第六十二話 怒り爆発?リーフvsサスケ
-- ばんにんの どうくつ --
「----チッ!退け!!」
ライトは二人にその場から飛びのくように指示する。アドンもサスケも素直に指示に従った。
直に重量感のある足音と共に発せられた間の抜けた声が彼らの耳に入った。ライト達の眼前に現れたのは先刻まで痛めつけていたゲッコウガの仲間であるあのメガニウムの姿だった。
メガニウム--リーフはライト達の存在に気がついた瞬間、ひどく傷ついた仲間のゲッコウガの姿に慄然--すぐさま切羽詰った声質と共に彼の元に駆け寄る。一方で素知らぬ顔でゲッコウガを傍観するあのピカチュウ達をリーフは見据えた。ピカチュウ--ライトたちからするとリーフの表情から自分たちがこのゲッコウガを傷つけたことにはまだ気づかれていないと判断。
「われわれがここに来たころから彼はすでにボロボロになってた。大方ダンジョンの罠か敵ポケモンにやられたんだろう」
「…………」
リーフは黙ってボロボロになったレグルスを抱える。レグルスは何かを口にしたそうにわずかに動きを見せるがリーフに有無を言わさずに黙らされる。リーフはツカツカとライトたちのほうへとゆっくり歩み寄る。サスケはそんなリーフに思わず怖気づいたのか後ずさる。
「ダンジョン内で気を抜くと怪我するから。お互い気をつけないとね」
「あ、あぁ……(なんだ、あれで気づいてねぇとはとんだ馬鹿野郎だったな)」
レグルスから見ればリーフの言動はとても信じられないものだった。自分の敵をうってくれると思っていたばかりかあのピカチュウをまったく疑うことすらもせずにいたのだった。そればかりかリーフの口からとんでもないことが発せられる。
「実はわたし仲間とはぐれちゃって……。よかったら途中まで同行させてもらってもいいかな?」
(バカが!!自ら単独でやられにいくような真似をするとな!!)
ライト達の素行を既に知ったレグルスは慌ててリーフを止めようとするもやはり口を封じられる。ライト達は予想だにしなかったリーフの提案を承諾しない理由がなかった。このまま事故と称してリーフをしとめることができれば彼らは労することなく目的を成就することができる。
(いいかお前ら.もう手段は問わねぇで奴らをしとめるぞ)
(ヘイ!!)
(フン…………)
Smashと同行することになったリーフとレグルス。すでにボロボロになったレグルスはリーフの支持に従わざるを得なかった。しかし今の自分が下手に動いても足手まといにしかならない。すでにライト達はリーフ達を始末する手はずを整えていた。
手はずを整えるとはいってもただ不意をついて攻撃を入れそのすきに3体がかりでリーフを集団で屠るという単純な策であった。
仲間たちを探すがために先を行っていたリーフ(とレグルス)すっかり隙だらけのリーフ達をライト達は見逃すはずもなかった。
(殺れサスケ)
(ヘイ!!)
ライトに命じられたサスケは”はどうだん”の構えを取る。絶対に命中するこの技を隙だらけなリーフが避ける術などないと完全にふんでいた。
「ふぎゃああああっ!?!」
情けないサスケの悲鳴と共に打撃音が響いたライト達の眼前には見覚えのない蔓が伸びており、倒れているサスケと野性のアンノーンの姿があった。蔓の先を伝ってみるとあの隙だらけのはずのメガニウムの姿があった。
いきなり殴られてかサスケは青筋を浮かべてリーフを睨むがリーフも負けじと嘲りさえも含めた目つきで返す。
「あーらごめんなさーい。後ろに野生ポケモンがいたから攻撃したんだけでまーさか有名探検家の方々がこんな簡単な攻撃を避けられないと思ってねぇー」
「グギギギギギギギギ……」
背丈の関係上リーフはサスケを見下すような目つきとともに挑発を入れる。額のしわを一層生じさせてリーフを睨む。本来敵対関係にあるこの二人、目的が知られればすぐに戦闘の勃発は免れない敵同士だ。そんな二人の上っ面の協力関係などはじめから成立するはずもなかった。
「ぶっ潰す……!!」
両拳をこれでもかと強く握り締めファイティングポーズをとるサスケ。彼の脳内には上辺だけの探検家の側面は消えうせた。リーフもいつものようなよく言えば穏やか、悪く言えば間の抜けた表情は消滅し、敵と対峙した険しい表情へと一変する。
「かかってきなさい!!犬っころ!!」
「望むところだ!!きやがれ!!」
素早さの関係上ルカリオがメガニウムより素早いのは明確。サスケをリーフが追う形になり戦いが勃発する。これにはライトやアドンのみならずさすがの気短なレグルスでさえもすっかり呆れ果てていた。
「まったくあの大馬鹿タレ共は……」
先行するレグルスやリーフに頭を抱えるのはルッグだった。リーフのことで悩ませるのは今に始まったことではない。それゆえに彼はすっかり疲弊しきっていた。ほかの面々も彼を労わってあげたいところだがあまりにピリピリしているがために近寄るに近寄れなかった。
「”葉っぱカッター”!!」
「”はどうだん”!!」
