第六十六話 バレバレの素行
--地の底へと落ちていったリーフを助けることはできないと判断し見限ったルッグ。そんな彼に激昂したレグルスとファイアは突然基地を飛び出していった。
そこを目撃したライトとアドンが動き出す……。
〜〜〜〜
「おい!!待てってんだよ!!どこ行くんだ!!」
ファイアを捕まえたレグルスはいつもの激しい口調でそう問いただした。すばやさに自信のあるレグルスが追いつくのはそう時間もかからなかった。ぜぇぜぇと息を切らせながらファイアが事情を説明しようと口をあけたときであった。
「野郎……ッ!!」
あのピカチュウとリザードンがレグルス達の背後に現れる。彼らの雰囲気は先に基地を訪れたような表面上の穏やか雰囲気など微塵も感じさせない凶悪かつ憎たらしい面持ちを並べていた。反射的に彼らの悪意を感じ取ったファイアは背筋が凍るような感覚に見舞われ後ずさり。
「逃げろ!!コイツ等はヤベェぞ!!」
唯一彼らの素性を知っているレグルスはファイアを逃がしにかかる。レグルスの”逃げろ”が発せられた瞬間、ライトとアドンの表情に竦みあがったファイアは思考する前にこの場から逃げようとしていた。図らずも彼の恐怖心がレグルスの指示通りにファイアを動かしていた。
そうはさせないとばかりに行く手を阻もうとするアドンとライトだが、そんな彼らの前にレグルスが立つ。俺を倒してから行けといわんばかりに中指を立て、動かした。まわりに他のポケモンがいないことをいいことにライトもアドンに対して本気で殺す気でいくよう口にする。だがレグルスは臆することはなかった。
「ケッ。あの腰抜けがいないからってなめるなよ」
遺跡での戦いより数での優劣が緩和したから舐められてると判断したライトはレグルスにやり返す形で親指を下に向ける--
と同時に”電光石火”で突っ込んでいった。頭より先に手が動いたレグルスは両腕を地面に向け”ハイドロポンプ”を放つ。激流の勢いでレグルスの体を上昇させ攻撃をよける。
そこにアドンが待ち構えていた。レグルスの首根っこを持ち前の鋭い爪でがっちりと掴む。いくら暴れようと離れることはなくそのまま急降下--”ちきゅうなげ”でレグルスの体をたたきつけた。
「もらったぜ!!」
地面に叩きつけられたレグルスを”アイアンテール”でとどめをさしにかかった。しかしレグルスは攻撃を避ける素振りすらもみせない。鋼鉄の尾がレグルスの顔面を殴打する。強力な一打が入り一瞬立ちくらみを起こすが意識を飛ばさないようにしっかりと大地を踏みしめる。
「ほぅ……思ったより粘るじゃねぇか。どうせ苦しむだけなのによ」
「知らねぇのか?喧嘩ってのは相手のパンチを見定めねぇと勝てねぇってことをよ……!!」
口内が切れたのか口から出血を起こす。それを右腕で拭い強気な口調を崩さないレグルス。そんな強がりを面白くなさげにライトは”ケッ”とだけ漏らした。
大地を力強く蹴りライトに飛び掛った。ライトは迎撃の為に帯電をはじめ、そのまま”放電”を放つ。ライトの傍らにいたアドンも巻き込む勢いで電気が発せられたがアドンは”まもる”によるシールドを展開、電気に巻き込まれることを防ぐ。
”放電”によって発せられた電撃はレグルスを襲った。
「何!?」
そう確信したライトは目を見開く。寸前まで自身の目の前にいたゲッコウガの姿が消えていた。変わりにその場にあったのは”身代わり”によって生じた人形が黒く焦げていたのみ。
「ここだぜ!!」
人形の影からレグルスが出現する。身代わり人形に気を取られていたライトはレグルスの存在に気づかずにそのまま蹴りを食らい吹き飛ばされる。すかさずアドンの”まもる”を解いた後隙を見逃さずに両手を向け”ハイドロポンプ”を放つ。
