第七十八話 正義のヒーロー 1
--一体何が起こったってんだ!!--
それはにわかには信じられなかった。俺達のよく知る街がまるであの未来世界のような悪夢を生み出していたのだから……。
「じゃあ俺はちょっと散歩行ってくるわ」
「お〜いウォーター。ちょっと街まで行って道具と酒買ってきてくれ〜」
「あぁ、じゃあボクは技マシンでも……」
「はぁ〜。へいへい……」
--冒頭から十分程前の話だ。リーフとファイアがラッキー島についたばかりのことだな。俺は街に散歩しようとしたらそう言われちまったぜ。前者は俺の親父のピカチュウのスパーク。後者は仲間のズルズキンのルッグ。どっちも立場ゆえに逆らえねぇから仕方なく行く羽目になっちまってよ……。
おっと、読者の方はうちの親父みてぇに未成年の俺に酒を買わそうとするなよ。立派な違法行為だからな。
「あぁ、それとウォーター」
「なんじゃらほい」
「お前達は世間ではいないことになってるからな。くれぐれも目立たないようにしろよ」
じゃあ息子に買い物に行かすな。俺は心の中でそう突っ込んでみた。まぁ俺が散歩行くっていったからこう言われるんだと思うけど。
「それにしても、ファイアの奴……リーフに迷惑掛けてねぇだろうかな……」
ちょっと前まであんんだけ臆病だった我が弟がラッキー島なんて物騒なところ行くなんて夢にも思わなかったぜ。あいつがまたリーフに頼りっきりでなきゃいいんだがな。正直あいつがまっとうにレベルうpしているか心配なんだ。
とか、思いながらしばらく街まで歩いてたんだ。そろそろ着きそうだな。
「あぁん?なんか騒がしいな?」
街が騒がしいのはいつものことだからなんらおかしいこたぁねぇ。だが、さっきのはどうも様子がおかしいぜ。なんか物がぶっ壊されてる音がするような……。ってなんだこりゃ!!なんかあちこちから煙が上がってるじゃねぇか!!とにかく急がねぇと!!
「っつととととと。危ねぇ危ねぇ……。もう少しで俺の顔を見せてしまうとこだったぜ」
そうだそうだ。あまり俺の顔をばらしちゃまじいんだよな。そんなわけで未来世界でクローって奴がくれた変装グッズがあったよな。オレはそれを身につけてみたんだ。
「…………やっぱりだせぇ……」
ったくふざけてんのかあいつらは!!なにがかなしぅてこんなヒーロー戦隊みてぇなコスチュームをせなあかんねん!!こんな格好で出歩いてみろ!冒頭の冒頭のシリアスな感じが全部ふっとんでしまうじゃねぇか!!
そんな俺の呟きが誰にも聞こえるはずもなく俺は街に向かってみた。やっぱり街の被害は甚大だった。どういうわけかポケモンが暴れまわり辺りを徹底的に荒らしつくしていたんだ。
「た、助けて!!」
ふと振り向いてみると一体のアチャモがポケモンに襲われていた。オレはとっさに飛び出す。
「伏せろ!!ハイドロポンプ!!」
「えっ!?」
『ぐぎゃあああぁぁっ!!』
アチャモは俺に言われた通り伏せた。ハイドロポンプはアチャモの真上を通過し、襲っていたポケモンに直撃する。なんとかなったようだな。って、確かこのアチャモ。俺達に炎のジュエルを取り返すように依頼したあのポケモンだったな。第五十話でのドクローズのアホ共の悪だくみが失敗に終わったアレだよ。
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫ですがあなたは?このあたりじゃ見かけない顔ですが?」
アチャモは俺の名前を訪ねてきた。まじぃな……、そりゃこんな怪しい格好した奴なんかいる訳ねぇもんな……。オレはとっさに考えてこたえを出す。
@本名を述べる
A偽名を述べる
Bちょっとトイレに行くといってごまかす
Cこんな攻撃そうめんみたいなもんだぜ!!
