ポケモン不思議のダンジョン 葉炎の物語 〜深緑の葉と業火の炎〜









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第五章 人気者
第五十九話 優良探検家?
ヒトだかりの中心に位置するポケモン達の姿を見たリンが浮かべたのは今までの陽気な表情だったのが、それとはかけ離れた驚嘆さえも含んだものと化していった。下から見上げてもわかる程動揺しきった彼女の様子を不審に思ったのだろう、彼女との目線を合わせる為にスパークは傍らにいたリーフの頭へと駆け上がる。

「あのポケモン達を知っているのですか?リンさん」

 リンにはスパークの言葉は耳に入っていなかった。ただ冷や汗を滲ませながら定まらない焦点でそのポケモン達を目にしていた。スパークも釣られてリンと同じようにそのポケモン達へと視線を移す。
 スパークと同じ種族のピカチュウが愛想を振りまいていた。ピカチュウの右隣のリザードンは自身に群がるポケモン達を鬱陶しそうににらみながら腕組みをしていた。ピカチュウの左隣のルカリオはさも自信ありげに得意げに自分たちのエピソードを口にしていた。

 ここでようやくリンは自分に声をかけられたことに気がつき慌ててリーフの頭に鎮座しているスパークへと振り返る。話しかけられたことには気がつきながらも何を尋ねられたのかがまでは頭には入っていなかった様子。スパークは先刻に口にした台詞を復唱する。

「えっ--いいえ!?知り合いにそっくりなポケモンだなーって思ってただけよ!!」

 まるでこの場を取り繕うかのような不自然な挙動。しかしスパークは言及することはせずに流すことに。と、ここでピカチュウがリーフかリンかスパークの姿を見てかヒトだかりを書き分けて彼女等へと近づいていった。





「えっと、確か君たちはチームリーファイだよね?」

 リザードンとルカリオを引き連れたピカチュウの第一声に答えたのはやはりチームリーダーのリーフだ。自分たちがリーファイであることを明かすもこの三人の正体がわからずに返す刃で聞き返す。
 するとまるでバクオングのばくおんぱが発せられたかのようなボリュームで一体のポケモンがひっくり返りながら驚愕の声を上げる。そのポケモンはリーフ達のよく知ったヘボハッサム--リュウセイだ。

「なんだリュウセイ--うるさいぞ」

「姉さんもオヤジさんも知らないんすか!?最近になってメキメキと頭角を現してきたダイヤモンドランクの探検チーム"Smash"を!!」

『知らない(ん)』

 大方姉さんはリーフ、オヤジさんはスパークのことを指しているのだろう。両手の鋏を指代わりにピカチュウ達を指しながら簡易な説明をするもリーフやスパークはあっさりと切り捨てる。そんな彼らをフォローするようにピカチュウが割ってはいる。

「まぁ俺たちのことを知らないのも無理はないよ。俺たちが探検活動を始めたのは二週間前だからね」

『に、二週間!?』

 ダイヤモンドランクと言えばゴールドランクさえも上回るランク。それを彼らはたったの二週間で上りつめたと言うのだ。そんなリーファイ一同に歩み寄りピカチュウが右手を差し出す。

「俺がチーム"Smash"のリーダー、ピカチュウのトライだ。よろしく」

「あっ、わたしはリーフです。リーファイのリーダーをしてます。--一応」

 余計な一言を添えたが為にルッグからの制裁が加えられた。普段はルッグに指揮を執られているからか反射的に最後に一応と添えてしまったのだろう。

「コイツはリザードンのドアン。無愛想な奴で余り喋りたがらないけど--


それでコイツがルカリオの--」

「サスケっす!!よろしくっすよ!!」

 刹那、サスケがトライからの肘打ちを鳩尾にもらい蹲った。勝手に自分の説明に話って入った制裁にしては随分と酷なものだとリーファイの面々は苦笑い。
 どうやらこのヒトだかりのポケモン達も彼らの名前は知らなかったのか次第にその名前を復唱する声が次々にあがっていった。バツの悪そうな顔のサスケを一睨みした後に--

「どうだい”チームリーファイ”俺たちと勝負をしないかい?」

『勝負?』

 唐突に突きつけられた挑戦。勝負と聞いてレグルスが真っ先に彼らに啖呵を切った。俺らの名前を知って勝負すんのかいとでも言わんばかりに蟹股で一睨みだ。
 しかしトライは特段焦るそぶりは見せない。

「おっと勝負といってもただのポケモンバトルじゃない。探検の勝負がしたいんだコイツを見てくれ」

 取り出したのは一枚の地図だ。一見して何の変哲のない地図であるが一点に目立つように赤丸がつけられている。曲がりなりにも探検活動を続けてきたレグルスを除いたリーファイ一行にはその一点が何を指し示すかはある程度の察しはつく。