激流に反応ができずにアドンもライトが飛ばされた方向を同じ向きへと吹き飛ばされた。畳み掛けるように飛ばされたライト達へとレグルスが突っ込んでいく。右手に水で出来た刃を生成し、そのままライト達を切りかかりにかかる。
「アイアンテール!!」
右腕めがけて再び鋼鉄の尾をぶつけた。ダメージにより生成された水の刃がむなしく音と立てて崩れ落ちた。追撃を加えようとアドンが掴みにかかるが寸前のところで飛びのいてかわす。反撃しようとレグルスが構えたとき--
「--!!?」
唐突に倦怠感に見舞われる。決して気のせいでなくこの原因が何なのかレグルスは一瞬で察した。
「”どくどく”……ッ!でもいつの間に……!」
しかしお互いに攻撃を打ち合っていただけにも関わらず何故自分が毒状態に陥ったのかわからなかった。こうなることが想定通りといわんばかりにライトが嫌らしく口角を吊り上げる。
「馬鹿だなお前。わざわざ自分から攻撃食らいにいくからこうなるんだよバーカ」
ライトは自身の尾の先端をレグルスに見せ付けた。その尾はわずかながら紫色に変色している。この色は”どくどく”ではっせられる毒であることを示していた。初めてレグルスは”アイアンテール”を食らったと同時に毒を仕込まれたことに気がつく。
しかし気がついたときにはすでに体が言うことをきかない。遺跡の戦闘の傷が癒えない状態での毒状態はレグルスの体力を限界近くまで削っていった。ライトは弱りきったレグルスをまたも嫌らしい笑みを見せながら止めをさそうと尾を硬化させながら近寄る。”アイアンテール”をそのまま振り下ろした。
『--!?』
硬いものどうしが激しくぶつかり合う音が辺り一帯に響き渡った。ライトが目を見開くとレグルスの前に奇しくも自分と同じ種族--ピカチュウが自分の尻尾を右手で受け止めている姿であった。そのピカチュウの右手にはバチバチと電気が帯電しているのが見受けられる。
「どうもお前たちの挙動がおかしいと思ったら……やっぱりねぇ……」
「ほぉ……。これはこれは……」
想定していたかしていないか定かではないがライトの表情から余裕が消えることはなかった。対照的にライトと対面しているピカチュウ--スパークは険しい表情。
「あえて聞こう、何故私たちの邪魔をする?」
「なーんだ、テメェもわかってたのかよつまんねぇな」
スパークも自分たちの素行を見抜いていたのかとライトは心底つまらなそうにため息をついた。逐一鼻につく言動が目立つライトだがスパークがそれで冷静さを崩すことはなかった。
「まぁなんにせよだ。お前等がなにしようがリーフが助かることはねぇんだ。それを俺らがとめてやってるんだぜ?感謝されることはあっても悪く言われる筋合いはねぇと思うがな」
「フン、余計なお世話だ。私たちリーファイは仲間を助けるためならみんな命がけで戦うぞ……」
両腕に電気をためながらスパークは続ける。
「それを相手する覚悟がお前たちにあるのか……?」
--これ以上こいつ等を相手してても時間の無駄だ。スパークの目を見たライトはすかさずそう判断した。ライトの一番嫌いな仲間の為に自分を犠牲にするといったタイプのスパークは彼等二人にとって見ることすらも虫唾が走る思いだろう。
ライトはアドンの背中にのり舌打ちと共に踵を返した。スパークはこれ以上深追いすることなくすぐさま毒で弱っているレグルスを診る。
自分には手におえないと判断したスパークは探検バッジを手に取る。
「ルッグか?今すぐ私が言う場所にリンさんかラックさんを連れて来てくれ。事情はそこで話す」
それだけを伝えすぐに連絡を終えた。ルッグ達が到着し、事情を話したスパークは急いでファイアの後を追っていった。