第七十六話 見た目は厨ポケ、中身は…… 1
「ところでバトル大会の場所のそのなんとか島ってどんなところなの?」
「なんとか島って……。ラッキー島だよ。そこでバトルして勝ったポケモンは通常のバトルよりもずっと多い経験値が得られる島なんだよ。」
既に目的地の島に到着したリーファイの2人。リーフの問いかけに少々呆れながらもファイアは答えた。かつてラッキーという種族のポケモンが所持していた幸せ卵という道具がレベルアップに必要な経験値が普段よりたくさん得られていた。それらのことからその名がついたといわれている。
「じゃあ、いいじゃない。何でそんなに嫌がっていたの?」
「そこのバトルに一度でも負けたら、普段の不思議のダンジョンと同じような失敗ペナルティーが科せられるんだ。基本的には不思議のダンジョンなんだけどね」
一見するとこの島は辺りに田畑があり民家もいくつか存在するので、不思議のダンジョンとは呼べないかもしれないが、これらのペナルティーがあることからそう扱われているのだ。
「ふ〜ん。全然勝てなかったら道具とかが全部おじゃんになるってこと?」
「そうだよ。あっ!あそこが一回戦のバトルフィールドじゃないかな?」
ファイアが指差した先には彼の言うとおり、いかにもバトル大会で使われそうなフィールドがあった。そこには対戦相手と思われるポケモンが既に到着していたようだ。見たところはリーファイメンバーよりも体格が大きく進化後のポケモンのようだが、
「ねぇ、リュウセイ。いつになったら対戦相手来るのかな〜。ボクおなかおなかぺこぺこだよ〜」
「ったくお前は食う事ばっかだな。だからデブって言われるんだよ」
「むかーーーーーーっ!!ボクはデブじゃなくて太ってるだけだよ〜!!」
「それを一般にデブっていうんだよ!!」
リュウセイと呼ばれたポケモンがもう一体のポケモンとフィールド上でコントみたいなトークを繰り広げていた。そこへリーフ達がその2人に声をかける。
「もしかしてあなたたちが相手なの?」
「そうだよ〜。もしかして君達が相手なの〜」
「おいデブ!!オレより先に喋るんじゃねぇ!!」
リーフの言葉にリュウセイが反応するがデブと呼ばれたポケモンが先に答えた。自分がこたえたかったのかリュウセイは逆ギレする。
「な、なにこのチーム……」
「オレ達はチームアンドロメダ!!!そいでオレがハッサムのリュウセイでこいつが……」
「ボクはカビゴンのマンプクなんだな〜」
「あぁ!!こいつはまた勝手にセリフをとりやがって!!」
リュウセイと名乗ったハッサムとマンプクと名乗ったカビゴンがまたも口げんかを始めてしまう。
「いや、早くバトルはじめようよ……」
やかましいハッサム達に呆れてファイアは早くバトルをしようとせかす。
「よし!!オレ達の自慢は仲よしチームのコンビネーションだ!!悪いが勝たせてもらうぜ!!」
「はい、じゃあチームリーファイ対チームアンドロメダのバトル開始」
どこからか現れたグラサンをかけたマグカルゴが試合開始のコールをかけた。
「オレから行かせてもらうぜ!!しんくうは!!」
リュウセイは自信の赤い腕を思い切り振るい、リーフに向けて空気の波を打ちだした。
ヒュルヒュルヒュルヒュル……
『へっ?』
(リュウセイにとっては)勢いよく放たれたしんくうはだが、それは本来先制技であるしんくうが、とてつもなく遅いスピードで放たれたのだ。
「そ、それっ!!」
あまりの遅さに驚きながらもリーフはメタルカッターでしんくうはを打ち消した。少し触れただけでしんくうはは消滅してしまった。
「今度はボクが!メガトンパンチ!!」
「うわっ!!火炎放射!!」
マンプクはファイアに向けて渾身の力を込めたメガトンパンチを放った。ファイアは思わず火炎放射を放つが特性”厚い脂肪”を持つカビゴンには効果は薄い。
「うわっちち!!」
「えっ!?」
筈だが、その割には相当きいたようだ。火炎放射を食らったマンプクはかなりこたえたのかフィールドを走り回る。
「んなろっ!!!だったら今度はこれでどうだ!!バレットパンチ!!」
「------!」
リュウセイは今度は文字通り弾丸のようなパンチを放つ。油断しきっていたリーフはバレットパンチを受けるが、
パコッ
それはバレットパンチの特徴である”弾丸のような”パンチではなく今にも蒸発しそうな水鉄砲同然のような威力だった。
「もしかして……」
「もしかしなくてもあの二体……」
『弱いよね』
ご名答。このチームアンドロメダはどういうわけか恐ろしくレベルが低く、十分なレベルを持つリーファイとは明らかに差がついていたのだ。
「じゃあファイア、・・・・・・・・・・で決めるからよろしくね」
「おk。火炎放射!!!!」
リーフに指示されて、ファイアはアンドロメダの2人に火炎放射を放つ。
「やべっ!!逃げろ!!」
「逃がさない!!メロメロ!!」
逃げ出すリュウセイの足元にリーフはウインクし、ハートの形をした物体をリュウセイに向けて放つ。
「うわぃっ!!
