第七十二話 夢と現実
「全く……この頃ポケモンが増えすぎじゃないか……?」
悪態に近い口調でそう言ったのはむすびつきポケモン--ニンフィアであった。ファンシーな外見とは裏腹なその低く粗野な雰囲気すらも感じさせる声質はは♂の中でも不愛想は質だということは推察できそうだ。
彼の周りの景色はぼんやりとしていた。地に足のつかないような空間ではあるが、ニンフィアはしっかりとした足取りで歩いている。
彼の周りには気泡に包まれたポケモンたちが眠るように横になっていた。というよりは有り体に言えば夢の世界とでもいうのか、ニンフィア以外のポケモンたちはみな気泡の中で眠っていた。その眠っているポケモンの一体に近寄り、前足でそっと触れる。
「---違う、やはり何かおかしい」
顔を険しくしたニンフィアは顔を横に振る。深刻な表情のままこの場から離れた。
「早く……なんとかせねば……」
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「この大馬鹿者!!!!!!」
「うわああああぁ!!?」
ルッグの怒号とリーフの叫び声が響いたリーファイ基地。怒号の主から逃げるように建物からリーフが飛び出してた。もはや日常茶飯事だからか他のメンバーが何か動きをとったりなどの行動はなくリーフ以外に飛び出したメンバーはいなかった。
「あーあー、まーたバレちゃった。ルッグさんもちっとは見張りなんかしないで休んでればいいのに」
もう繰り返しのことなのだろうか反省の素振りなくそうつぶやく。彼女の周りのポケモン達の中にはこの騒動を”リーフVSルッグ”の親子喧嘩とさえ称する者もおり、からかい気味にリーフにちょっかいを出すものも。
その中にはリーファイもよく知ったポケモン--ガブリアスのマッハの姿もあった。
「またドヤされちまったのかおめぇは?」
「うっさい!ガブちゃんに弄られたくない!!」
「ガブちゃん言うな!」
先輩後輩らしからぬ軽いやり取り。どちらも口ぶりこそは怒ってはいるが顔は笑っているあたり見知った仲だからこそのことだろう。
マッハの手には大量のカゴのみがあった。木の実を見てよだれを垂らすリーフだが、暴食という形容すら生ぬるいリーフの食欲を知っているマッハはいち早く遠ざける。
「バーカ。これは依頼に必要なモンだ。おめぇに食わせるきのみはないの」
「ケチ。そんなにいっぱいあるならいいじゃん」
「ケチじゃねぇ。これ全部必要なんだよ」
「全部?」
さすがにリーフも首を傾げた。カゴのみはかなり渋みの強い木の実。そんな木の実を大量に欲する変わり者なんて自分以外にもいるのと訝しく思う。
「なんでもずっと眠ったままで起きないポケモンがちらほら現れてるらしいんだよ。それでカゴのみを欲してる依頼が急増したんだがな……」
「眠ったままねぇ……」
ちょっとはルッグさんも眠ったままにでもなっちゃえばいいのに。さっき喧嘩したことの煩わしさから彼も少しくらい眠っててくれないかなと邪念を働かせるも即座にそんなことあり得ないとその邪念を振り払う。
「ま、俺はそろそろいくわ。いい加減その食いしん坊緩和させろよ?」
「それは無理」
「だよな」
軽口を叩きあい解散。リーフは当てもなくそのあたりをさまよっていた。
「あっいたいた!!」
しばし歩いていたリーフの後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。後ろからファイアが血相を変えてやってきた。走ってきたためか肩で息をしている。
「ど、どうしたのファイア?」
「ル……ルッグさんが……」
「うっ……」
あぁ……カンカンなんだな……。ズルズキンらしい人相の悪い顔が激怒した姿が脳内イメージされて苦笑いを浮かべる。
「ルッグさんが……起きないんだ……」
「……え?」
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リーファイ基地にはリーファイメンバーにブラザーズメンバーの姿があった。その中央には藁のベッドで眠っているルッグがいる。見たところケガを負ったわけでもなく眠っているようにしか見えないからかリーフはこの状況がなぜ大ごとになっているかわからなかった。
「ねぇ……ルッグさんが起きないっていうのは……?」
「--さっき突然眠りだしたかと思えば……それっきり全く目を覚まさないんだ」
スパークが答える。その表情もやはり深刻そのものであった。決してタチの悪い悪戯などではないことを察したリーフの表情もこわばる。
「お前が飛び出して直に突然眠気がでてきたと言い出してな。そこからいきなり眠りだして全く起きなくて……。どうもうなされてるようにしか見えないからブラザーズの方々にも来てもらった……」
「…………」
リーフは眠っているルッグの耳元まで近寄った。さすがに大声で叫ぶようなことはしなかったが、ささやくように彼に対する悪口やつまみ食いの白状を示唆するようなセリフを口にした--
--が、やはりルッグはまったく目覚める気配がない。
ふとさっきであったマッハの言葉が脳裏によぎる。
<なんでもずっと眠ったままで起きないポケモンがちらほら現れてるらしいんだよ>
--まさかルッグさんも……
マッハのいう”眠ったまま起きないポケモン”の多発が瞬時に実感させられた。普段口うるさい彼だが悪い夢にさいなまれている様子の姿を見て焦りがこみ上げるがどうにか気持ちを落ち着かせる。
「ラックさん、なにか方法はないんですか?」
「いろいろ試してみたがな……今のところはどうしようもねェ……。カゴの実も一切受け付けないし、そもそも作為的に眠らされたなら彼の”だっぴ”が発動してすぐ眠りから覚めるはずだ……」
その返答にリーフは落胆、ほかのメンバーもおおむね同じようなリアクションだ。医療に携わる者ですらお手上げのような状態では素人には良案など思いつくはずがない。
「サーナイト……」
今まで沈黙を貫き押し黙っていたグラスが突如発言する。
「何?」
「いや、もしかしたら彼女なら眠っている者の夢に干渉できるのではないかと思ったんだが……」
「そっか……試してみる価値はあるかもね……」
置いてけぼりになったリーファイを他所に会話を展開させるグラスとリン、ぽかんとしているリーファイ一向を察したのかラックが解説する。
「こいつらの言ってるサーナイトは俺たちの知り合いだ……っつても俺はそんなに会ったこともねぇんだが……。駆け出しの救助隊だったころグラスの夢の中に出てきたらしいんだ」
--夢の中に出てきたポケモンが現実に……?
リーファイの面々からは信じられないといわんばかりの素振りをみせる。
「ともかく、こうしてはいられんな。リン、呼んできてくれ」
「わかったわ」