……なんか関係なんものがあるような気がするがここは二番安定だろ。オレはとっさに考えた偽名を名乗る。
「わ、わたしは正義のヒーロー、ターマンマンだ!!この街が襲われてると聞いて駆けつけてきたのだ!!」
……俺なに言ってんだバカ。なんだよターマンマンって!!分かりにくいったらりゃしねぇっつうの!!
しかも正義のヒーローって格好だけじゃねぇか!!
「か……かっこいい……。正義のヒーローに会えるなんて感激です!!」
なんだ!?なんか凄まじくキラキラした目でアチャモが俺のこと見てるんだが……。正義のヒーローにあこがれてる年頃なのか?
「まぁ、いい。とにかく一体何があったか俺・・・・わたしに話てはくれないか?」
「はい。実は…………」
アチャモの話を整理すると、どうやら怪しい三人組のポケモンが部下と思われるポケモンに指示を出して暴れさせてるようだ。しかもそいつの兄貴のワカシャモもそいつらに拉致されたのか行方が分からなくなっちまってる。
「と言うわけなんです……。お兄ちゃんが……お兄ちゃんが……」
途中で悲しくなったんだろうな。とうとう泣きだしちまった。だが俺は今は正義のヒーロー。あいつを励まさないとな。俺も同じ兄貴としてほっとけねぇもんな。
「大丈夫だ!!もうわたしが来たからには大丈夫だ!!君のお兄さんを助けてやろうじゃないか!!」
「本当ですか!!」
「あぁ!だからその首謀者のポケモンを探し出そう!!」
「その必要はないでぇ〜」
俺達が行こうとした瞬間、どこかで聞いたような嫌な関西弁を耳にした。俺はそいつの正体を確認する。
「なははははは!!ついに見つけたでぇ〜おとなしゅう捕まれや!!」
「デスカーン。あまり時間をかけるなよ」
「わかっとるがな!!わいにまかせたらちょちょいのちょいやで!!」
デスカーン……。なんであいつがまたここにいるんだよ……。おまけにアーケオスやシビル丼……もといシビルドンまでいるしよ。何でこの組み合わせだ!?まさか一発屋同盟がまだ息してたのか?てっきり逝きをしてたかと思ってたが。
「なっ!!貴様らは!!あの時の!!」
「こいつです!!お兄ちゃんを誘拐したポケモンは!!」
俺の後ろでアチャモが叫ぶ。まさかこいつらが誘拐なんて高度な悪事をするとは……ってんなこと考えてる場合じゃねぇ!!
「よおゼニガメににいちゃんよ!痛い目にあいたくなかったらそこのアチャモのガキがもっとる炎のジュエルを渡せや」
「ふっ。貴様らみたいな間抜け集団にこの子と宝物を渡すわけにはいかない!!」
「なんやとぉ!?わいらをなめとったらどえらい目にあわしたるでぇ〜」
デスカーンが指をぽきぽき鳴らしながらこちらに詰め寄ってきた。あいつら俺達をいかくしてるつもりだろうが、全然怖くありません♪
「ふっ、貴様らにわたしが本気を出すまでもないな。さぁかかってきなさ〜い」
俺はあいつらを挑発する。人間もポケモンも怒ってしまえば正常には思い通りにできないものだ。単純なあいつらはこれでブチ切れると思ったんだ。だが、あいつらはなぜか俺のほうを凝視していたんだ。
「ははっ!!はっはははは!!こいつアホやで!!」
「バカじゃねぇのかこいつ!!」
「ガキのヒーローごっこみたいだ!!」
奴ら、俺の格好を凝視して腹を抱えて爆笑しやがった。なんかこいつらのバカにした笑い方無茶苦茶腹立つんですけど……
「ぬおっ!貴様らこのターマンマンのコスチュームの何がおかしいのだ!?」
「その格好さっきも言うたけど子供がする格好やでwwwしかもターマンマンってなんやねんwwww」
デスカーンはいまだに腹を抱えて爆笑している。いや、マジでこっちがムカついてきたんですけど。まぁネーミングセンスの悪さは同意するが。
「黙れぃ!!このコスチュームはバトルするうえで最適の作りになってるのだぞ!!覚悟しろ!!」
---最早オレがブチ切れちゃったよ。とにかく俺はシビル丼……もといシビルドンに突撃する。
……もうシビル丼でよくね?言い直すの面倒くさいんだが、ダメか……わかったよ。
「まずはこいつでどうだ!!」
「そんなもんきくか!!雷!!」
俺はデスカーン達に道具をとりだしてあいつらに投げつけた。だが、ひるむことなくシビルドンは反撃しようと体中に電気を溜める。
雷はやべぇな……あれは流石にマジィぜ……
だが幸いにも俺の投げた道具の方が奴らにとどいたようだな。辺りは眩い光におおわれる。
しばらくした光は消える。
「食らえやぁ!!雷!!」
やっべ!!あのシビルドン。オレが投げた”不思議玉”の効果がなかったのか!?何事もなかったかのように雷を打ちだす準備を整え、雷をぶっ放した。雷は上空から雷鳴をとどろかせながら落ちてきやがった!!
