ポケモン不思議のダンジョン 葉炎の物語 〜深緑の葉と業火の炎〜









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最終章 ハッピーエンド
第八十九話 同士討ち
 ジェットの案内でサメハダ岩と呼ばれる岩場で一夜を明かしたリーフとジェット。そしてそこからは今後の方針について話し合う。

 リーフにはあの催眠に対する攻略の糸口にひとつ思い当たる節があった。かつて悪夢騒動の首謀者であるムウマージが、マグカルゴを拉致したことがあった。
 ムウマージの懐に潜り込んでいたジェットがマグカルゴの研究装置らしき道具を奪い取り、それをリーフにも渡していたことを。

 その研究装置は悪夢をはじめとした催眠への耐性をつける道具--この道具のカラクリを見抜けば催眠は解けるのではないかと思われた。


「なるほどな、オメーにしちゃいい案だ。なら今日は別行動だ。吾輩達に協力してくれそうでかつこの機械の構造も理解できるような奴をあたってみるぞ」

 この装置についてはまだまだ分からないことが多すぎる。二手に分かれて情報収集に向かった。











「うーん、とは言っても……機械に詳しそうなヒトってだけでも思い当たらないのになぁ……」

 とはいえこの作戦も相当に難題であることには変わりない。そもそもリーフの周りでこの類に精通してる者など、それこそこの騒動の首謀者であるあのマグカルゴくらいしか思いつかない。
 頭を動かすというなれないことをしてからかリーフは腹の虫が鳴いていることに気が付く。

「おっ、ラッキー。リンゴおちてた」

 森の中で落ちていたリンゴに気が付いた。空腹に耐えられるはずもなくリーフは何の迷いもなくリンゴを口にする。



「--??あ……あれ……?」


 そのリンゴに少し口をつけただけで強烈な眠気に見舞われたリーフ。まもなくして意識が飛んでしまった。













 それから意識を取り戻したリーフは自身が担がれていることに気が付いて。


「おい、もう目覚ましやがったぞ!!」

「ゲッ、うそだろ……?あのリンゴはすいみんの種5つ練りこんだってのに!?」

 リーフを連れ去った三人組--バシャーモ、ペンドラー、メガヤンマの三体だった。セリフからこの三体がリーフにすいみんの種を仕込んだリンゴを食べさせるように仕向けたのだろう。

「ジェットからはタフな奴って聞いてたが……ただの間抜けってわけでもなさそうだな」

「ぐっ……(確かコイツは、ジェットの組織にいた……)」

 三体の中のバシャーモがリーフへと歩み寄る。目をすわらせた異様な雰囲気にリーフの額に汗がにじみ出る。
 

「どうしますバシャーモさん。もう人目につかねぇようだし……ここで始末しますかい?」

「そうだな。ちゃっちゃと片付けるか」


「バシャーモかシシャーモかは知らないけどわたしに一体何の用なわけ?」

 ジェットの仲間とは言うものの眠らせて拉致を目論む連中など碌な理由ではないだろう。口では問うリーフだが内心ではそう思わざるをえない。


「あぁ、テメェとジェットの馬鹿がうちのボスのやり方に反発すっから始末しにきたんだよ」

「周りの連中がみーんな俺たちの思い通りの世界になるんだぜ?当たり前のことだろうが?」

 醜悪な返答したのは取り巻きのメガヤンマとペンドラーだ。この答えではジェットの仲間ではあるものの明らかに戦闘は免れないと判断したリーフはすぐさま戦闘態勢をとる。

「いけテメェ等!!」

 バシャーモの号令からペンドラーとメガヤンマが襲い掛かる。大柄な見た目に反してハイスピードは攻撃をリーフは辛うじてかわすことができた。

「(まともに追ってたってついていけない……。だったら……!!)」

 もともと足の遅いリーフにはこのスピードについていく選択はなかった。そこでとった行動は--



「ぬぅう?!!?」


 猛スピードで突進してきたペンドラーの体を蔓でつかむ。そして突進の勢いを利用して投げ飛ばした。
 ペンドラーが投げ飛ばされた先には、’エアスラッシュ’で遠距離攻撃を仕掛けてきたメガヤンマと空気の刃があった。
 投げられたペンドラーは空気の刃を食らいながらも勢いを衰えさせることもなくメガヤンマに突撃してしまう。


