ポケモン不思議のダンジョン 葉炎の物語 〜深緑の葉と業火の炎〜 - 第五章 人気者
第六十話 裏の顔
 -- ばんにんの どうくつ --


 翌日--チームリーファイとチームSmashがそれぞれお入り口へと集合。Smashが手に入れていたダンジョンへの入り口を上げる鍵を用いたことで初めて開かれた未開の土地。そこには一枚の大きな石碑が中央に位置しているだけの、他のダンジョンの中間地点に酷似した部屋にたどり着く。

「なんか書いてあるっすよ?」

 サスケが石碑のくぼみに文字が書かれていることに気がつき身をかがめてその文字を凝視。真剣な表情で目を見開く。そんな彼の眼差しに釣られてか一行にも同様の緊張感が走る中--








「…………兄貴、これ何て書いてあるんすか?」


 この恥さらしが言わんばかしにサスケへの鉄拳制裁が入った。ここで変わりに入ったのはルッグだ。彼の口から”アンノーン文字”と称される単語が発せられた。

「これより先に進みたければ目を閉じてそのあかしを示せ……と書いてありますね」

「じゃあ目を閉じみりゃいいんだろ!?早くやってみろよ!!」

 せかすレグルスに苛立ちながらも言われるがままにルッグは目を閉じてみた。すると石碑が三回ほど点滅する。

「おぉ!!?」











 しかし なにもおこらない。

「何だよ!!何で今ちょっと点滅したんだよ!!ちょっと期待しちゃったじゃねぇか!!」

 一人勝手に猛り狂うレグルスには誰も相手にすることなくリーフは石碑に書かれていた文字を復唱した。”あかしを示せ”そして刻まれたアンノーン文字。この二つがなぞを解くキーになると考えついた。

「そのキーの答えがこの先に隠されてそうだな。行ってみよう」

 ここでレグルスを押さえながら指揮を執るのは年長のスパークだ。リーファイメンバーは誰一人彼の意に反することのなく石碑の部屋を後にし、ダンジョンへと向かっていったのだが--






「よっしゃあああああああああああああああああああぁ!!俺の見せ場が来たぜええええええええええええぇええええ!!!!」

 気合の入った叫びと共にレグルスが先陣を切ってダンジョンへと突撃。待ちなさいとルッグが追うがゲッコウガにズルズキンが追いつける筈もなくレグルスの暴走を許してしまう。










「しっかしどうするんですライトの兄貴?リーフって言いましたっけアイツ?あいつだけは見るからに強そうだし簡単につぶせそうにありませんよ?」

リーファイがダンジョンへと向かっていった後、サスケが眼前のピカチュウを”ライト”と呼んだ。これがあのピカチュウの本当の名前なのだろう。困り果てたサスケとは裏腹にライトは腕組みを崩さずにクックックと一般的なピカチュウのイメージとは程遠い”悪巧み”でも使ったかのごとくあくどい顔へと変貌していた。

「確かにアイツは簡単には行かねぇ。馬鹿みてぇに真っ向から向かってったら俺たち3人がかりでも怪しい」


「でしょ!?なんでわざわざあんな勝負を!?」

「だからだよ」

 ”はぁ?”と間の抜けた取り巻きのうちのサスケの声が発せられる。怪しさを醸し出されるライトの顔が一層不気味さを浮かべるように歪みを浮かべる。

「奴らも探検家の端くれ、”探検”の勝負ともあれば奴の注意はそっちへと向かうに違いねぇ。そこにちょいとトラップを仕掛けてやるのさ。リーフさえ始末できれば他の奴なんかカス同然だしアイツも食い物が絡むと向こう見ずのバカだ」

「おぉ!!さすがライトの兄貴っすね!!」

「フン、当然のこといまさら言ってんじゃねぇよ」













 そんな彼らのあとを追うようにSmashの三人もダンジョンへと足を踏み入れる。






「あっれ?ここってさっきの石碑があった場所だよな?」

『!?』

--として時であった。Smash一行の背後から聞こえてきた聞き覚えのある声。ゲッコウガのレグルスだ。彼の一言からダンジョンに潜ってから話するまでのほんの一刻に一周してきたと察したライトはすぐさま表情を一変させる。

「君は……あのゲッコウガか。なぜここに?」

 ライトの素行を知っているサスケからすればその言い草は白々しいの一言。だがレグルスにとってはライトの態度が不遜にさえ見えたのかしわを寄せて敵意をかもし出す。ライトもこの気が短いゲッコウガ相手だとこの人格を保った上で戦闘が生じることは懸念していた。

「いやぁ……なんか迷っちゃったみたいでさー。俺、探検家としては素人だからダンジョンってのはよくわからねぇもんだなぁ」

(ホッ……)

 苦笑しつつ迷ったことを口にするレグルスの様子に胸をなでおろすサスケ。この様子だとあのゲッコウガは自分たちの会話を聞いていたようには見えないだろう。そう確信したサスケへ向けてレグルスはニッと笑みを浮かべる。

「あっ、でも一個わかったことがあるぜ!?」

「わかったこと?」

 サスケが復唱する。彼らにとってダンジョンのカラクリなど全くもって興味のないことなのだが真意を悟られぬようにとあたかも興味のあるそぶり後ろのピカチュウやリザードンも見せた。レグルスは”嗚呼”と返し、続ける。












