第九十一話 狂気の炎龍
「クソどもが……テメェ等ただですむと思うな……」
「よくその傷で立てるな。無駄にしぶてぇやつだ」
リーファイのスパークが重症を負いながらドクローズリーダー、リザードンと対峙する。それは凄惨な戦闘になってしまった……。
「どーかしら?アタシ達が用意したこの”世界”は?」
「最高っすよ。俺はもうあんな下らねぇ世界に未練はありません」
研究所の奥でなされた邪な会話の主はジェットのボスであり事の首謀者の一人であるネンドール、そしてドクローズリーダーのリザードンだった。
以前はただのならず者であった彼らが今や腕利きで名が知れた人気のチームになっていたのもネンドールの傘下についていたためであった。
「でもねぇ、この素晴らしい世界をもっとよくする方法があるんだけど聞きたいかしら?」
ネンドールの脳内にはそれは自身の計画の障害となるリーフとジェットの存在がよぎる。そのまま傘下につけたリザードンを唆してけしかけようとしていたのだった。
幾度となく自分の邪魔をしていたチームが障害となると知ったリザードンの顔は苦々しいものとなっている。それと同時に自分たちではあのチームにかなう気がせずにわずかに汗を滲ませる。
「いま正気になってるのはリーダーのあの子だけ。他の連中はまだこの世界に疑問を持っていないからそこで奇襲をかければいいのよ」
「なるほど……つまり他の連中は俺らに敵意はねぇから隙だらけと……」
この二人は骨の髄まで腐りきった連中だった。
「仲間を傷物にすりゃ彼女だってまともな精神じゃいられなくなる筈……そうすりゃ”この世界”だってよりよくなるわよ?」
「やっぱりボスは天才っすね。成功したら頼んますよ?」
--リーファイ基地--
「それで?おめおめとあのアホリーダーを見逃したってわけですか?」
怒髪天をつくほどに怒り狂ったルッグはスパークを問い詰めていた。その威嚇が発動してるような形相にファイアもウォーターも端で身震いしている。
「まぁ話を聞け。いくらあいつがノー天気でもあんなことするなんておかしいと思わんか?」
唯一スパークだけは恐れることなく冷静にルッグを説得する。年長者の落ち着いた態度と物言いにルッグも多少態度を軟化させる。
「そりゃあ……確かにおかしいと思わないこともないですが……」
「そうだろう?アイツも話し合いで解決していと思っているんだ。それをお前が猛り狂っていたら話せるものも話せなくなるだろう?」
先ほどまでの怒りも完全に落ち着かせたルッグ。その後は納得いった言葉が出されるかと思われた。
--それは一瞬の出来事だった。まばゆい光が一帯を覆った直後、一行を爆風と轟音が襲い掛かった。それらは爆発によるものだった。
その勢いによってリーフのいないリーファイの面子は全員勢いよく吹き飛ばされて壁に体を打ち付けられる。
そこへ追い打ちをかけるように現れたのはリザードンが率いるスカタンク、マタドガス、クロバット--ドクローズの面子だった。
「爆発!頻発!大奮発ー!!憎きリーファイが一瞬にしてズタボロだなぁ!!」
「あのヒトの爆弾……えぐい威力してますね……」
嬉々としてカチコんだリザードンの傍らで爆発に戦慄する子分達。そんな彼らを意に介することなくリザードンは続ける。
「おいテメェ等、さっさと片付けろ」
「えっ?でもこれ以上やったら--」
笑いながら片付けろ口にされた言葉の真意を読み取った部下のクロバットは流石に怖気づいたのか一瞬たじろうでしまった。
その瞬間ニヤケ顔だったリザードンが一瞬にしてにらむような目つきへと変貌。
「あ?だったらテメェ等惨めなゴロツキに逆戻りしてぇのか?」
「わ、わかりました……」
リザードンに脅されて半ば無理やりにでも襲い掛かる子分達。
「クソ野郎が……テメェ等……ただで帰れると……思うな……よ……」
