ポケモン不思議のダンジョン 葉炎の物語 〜深緑の葉と業火の炎〜









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第六章 迫る悪意
第八十二話 ジェットの意地
--やみのかこうの最深部にて謀略を企てるムウマージ。そんな悪だくみの礎であろう水晶に攻撃を仕掛けたのはリーフでなくジェットだった?



















 --side jet --


「どういうつもりですか?ジェット」


ムウマージの野郎、口ぶりこそは普段のそれだったがその目つきは明らかに怒りがこもっていた。キレてるってことは少なくとも多少は我輩のことをアテにしてたんだろうな。ホントうけるぜ。

「はぁ?いつお前に手を貸すって言った?案外お前もリーファイの連中のように甘ちゃんなんだな」


「--はぁ……いいでしょう。ちょっと始末するのが早くなっただけですからね」














 ”おにび”を出してムウマージが襲い掛かってきた。ったくめんどくせぇ、真っ向勝負なんてやりたくなかったのによ。

 ”おにび”を交わして”ハイドロポンプ”で迎撃する。しかしその迎撃もよけられ、奴は背後の水晶にまとわれてるどす黒いオーラを自身に呼び寄せた。あの野郎
やはり隠し持っていたらしいな。


「さぁ、眠りなさい!永遠にね!!」


 オーラを我輩の足元までも送りこみそれはさながら穴の形どっていた。その穴に全身がまるで埋められるように引きずり込まれていく。
 引きずり込まりきる寸前のムウマージの顔は高笑いを浮かべていた。見てろよ、そのバカ面に目にもの言わせてやるぜ。









「クックッ、”ダークホール”を食らったら最期、永遠の眠りから覚めることはありません。さて、邪魔者も排除しましたし続きに取り掛かりましょうかね」














「だーれが永遠の眠りについたって?」

「なっ!?」

 ”ダークホール”から解放されたポケモンは眠りにつくらしいがあいにく我輩はしっかりと目をさましている。そのまま奴の下腹部におもいきり”かみくだく”で食らいついた。

「ぐぅっ!!?」

 ゴーストタイプである上にやつの種族の物理防御力は貧相だと聞いている。この一撃で大ダメージを食らわせただろう。どうには離れようともがいているがそんな貧相な体で我輩のキバから逃れられると思うなよ。

 奴に食らいついたまま勢いよく振り回し、その勢いでさらにキバで抉ってやった。これでいいだろうと解放したころには奴の体はズタズタになっていた。あの体だ、もうまともに動けないだろう。


「……













てんめぇ……!!どういうつもりだよゴラァッ!最初からこうするつもりだったのかぁ!!?」

 異常なほどに目を見開き、体を震わせている。よっぽど頭にキてるんだろうな。今までの慇懃無礼な態度も消え失せて乱暴な口調になってやがる。

「だーかーら、我輩は初めからお前に協力するつもりはねぇんだよ。言わなかったか?好きにやらせてもらうって」

「クソが……てめぇ勝ったと思ってんのかぁ?調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」

 ズタボロの状態なくせに口だけはいっちょ前に動くのかギャーギャーと吠えてくる。ったくうるせーったらありゃしねぇ。黙らせるために軽く傷でも抉ってやった。

「お前、ギャーギャー吠えるのはいいけど立場わかってるのか?状況見てモノ言えよ」

 のしかかりながらキバと奴の体に立てて大人しくさせてみる。止めを刺そうと二度目の”かみくだく”を放つ。これで終わりだな。
















「--ッ!?」

 ほんの寸刻のことだった。刹那に視界が反転する。今まで我輩のほうがムウマージを押さえつけていたが今は我輩のほうが押さえつけられている。
 そればかりか奴にあった体中の傷がまるで我輩のほうに移ったかのように奴は無傷、そして我輩はボロボロになっていた。

 奴め……一体何しやがった……!


「ぶっ潰してやるよジェット……、ぐちゃぐちゃにしてフカヒレにもならねーくらいにしてやるぁッ!!」

 激昂した奴は”おにび”やら”シャドーボール”やらで痛めつけにかかった。ムウマージのことを脆い奴と称したものの、サメハダーという種族も極端に防御の力が弱い。たとえ効果の薄い攻撃でも一撃食らうごとに頭を直接鈍器かなにかでぶん殴られるような衝撃に見舞われる。

 やろうと思えばすぐに始末できるはずだがそうしない辺りじわじわと弄るってやろうって魂胆か……。やっぱり初めてあった陰湿そうな奴ってのは間違ってなかったってか……?

