ポケモン不思議のダンジョン 葉炎の物語 〜深緑の葉と業火の炎〜









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第四章 ハートスワップ
第五十六話 奴の悲劇と漢方と
それはきせきの海にてならず者のギャラドス(とコイキング)を蹴散らしたリーフたちはお礼として図らずも”フィオネの雫”を手に入れることができた。急いでマナフィが待っているクロー達の基地へと戻ろうとしたときの道中の出来事だった。







「まだ金の用意ができてねぇだとぉ!?」

「ひいいぃッ!ごめんなさい!!」

「ごめんで済んだら保安官はいらねぇんだよ!!」

 ノコタロウの研究所の前に差し掛かった頃に二つの怒声とリーフ達の知った情けない悲鳴が耳に入る。一向はこっそりとその様子を覗くとあのマグカルゴが見るからに柄の悪そうなドサイドンとボスゴドラに脅されている光景が目に入った。その三人のやり取りを眺めていたリーダー格のブーバーンが割って入る。

「確か期日は今日までっていったよなぁ……。あんた、約束守らなかったらどうなるかわかってんだろうなぁ……?」

「ひっ……!!」

 手下二人より一層ドスの利いた性質でマグカルゴに凄む。マグカルゴは恐怖の余り震えて動けないようだ。ブーバーンは手下にマグカルゴを連れて行くように命令を下した。命令を受けたドサイドンとボスゴドラはマグカルゴを拘束する。

「た、たすけてええええぇぇええ!!」

「うるせぇ!!だまってろ!!」

 マグカルゴに騒がれ苛立ったドサイドンは”アームハンマー”でマグカルゴの腹を殴りつけた。この光景を一部始終リーフ達に見られているにもかかわらずブーバーン一向はまったく気がついていない。
 彼らの会話からマグカルゴは下手なことをすれば”いかりのみずうみ”と呼ばれるところに沈めるらしい。






「みんな今の見た?」

「あぁ、まさかアイツがねぇ……」

「見るからに柄の悪そうな方々でしたわね」

「なんか気の毒だな……」

リーフ、ジェット、キュウコンお嬢様、クローの順にそう発する。しかしクロー以外の面々はどこか笑いを含んだ声質であることが見受けられる。









「でもなんか笑えるね」

 そうリーフが発するとクローを除いた3人がどっと笑い出した。このマグカルゴ--ノコタロウがここまで悲惨な目にあっているにも関わらずここまで笑われるとは本人も思ってはいないだろう。おそらく笑う対象が彼でなければ場が白けるところだが対象がノコタロウというだけでここまで笑える一体感にクローは戸惑う。

「おいおい……お前ら、ノコタロウが心配じゃないのか?」

「大丈夫だって!!明日になったらきっと湖にぷかーんと浮かんでるって!!」

「そうか……ってダメだろおい!!」

 軽く恐ろしいことを口にされて戸惑うクローをよそにリーフ達はクローのアジトへと向かっていった。






 ~~ クロー達のアジト ~~

 無事に到着した一行は未だ寝込んでいるマナフィへしずくと投与しようと早速かばんから取り出し、口元へと持っていった。しずくは無事に摂取された、しかし容態こそは落ち着いたものの雫を投与してしばらくたっても高熱がおさまらなかった。少しは落ち着きを取り戻したものの未だに焦っているクローが”どうしてだ!?”と再びうろたえ始める。

「おそらく風邪の類だと思います。わたし達がダンジョンへと向かっている間に病と風邪が併発したのかと……」

 キュウコンの説明を耳にしてクローは慌てて自室の道具をこれでもかと言うくらいあさり始めた。しかし彼の部屋から風邪薬がでてくることはなかった。顔を歪ませるクローに落ち着いてと言わんばかりに続ける。

「おそらくこの類の風邪ならば大量のチーゴの実をすり潰した漢方で治ると思います。この近くに確か漢方屋があったはずですわ」

「本当か!?じゃあ急いで--」

「まぁ待ってよそれくらいならわたしが買いに行くからクローは待ってて」

 先刻の非情な発言をしたポケモンとは思えない発言を耳にしてクローはきょとんとする。そんなクローをよそにリーフは続ける。

「クロー、本当はマナフィの傍にいたいんでしょ?これくらいやってあげるから待っててよ。それじゃ--」

「ちょっと待ってください」

 急いでジェットの体で漢方屋へと向かおうとしたリーフだがキュウコンに止められる。怪訝そうに詰め寄られてキュウコンはジェットとリーフを呼びつける。

「お二人とも少しの間額をあわせてください」

(何だよったく……)

