第八十七話 息が合った瞬間
あの巨大ボーマンダといいジェットといい本来の姿の面影を残しながらも変身した様子はあの時のルカリオやリザードンを彷彿とさせた。ていうかジェットも”アレ”が使えたの?
「な、なんじゃこりゃぁ!?」
ボーマンダを倒しまじまじと自身の体を確認するジェット。その体は傷を負っていたが今のジェットの体は戦闘による傷跡には見えないような黄色い模様のような傷跡がのこっていた。
珍しく狼狽しているジェットの姿から見ると多分自分で使った訳ではないのかな。
「おいリーフなんだこれは!?なんで我輩がこんな姿になってやがる!?」
手があれば胸倉をつかみにかかるほどの勢いでジェットが食って掛かる。正直確証は持てないけどアレってメガシンカなんだよね……。
わたしはジェットにメガシンカについて知っていることを話した。
姿かたちが変わることや普段では得られないような強力な力を得られること、その姿のまま永続的にいられるわけではないこと。
「--確かにさっき”こおりのキバ”を出した時、普段より妙に力が入ったきがするな……」
「そういえばさジェット、体のほうはなんともないの?」
「バカか、てめーも我輩もボロボロだろーが」
「いや、そういうことじゃなくて……」
いきなり強大な力を得るって流石に反動とかがつきものだよね?って思ってたんだけど意外にも体力を削るとかそういったデメリットはないみたい。まぁ確かにさっきの戦闘でどちらも大ダメージを受けちゃったからなぁ……。
「”シャドーボール”!!」
「--なっ!?」
完全に油断しきったところに背後からシャドーボールが飛んできた。スピードはそれほどでもなかったからジェットが凌いでくれたけどあの場にシャドーボールなんて使えるのって……。
「ガーハハハハ!!よくも忘れてくれたな!!」
「いやー危なかったー流石ジェットだね」
「ケッ褒めたって手しかでねぇからな」
「何で褒めたのに殴られなきゃいけないわけ?」
「お前とは元々敵同士だからだ」
「あいつ等だって敵でしょうが!!」
「おいおいリーダー、俺らのことあいつ等眼中にないじゃね?」
まさかジェットがボケに走るなんて思ってもなかったんだけど。
「コラテメー等!!まさかわい等に勝てへんから無視してあわよくば逃げたろ言うんちゃうやろな!!」
「そうだそうだ!!いくら消耗してるからって俺たちみたいな連中に喧嘩装って尻尾巻いて逃げるとかだせーでやんの!?」
「俺らのことを丼もの呼ばわりしてバカにしてたのに情けねーなー!!」
「丼呼ばわりはお前だけだけどな」
ここぞとばかりに煽りまくるデスカーンとアーケオスとシビルドン。はっはっはっは、あれだけ好き放題言ってくるとは……。
「ケッ挑発でもしてるつもりか?まぁ我輩達はそんな下らねー煽りになんかのっからねぇけどな?リーフよ」
ほんとだよね。アイツらにあそこまで言われるなんてわたし達も甘く見られたものだね……。
さて--
『ぶっ潰す』
「えっ?」
--今こそがはじめてリーフとジェットの意見が合致した瞬間であった。
「って今のナレーション誰だよ!!」
「どうでもいいわ!おいリーフ我輩達の恐ろしさ、嫌というほど味合わせてやるぞ」
「勿論」
わたしは”エナジーストーム”ジェットが先にボーマンダに対して放った回転しながらの”かみくだく”でアーケオスとシビル丼に向かって放つ。向こう側は対抗するも威力差に抗えずあっさり倒れる。
よし、相手はもう一体しかいない。
「げげっ!?おいお前ら起きろ!!」
「どうだ?散々煽った挙句速攻で追い詰められた気持ちは?」
「ああ……終わったわ」
デスカーン達お笑い窃盗団も難なく討伐。アイツらは大したことなかったけどあのボーマンダが強敵だったからまだ疲弊してるな……。
「おいリーフ立てるか?いやお前なら立てるな。さっさと次に進むから立ちやがれ」
「えー、少し休んでからにしない?」
「ここが安全な保障はねーだろうが。それにいつも食ってばっかりなんだからこういう時くらいは働きやがれこのごく潰しが」
「……鬼、悪魔、ルッグさん」
「なんで罵倒するのに味方の名前だしてんだよ」
「くしゅん!!」
「どうしたのルッグさん?」
「い、いえ……誰か噂でもしたのでしょう……。何故か僕の悪く言ってるような噂な気がしてならないですが……」
「お前、また顔がこわばってるぞ……」
しかたなく必要最小限の回復を挟んだわたし達はさらに奥へと進んでいった。するとそこには追っていた奴の姿が。
「--バクフーン……‼」
「くっ!!何故ここに……!」
「何故もクソもねーだろうが。テメェのしでかしたことその少ない脳みそから抜け落ちたか?」
怨敵を前にしてかいつになく怒りをあらわすジェット。もちろんわたしとて同じだ。散々仲間たちを苦しめてきた奴を前にしているんだ。
「いくぞリーフ……--‼」
ジェットが先陣をきろうと突っ込んだ時だった。その突撃を遮るように機械のような腕が複数表れジェットも反射的に足を止める。これはバクフーンの攻撃じゃない……?
攻撃の先に目線を移すとそこにいたのは--
「やぁ、まさか君たちがここまでくるとは思わなかったよ」
わたしたちのよく知ったあのマグカルゴの姿だった。