「がァッ……!?」

「アーハハハハッ!!いいねーそのバカ面!!おもしれぇし何が起こったかわからねぇようだから冥途の土産にネタを教えといてやるよ」

 ご丁寧に解説までしてくれるとはな……ここは大人しく黙っていたほうが得策か……。


「僕は何も眠りにつかせる能力だけじゃないんだよな。今お前にやってやったように”自分に起こったことと相手に起こったことを入れ替える”ことができるんだおーだ」

 無茶苦茶で現実離れした能力だな……。だが現に奴に与えたダメージがこうして自分に返っているあたりただの狂言じゃなさそうだ。

「だーかーら、僕は最終的に傷一つつけられることなんていないわけー。どんな動けなくなるような致命傷を食らってもそれを返しちゃえばいいもんねー!!アハハハハハハハ!!!」

「…………」

「あれ?もしかしてしゃべる気力もなくなっちゃいましたかー?それともしゃべれなくなっちゃいましたかー?」

 うるせぇ……。いつの間にか口の中まで切れてやがったのか鉄の味が広がり頭もぐらぐらしてくるし意識が飛びそうだ。

 さっきまでバカみたいに笑っていたムウマージだが我輩の表情が元に戻ったのが気に食わなかったのだろう、途端に不機嫌なものへとなっていく。

「やっぱムカつくぜゴミクズが……!まぁ元からテメェは利用するだけ利用する使い捨てだったんだけど……なっ!」

「ガはっ……!グッ……!」

 追い打ちの一発に飛びかけた意識だがどうにかつなぎとめる。いたぶるのにも飽きたのか今まで押さえつけにかかっていたムウマージがすっと距離をとるように退く。

「そういやよ……その”ダークホール”ってやつか……?あれを生成しどうしよってんだ……?」

「あんだぁ?テメェ立場わかってるんか?状況見てモノ言えよ?まぁいいや、アレを完成させたら"あんこくポケモン--ダークライ"の封印が解けるのさ。あの力を呼び起こしてすべてのポケモンを悪夢に誘ってじっくりといたぶってやろうと思ったのさ!!」

 さっきのセリフをオウム返しで返しやがって……むかつく……。
 それにしても、ダークライって名前……大方伝説か幻のポケモン--そいつの力を使って暴れたいっていうやつか……。コイツの性格といいやり方といい割とオーソドックスな悪者だな……。ってそんな飄々としてるような状況じゃないがな。

「それでもなぁ……テメェがいつまでたってもできねぇ”世界征服”や”復讐”ってやつを少しでも味わわせてやろうと気をつかってやってんだぞ!!それを邪魔しようってとんだ恩知らずだなテメェはよぉ!!」


























「何が気を遣っただよ……、クソ野郎が」

「--!? ぁあ!?」

「散々手下ばかり動かして、最後は伝説のポケモンにすがって……。テメェは一人じゃなにもできねぇただの臆病モンだろーが」

 気を遣うだの恩知らずだの、無茶苦茶な言葉を並べられてから今まで朦朧としていた弱り切っていたこの頭は不思議と覚醒していた。奴への罵倒が思い浮かんでくる。

「俺はな……テメェみてぇな一人じゃなんもできないみみっちぃ小悪党が……大嫌いなんだよ……そんな奴と一緒にされるなんざ……こっちから願い下げだぜ……」

「…………」


 ムウマージが無言でぎんのはりを突き付けて我輩の喉元に突き付ける。金属特有のヒヤリとした感覚が走る。それと同時に覚醒していた意識が再び朦朧としてきた。



「終わったぞテメェ。望み通りぶっ殺してやる」


 チッ、くだらねー意地張ってやっちまったな。あいつもバカだからもう少し上手いこと唆してたらこうはならなかったのかもしれねーのによ。
 抵抗しようにも体が言うことをきかずに来るであろう攻撃に思わず目をつむる。




























「”葉っぱカッター”!!」

「チィッ!!」

 聞き覚えのある声と大量の葉の刃が飛んできたのがかすかに聞こえた。ったく……おせぇんだよバカが……。

ノコタロウ ( 2020/08/14(金) 23:30 )