ポケモン不思議のダンジョン 葉炎の物語 〜深緑の葉と業火の炎〜









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第六章 迫る悪意
第七十五話 同士討ち
「”みずしゅりけん”!!」

 ”そらのさけめ”に生息するリザードンとエレキブルが近づいて来るや否や、レグルスがリザードンに粘性を帯びた液体でできた手裏剣を飛ばす。

 威力こそ低い飛び道具ではあるが水の苦手なリザードンからすれば浴びるだけでも十分な後隙を生んでしまう代物。その隙をついて懐にもぐりこんで本命の攻撃に移る。

「”ハイドロポンプ”!!」

 両手から大量の水を至近距離から放出し、リザードンを吹き飛ばす。水タイプの大技を食らったリザードンは戦意喪失--あっという間の攻撃に一瞬ひるんだエレキブルだが相方の仇とばかりにレグルスに”かみなりパンチ”で殴り掛かる。

「たのんだぜ」

「”葉っぱカッター”!!」


 紙一重で電気を帯びた拳をよけたレグルス。背後のリーフが電気の拳に向けて的確に大量の葉を飛ばす。草の性質は電気の攻撃を緩和させることができるからか葉を食らった雷の拳は徐々に勢いを弱めていく。

 その隙を逃さまいと首元から二本の蔓を出したリーフはエレキブルの両足をとらえ、そのまま勢いよく地面にたたきつけた。技でもない一発ではあったが十分に重い攻撃らしくエレキブルも戦意を失っていた。

「こんなもんか、探索に戻ろうぜ」

 いつの間にか--というよりはこの騒動で合流してから指揮はレグルスが執っていた。いつも猪突猛進な彼にしては戦闘も含めて珍しく戦略を立ててるようにすらファイアの目には見えていた。

(きのせいかな……アイツ、いつもなら大技を打ち込むイメージだったけど……成長したのかな)


「そういえばさ……スパークさん達が連れ去られるのを見たんだよね?」

「ん?あぁそうだが」

「ほかにさ、あの連中にかかわってそうな奴らとか見なかった?たとえばジェットとかさ……」


 リーフの脳裏にはあの悪夢で遭遇したジェットの姿がよぎった。今まで何度か悪態を吐かれながらも共闘してきた彼があのような態度を示したことがいまだに釈然としなかった。
 確かにあくまで利害の一致の関係ではあったがその目的はまだ果たされていない。その状態で翻してくるというのも心情的にも信じがたい上に、あれだけ実力を評価していた自分たちを敵に回すことが考えられなかった。

「……多分お前らの知ってるやつだと思うんだがな……、オッサン達を連れてったドサイドンとかといっしょにあのサメハダーがいたのも見たぜ……。そんで”ダークライ様”って言っていたのも聞こえたな」

「ダークライ……様?」

 ダークライ--あんこくポケモンと呼ばれる種のポケモン。直接出会ったわけでもないが相手を深い眠りに誘って悪夢を見せるポケモンと呼ばれている。
 この話からそのダークライがことの元凶であることを想像することは難しくなく、そしてジェットもダークライと繋がっているということが伝えられた。

「やっぱりジェットは……」

 先もことの首謀者らしきムウマージと行動を共にしていた辺りジェットが彼らについていることはもはや確定的ともとれてかファイアは落胆をあらわにする。その姿にリーフも言葉が出ずレグルスも少し間をおいてから「先を急ぐぞ」とだけ言い放ち奥へと進んでいった。




「……これ以上のおしゃべりは無用だ。先を急ごう」

 しばし沈黙が訪れるがレグルスが先頭を歩き、進むように促す。



















 しばし歩き続けた一行は大きめのフロアへと到達した。あたり一帯には壁しかなくこれ以上は先へ進めそうにない。

「--あ、あれって……」

 ファイアが指さした先には三体のポケモンがいた。白色をベースとしたディアルガにも劣らない体格を有するポケモンが膝をついて荒い息遣いをしており、その巨体を取り込む二体のポケモンはコブラのような風体のモンスター--アーボック、そして炎をまとったブーバーンと呼ばれる種族だ。
 ブーバーンとアーボックはリーフ達に気が付いたのはニヤニヤと笑いながら振り返る。依然として巨体のポケモンは苦しそうに顔を青ざめさせる。

「お、お前達は……」

「おやおや、ちょとばかし遅かったようだなぁ」

 とても善良に見えないこのアーボックの言い方や表情には彼らが自分たちの敵であると確信するには十分な材料だったといえよう。
 アーボックは顎でしゃくる仕草を見せるとブーバーンは岩陰から二体のポケモンを連れた。そのポケモン達はリーフ達にとってもよく知ったポケモンであった--




「スパークさん!?」
「兄さん!?」










「よかったー、どこいってたの二人とも?」

 探していた仲間が見つかったことに安堵し思わずスパーク達に近寄っていくリーフ。しかし敵らしき集団から現れた仲間の姿にファイアのほうは違和感を覚えていた。





「危ない!!」

「えっ--」


 スパークが突然明らかにリーフに向けて電撃を飛ばしていた。いち早く異変に気が付いたファイアが体当たりでリーフを吹き飛ばした。
 吹き飛ばされたリーフの立っていた後には電撃で焦げた跡が残っていた。


「やはりすでに洗脳されて奴らの手に堕ちていたようだな」

「そうさ、こいつ等やパルキアは今や俺たちの手ごまさ」

 ことを冷静に眺めていたからかレグルスはさほど驚きもせずにスパーク達が敵側についていることを察していた。
 レグルスとは対照的にリーフはショックを受けた面持ちで変わり果てた仲間の姿を眺めていた。同時に仲間を手ごま呼ばわりしたこのブーバーン達への怒りがこみあげてくる。

 リーフはファイアに礼を言いながら体を起こして戦闘態勢に入る。すでに敵であるアーボックとブーバーンを蹴散らしてスパーク達を救出する。ファイアも同じようにその算段をとっていた。

「そう簡単にことが運ぶかな。パルキア!”だいちのちから”!!!」

 雄たけびをあげたパルキアが地面を隆起させてリーフ達を分断するように空間を分離させた。
リーフ、ファイア、レグルスはそれぞれバラバラにされて、それぞれに目の前にはスパーク、ウォーター、パルキアが対峙するようにたっていた。



「ククク、仲間同士で戦いあう……。お前らにとっては一番嫌なことだよなぁ?」

 自らは手を下さずに高みの見物を決め込むアーボックとブーバーン。悪辣なやり方に反射的に額にしわをよせるリーフ、しかしすでに彼女の眼前には敵の手先となったスパークが襲い掛かってきた。

ノコタロウ ( 2020/06/14(日) 22:40 )