第六十一話 もう一人の新入り
リーファイ一向を狙おうとライト率いるチームSmashが暗躍している頃のこと。
これはチームリーファイにあこがれ異境の地から足を運んできた一人の少年の物語である。
「ここがリーファイの基地かぁ……」
かつて世界を救った探検隊に憧れを抱き、あちこちに聞き込みを行った末に彼がたどりついた基地と思わしき大きな建物。頭と背中に硬い樹木の殻と棘で覆われた茶色の体を持つポケモン--ハリマロンは”リーファイ”の名とその建物の大きさにすっかり慄いてしまっている。
「いや、こんなことしてちゃダメだ。せっかくここまできたんだし……」
すぅっと息をすい、ご丁寧に扉の傍らに備え付けられていたインターフォンに手を伸ばした。お約束の効果音から数秒後扉が開き中からドラピオンが現れる。ハリマロンは扉が開く音やこの見るからに柄の悪そうなドラピオンの登場に頭が真っ白になっていた。
(あ、あれ?リーファイにドラピオンって入ってたっけ……?でも英雄なんだからオイラみたいに憧れて志願したって可能性もあるしなぁ……)
「あ、あのぉ……」
「ひっ!!」
控えめに発せられたドラピオンの声がかかりハリマロンは情けない声とともに現実に引き戻された。慌てふためくハリマロンにつられたのかどうかは定かではないがドラピオンのほうまであわただしい態度を浮かべる。
(やっばー……初対面からこれじゃ絶対変な奴だって思われたよ……。やらかしたかなー)
(まっずいなぁ……お客さんの応対とかオレ全然わからないんだよなぁ……。なんで今日に限って俺が入り口の見張りなんだよ……)
しばしの沈黙の後お互いが言うに言われぬ状態の後、先に口を開いたのはドラピオンだった。
「と、とりあえずジェットさんの部屋まで案内しますね……?」
「--!!」
ジェット--それはこのハリマロンにとって最も尊敬する探険家ポケモンのうちの一人だ。その名前を耳にした彼の心臓は張り裂けそうなほど鼓動を激しくさせた。震えた声で”はい”と返してドラピオンの後をついていった。
ジェットの元へ案内される道中、数多のポケモンが慌しく廊下を走り回っていた。どのポケモンも忙しそうな様子からハリマロンは自分はここに来てよかったのかと顔を真っ白にさせる。しばらくしてジェットの部屋と思わしき部屋の扉の前へと到着。
「ここがジェットさんの部屋ですけど……くれぐれも粗相のないようにお願いしますよ?」
「は……はい」
釘を刺したドラピオンは扉をノックする。ジェットと思わしき声の主が”入れ”とだけ返し部下達の入室を待つ。
ハリマロンが目にした光景は、おそらく少なくとも今の自分には到底無縁な貴重な専用道具を始めとした道具が多く飾られている部屋の真ん中に堂々と居座っているサメハダー--ジェットの姿が。
このまま緊張で死んでしまうのではないかと思うほどの緊張感に苛まれるハリマロンはジェットの敵意ない視線にすら耐えられずに俯いてしまう。
「おいガキ。テメェは何しにここへ来たんだ?」
ジェットからすれば特段威圧的に話したつもりはないが、もともと口が悪い彼の何気ない一言はハリマロンを一層追い詰めてしまう。思うように話すことができずにもごもごとた態度にジェットは徐々に苛立ちを募らせる。
しばらくしてようやく気持ちを落ち着かせることができたハリマロンは意を決して秘めた想いを口にする。
「あのっ!オイラをここの仲間に入れてください!!」
空気が凍った。決してこのハリマロンがくだらない冗談を口にしたからではない。ジェットやドラピオンからしてもこの無垢な少年が態々悪の組織と銘打っている自分たちのチームへの入隊を志願しているからだ。ジェットはドラピオンを呼び出して知っていることを洗いざらい話させる。
(で、どうしますかジェット様?)
(どうするったって……そりゃテメェらみてぇな役立たずと違ってやる気はありそうだから入れてやってもいいな。これで世界征服の野望に一歩近づくってもんよ!)
(あれ?われわれの目的って世界征服でしたっけ?当面はバクフーン様--バクフーンの討伐では?)