奴らの味方のアーケオスに……
「な、なんやとぉ!?」
「はれぇ?何でアーケオスが?」
デスカーンとシビルドンは雷を食らい黒焦げになったアーケオスを見て困惑する。どうやら俺の投げた道具が効いたようだな。オレが投げたのは”混乱玉”っていう道具なんだ。混乱状態になって無差別に攻撃を放つようになっちまうんだ。現にシビルドンは混乱して味方のアーケオスを攻撃したようだな。
「おらぁっ!!シビルドン!!しっかりせい!!敵はあのだっさいゼニガメやぞ!!」
「へ〜い♪んじゃ噛み砕く〜♪」
「いてててっ!!アホか!!わいに噛みついてどないすんねん!!」
いまだ混乱しているシビルドンはデスカーンを思い切り噛み砕いた。効果は抜群だがデスカーンという種族は防御力が高いから流石に倒れなかったな。めっちゃ痛そうな顔してるよ……。
「止めだ!!食らえ!!正義の必殺技!
ターマンキーーーーーーーック!!!」
「ぐえへぁっ!!!」
俺の蹴りを食らってデスカーンはそのまま目を回して倒れていた。あくまでもこれは技じゃないからゴーストタイプのあいつでも普通にダメージが通るんだ。ネーミングセンスの悪さは(ry
「さて、一気に料理してしまうか!!」
「えぇっ!? シビルドンの特性って確か……」
俺は穴を掘るを出して地面に潜った。アチャモはそんな俺を見て仰天していた。だが、俺はそんなこと気にせずきにせず技を出し続けたさ。
「はれれ〜?あいつ等どこにいったんだろうかな〜?」
「俺はこっちだ!!!穴を掘る!!」
「ふごっ!!」
気をとられたシビルドンに俺は思い切り地面から出てきてアッパーをブチ込んだ!!電気タイプには地面タイプがよく聞くからな。奴も結局目を回してのびたぜ。
「タ……ターマンマン!!」
「おぉ大丈夫か?」
「はい。でも何でシビルドンに穴を掘るがきいたのですか?特性はたしか”ふゆう”だったはずなのに……」
アチャモは解せないような顔つきで俺に尋ねてきた。
「あぁ、デスカーンの特性”ミイラ”だよ。あいつさっき噛み砕くで奴に触れて特性が実質なしになったからさ。それで奴に地面技が効くようになったのさ」
「へ、へぇ〜」
アチャモは納得したような顔を見せる。特性ミイラはデスカーンに腐るほど会いまくったから嫌でも覚えてるんだが……。
「そこのゼニガメとアチャモ!大丈夫ですか!?」
オレ達の後ろから声が聞こえた。振り向くとあのポッチャマとゴウカザルの姿があった。
「ん?あなたは?」
ポッチャマは俺を凝視した。やっぱり怪しいよなこの格好……
「あっ!!ファルコさん!!このヒト、正義のヒーローなんです!!アチャモのことも守ってくれたんです!!」
俺の後ろにいたアチャモが目を輝かせながらせ説明した。そういやファルコってあの保安官だよな……。
「そ……そうですか……。それであのデスカーン達は?」
「あぁ、あいつらがこの街を荒らしていた首謀者だよ」
「なにぃ!?おい!てめぇら!!じたばたすんじゃねぇ!!」
首謀者と聞いてゴウカザル、フレイムがデスカーンのむながらを掴みながら脅す。いや、あいつらじたばたどころがピクリとも動いてないんだが……。
「と、とにかく捜査にご協力ありがとうございました!こいつらのことは後で我々が聞きだしたおきます!!」
「さぁ!ついてこい!!」
既にロープで縛られたデスカーン達をフレイムが怒鳴りながら連行していく。
「あっ!あそこにきれぃなおねえちゃんが!!」
「えっ!?どこどこ!?」
デスカーンが指差した先をフレイムはきょろきょろした。だが、そんなもんいる訳がない。お、おい!!デスカーン達、ロープをほどいてるんですけど!!
