嫌悪感を抱いていたのだ。炎のジュエルを握っている手に力がこもる。そして彼は決意した。
--もう逃げない!!自分の手でも戦えるんだ!!--
そう決意したアチャモは無意識のうちに体を飛びださせゼニガメズに向かっていった。
「ターマンマンから離れろ!!火の粉!!!」
アチャモは口から勢いよく大量の、そして大粒の火の粉をゼニガメズに向けて発射した。不意の攻撃にゼニガメズは反応できずにまともに火の粉を食らった。
『あちちちちちちちちちちち!!!!』
本来炎技は効果が薄いのだがゼニガメズには相当こたえたのだろう。熱さのあまり辺りを走り回っている。
「な、なんだ!?何がおこった!?」
どういうことだ!!さっきまで俺に攻撃しようとしていたはずのゼニガメズがいきなり焦げくさいにおいを出しながら”熱い”と連呼してるぞ!?
「ターマンマン!!大丈夫!?」
「き、君はもしかしてあのアチャモ君か!?」
「それよりも一旦ここから離れようよ!!」
この中で炎技を出せるのはどう考えてもアチャモしかいねぇしな。とりあえずいうとおりについてきたほうがいいな。
「はぁはぁ……。ターマンマン大丈夫だった?」
「あ、あぁ……」
恐らく俺達は倉庫の外にいるんだろうな。アチャモの方はばててるからか息を切らしているようだな。
「しかし驚いたな。まさかあの場面で君が助けに入るとは思わなかったな」
「う……うん……。だって………その……あの……」
ん?なんかアチャモの声が徐々に小さくなってるような…………?
「だって、兄さんが捕まってて、ターマンマンがやられてるのに僕だけ何もできないなんて嫌だったから………、それでつい……。迷惑だったかな?」
こいつ……兄貴の為に自分を顧みずに突っ込んだんだな。正直、らやましい。俺も兄弟がいるがこれだけ中がいい兄弟ってのは………。
「そんなことはねぇ……じゃなくてないさ。君は必死になって私を助けてくれたんだ。ありがとうアチャモ君」
少々本性が出てしまったがすぐにヒーローっぽい口調で励ましてみた。なぁみんな、今の俺はヒーローっぽいか?
「うぅっ……なんか目がかゆくなってきたな……」
決して泣いてるわけじゃねぇからな?つうかこの場面で俺がなく必要性ねぇだろ?本当に目がかゆくなっただけだからな?
「ちょっとスカウター外すか……」
アチャモに正体を見抜かれないように俺はこっそり目につけているスカウターをはずしてみた。
「あ……あれ?……」
ど、どういうことだ!?さっきまで全く何も見えなかったのに今ではくっきり景色が見えるようになっていた。俺たしか目つぶしの種を食らって見えなかった筈だよな?
「どうしたの?」
「い、いや!なんでもないさ〜」
アチャモがこっちに振り返ってきたので慌ててスカウターをつけなおして答えた。
「ぬおっ!?どうしてこうなった!?」
さっきまではくっきり見えてたはずなのに、また見えなくなっていた。これってまさか……
。
「スカウター (コレ)に異常があるんじゃねぇのか?」
俺はそう断定した。だってそうだろ?つけたら見えなくなって外したら見えるようになったんだからよ?だったら話ははえぇ。アチャモが見ていない隙にスカウター外してゼニガメズ(あいつら)フルボッコにしてやればいいだけの話だからよ。
「よし!アチャモ君!!私はもう大丈夫だ。もう一度奴らのところに案内してくれないか?」
「だ、大丈夫なの?」
アチャモが凄く不安そうな声で尋ねてきた。無理もねぇな、目がみえねぇ奴にこれ以上向かわせるのは誰だって抵抗があるからな。
「大丈夫だ。ちょっと耳を貸してくれ ……」
場所は変わってこちらはゼニガメズのいる倉庫
「くそっ!あのアチャモを逃がしてしまったではないっすかリーダー!」
「なんだと!?お前らが油断するからだろう!」
「そうやってすぐに部下のせいにしやがって!!」
さっき俺達を取り逃がしたところでもめてるようだな。オレはその様子を最初のように扉をわずかに開けてその様子を確認した。
「(よし!!いまだ!!)」
「(うん!!)」
俺はアチャモに先ほど伝えた作戦通りに指示を出した。指示通りアチャモは不思議玉をとりだして、あいつらに投げだした。
「うわああああっ!!眩しい!!」
「なんだこれは!?」