「”ばんにんのどうくつ”と呼ばれるダンジョンさ。長らく封印された未開の地なんだが運のいいことにこの封印を解くカギが見つかってね--」

「カギって秋くらいに収穫される美味しい果物--」

「リーフ。それは”柿”だよ」

「えっ--じゃあウグイスガイ目イタボガキ科に属する二枚貝の総称で--」

「そりゃ”牡蠣”!!カキ違い--ていうかどっちにしろカキじゃないから!!カギだから!いい加減食べ物から頭を離しなよ!!」

 お約束のやり取りが繰り広げられる。初めてそのやり取りを目にしたレグルスとSmash一行は思わず苦笑い。気を取り直して咳払いをした後に説明を続ける。

「とにかくそのダンジョンへ踏み入れようと思うんだけど折角有名な探検チームに出会えたんだ。勝負しないか?」

 改めて申し出るトライ。そんな挑戦に乗り気なレグルスを押しのけて疑問符を投げかけたのはルッグだった。

「ちょっと解せませんね」

「--何がだい?」

 一瞬ではあるがトライの目つきが険しくなった--がすぐに今までの平静を保った目つきへと戻される。一体何が解せないのか率直にそう返す。

「このカギはあなた方がたまたま見つけた--即ち秘宝を手にするチャンスを手に入れたということですよね?それを僕たちと勝負したいがためにそんな機会をむざむざ棒に振るつもりなのですか?」

 目を見開くサスケとトライ。その二人の様子は自分たちの意図を見透かされたかのような感覚に見舞われる。そんな二人に助け舟を出すかのごとく今まで腕組みをしながら傍観を決め込んできたアンドが割ってはいる。

「そう考えるのも無理はない。だが考えてみろ、お前たちは一度世界を救った英雄だ。そんなチームを打ち破るだけで十分に価値はあるのではないか?」

 堂々としたその物言いにルッグは何も口にすることなく黙って耳を傾ける。彼らには身近すぎて気にしにくいだろうが世界を救ったという事実は傍からすれば想像を絶する功績。もし自分たちが逆の立場なら勝負を挑みたい気持ちが芽生えるのも無理はない。
 もう少しで首を縦に振れそうと確信し、畳み掛けるように続ける。

「そんな英雄様に挑むにはそれ相応の対価があるに決まってはいる筈だ。報酬は未開の地の財宝とあればさほど過大なものでもなかろう」

 勝負に勝利したときの対価という名の報酬はその地の財宝ともあれば魅力的かつ筋が通っている話、ルッグもリーダーのリーフも首を縦に振るほかはなかった。この挑戦を受けることに決定した。提案が通ったことにどこか安堵したトライがすっと前に出る。

「なら決まりだ。明日の辰の刻にて現地集合だ。それまでにお互い準備をしよう。よき勝負を」

 すっと右手を差し出した。握手を求めているのを察したリーフは手の代わりとして蔓を出し、互いに握手をした後互いに別れた。









(そんな、あいつらが……いや、まさかね……)

 リーファイとSmashのやり取りを遠くから眺めていたリンは訝しげな顔でこの場から離れていくSmashの面々を”蛇睨み”でも使用したかのごとく凝視する。不安が渦巻く脳内をどうにか整理をつけながら行方不明のグラスを探すための支度を整えようとした--











「しっかし大丈夫かなリーファイのヒト等」

「うーん、まぁ先輩達大丈夫だと思うけど……やっぱあんな噂が流れちゃ不安だよね〜」








 傍らでのハッサムとカビゴンの会話をリンは聞き逃さなかった。あのピカチュウ率いるチームが頭から離れないリンはそれは凄まじい形相で彼らへと詰め寄った。突然割って入ったジャローダに身をすくませる二人にリンは噂の詳細を求める。

「ちょっとアンタ達!!噂って何!!さっさと答えなさいよぉ!!」

 蔓でハッサムの首を締め付けながら詰め寄る。無茶苦茶なリンの態度に突っ込むこともできないハッサム--リュウセイはその真っ赤のボディから想像もつかないほどに顔を青ざめてさせながらも話す意思をどうにか示すことに成功。ようやくリンの拘束から逃れられた。

「だいじょうぶ?」

「ぜぇ……大丈夫じゃねぇよ……。


--あんまり広めないで下さいよ?実は--」

■筆者メッセージ
あの三人のチーム名の由来はまぁ言うまでもないと思います。
ノコタロウ ( 2015/07/19(日) 22:03 )