第七十六話 役に立たない
「さぁ……仲間同士で思い切り傷つけあうんだな!!」
操られたウォーターと対峙してるファイアに上から眺めるアーボック。その様はまるでお気に入りの玩具を手に入れた子供のようで狂気さえも含んだ笑みであった。
仲間同士で戦いあうことはアーボックからしてみれば何のことはないが目の前の敵はそんなことはできないことを知っていた。
「火炎放射」
「なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃ!?」
一切の躊躇も見せずにウォーターに向けて炎を発射するファイア。さすがにアーボックもこの展開は予想してなかったのか、今までの薄ら笑いから一変した驚愕の表情へとなっていた。
「ちょっとまてえええええええええええええええええええええええぇ!!」
「なにさ」
今までとは打って変わって声を荒らげるアーボックとうっとうしそうに返答するファイア。アーボックのほうには明らかに動揺が見て取れる。
「お前目の前にいるの仲間だろ!?何躊躇なく割と本気で攻撃してんだよおかしいだろ!??」
「いや、普段から結構本気で兄弟げんかしてるからこれくらいよくあるし……」
「喧嘩!?喧嘩レベルなの!?」
「うん、割と本気で殴り合ってるし」
「てかお前炎でこいつ水だろ!?かてんの!?」
矢継ぎ早に質問を繰り返すアーボックにファイアはあっけからんとした態度で”うん”とだけ答えるファイア。先までのシリアスな雰囲気はすでに崩壊していた。
「フン、さーてさすがのあいつも仲間相手には攻撃できないだろうな……」
もう一体の首謀者であるブーバーンはリーフとスパークの様子を見に行っていた。リーフの実力をある程度知っている上で彼女を含めたリーファイの面々が仲間に手を出せないことを知っていた。
「はあああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!?」
また間の抜けた声を発するブーバーン。それもそのはず、ほぼ無傷のリーフに既に膝をついたスパークの姿とを目視した。
おかしい。こいつらは仲間にはたやすく手を出せる質じゃないはずだ。
じゃあなぜあの電気ネズミは倒れているんだ?
「あー多分だけどスパークさんここに出された時点でグロッキーだったみたいだからすぐにダウンしちゃった」
「え?」
聞けばあのピカチュウ、そこそこの年らしくこの頃はスタミナが低下していたらしい。そんな中拉致されて長い時間拘束されてすでに使い物にならなくなったって……。
あの野郎……なんだってよりにもよってこんな使い物にならない連中を連れてきやがった……。
しかも隣を見ていればあのカメールもあっさり蹴散らされてやがる。あの脳筋大馬鹿コンビが……‼
みうみるブーバーンの額に皺が集まり表情が怒りで歪んでいった。隣のアーボックもきっと手があれば頭を抱えたような仕草をしているであろう困惑の顔つきだ。
完全にこの二人から余裕が消え去っていた。洗脳したウォーターもスパークもすっかり使い物にならない。
だからと言ってリーファイがそれに安堵したわけではなかった。敵側と違って仲間たちの状況まで詳しくは把握しきれていない。そして何よりレグルスが相手しているのは伝説ポケモンのパルキア。よく知った相手でなく素性もよくしらない強力なポケモンである。
リーフは弱っていたスパークを気にかけながらも隣にいた仲間を気に掛ける。彼はたった一体でパルキアと相手している筈だ。どうにかしてこの岩壁を壊して加勢しにいく必要があるか……。
「--!!?」
突如として轟音とともに岩壁が崩れた。岩壁が崩れた際に生じた砂煙からよく知ったゲッコウガとピンク色をベースとした巨体のポケモン--パルキアが姿を現した。
「すまねぇリーフ。さすがにコイツは俺一人じゃきちぃから手ェ貸してくれ!」
返答を待つ間もなくレグルスが臨戦態勢に、パルキアも襲い掛かろうとせんばかりに咆哮を発する。
砂煙に紛れて一人のポケモンの口角が吊り上がったことには当人以外は誰も気が付いていなかった。
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「奴ら……一体どこへ行った……?」
スパークやウォーターを拉致したであろう大型のポケモン二体を負ったグラスとラックのブラザーズの面々。
気が付けば彼らは見えぼえのないさびれた研究所に到着していた。
「……妙に荒らされてるな。もしかして奴らがかかわってるか?」
研究所の入り口がまるで事件が起こったとばかりに荒らされている。中に主がいないことを確認して二人は研究所の中に入っていった。
「ひどいな。奴ら随分と荒らし放題だな」
リーフ達はこの研究所の主を知ってはいるがブラザーズの面々は知らない。大した広さもない研究所だからかこの場に主がいないことを知るのに時間はかからなかった。
そしてそこには主ではない別のポケモンの姿が現れる。
「チッ、まためんどくせぇのがきやがったな」
「お前は……」
サメハダーのジェット。ここにいたのは彼であった。