第七十七話 最期
「貴様はジェット……確かリーフを裏切った奴か……」
警戒と嫌悪を露骨に示しつつグラスが剣先を向けながら発する。
グラスたちは既に知っていた。このサメハダーがかつてリーファイと組んでいたこと。そしてこの騒動とほぼ同時期に裏切りともとれる動きをとっていたことを。
”裏切り”ジェットはその言葉を耳にした瞬間、これまた露骨に面倒くさそうに首をふる。
「だから何度言わせるんだよったく、はじめっからあいつ等の仲間になったつもりなんてねぇんだよ。テメェらほんっとめでてぇ野郎だな?」
あくまでもジェットはリーファイの仲間になった覚えはない。先のルッグの夢の中でリンに対しても主張したにもかかわらず、またこんなつまらない説明をせねばならないことに次第に苛立ちを覚える。
「何だってかまわねぇさ。お前さん等がことの悪夢騒動に関わっていることに違いはねぇんだろ?」
ラックも腰を落として身をかがめる。その先は口にはしないが”今からお前をとっつかまえる”とでもいいたげなことはジェットも粗方察してはいた。
周りは研究所らしき書物や薬品等が並べられている。そして決して広くはないような一室。まともな戦闘などできるのかと思案していた時--
「--!!」
乱暴に書物の積んである棚をなぎ倒すジェット。轟音とともに棚がブラザーズの面々に向けた倒されてきたため狭い部屋の中ギリギリのスペースでかわすグラスたち。
その一瞬の隙をぬってジェットは窓ガラスを割ってこの場から逃走した。慌ててグラスが追おうとするが追いつくことはできなかった。
あまりに一瞬--しかしその数刻で取り逃がしたグラスは苦虫を嚙み潰したような顔つきでラックが残った研究所へと戻っていった。
「すまないラック、取り逃がしてしまった……。
ラック?」
ジェットによって乱雑になぎ倒された書物を真剣なまなざしで目を通すラック。その後ろからグラスも眺めるが彼からすれば見たところでちんぷんかんぷんな並び。
しかしラックはその言葉の並びが理解できているのか真剣な目つきを変えずに書物を読み進めていく。
しばし時間をおきようやく腰をあげたラック。”戻るぞ”とだけ告げて研究所をあとにした。
「ラックよ、一体どうしたんだ?さっきから様子が変だぞ」
「----あの研究所の書物を見てたんだがな……。まだ断定はできんがこの悪夢を覚ます方法が見つかったかもしれん」
「なっ……!?」
予想だにしていない場所から見つけられた解決の糸口。グラスも思わず普段ださないような驚きをあらわにする。
「もちろんさっきも言ったが確証はない。だが今まで手の打ちようのなかったあの悪夢に対抗できそうな代物がみつかったんだ」
「そんなものが……あの研究所で……」
二人は一瞬あの研究所の主がこの悪夢騒動の黒幕かと案じた。しかしその考えは即座否定される。あの荒れ放題な様から、黒幕が研究所の主だとは考えにくい。
つまりあの研究所の主は黒幕に拉致されて利用されているほうが近い……。
「ともかく、気になることは他にもある。あのズルズキンの兄ちゃんを起こしてからさっきの研究所について聞いてみよう」
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「ガギャガアアアアアアアッ!!」
「”エナジーストーム”!!」
パルキアの”りゅうのいぶき”とリーフの大技エナジーストームがぶつかり合い爆音主に辺り一帯に煙が瞬く間に広がっていく。
その煙が晴れるまでのしばらくの間、視界が悪くなった頃合いに乗じてレグルスがリーフとパルキアに割って入る。一時的とはいえ視界から外れた隙に攻撃を放つつもりであろう。
「よし、ここからは任せろ!!」
煙が晴れた瞬間、レグルスが間から”れいとうビーム”を発射した。
「----なんていうとでもおもったか?」
パルキアではなくリーフに向けて。
今までとは打って変わって邪悪な笑みを浮かべるレグルスと”れいとうビーム”を受けて体があっという間に凍っていくリーフ。まるでその目は信じられないといわんばかりだった。
パルキアもすでにレグルスに対しての攻撃をやめていた。水の刃を構えるレグルスの背後に無言でたたずんでいる。
「ふっ、これが世界を救った有名探検隊リーダーの最期か……あっけないな」
そう吐き捨てて水の刃を氷漬けのリーフに向けて振り下ろした。氷漬けのリーフの体は真っ二つに割れていった。
「次はあいつか……やれ、パルキア」
淡々とした態度でレグルスはパルキアにファイアのいる壁を壊すように指示する。パルキアはただの攻撃で容易く壁を破壊した。普通のポケモンでは手間のかかる程度の壁を容易く破壊する辺りさすがは伝説ポケモンかとレグルスは心の中で関心していた。
しかしファイアの姿は見当たらない。気が付けばウォーターやスパークの姿も消えていた。
「おっ、うまく仕留めたみたいだな」
フィールド外からアーボックとブーバーンが姿を現す。レグルスはなぜファイア達の姿
が消えたのか問いただした。
リーフだけ仕留めても他の仲間に逃げられては意味がないのではないか。そんな懸念ったが以外にも二人の反応は淡泊なものだった。
「あのマグマラシ達は”えんまく”に紛れてそそくさと逃げちったぜ。まぁ大丈夫だ。俺らはリーファイリーダーの首さえとることが任務」
「聞けば他の面々は有象無象って話だ。確実に奴さえ始末していれば大丈夫だ。お前だって近くであのチームを見ててそう思うだろう?」
「……そうかもしれんが……」
確かにリーファイの面々でリーフ以外は大したことはない。レグルスはその言葉に対して肯定はするも、あきれるほど楽観的なアーボック達の態度に若干辟易する。
「それにあいつ等にはあの救助隊連中が近くについてるんだ。下手に追って合流されたら返り討ちのリスクだってあるだろう?ここは報告がてら体制を立て直したほうがいいって」
ニヤニヤと耳元に近寄りながらアーボックが囁く。途中舌をチロチロと出している様はカエルを捕食する蛇の様子にも見受けられてレグルスに悪寒が走る。
「ともかく、これで約束は果たしたぞ。さっさと----」
「はいはいわかりましたー。その続きはアジトに帰ってからにしましょーねー」
「お、おい!!」
半ば強引に話を遮ってブーバーン、アーボックはレグルスを連れて”そらのさけめ”を去っていった。