ポケモン不思議のダンジョン 葉炎の物語 〜深緑の葉と業火の炎〜









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最終章 ハッピーエンド
第八十五話 正常な者 
「--お前は気づいてるんだろ」


 ありえない現実を目にしたわたしに向けて発せられたジェットの言葉。たったそれだけだったけど彼だけはこの異常事態に違和感を持っているんだと確信を持った。
 
 チームのみんながあの状態だからわたしはどこか心の中で安堵していた。時間にしてはごく短い間だけどあれはどう考えてもおかしい。


「アレを見て何も反応しなかったときはどうしようかとも思ったが……、この状況についてお前が知ってることを話せ」

 相変わらず偉そうな口調だけど、今この場で一番信用できるのはジェットかもしれない。ほんの小さな以前感じたほんの小さな違和感を含めてすべて洗い浚いに。

 一通り話すと今度はジェットの方が話をはじめた。概ねはわたしのときと同じであくどい連中が善行をはたらいていたり、そしていつも無能だとこき下ろしていた部下達が気持ち悪いくらいに有能になっていったこと。


 そして何よりジェット達の組織はリーファイの正式な仲間になっていたことを。

 淡々と口にするジェットだがどことなくその顔つきには怒りがこもっているようにも見えた。


「……どうにも決定打になるような情報は見受けられねぇな……。あのクソ野郎が黒幕なのは間違いねぇんだろうが……」

 忌々しそうに口にするジェット。誰とは言わずともクソ野郎があのバクフーンを称しているのは言うまでもない。他になにかないのかとジェットにふられわたしは必至に頭をはたらかせる。

 うーん……ムウマージを倒してしばらくしたころだから他にあったかな……。


「そういえば……夢で研究所に来てくれって言われたけど……」


「…………」

 やばい。思わず夢のことなんか口走った。絶対ジェットブチ切れるやつじゃん。『テメェは夢と現実の区別もつかねぇのか!!この○×!!▲○!!』って言われるわ。










 





 って身構えてたけど何故かジェットは怒らない。それどころか妙に真剣に考えこんでいた。あれ?ジェットってツッコミキャラだと思ってたんだけどこれわたしが突っ込まなきゃいけないやつ?



「『……時間がないから要件だけ伝える。研究所に来てくれ。頼んだぞ。』こんな具合で言われなかったか?」

「--!!?ど、どうしてわかったの!?!」


 あの時に見た夢と一言一句--とまではいかずとも殆ど同じ文言をジェットが口にした。なんでジェットがそのこと知ってるの!!?」


「ま、まさかジェットも……」


「嗚呼……おそらく我輩も……」



























「他人の夢に入れる力を持っていた!!?」


 派手にずっこけるジェット。今までのシリアスな雰囲気が一瞬にして崩壊する音が聞こえた。


「この状況でよくボケられるなテメェは!!!このデカブツ!!食いしん坊!!ちっとは緊張感を保て!!!

 我輩も同じ夢をみたんだよ!!!」

 
「あー、やっぱり?」


「わかっててボケたなテメェは!!」


「シャレだよシャレ。ちょっと空気が重たかったから……」


 ったく……と言わんばかりに顔をしかめるジェット。まるで別世界に放り込まれたような不安感があったけどちょっとだけ落ち着いたきがする。




「……とにかくあの研究所に行ってみるしかねぇな。他の連中にはお前はしばらく安静にさせるために接触しないように言っておくからこっそり窓から脱出しろ。いいか?」


 ともかくこれで方針は決まった。この異常事態を解決するためにはあの研究所に行ってみる以外の方法が現状では見つからない。でもそれはジェットと行動をともにすること。

「…………」

「なんだ、さっきまでふざけたことを抜かした割に急に神妙な顔してるな」

「……またこの前みたいに裏で何か企んでたりするんじゃない?」

 もともとジェットは悪者であくまでも共通の敵を倒すために同盟を組んだ関係。それに以前に知らないところでムウマージと繋がりを持っていたことが頭をよぎる。実はわたし達を出し抜こうとしているんじゃないかと。



「……随分悠長な考えだな。仮に我輩がお前をハメようとしたところで今のお前ひとりで何ができる?大事なお仲間連中も役に立ちそうにないし、同じ問題を抱えてるんだったら協力しあったほうが賢明だと思うがな」

 今とのことジェット以外に味方になりえそうなのがいない。確かにひとりで行動するのは無理があるか……。

「わかったよ……じゃあ一緒に行こうか」














 あれから別行動であの研究所に向かったわたしとジェット。相変わらず一見すると研究所とは思えない建物であったが、既に何度か足を運んでいたこともありここがこの近辺で研究所と言える場所であることは把握している。

 この研究所自体は特別広い場所でもなく中をすべて探るのにそうそう時間はかからなかった。しかし辺り一帯を探しても怪しげなものは全く見つけられない。

「くそっ!!何もみつからねぇ!!この辺に研究所なんて他にねぇはずだが……」

 隣で悪態を吐くジェット。やっぱり同じ夢を見たのはたまたまなんじゃないかと思えるくらいには決定打になるものは見つからない。

「……あの場で全く同じ夢を見て、それをはっきり覚えるなんてありえねぇはず……--!!?」

 突然ジェットの表情が一変するや否やわたしを連れる形で機械の影に隠れた。

「ちょ……一体なにを--」

「(ちょっと黙ってろ!!)」

 小声だが血相を変えたジェットに思わず口を閉じてしまう。黙ってジェットの視線を追うとあのポケモンの姿があった。

「(……バクフーン……!)」

 リーファイの仲間面したあのバクフーンがなんでこんなところに……?辺りをきょろきょろと何か警戒する素振りを見せる。一体何を企んでいるの……?


 一通り周りを見回した後バクフーンは機械の影に隠れていたスイッチを押す。するとカベが地響きと共に下がっていき新たな入り口が開かれていた。バクフーンがその中に入ったことを確認したわたし達は--

「やっぱりあの夢はただの夢じゃなかったか……そしてあのクソ野郎が絡んでいるのは間違いねぇ……。泳がせてまとめてふん縛ってやるぜ」

 すぐにでも捕まえてやろうかと思ったがあえてジェットは捕まえずに泳がせることを提案。確かにさっきの入り口のスイッチみたいに知らない仕掛けもあるからそのほうがいいのかも……。

 とにかく、こうなったらたとえ罠だろうと突っ込んでいくほかない。この異常事態を解決する術はきっとここにあるはずだから。

ノコタロウ ( 2021/04/10(土) 23:41 )