あ、あれ?なんか周りがぼやけてみえr……」
リュウセイはリーフが出したメロメロの効果で視界が徐々にぼやけていった。そして……
「……ははははっ、ぐへへへへへ……。チコリータってやっぱりかわえぇのぉ……」
メロメロを食らったリュウセイは目をハートマークにしてリーフを凝視していた。そのために足を止めたリュウセイに火炎放射が迫る。
「うげえええええええぇぇっ!!?」
またもに弱点の炎技を食らい、リュウセイは倒れてしまう。
「うわあぁっ!?リュウセイがやられちゃったよ〜!!」
「よそ見していいの?鋼鉄斬!!」
「うわああぁぁっ!!」
動揺するマンプクに近づいていたリーフは文字通り鋼鉄の刃でマンプクを切り裂く。そのままマンプクも倒れてしまう。
「勝負あり。チームリーファイの勝ち」
審判のマグカルゴのコールにより試合終了。あっけなくリーファイが勝利をおさめた。
「そんな……、オレ達の仲よしコンビが負けるなんて……」
「バトルは仲よしかどうかで決まるものじゃないよ」
リーフはボロボロのリュウセイにそう言った。いくらチームワークがよかろうとレベル差があまりにもあればどうしようもない。
「でも、僕達をこうも簡単に下すなんて君達滅茶苦茶強いんだな〜」
「いや、それほどでもないですよ////」
マンプクに褒められ少々照れてるファイア。だがそんな彼らに以外な言葉が飛ぶ。
「そうだよな。お前達がオレ達を倒しただけじゃ本当に強いか分からないもんな」
『はぁ!?』
リーファイを褒めるマンプクとは対照的にリュウセイは真っ向からファイアの言葉を否定する。
「よし!!決めたオレ達、お前達がどれだけ強いか、この大会中はついていくぜ!!」
『嫌だ!!』
リュウセイの頼みを真っ向から切り捨てたリーフとファイア。リュウセイは思わずずっこける。
「何で!?」
「いやだって君達滅茶苦茶弱いし……」
「うん……、えっとチームアンタラダメだったっけ?」
「アンドロメダだ!!誰がアンタラダメやねん!!」
リーフのボケにリュウセイが突っ込む。
「とにかく!たとえ嫌だといわれてもオレ達は勝手についていくまで!!」
「はぁ……、まぁいいわ、ついてきても」
「よっしゃ!!さっきも言ったがオレはハッサムのリュウセイ、こいつがカビゴンのマンプクだ。よろしく頼むぜ」
かなり無理やりだがチームアンタラダメ……、もといアンドロメダが一時的に加入することになった。すると彼らの様子が突如として変わる。
「あぁ、リーフの姉貴!!これからどうしやすか!?」
「ど、どうしたのいきなり……」
さっきまでリーフをお前達と呼んでいたリュウセイが急に姉貴呼ばわり、ついでに敬語で話し始めたのだ。
「オレ達は探検家としては後輩ですし、姉貴はオレ達より強いことがわかった。オレもそれくらいの礼儀はわきまえてるっすよ」
彼らもそれなりの礼儀はわかっているようだ。だが、傍から見れば手のひら返してるようにしか見えないのは気のせいだろうか。
「ふ〜ん、とりあえず二回戦まで時間あるし他のチームのバトルでも見に行かない?」
「いいんじゃないですか?でもボクおなかすいたな〜」
マンプクが腹の虫を鳴らしながらそう答えた。カビゴンなら当然だと言えるかもしれない。
「あれ見てよ!!あそこに飯屋があるから行ってみよう……
って、あれ?リーフは!?」
ファイアが言いきる前に既にリーフもマンプクもその場にはいなかった。しばらく彼女と行動していた彼には容易に想像ができた。
「はぁ……、やっぱりリーフは先に走っていったね。リュウセイ。僕達も行こうよ」
リーフの行動をあらかた予測したファイアは自分の後ろにいたリュウセイに声をかける。
「あぁ?何であんたに偉そうに指図されなきゃなんねぇんだ?」
「えっ?」
先ほどまでのリーフへの謙遜した態度を一変、リュウセイはファイアに対して生意気な口をきく。
「言っとくけどオレは強い姉貴についていくっていったんだからな。あんたみてぇなひ弱そうな弱虫にはついていく気はねぇかんな」
「…………」
ぷちっ……
「????」
「おい、今なんっつった?」
何かが切れる音と共にファイアの口調が豹変する。そう……例のアレだ……。
「だから、あんたは弱虫でひ弱って言ったんだよ」
「ほぉ〜、じゃあさっきは何でボクに一発でやられたのかな〜?」
ファイアは彼が言うひ弱そうな口調とは一変した口調で喋り出す。
「あ、あれ……?なんか口調がおかしいような……」