「ゲッ……!?」
「……フン、スパークめ。しぶとい野郎だ」
他の全員が傷で動けない中、唯一スパークのみがフラフラになりながらも立ち上がる。弱り切った体ながら立ち上がるさまに子分達は一瞬恐れ、リザードンは忌々しそうに眉をひそめる。
「テメェ等!!そんなくたばりぞこないとっとと黙らせろ!!」
「へ、ヘイ!!」
末端のクロバットとマタドガスが”クロスポイズン”とヘドロ爆弾”で襲い掛かる。傷だらけのスパークの体ではこれらの攻撃など到底かわせないかと思われた。
「えっ……?」
まさに電気を帯びた拳を閃光のような速度でクロバットに叩き込んだ。一瞬自分が攻撃を食らったことにすら気が付かず、そして吹き飛ばされた気絶する。
一瞬で仲間を倒されて焦るマタドガスの懐をとるスパーク。マタドガスは反応が遅れながらもスパークを押しつぶそうとする。
「”アイアンテール”!!」
宙返りしながら硬化させたしっぽで叩き上げられたマタドガスも一瞬のうちに撃破された。ガラルのすがたになったマタドガスの体に鋼鉄の尾による一撃は効果は抜群でありこれまた一撃でノックアウト。
「チッ!くたばりぞこないめ……とっとと片付けろ!!」
苛立つリザードンの命令を受けスカタンクが飛び掛かる。しかし目の前にあのピカチュウの姿はない。スパークを探そうと辺りを見回しているスカタンク--
「”あなをほる””!!」
スパークはさながら獣のような速度でスカタンクの真下をとり、アッパーカットを繰り出すかのごとく地中から攻撃をしかけた。
的確に弱点を突く攻めはあっという間にドクローズの三体を殲滅させる。
「役立たず共が、ボロボロのネズミ一匹にのされやがって!!」
倒れた手下たちをこき下ろしながらスパークの前に立つリザードン。
「なら……テメェもそのボロボロのネズミにのされて……しまいだ……グッ……」
強がるスパークであるが鞭を打って動かしたからだはすでに限界を迎えていた。全身の痛みのみならず視界も掠れ、敵の動きを捉えることすらままならなくなっている。
リザードン特有の炎を有した尾でスパークはいたぶられていた。ピカチュウとリザードンの体格差もあってその様相は一方的だった。
(ぐっ……か、からだが動かない……)
リザードンにいたぶられるスパークを薄れる意識の中見ることしかできないファイア。どうにか加勢しようにも全く体がいうことを聞かずに硬直している状況だ。
辛うじて動く足を使ってバッジをとる。この場にいないチームメイトのリーフに助けを求めようとしていた。
「ほらよ!!いい加減くたばっとけ!!」
「ぐっ!!」
尻尾で顔面を殴打される。しかしスパークの目はまだ死んではいなかった。
技を使うまでもないと舐め切っていたリザードンに少しばかり隙が生まれている。
「テメェも一発食らっとけ!!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉ!!?」
リザードンのどてっぱらに”かみなりパンチ”を打ち込む。たった一撃であるが乾坤一擲の一打はリザードンに十分なダメージを負わせるには十分だった。
自身が飛行タイプ故か雷を帯びた拳に膝をつく。
(クソが……ズタボロのくせに急所入れやがって……!)
狙ったかどうか定かではないにしろこの一撃で重いダメージを追ってしまい一転して追い詰めらる。膝をついたところを追撃を狙う。
「覚えてやがれ!!」
分が悪いと判断したリザードンは手下を見捨ててその場から飛び去って逃げて行った。追いかけようにも飛行する相手を満身創痍で追いかけられるはずもなく--
「に……逃げやがって……クソ……が……」
スパークはそのまま倒れ伏した。
ファイアからの救援信号を受けたリーフとジェットが駆け付ける。しかしその時にはすでにリザードンが逃げ帰った直後のことであった。