(んなこたーどうでもいいんだよ!!とにかくこのガキととっとと調教すっぞ。このジェット様の手足として働いてもらうためのな)
ジェットたちの頭の中にはこのハリマロンがスパイという説は微塵もない様子。さらには彼を仲間に引きいれることには割りと好意的にさえ見受けられる。ジェットはどこか期待さえ込めたまなざしをハリマロンへと送る。
「おいガキ、テメェ名前は?」
「はい!ハリマロンのガロンと言います!!」
ハリマロン--ガロンはジェットの好意的な態度に気をよくしたのか元気よく自身の名前を口にした。そのやる気を買ってかジェットは口角を吊り上げる。
ふとガロンは思い出す。リーファイということはあのメガニウムやマグマラシも同居しているのではないかと。
「そういえばジェットさん」
「ジェット様だ。何だ」
「リーフさんたちとはどういう経緯で出会ったんです?」
「ったく何かと思えばそんなことか……」
鬱陶しいそうな口ぶりとは裏腹にジェットの表情は頬が緩んでいるのは部下のドラピオンでさえも明らかに見受けられた。そういえばここまで熱意持ってこのチームに入ってきたポケモンは少なくとも彼は知らない。
「あいつとはもともと敵対してたんだがな、たまったま同じ敵ができてやつらがどーしてもこのジェット様の力をかりたいって泣いて懇願してきたからな」
「な、泣いて懇願したんですか!?あのリーフさんたちが!?」
真半分嘘半分のジェットの説明にドラピオンは苦笑い。こんなにうれしそうなジェットは見たことない彼は心中で嘘の部分に突っ込みを入れる。
「嗚呼、まぁ流石のジェット様もメスポケの涙見せられちゃ無碍に拒否はできんからな。我輩の配下になることを条件として引き入れたのだ」
(よく言うよ……ジェット様普段リーフのことろくすっぽメスとして扱ってない--というか聞いた話じゃ泣いてすらないわ、配下どころかリーファイの面々に頭たたかれてる癖に……)
ここにきて嘘八百が飛び出し流石のドラピオンもあきれ返らずにはいられなかった。反対にガロンは目を輝かせながらジェットの話に真剣に耳を傾ける。
「よーし、お前はなかなか見所があるな!気に入ったぞ!!」
(単純!!このヒト滅茶苦茶単純!!)
すっかり上機嫌なジェット達に割って入ったのはオノノクス--ノンドだ。彼は仲間であろうルチャブルを担ぎながらけたたましく扉を開ける。そんな彼の姿を目にしたジェットの起源はたちまち悪くなる。
「なんだテメェは!?今テメェ等の相手してる暇なんてなぁ--」
「大変っすジェットさん!!エルの様子がおかしいっす!!」
「おかしいのはテメェの脳内だろうが!!帰れ!!」
具合が悪そうなエルと呼ばれたルチャブルを寝かせようとするも機嫌がすっかり悪くなったジェットにはまともに取り合ってもらえない。エルの様態を目にしたガロンがその様子に割ってはいる。
「チーゴの実とオレンの実はないですか?_」
「あぁ!?何だおまえ?」
この見ず知らずのハリマロンに割った入られたことに若干苛立った様子のノンドだが、ジェットに気に入られてからか少し気が大きくなったガロンは彼に臆することなく返す。
「見たところ胸焼けに近い症状がでてるんでチーゴとオレンの二つの木の実をすり潰して飲ませたら直ると思います」
「オレンとチーゴの実……?」
先刻の苛立ちはどこへ消えたのか、ノンドは素直にその指示に従い懐から木の実を取り出し雑にすりつぶした液体をエルに飲ませた。液体を口にした瞬間エルの表情がみるみるうちによくなっていき次第に元気になっていき、ポーズととり始める始末。
「うわっ!!マジで元気なったよ!!」
「お前どこでそんな知識身につけたんだ!?」
(ていうか組織の実質的な頭であるジェットさんが知らないのにも問題があるのでは……?)
知識に驚嘆するノンドとジェット。ガロンは得意げにこの日のために勉強したと話すと回りは驚嘆の声を発する。こうしてジェット達一行にも新たな配下--もとい仲間が現れたが今までとはまるで異色なキャラであるガロンはすっかり自分のペースへと持ち込んでいっていた。
彼がリーファイと邂逅できるのはいつの日になるのだろうか。