「虫タイプの君が炎タイプのボクにそんな口きいていいのかな〜」
ファイアは狂気に満ちたような目でリュウセイを睨む。その様子はさながら蛇(ジャローダ)に睨まれた蛙(ニョロトノ)と言い換えられるだろう。
「ちょっと調教しないといけないようだね〜。君みたいな
か わ い い 後 輩
は特にね〜♪」
「ひぃっ……」
指をボキボキと鳴らしながら迫るファイアに完全に怖気づいたリュウセイは一歩一歩後ずさる。そして……
「くたばれえええええええええええぇっ!!!ブラストバーン!!!」
「ちょっ!あんたヒノアラシなのになんでそんな技を……
ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁっ!!!」
ラッキー島には哀れな赤虫の断末魔が響いた。
「全く、遅いわね、2人とも〜」
「そうですね〜もぐもぐ……、早くご飯食べたいのに……もぐもぐ……」
一方リーフとマンプクは先に飯屋についていた。しかしマンプクは飯屋を前にしてまた食事をしている。
「はぁ〜、やっとついたよ〜」
『遅い!!!ってど、どうしたのその体……』
その時ファイアとリュウセイがたどりついた。だがどういうわけかリュウセイの体が真っ黒に焦げている。
「はははは、ちょっとアクシデントがあってね……
ねぇ、リュウセイくん?」
「は、はいぃっ!!?面倒な奴がたて着いたもんですから!!」
ファイアに振られ、リュウセイは声を裏返しながら答えた。完全にファイアがトラウマになっているようだ。
「まぁ、いいじゃないですか。早く入りましょうよ」
「ボクいっちば〜ん!!!」
リーフが扉を開けようとしたが、マンプクがリーフを押しのけて勢いよく飯屋の扉を開けて入場する。三人は呆れながらも彼の後についていった。
「いらっしゃいませ。飯屋”湯けむり”へようこそ。お客さm……」
「このお店のおススメは何!?」
店員のサメハダーの言葉を遮ってマンプクがサメハダーに顔をかなり近づけながら問う。
「そうですね。あちらのジャンボ・シビル丼風丼ぶりを三十分以内に完食されたお客様には賞金一万ポケを差し上げる企画を……」
「じゃあそれで!!!」
「か、かしこまりました……。それでそちらのお客様は?」
サメハダーは既に後ろにいたリーフに問いかける。
「じゃあ、あのケンタロス風巨大鉄板焼きで!!」
「かしこまりました、ちなみにこちらの賞金は一万五千ポケとなっており制限時間は二十分以内となっておりますので」
マンプクに続きリーフは巨大メニューを注文。それにしてもこの食いしん坊達ノリノリである。(ちなみに言っておくがこれらのメニューはあくまでも○○風であり、決して本当のポケモンを食材にしている訳ではない)
「後ろのお二人は?」
「ぼ、ぼくはAコースで」
「じゃあ、オレも」
「かしこまりました。それではあちらのお席へどうぞ」
サメハダーは四人を席に案内し、厨房に入っていった。そしてコックと思わせるオノノクスとクロバットに近づき……
「まんまとかかったな間抜けのリーファイめ。いいかお前達!!作戦通り奴らが来たから下剤を料理に盛り込め。
どっさりと たくさん 大漁にな」
「ジェットさん。それは大漁じゃなくて大量ですよw」
「魚盛ってどうするんすかw」
とっくにお気づきかと思うが、こいつらはジェット(以下略)である。恐らくリーフ達に下剤を盛り込む作戦なのだろう。
「お黙り♪とにかく今回の我輩達の任務はあいつらの妨害だ。下痢にでもなりゃあいつらも強化どころじゃなくなるだろう。これならドジで間抜けでどうしようもない我輩達でも確実にこなせるからな」
「下剤を盛るだけの簡単なお仕事ですねw分かりますw」
「そうだ!!わかったら料理の準備をせぇい!!」
五分後
「お待たせいたしました。シビル丼風の丼ぶり、ケンタロス風の鉄板焼き、そしてA
コースがお二つですね。ではごゆっくりどうぞ」
ジェットは自分が用意した(下剤入りの)料理をテーブルに置いた。
--くくくっ、間抜け共め。我輩達が用意した下剤でたっぷりともがき苦しむがいいわ!!--
去り際にぼそりとそう口に漏らした。勿論リーフ達には聞こえないように。
「おぉっ!うまそうだな!!」
「それじゃあ……」
『いただきま〜す!!』
『ごちそうさま!!!』
………………………………………………………………
------------------------------------------------!!!?
