ポケモン不思議のダンジョン 葉炎の物語 〜深緑の葉と業火の炎〜









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第六章 迫る悪意
第七十四話 迫る悪意
--ルッグの悪夢の原因を探るために、彼の夢の中へともぐりこんだリーフとファイア。そんな中敵であろうムウマージとともになぜジェットが……。


「どうしてジェットが……」

 ファイアはさながらタチの悪いドッキリでも仕掛けられたような顔、リンは敵かと判断し”へびにらみ”を放ちそうな目つきに、ベガは心底くだらなそうに露骨に溜息を吐く。

 それに呼応したようにジェットのほうも面白くな下げにチッと舌打ちを聞こえるように打った。

「も、もしかして……。こいつもルッグさんの夢の中での……」

「それはない、明らかに本物と夢の中の偽物とで違うだろうが」

 同様するファイアに対してあきれ気味に訂正するベガ。どう見ても目の前のサメハダーとムウマージは実体があることは彼らの目から見ても明らかだった。

「おやおや、答えてあげたらどうですか?ジェット」

「--フン、我輩としてもそんなつもりはなかったんだがな……」

 口調こそは丁寧だがどこか冷たい口調のこのムウマージにジェットも心底つまらなそうに吐き捨てる。
 目の前のムウマージは一連の悪夢騒動の首謀者か否かは不明にしても関わりを持っていることは間違いないとリーフもファイアも見ていた。そしてその相手とともに行動しているということは--


「アンタ、この子達の仲間なんでしょう?返答次第じゃただで返さないけど?」

「テメェにゃ関係ねぇだろ。本気で我輩を倒したらコイツの悪夢が覚めると思ってるのか?」


 ジェットの傍らでニヤニヤと笑うムウマージに対してジェットは一貫してしかめっ面。一歩引いていたリンがジェットと対峙するように前へ出るが、複雑な表情をしてたリーフが静止する。

「ジェット、どうしてあなたがここに?同盟はまだ終わってないんじゃないの?」

「同盟……ねぇ……」

 それ以上はジェットは口を開かなかった。今までのつまらなそうな表情のまましゃべらないジェットの姿を見て返答は期待できないと思った時--


「相変わらず甘っちょろいなテメェは。大体我輩とお前たちが組む理由なんざ、ただ共通の敵がいたからってだけだ。コイツと一緒にいるのもただ好きにやらせてもらってるだけなんだよ」

「…………」

「悪夢がどうとかコイツ等の目的とかそんなことは知ったことじゃなねぇ」

「そんな……」

「コイツ……」


 少なからずショックを受けたようなファイアの前にリンが立ち臨戦態勢に入り、戦闘が起こるかと思われた時--

「おいおいよせよ。こっちはお前達とやりあう気なんてないっての」

「えぇ、今あなた方とやりあうのはナンセンスですからね……。それに」


 何かを察したムウマージは意味深に上を向いた。







【みなさん!大変です、戻ってきてもらえませんか!!】








 悲鳴のような聞き覚えのある高い声--リーフ達を送り込んだサーナイトの声だ。ただならぬその声質にふと臨戦態勢を解いたリン。ジェット達も戦う気もない様子。
 

「ほーら、お仲間が呼んでますよ。我々も戦う気はないので早く戻ってあげたらどうですか?」

 一度は罠の可能性も考えた、現実世界へと戻ろうとしたところを襲ってくるのではないかと。その疑念をベガが晴らす。

「案ずるなリン。奴らの動向は私が監視する。お前達は一旦戻れ」

 夢の世界のポケモンであるベガだ。彼の後押しもありリーフ達は早急に現実世界へと戻ることができた。
リーフ達とジェット達が去っていったことを確認したべは複雑な面持ちでただ一人この場に残っていた。












 リーファイ基地へと戻ってくるや否やけたたましい様子でサーナイト--そして先ほどまで席を外していたゲッコウガ--レグルスの姿があったのみ。グラスやスパークの姿はない。

「スパークのオッサンとウォーターの奴が攫われてちまった……」

『えっ……』

 スパーク達が不在にしている理由は不穏なものであった。なぜかことの顛末を知っているレグルスが先ほどまで不在にしてたのか問い詰めたい気も先まではあったがその事実が正しいのならばそれどころではない。

「みなさんが夢の中に向かった後、リーファイの方々に用があるって誘拐したポケモン達が来て……、それでグラスさんたちもそのポケモンを追っていきました」

「で、そのポケモンってどんなやつらなの?」

 半ば詰め寄るようリンに対して答えたのはレグルスのほうだ俯きながらスパーク達を拉致したポケモンの正体を口にする。

「俺も陰から見たんだが確かにあれはドサイドンとボスゴドラだった。あいつら確か”そらのさけめ”へ向かうって言ってたような……」

「”そらのさけめ”か……それにしても、君がその場面で突っ込まなかったんだね」

「あ?なんだよ?」

 皮肉るようなファイアの口ぶりに明らかに苛立ったレグルスは青筋を立てて睨めつける。半ばたじろぎながらもファイアは続ける。

「い、いや……君の性格なら突っ込んで戦闘になるって思ったけどそこで冷静に様子を見るなんてさ……」

「あ……あいつらに俺一人で向かうなんて無謀と思ったからな……」

 今まで向こう見ずなきらいのあったレグルスにしてはやけに落ち着いた動きだったが流石に以前単独で突っ込んで痛い目にあった経験からきたのだろうか。

「とにかく、準備を万全にした上で二人を追うしかなさそうだね……」

 仲間が捕まったとあれば真剣な面持ちのリーフはいち早くも慎重にスパーク達を助ける算段をとった。リーフにファイア、そしてレグルスがスパーク達をさらったであろうドサイドン達を追うための準備を整える。

「あと、リンさんには調べてほしいことが……」

「さっきの夢の連中のこと?」

「えぇ、それと……」













 濃い緑と黒色が混じった凸凹の地面。その地面に似通った凹凸が入り混じった岩の壁が張り巡らされたダンジョン。洞窟のような雰囲気なこの場所が”そらのさけめ”であった。
 リーファイ基地からかなりの遠方にある地であったがレグルスが近道を知ってたためか比較的短時間で到達できた。

「よし、いこうか」

 リーフ達はダンジョンへと足を踏み入れた。






--裏でニヤリと笑みを浮かべる影に気が付かずに。

ノコタロウ ( 2020/05/16(土) 20:54 )