「--お前らがリーファイとぶっつぶそうと悪巧みしていることがな!!」











 気がつけばライトの頬に小さく切れたような傷がついた。そこから鮮血が垂れ流される。
 レグルスの両手には粘性を帯びた水でできた手裏剣が一瞬のうちに生成された。”みずしゅりけん”はあっという間にライト達に向かって放たれる。威力こそは今ひとつであるが”先制技”と称されるだけあって素早い攻撃はライトたちが気がついた頃にはすでに眼前に迫っており完全にかわすことは不可能だった。

 すっかりレグルスが自分達の真意を悟っていないと侮っていたライト達は先の柔和を装った表情をいっぺんさせ本来彼らが潜在させていた邪悪な表情へと一変させる。

「”しんそく”!!」

 ライトから命じられたサスケが”みずしゅりけん”を上回る速度でレグルスへ向かって突進。技名が叫ばれすぐによけきれないと判断しバックステップで”しんそく”からくる衝撃を和らげた。思ったよりも手ごたえを感じずに首をかしげるサスケに懐にはすでにレグルスが迫っていた。

「”けたぐり”!!」


 右足でサスケの右足を強く蹴り飛ばす。バランスを崩したサスケは転倒し頭を地面に打ち付ける。それなりの重さを持ち、鋼タイプの性質を併せ持つルカリオの体にはこの一撃は十分なダメージを与えられた。

休むまもなく今度はライトから十万ボルトが飛んでくる。頭を抱えてうずくまるサスケの真上を通り過ぎた電撃はレグルスを追尾するかのごとく狙い打つ。

「--!?」

 電撃が止み足を止めたレグルスは首を締め付けられる感覚に見舞われた。背後にあのリザードンが自身の首を締め付けている姿があった。リザードンは不服そうにレグルスを睨みながら彼の体を地面へと叩きつける。そのまま左足で踏みつけながらあぶり焼きにするかのごとく微弱な炎をレグルスの体へと浴びせかける。

「フン、汚らわしい」

 蔑むような目つきとともにそう吐き捨てレグルスの体を蹴飛ばした。水タイプ故にさしたるダメージにはならなかったものの火傷状態に陥ったレグルスの体はその痛みで言うことをきかずに蹴飛ばされるがままに壁に叩きつけられる。

 止めだといわんばかりにライトからの”十万ボルト”が飛んできた。火傷に蝕まれた体で満足に動けないレグルスに容赦なく電撃が走る。彼の体力はもう尽きたのかぐったりと動かなくなった。

「ケッ、こんなもんかよ。まだ暴れたりねぇぞ」

「どうしやすかライトの兄貴にアドンの兄貴?やっちゃいますか?」

「当然だ。こんな汚らわしい蛙、直視するのも許せぬ」

「やっちまおうぜ。コイツは事故でおっしんじまったことにすりゃいいだろ」

 アドンと呼ばれたリザードンが率先してレグルスに止めを誘うと口内に炎を溜め込んだ。”あまりにもあっけない”--自身の不甲斐なさと打たれ弱さを悔いるレグルスの目の前に飛び込んできたのは--











「おいこら、俺様の邪魔をすんじゃねぇ。すっこんでろ」

 アドンの仲間内である筈のピカチュウ--ライトだ。何故彼が苛立っているのかなど知る由もないレグルスは、アドンとライトが険悪な空気を引き起こしていることに気がつく。内輪もめが起ころうとしていた。

「喚くな下郎が。貴様のほうこそ邪魔だ、消えろ」

 互いに挑発的な言葉をぶつけ合い一触即発の空気、サスケはどうにかしてでもこの喧騒と止めないとと自身の持つ頭脳をフルに回転させ策を練っていた。
 しかしそんな彼の思考もむなしく喧騒は激しさを増す。

「んだとテメェ!!ぶち殺されてぇのか!!」

 頬袋から電気をバチバチという音と共に発せられる。ライトの怒声に慄くサスケとは対照的にアドンは軽蔑的な目つきを変えることなく尻尾の炎の火力を上げる。付け入る隙ができたとレグルスはよろよろと立ち上がる。

「できるものならやってみろ。だが--」








 レグルスは自身の体に土をつけられる。

「”アレ”が欲しくなければな」

 ライトに投げかける挑発的な言葉が途絶えることなくアドンはレグルスの体を踏みつける。リザードンの重量から来る圧力に見舞われたレグルスは彼の発した言葉に意識を傾ける余裕などもはやなくなっていた。
 渋々ライトは仕方ないと捨て台詞と共に喧騒を止める。レグルスに止めをさそうとアドンにぶつけようとした電気をレグルスにぶつけようとした。


「----チッ!退け!!」

 ライトは二人にその場から飛びのくように指示する。アドンもサスケも素直に指示に従った。
 直に重量感のある足音と共に発せられた間の抜けた声が彼らの耳に入った。ライト達の眼前に現れたのは先刻まで痛めつけていたゲッコウガの仲間であるあのメガニウムの姿だった。

ノコタロウ ( 2015/08/19(水) 01:37 )