技名を叫ぶ二人分の叫び声と共に技同士がぶつかり合う音が四人の耳に入った。すでに嫌な予感を察したルッグ達はその音がした方角へと振り向いた。
見覚えのあるメガニウムとルカリオがお互いに敵意丸出しで戦闘しながら走り、自分たちを横切っている姿があった。それは紛れもない自分達のリーダー--リーフと有名な探険家--サスケだった。事情を知らない彼らの目にはリーフが問題を起こして揉めた様にしか移らなかった。
嵐のような二人の技の応酬が彼らの眼前で終わった後、ルッグの肩がプルプルと震えていた。嫌な予感を覚えたファイア達3人は慌ててルッグから距離をとった。
「あんの大バカはあああああああああああああああああっぁあああああああああああ!!!!!!」
いつの間にかまた石碑の前に戻ってきたリーフとサスケ。一通り技を出し合った二人は互いに肩で息をしていた。
「なかなかやるね……」
「ケッ!そっちこそ!こうなったら……”アレ"を出すしかないようだな」
疲弊しながらもサスケはニヤリと針金のように目を細めてリーフを眺める。見るからに何か企んでいるような様にリーフも警戒し体を低く構えて身構える。
「あっ!!あんなところに空飛ぶブーピッグが!!」
「えっ!?どこどこ!?」
一転して間抜けな性質と共にサスケがリーフの背後を指差した。無防備にもサスケに後ろを見せていもしない空とぶブーピッグを探し始めた。その瞬間サスケの目が怪しく光り始める。
「ていっ!!」
「あいたっ!!」
その瞬間にサスケはリーフの足元を蹴飛ばしそのまま彼女の体を転ばしにかかった。バランスを崩されたリーフの体はそのまま重力に従い、地面へとたたきつけられる。
「ガーハッハッハッハ!!これがわが家伝こと"
猛獰拳の一種--」
「な〜にが"もうどうけん"よ!ただの"けたぐり"じゃないの!」
「っておい!!最後まで言わせろ!!」
一変して至極幼稚な言い争いが起こった。腰に手を当てて威張り散らしている今のサスケにはルカリオにありがちな精悍さは感じられず、悪巧みを企ててる悪ガキのような幼稚ささえも醸し出していた。
歯の浮くようなその稚拙さにリーフは手の代わりの蔓を地面につける。不可解なその動きにサスケは訝しげに首をかしげる。
「それっ!!」
地面の砂をつかんで、そのままサスケの両目に目がけて投げつけた。
「うわあぁっ!!目が!!目がああああああああああああああああぁあああっ!!」
両目を塞いでそのまま蹲った。ようやく砂がとれたサスケは片膝をつきながらもリーフを睨む。
「テメェ!!どこでわが家伝を習得した!?」
「なーにが家伝よ!!こんな盤外戦術くらい、暗黒未来じゃ常套手段よ!!」
「こん畜生……!!」
形成をひっくり返されそうになったサスケは懐から小さな石を取り出し、それを掲げる。
するとサスケの体中を球体が纏い、数秒後にその球体を破り再び姿を現す。
普段のルカリオの姿から一回りからだが大きくなりはどうの影響で手足に黒い模様が出来、また頭から黒と赤色を基調とした帯が伸びている。尾も毛で覆われ始めている。
「な、なにこれ……!!?」
「吹っ飛べやああああああああああああああああああああぁあああッ!」
驚愕するリーフの頭上からサスケが片腕を"アームハンマー"のごとく勢いよく振り下ろしにかかった。見るからに威力が桁違いにあがった攻撃を見たリーフはさすがに食らってられないと間一髪のところで攻撃をよける。
が、拳を受けた地面は唐突にヒビが生じ始めた。その直後、メシメシと一回り音が大きくなり始める。
『ま、まさか……』
リーフ、サスケ両名の表情から血の気が引いた。彼らの脳裏に最低のシナリオがよぎった。思わず反射的にお互いの顔を見合わせる。
彼らの悪い予感は的中した。地面は次第にヒビが大きくなり遺跡自身も崩れ始めていたのだ。リーフ達の表情が一気に青ざめる。
『に……逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉおおお!!!!』
慌てて逃げ惑う。が、足の遅いリーフが先に地面の割れに飲みこまれかけそのまま反射的にサスケの体をつかんでしまう。
「おいコラはなせ!!重いんだよおまえ!!」
「却下!!何故ならそんなことしたらわたし落ちちゃうから!!」
「オイラまで落ちちゃうだろうが!このままじゃ!おまえ一人で落ちろ!」
「いやだね!!」
『あっ』
と口論が始まった瞬間であった。サスケがリーフの体の重みでバランスを崩す。こうなってしまっては彼らの末路はただひとつ。
「な、なんでこうなるのおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉおぉおおおおおおおおおおお!!!!!??」
無常にも地割れに飲み込まれるリーフとサスケ。そのころに既に遺跡の外に逃げていたリーフ・サスケを除いたリーファイ・Smash一行の姿があった。
「まったくあの恥さらしが……」
腕組みをしながら怒るルッグ。彼の体にまた新たな疲労が圧し掛かるのであった。