第八十話 敵地へ
レグルスの裏切りにあい始末されたかと思われたリーフは身代わりを文字通りの身代わりにし、自らはとうめいだまで透明になることで敵に始末したと”思い込ませる”ことによりやりすごすことができた。
そのやり過ごしに乗じて透明状態が続いたのをいいことに敵に尾行。その際に敵アジトが”やみのかこう”と呼ばれる地だということが判明した。
敵の手に堕ちていたウォーター、スパークは前線から離脱--万全でないためやむなく休養となっていた。
「ったく……こんな時に何もできねぇなんて情けねぇな……」
「文句言わない。そんな体で満足に戦える訳ないでしょう?この状況で無理に戦ってほしいなんて誰も考えてないわ」
自身の不甲斐なさに苛立つウォーターを宥めのはリンだ。彼女自身もかつては力不足から仲間に助けを受けた経験があるからか言葉とは裏腹に口調は比較的穏やかであった。そんなウォーター達の代わりにグラスとラックが同行することに。
「ルッグに続いて私達の面倒まで……ありがとうございます。
お二人とも、リーフ達のことをよろしくお願いします」
丁寧にスパークがブラザーズメンバーに頭を下げる。準備は整ったのかリーフ達五人はムウマージ一味が潜んでいるであろう”やみのかこう”へと足を向けた。
「うう……あつい……」
「火口というだけはありますかね……」
入り口ではあるが既に周囲からはマグマが垂れ流れており、周囲の気温を一気に上げていた。特別暑さへの耐性があるわけではないリーフとルッグは暑さにまいりながらも水分を口にする。
(それにしても……なんでこのヒト達はそんなに暑そうにしてないんだ……?)
唯一リーファイ組の中で暑さへの耐性があるファイアは平気な顔をしているブラザーズの二人を不思議そうに眺めている。かつて彼らも火山を登ったりとマグマのある地底へ潜ったりなど多くの過酷な地へ足を踏み入れた経験であることをまだファイアは知らなかった。
「あっ!!早速きやがった!」
「ムウマージの言ったとおりだ!!どうしようか?」
入り口から現れた二体の巨漢--ボスゴドラとドサイドンが現れた。グラスとラックにはこの二体に見覚えがあった。ウォーター達を拉致して自分達が追っていたポケモンだ。
--そうかやはりこいつ等も……。
あまり知性を感じない口調から彼らの立場も大したことないことは伺えそうだが状況が状況だけに余計な時間をかけたくない。
「ここは私達二人で相手する。お前達は先にいけ!!」
そう言い放ちグラスとラックはドサイドン達に先手で攻撃をしかけた。もともとどちらも鈍重な種族であり攻撃を食らった二体は怯む。その隙に奥へ進むように促す。
「なぁに、こいつ等程度俺らにとっては朝飯前よ。はやくいきな」
あの二人なら大丈夫だろう。そう思ったリーファイの面々は二人を置いてダンジョンへと足を踏み入れた。
「あぁ!!あいつ等通してしまった!!」
「お前ら!!どうしてくれるんだ!!ここを通したら俺たちが怒られるんだぞ!!」
「そうだそうだ!!許さないからな!!」
口々に文句を垂れるドサイドンとボスゴドラだがグラス達は全く歯刃にもかけない様子。口ぶりは怒ってはいるものの見た目に反して迫力も感じないような口調だ。グラスは剣を抜き、ラックも指をボキボキと音を立てる。
「許してくれなくて結構。それよりも俺たちも暇じゃないんだ」
「お前達程度、すぐに片づけてやる」
「はぁ……ここらで一旦休憩しましょうか」
中間地点の目印であるガルーラ像が置かれた地にさしかかったリーファイの面々三人はここで一度休むことに。ファイア以外はこの暑さに中々なれずに消耗していったからであろう。
「そういやグラスさん達はどうなったかな?あの二人のことだからすぐに片づけてこっちに合流できそうだけど」
「確かにそうかもしれませんね。ある程度待ってみましょうか」
『ある程度なんて言わず、ずっと待ってやったらどうだ?』
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聞き覚えのある嫌な声--その声がすると同時に天井が音を立てて崩れてあっという間に土砂で埋まっていった。ちょうどリーフとファイア、ルッグを分離するように。
「ファイア!ルッグさん!!」
『ちっ、奴をのがしちまったか』
奥への道を封鎖されたファイアとルッグの前に立ちはだかったのは”そらのさけめ”でも遭遇したブーバーンとアーボックだった。--こいつ等がさっきの爆発で足止めを……。
「おい、よりにもよって一番やばいやつを逃してんじゃねぇかよ」
「だが所詮は一人だ。アイツも残ってるし……それに……」
焦りを浮かべるブーバーンに対して余裕を浮かべるアーボック。直接会ったことのないルッグはもとより以前にも対峙した仲間の仇である二体を目にファイアの表情が険しくなる。
「待ってて!!すぐに助ける!!」
唯一分離された先で奥への道に続く方面へと残ったリーフが自分達を離れ離れにした瓦礫の山を消し飛ばそうとした--
『みずしゅりけん!!』
見覚えのある粘性を帯びた液体の手裏剣が背後から複数飛んできた。この特徴的な技を使うポケモンはリーフの知る中ではただ一人--奴しかいなかった。
「レグルス……」