 心中で悪態を吐くものの渋々ジェットは従うことに。額同士をくっつけたことを確認したキュウコンは自身の尾の一本を額と額の間にそっと乗せる。



『--!!?』




尻尾から眩い光が発せられた。傍らで見ていたクロー達は思わず目を防いでしまう。その光は数秒後に収まり--


「あっ……この見慣れた目線……」

「んん……おっさっきより随分体が軽いぞ……」

 お互い体の変化を体験した後、二人はあの間延びした口調のリーフ、粗野な言葉遣いのジェットへとなっていた。即ちもとの体へと戻ったのである。
 唐突に戻されて二人ともうれしさと動揺が入り混じっっていた。どうしてと言い切る前にキュウコンが切り出す。

「”パワースワップ”の要領で人格を入れ替えました。体の具合はどうですか?」

 簡単にすごいことを言ってのけるキュウコンお嬢様。一度は呆然とするも……。





「って、何で早くやってくれないんですかああああああああああああぁああああ!!!!」

「そうだ!何が悲しくてあんな体にいなけりゃならんのだ!!」

 ものすごい剣幕でキュウコンへと詰め寄るリーフとジェット。しかしキュウコンのほうは特別慌てるどころかいつものようなニコニコとした笑みで返す。

「ごめんなさい。すっかり忘れてましたわ」

『ズコーーー!!』







 ~~ 漢方屋 ~~

「はぁ〜、暇やねぇー」

 屋内のいすに腰掛けたお腹の袋に子供を入れたカンガルーのような風体のポケモン--ガルーラが大あくびをしながら新聞を読んでいた。そのぐうたらを具現化した様子は別世界で倉庫番としてポケモンたちに慕われていたポケモンとは同一種には到底見えなかった

「そんなとこで欠伸してんとちょっとは掃除手伝ってくださいよ!」

 ガルーラに向かって悪態を吐くのはチンピラのような風体のこれまた柄の悪いポケモン--ズルズキンだった。ルッグとは別固体のようだがこちらも見かけに反して言葉遣いは丁寧な様子。
 ガルーラは”はいはい”と返し新聞紙を片手にお尻をボリボリと音を立てながらズルズキンから離れていった。

「はぁ〜あ、そろそろ店閉めようかな〜」

 まだ日が落ちていないにも関わらずこの発言。そんなガルーラの意思とは裏腹に店先の扉が開きとあるポケモンがすがたを表す。メガニウムのリーフだ。

「すいませーん。チーゴの実でできた漢方ありますかー?」

「あっいらっしゃーい」

 腐っても客商売からか真っ先にガルーラが応対した。続いてズルズキンも応対するがリーフのすがたを見てはっと驚きを露にする。そして彼はリーファイの名を出し、リーフはそれに反応する。

「す、すごい!まさかこんなところで英雄チームのリーダーに会えるなんて……!!あの…握手してもらっても--」

「アホ!接客を差し置いてなにが握手や!!!」

 リーフに握手を迫ろうとするズルズキンをガルーラが怒鳴って制する。今までぐうたらしていたポケモンに言われたくないと思うのが心情というものだが正論には違いない。ズルズキンは反発することなく”すいません”と謝りの言葉を発する。

「ごめんなさいねー。でチーゴの実の漢方が欲しいんやっけ?」

「そうなんですけど……あります?」

「んー、今ちょっと切らしてるんよー。あと10分程したら仕入れが来るからそれまで待ってもらっても大丈夫?」

 どうやら仕入れを待つ必要があるようだ。しかしさほど時間はかからないので待たせもらうことにした。怒られて落ち込んでいるズルズキンに店主ガルーラが話しかける。

「ところでさ、ちょいと聞きたいんやけどさ、アンタあの娘英雄って言ってたけど何の話なんよ」

「--!?し、知らないんですか!?1年前の時の停止事件を食い止めた探検家”リーファイ”のチームリーダーのリーフさんですよ!?」

「知らんわー、アタシこういうんに疎いからねー。まぁよくわからんけど接客中に握手なんか求めたらアカンからな」

「わかりましたよ……」

 どういうわけがガルーラは全く知らない様子。すると何を思ったのか店の奥へとすがたを消していった。何をしにいったのかズルズキンもリーフもわからない。
 しばらくしてガルーラは鞄を片手に戻ってきた。いすへ腰掛けているリーフへと近寄って鞄の中身を取り出す。ズルズキンはその鞄から取り出したものを見て目を見開いた。









「悪いんやけどサイン20枚くらいしてくれんかなぁ?」

「いい加減にしろ!!」

 ガルーラの脳天に”ドレインパンチ”が刺さった。

■筆者メッセージ
二ヶ月以上放置していたことに気がつき投下。申し訳なかった。
ノコタロウ ( 2015/05/22(金) 23:16 )