第七十九話 裏をかく
「ルッグさん!!意識が戻ったんだね!?」
リーファイとブラザーズの面々と目覚めたルッグが漸く合流を果たす。最悪の場合目覚めることもないのではとすらも考えられるような悪夢だっただけにリーファイの面々には素直に喜びが浮かんでいる。
「えぇ……心配をかけましたね。大体の経緯はブラザーズの方々から聞きました。その後はどんな具合ですか?」
「あぁ……実はな……」
ルッグは半ば驚きながらも比較的冷静な面持ちでその後の進捗に耳を傾けていた。仲間だったはずのゲッコウガ--レグルスが裏切ってリーフに刃を向けたこと。さらに裏切った手先はこの悪夢騒動の首謀者であることはほぼ間違いないこと。
そしてジェットがその組織に加担しているということを。
「思った以上にややこしいことになりましたね……」
仲間だった筈のレグルス、そして仲間ではないにしろ協力関係にあったジェットが敵への加担。立て続けの造反行為にルッグも反射的に眉を顰める。
「それであのレグルスはリーフさんを始末しにかかった……んですよね?」
眉をひそめている顔つきから何か不思議そうに他メンバーを見渡す。彼の聞いた話ではレグルスはリーフを始末し、敵組織とともに去っていった。
--筈であった。
「なんで生きているんですか?」
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--side jet --
我輩はムウマージと出会ったことのころを思い返していた。
その傍らで奴は自身の配下連中の連絡を待ちつつ別室で以前に拉致した目の前のマグカルゴと話--もとい拷問をけしかけていた。
マグカルゴは全身を拘束されており既に拷問をされていたのか全身に傷を負っていた。
「全く……そろそろ話してくれませんかねぇ……。私もできることならコトを穏便に済ませたいのですが……」
穏便……全くどの口が言ってやがるのか。我輩がこいつに抱いた第一印象は真綿で首を締めるような、じわじわと相手を痛めつけるのが得意としているイメージの輩だった。
正直やつの本性なんてクソほどどうでもいいがおそらくこいつの印象は乱暴に言うと”陰湿”の二文字といったところだろうな。
割とオーソドックスな悪者ってところか……我輩が言えたクチではないがな。
「ぐっ……アレだけは……渡すわけにはいかな……い……っ。ましてお前達のような輩に悪用され……」
「強情ですねぇ!!さっさと渡せばいいものを!!」
怒りに身を任せて”シャドーボール”を打ち込む。狙って傷の深い箇所へと打ち込んだのかマグカルゴは苦悶の表情とともに呻き声をあげる。
しかしそれでも口を割らない様子のマグカルゴに業を煮やしたムウマージは苛立ちながらも別室へと移動する。
ムウマージが部屋からでていった頃合いにジェットはマグカルゴへと話しかける。
「……あいつの言葉借りるのも癪だがほんっと強情だなお前。さっさと言っちまったほうがいいんじゃねぇの?」
「それはできない……アレを渡してしまったら最後、悪夢騒動が解決できなくなってしまう」
「…………」
何がこいつの口を割らせないよにするのかわからん。命よりも大事な研究なんぞあるのかね。ズタボロにされても意地でも口を割らない姿にこれ以上何を言っても無駄だと遅くなりながらも理解する。
「がっはっ……!!」
突然マグカルゴが苦しみだす--まぁ我輩が”どろぼう”を繰り出すように奴から隠し持っていた道具を奪い取るように攻撃したからだがな。
やはり隠し持ってやがったか。あの間抜けなムウマージは気が付いてないようだが我輩の目はごまかせるか。
「こいつはもらってくぜ。じゃあな」
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「へへっ、まんまとあんのアホガエル達を騙せたってとこだよな?」
何故か得意げに話す兄ウォーターに呆れながらもファイアが解説をする。
「あいつ--レグルスがリーフに向けて攻撃した瞬間に”身代わり”を発動させたんだ」
「なるほど……。

「あえて身代わりを攻撃させて敵側に始末したと”思い込ませる”方法ですか……。土壇場とはいえ、思い切ったことをしましたね」
「いや、土壇場じゃなくてもっと前からあいつの様子がおかしかったんだ」
「おかしかった……それは僕が悪夢にやられた辺りからその兆候があったということですか?」
ルッグ自身が見た限りではそこまでレグルスに妙な動きは見られなかった。仮にもチームの頭脳役を半ば担っている自分がそれを見逃したというのはルッグにとって責任を感じないこともない。
「うーん、ルッグさんが悪夢にやられる前の兆候は精々たまに一人でどこかへ行ってしまう程度のことだったけど、おかしいと確信したのはアイツの性格が大きく変わったことなんだ?」
「性格?そんなものが簡単に変わるものか?」
半ば揚げ足を取るように投げかけるスパークに一瞬ファイアは怯む--も直ぐに続ける。
「まぁ……性格というよりはアイツと出会った時のような性質に戻った……ってところかな。ほら、アイツと初めて出会ったころって冷静なタイプだったじゃない?」
思い返してみるとそうだった。仲間として行動していたころのレグルスは猪突猛進という言葉がピッタリの熱血漢であった。しかし出会った頃はその性質とは真逆な冷静な性格であった。
「”そらのさけめ”へと向かった時のアイツは嫌に落ち着いていたんだ。そこで確信を持った。何か裏があるんじゃないかと」
レグルスは信頼できるものがいれば自身の突っかかりやすい性質をさらけ出すことができると自分の口から言っていた。
その彼が突然冷静になったということは自分たちを信用していないということだと確信していた。
「--でも裏があるとは思ってたけどあの連中と繋がっていて、リーフを始末しにかかるってのは予想よりも酷かったけどね……」
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-- side jet --
「おい!約束通りにリーフを始末したぞ!さっさと--」
「いきなり煩いですねぇ。帰ってきてそうそう騒ぐんじゃないですよ」
ムウマージの手下連中が帰ってくるや早々にその一体のゲッコウガがムウマージに突っかかってくる。その傍らにはアーボック、ブーバーン、ボスゴドラ、ドサイドンがいる。確かこの面々がムウマージ一味だったか。
それにしてもあんなどこの馬の骨かもわからないようなカエルがリーフを容易く始末できるのか?どうにも我輩には嘘八百にしか見えない。
「大体、本当に始末してきたんですか?口からの出まかせじゃないでしょうね?」
どうやらムウマージの野郎も同じことを思っていた。そりゃそうだ、いくらアイツが甘ちゃんだからってこんな連中に容易くやられるとも考えにくいし第一証拠がない。信じろというほうが無理な話だ。
「--至急、ここの入り口、中間地点にそれぞれ2:3で配備しなさい」
「は?なんで--」
「本当に彼女を始末したのなら……ここへ足を踏み入れた客人が誰なのかその目で確かめることですね」
やはりというかムウマージもあらかた察していたようだ。あのカエルはそう言われてどんどん元から青かった顔が青ざめていってる。
さて、そろそろ佳境といったところか……。