聞き間違いでなければ本来同時に聞こえるはずがない言葉が聞こえた。不思議に思ったファイアはふとテーブルの上を見る。
「はぁ〜おなかいっぱい♪」
「すっご〜い、リーフさん。ボクより食べるなんて〜」
マンプクは見ていた。一瞬のうちに自分の料理のみならずファイアやリュウセイの分まで平らげていたことを。だがその速技も彼らの目には到底映らなかった。
「何してんすか姉貴いいいぃぃ!!」
「そうだよ!!ぼくもおなか減ってたのに!!」
「ご、ごめんね……。すいませ〜ん!追加で注文できますか〜?」
流石に悪いと思ったのかリーフはジェットを呼び出す。
「も、もうしわけありませんが本日は材料がきれてしまいました……(こ、こいつ等どんな腹してやがんだ……。だが流石に下剤はきくだろう)」
「はぁ〜」
ファイアは少し落ち込み気味になる。
「まぁまぁ元気だしてくださいよ。あとでボクが木の実の料理を用意しますよ」
「本当に?マンプク君って料理できるの?」
「できますよぉ〜、失礼ですねぇ〜それじゃあボクがただの大食いみたいじゃないですかぁ〜」
「でも、こいつの料理はガチで上手いっすよ。オレも何回か食ったことあるんで保障します」
以外なことにマンプクは料理もできるんだとか。長い付き合いのリュウセイがそう言うので大丈夫だとは思うが。
「ねぇ、店員さん。賞金は〜?」
「は、はい……こちらです」
ジェットはマンプクに賞金二十万ポケを手渡した。そのうちのAコースの料金は差っ引かれてるが。マンプクは半分をリーフに手渡して彼を先頭に店を後にする。
「どういうことだ!!あいつら全く正常だったぞ!!」
「下剤の量が足りなかったんですかね?」
リーフ達が店を後にしたことを確認したジェットはその場で地団太を踏んでいた。たっぷり盛り込んだ筈の下剤が全く効果なかったのだ。
「下剤が足りなかったのか。どれ、我輩が一口試すか……」
ジェットはマンプクが平らげた料理の残り(と、いってもほんのだし汁一滴程度だが)を口にした。その瞬間だった。
「うぐっ!!!?」
「あれ?どうしたんですかジェットさん?」
いきなり彼の表情が真っ青になった、と同時に腹を抱えて苦しそうな顔をする。
「ト……」
『ト?』
「トイレエェーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」
ジェットはいちもくさんにトイレに駆けだした。間違いなく自分が盛った下剤にやられたのだ。ジェットはトイレの中でかなり辛そうな顔をしている。
「うわぁ……」
「ジェットさんェ・・・」
その哀れな同士を見守るノンドとバット。そんな彼らに扉越しに声がかかる。
「お……お前達ぃ……お駄賃やるからしばらくリーフ達の様子を見てきてくれぇ……」
『へ〜い』
「それじゃあつくるから少し待っててくださいね」
「頼むぜ。オレも腹ペコなんだからよ」
場所は変わってこちらはリーフサイド。マンプクが料理を食べ損ねたファイアとリュウセイに料理を用意しているようだ。
「ねぇ、マンプク。わたしにもその料理教えてもらってもいい?」
「いいですよぉ。でも後でボクにもバトルの練習相手をしてもらってもいいですか?」
「勿論いいわよ♪」
「やった〜。じゃあ見ててくださいね。はじめはオボンの実をスライスして……」
「なぁ、バットよ」
「なんだい?」
「あいつら、全然下痢してないよな」
「だな。ジェットさんに報告してお駄賃もらって。駄菓子でも買いに行く?」
「そうする?」
草陰でこっそり見ていたノンドとバット。どうみても正常なリーフ達を見てそそくさとばれぬようにその場をあとにする。
「はい!お待たせ〜。じゃあボクはちょっと席をはずすよ。リーフさんよろしく♪」
「うん。じゃあマンプク君がどんな技使うかとかどんなバトルスタイルとか知りたいから、まずは実戦からでいい?」
「はい!!」
「うん!!すごくおいしいよ!!」
「でしょ〜!?あいつの料理だけは買ってたんすよね〜」
「そういうリュウセイは料理できるの?」
「いや〜、オレは全然っすよ」
チームアンドロメダの面子をはじめは拒んでいたリーファイの2人。だが徐々に二人共彼らとの距離を縮めていく。これからも厳しいバトルが起こるのだが、つかの間の休息を楽しんでいることだろう。
誰かさんをのぞいてね♪