「それ!!逃げろ!!」
「どうするねん!!」
「とりあえずゼニガメズのこと行くか!?」
やっぱりあいつ等逃げたよ……。ほんっと逃げ足はえぇな〜。って感心してる場合じゃなかったな。フレイムは汗だくになりファルコはそんな彼を凄まじい形相で睨みつけてる。と、とにかく俺達は……
「さぁ、アチャモ君。我々は少し席をはずすとしようか」
「は、はい……」
どう考えても嫌な予感しかしねぇよ……。オレはアチャモと共にその場をさった。
「おいクソザル……」
「はっ!!ごめんんさい!ファルコ様!!後で青いグミと僕の赤いグミもあげますから許してください!!」
フレイムは全身全霊で土下座する。ファルコの殺気を感じたのか僕って呼んでるよ……。
「この期に及んでもナンパをやめますとは言わねぇのかクソザル!!!今日と言う今日は勘弁せぇへんからな!!」
「ヒイイイイイイィィィィィッ!!」
ファルコのドスの聞いた怒声にフレイムは一気に竦み上がる。
「鎖で縛りつけてうずまき島に沈めたるわあああああああああぁぁっ!!!!」
「お助けええええええええええぇぇぇぇっ!!!」
そこには泣きわめきながらポッチャマに連行される哀れなゴウカザルの姿があった。
およそ三十分後
「あぁ、ターマンマン」
「おぉ、確かファルコ保安官」
俺のもとに今度はファルコ一人でやってきた。あえてさっきのことは言及しないでおこう。
「どうされたのかな?」
「えぇ、さっきのデスカーンの言う事を覚えてるでしょうか?」
デスカーンの言ったこと?
「ゼニガメズという名前ですよ。恐らく奴らはゼニガメズに雇われて街を襲ったのではないでしょうか?」
成程、確かにあいつらならやりかねぇな。オレは無意識に首を縦に振っていた。
「あくまでも憶測ですがね。ですが、犯罪者の下っ端はよくボス格のポケモンに逃げ戻ることが多いですからね。首謀者はゼニガメズと断定して間違いないかと」
「そうか、ならわたしがゼニガメズを討伐しよう!!」
「おひとりでは危険です!!私もお供いたします!!」
ファルコは俺についていこうとする。ちょっと来てほしい気もするが……。
「いや、君は保安官だ。保安官なら街を守ることを優先してくれ。あいつ等はわたしに任せてくれ!!」
正直ゼニガメズごときに2人もいく必要なさそうだしな。
「わかりました!!ではお気をつけて!!」
ファルコは俺に敬礼をする。三十分前までのあいつとはえれぇ違いだな……。
「よし!!ならば我々はゼニガメズと討伐しにいこう!!恐らく君のお兄さんも奴らにとらわれてる筈だからな!!」
「はい!!」
俺はアチャモを連れてその場をさった。
「さて、こっちも忙しくなりそうだな……」
ウォーター……じゃなくてターマンマン達が去ったことを確認したファルコはふっとため息をつきながら街の修復にとりかかった。