正確にはただの光の玉だがな。とにかく尋常じゃない光の量が倉庫内にたちこめた。これにはゼニガメズだけでなく投げたアチャモさえも目を開くことができずに目を瞑ってることだろう。
えっ?俺はどうなのかって?んなもん作戦なんだから見えてるに決まってるじゃねぇか。なんで見えるかってのは後で教えてやるよ。
「どうしよリーダー!!」
「くっ!焦るな!!こっちには見通しメガネがあるからこんな光玉なんぞ問題ない!!」
ほぉ、奴らにもその道具があったのか。まぁ、俺の目が見えるならあんなアホ共なんざ敵じゃねぇがな。
「もしも〜し」
「ん?誰だお前は?」
俺は赤ゼニガメの肩をポンポンと叩いた。奴め間抜けな声を出して振り返ってきたさ。
「おぉ〜誰かと思えば”正義のヒーロー(笑)”じゃないですか〜。また性懲りもなくボコボコにされにきたのか?」
「はっ!ボコボコにされるのはお前らのほうだぜ。大体お前みたいなだっせぇ格好にしてる奴なんかにいわれたくないよ」
「だっせぇ格好……ってまさかお前!もう見えるようになったのか!?」
本来目が見えない奴が格好なんて指摘はできねぇ。奴はさぞかし驚いてるだろうな。
「あぁ、よ〜く見えるよ。尤もお前らの面なんざもう二度と見たくはねぇがな!!」
「二度とってまさかお前は………ふごっ!!」
これ以上こんなアホ達の声を聞くのも癪だ。オレは奴をぶん殴って黙らせておいた。他の奴も一発でのしておいた。やっぱ弱いぜこいつら。
「はぁ〜。不意打ちとはいえ一度でもこんな奴らにボコボコにされたのが恥ずかしくなってきたぜ」
邪魔者はブッ飛ばしたし、とにかくアチャモの兄貴を探さないとな。
「ターマンマン!!大丈夫だった!?」
「あぁ、作戦は大成功だ♪」
光が収まってアチャモが駆け寄ってきた。俺は笑顔で答える。
「ん?もしかするとあの扉にいるんじゃないのか?」
「待ってて兄さん!!」
幽閉されてるとしたら奥にあった一つの扉しかないだろうな。っておい!!アチャモがものすげぇスピードで走っていったよ。
「兄さん!!大丈夫だった!!?」
「…ぁ……チャモ…事だった…………」
アチャモの声がやたらに響いてワカシャモの声がよく聞き取れねぇよ。でも無事に再会したようだし、俺の出番もここまでのようだな。
「兄さんゴメン!!炎のジュエルを使ってしまったんだ……」
「そんなこと気にするな。お前は兄さんを助けるためにつかったんだから謝る必要なんてないよそれにしてもターマンマンってポケモンが助けてくれたのか……礼を言わないとな……」
「うん!!ターマンマン!!……ってあれ?さっきまでここにいたんだけどな?」
「先に帰ったんじゃないのか?」
帰り際にこんな会話が耳に入った。ようやくこれでターマンマンからウォーターに戻れるぜ。オレは気分を良くしながら家路についた。…………何かを忘れてることにも気付かずに……。
「ばっかもーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!」
「どっひゃああああああああああああぁぁぁっ!!!」
はい。俺完ぺきに忘れてましたよ。親父達のお使いをね。思い切り親父から怒声をとばさちまったよ。
「お前はこんな時間に何をしてたんだ!!もうとっくに夜になってるだろうが!!」
「すまねぇ親父!!すっかり買い物忘れちまった!!」
忘れたものはいいわけしても仕方ねぇ。素直に謝るとするか。
「そんなもんどうでもいい!!お前街が危ないことになってるのに連絡の一つもよこさんと今までなにしてたんだ!!父さんがどれだけ心配したと思ってるんだ!!」
そっちなのか?オレはてっきり買い出しのことで怒られてるのかと思ったけど……でもちょっと嬉しいな……。アチャモがワカシャモを心配してるように親父も俺のことを本気で心配してくれてたなんてよ。
「ゴメン親父。俺のことそこまで心配してくれてたんだな。その……あ、ありが……」
「////////
バカモン!子供のことを心配せん親がどこにいるか!さぁ早く入れ。飯が冷めるだろう」
こんな世界が危ない時に思うのもなんだが、やっぱり思うよ。家族っていいもんだな。そして恥ずかしくて言いそびれたけどいずれは伝えたいな。
--ありがとう--
そう伝えれたらいいな。