『うぎゃああ!!?』

「よし!'エナジーストーム'!!」

 互いにぶつかって隙が生じたところに大技を叩き込む。瞬く間に二体は戦闘不能にされた。


「チッ、使えねぇバカどもが。俺にはそんな古典的なやり方通じねぇぜ」

 足元で転がっている手下に対して吐き捨てるように一蹴するバシャーモ。







「ヒャッハー!テメェタイマンで十分じゃぁ!!」

「(くる……っ!)」

 拳や蹴りが飛んでくると身構える。バシャーモが繰り出したのは--











「真っ向勝負なんてするか!アホが!!」

「しまっ………!!」

 バシャーモは拳から'すななけ'をくりだす。攻撃技が来るとふんでいたリーフは砂をしのぐことができずに視界を封じられる。


 そこからはバシャーモが距離を詰め、炎を纏った拳を連続で振るった。今のリーフには炎技を無力化する道具は持ち合わせておらず、炎の熱が打撃攻撃とともにリーフの体力を奪っていった。

「低級サンドバッグの殴り心地はどんな感じかなぁ!!?」




 さながら'インファイト'のような連撃を叩き込む。懐に潜られては蔓を使った攻撃も発動すらできない。



「ぐっ……この……'カウンター'!!!」
「ムウゥゥ!?」

 リーフの十八番である反撃。物理攻撃で受けたダメージを2倍にして返す諸刃の剣。食らえばバシャーモも致命傷はまぬがれない。






「その技はなぁ……もうバレてんだよぉ……」

「そ……そんな……!?」


 リーフの狙いが定まらなかったのに加えて、バシャーモの並外れた反応速度で瞬間的に距離をとったため、カウンターは芯を外されていた。いくら威力が高くても掠る程度のあたりでは大した決定打にはならなかった。


「さぁ第二ラウンドスタート!!」


 一度距離をとったバシャーモが先ほど以上のスピードで接近し--そのまま炎の拳による連撃を食らわせる。
 砂による目つぶしが未だにとれずにいた速く重い拳を食らい続けてしまったリーフの体力は限界に達していた--。




 --このカウンターが外れれれば終わり。--
リーフは最後の一撃を出すために地面をしっかりと踏みしめる。

「学習能力のねぇバカがぁ!!テメェの攻撃はつうじねぇんだよ!!」























「おいチキン野郎、何やってんだお前」

「うぉっ!?テメェ ジェットか!?」

 突然バシャーモの背後にジェットが現れる。這う這うの体になったリーフにジェットがオレンのみといやしのタネをなげつける。


「なにしてんだジェット!!同じ組織だからテメェは見逃してやってんのに調子に乗んなボケ!!」

「あ?ここのバカだけど今は吾輩にとって必要なコマなんだよ。これ以上やりあうってんなら……食うぞ?」


 同じ組織だがもめ始めるジェットとバシャーモ。お互いに青筋が浮かぶほどに怒りを表している。
 と、ジェットがバシャーモにも引けを取らないスピードで距離を詰める。


「あんな馬鹿目玉焼きの作戦を真に受けるなんざ、テメェも堕ちたもんだな」

「調子にのんなよ?テメェとはリーチが違うんだよボケがぁ!!」

 しかしバシャーモの反応も並外れている。この種特有の長い脚で迎撃に入る--























「引っかかったなぁ!?スカポンタンがぁ!」

 急ブレーキをかけたジェットの口から紫色の液体が射出された。その液体はバシャーモの目をとらえる。先のリーフとの闘いを引きずってかジェットも猪突猛進して殴りかかると思い込んでいたバシャーモの頭にジェットも目つぶしをけしかけるかもしれないという警戒心は消え失せていた。

「なっ!!うぐわあああぁああ!!?」


 蹴りが空振り、さらには一瞬にして視界を奪われて思わず体をのけぞらせるバシャーモ。あまりに致命的な隙を晒すことになった。
 ジェットが吐き出したのは'どくどくの牙'の毒性を液体にした代物--早い話が'どくどく'の性質をもった液体である。


「さぁ、たっぷりと食らってやるぜぇ?」

「ギィヤアアアアア!!!」


 意趣返しを食らわせ、そして流れるようにジェットはバシャーモも脚に何度も牙をたてまくっていった。サメハダーの牙で何度も脚を食われては到底立てるはずもなく地面へと倒れ伏した。
 自らの卑劣な行為を数倍にして返され、悶絶して何もできなくなったバシャーモは子分とともにジェットにひきずられていった。


「テメェのような性根が腐りきった輩は、もう立てんでいいぞ」

ノコタロウ ( 2022/01/29(土) 20:25 )