ポケモン不思議のダンジョン 葉炎の物語 〜深緑の葉と業火の炎〜









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第四章 ハートスワップ
第五十五話 審判とカレー屋?
 マナフィを助けようと飛び出していったクローを追うためにリーフとジェットをそれぞれ呼び出し彼を追うことに決めたキュウコンは二人を連れて”きせきのうみ”へと向かった。幸いにもジェットの肉体が”なみのり”を習得していたので二人をのせて目的地へと向かったのだが--











「…………」

 まさか自分の肉体を乗せてグロッキーになるとは思ってもいなかったジェットの肉体を持つリーフが目的地に着いた途端にダウンした。当然その原因となったリーフの体を持つジェットは悪びれることすらなく倒れてるリーフを見下ろす。

「いつもいつもバクバク食ってっからこーなるんだ。わかったら今後から自重しろや」

「ふ……ふわぁ〜い……」

 元気のないリーフの返事を聞き、ジェットは”自分の体”を容赦なく引きずってダンジョンの中に入っていった。力ない声で”引きずらないでー……”と口にするも当然のように意味はなかった。あまりに珍妙な光景に流石にキュウコンも苦笑いを隠せずに二人のあとを追っていた。










 ダンジョンは名前の通り水ポケモンばかりが生息していた。本来は”雨乞い”からの特性”すいすい”を生かしたダンジョンのポケモンとは思えぬ連携で探検ポケモンを苦しめると評判のダンジョンであるが、特性”日照り”を持つキュウコンのおかげかさほど労することもなく順調に進めていった。
 しかしもし彼女の力がなければチグハグな体の二人だけだと流石に苦労したに違いないだろう。


「むぎゅうっ!?」

『--!?』

ジェットの足元で不意に声が発せられた。足元を見ると見知ったオーダイルがズタボロにされた状態で倒れていることに気づかされる。慌ててキュウコンがから簡単な治療を施され、クローは体を起こす。

「大丈夫ですか?一体どうなされました?」

「あ……雨が降ってきたら、そしたら敵がえらいスピードで襲い掛かってきて……」

 早速このダンジョンの連携技にやられた犠牲者がここにいた。














 〜〜きせきのうみ さいしんぶ 〜〜

 クローを加えた一行はその後も特に変わりなくダンジョンを突き進んでいった。奥にはフィオネと呼ばれるポケモン達が楽しそうに会話をしている。邪魔をするのは少し忍びないと思いつつもクローは彼(?)らに声をかけようとした--


「グオオオオーーッ!!」

『キャーーーーー!』

 雄たけびと共に巨大な水色の体が割って入ってきた。フィオネはその水色の体--ギャラドスの姿を見てアリアドスの子を散らしたかのように散り散りに逃げていく。

「ガハハハハ!やっとみつけたぞ!お前らが万能薬の
雫を作りだすというフィオネたちだな?
よろこべ!お前らは今からオレさまのしもべだ!『フィオネのしずく』はオレさまが独占するのだ!ガハハハハ!」

「アニキー!」

 高笑いをするギャラドスに遅れて現れたのは進化前であるコイキングだった。ぴちぴちと跳ねながらギャラドスの後を追う姿は”さいじゃくのポケモン”と形容されるだけの様ではある。

「アニキー、”俺様”って、ワシの分はないんですかい!?」

「バカかお前は!今までワシの役にもたったことない癖に取り分なんかあるわけないだろうが!バカタレがぁ!」

「そ、そんなぁ〜」

 このコイキングが現れてからのやり取りを見た一行は少しだけ警戒が解けた。ジェットにいたってはこのギャラドスに共感すら覚えてしまっている。しかし厄介なところで敵が来たことには変わりなくキュウコンは体を低く構えて攻撃できる態勢をとる。

「あなた達、一体何者ですの?」


「ふっ、教えてやるぜ!俺様はなく子も黙る大悪党、”ヴァンパイア--ショウリュウ”様だ!!」

 ショウリュウ--と名乗ったギャラドスは意外にも簡単に自己紹介をしてくれた。彼の紹介を聞いてリーフが一歩前に出る。

「“アンパイア“-ショウリュウって変な名前ですね」

「誰がアンパイアじゃ!!わしゃ審判か!」

 リーフは傍らから見れば痛々しいショウリュウの通り名に突っ込んだ。否--突っ込んだというよりは弄ったと言い換えたほうが正しいかもしれない。

「一つ聞いていいですか?わたしずっと気になってたんですけど”アンパイア”と”レフェリー”って何が違うんですか?」

「知らんがなそんなもん!!!」

「教えてくださいよー、この仕事も結構されてるんですか?」

 ショウリュウの突っ込みを無視して次々と弄り倒すリーフを見てショウリュウの手下のコイキングが割って入ってきた。

「おいコラ!!何ワシの兄貴を好き放題おちょくってるんやコラァ!!」

 無駄に声質だけは迫力たっぷりなこのコイキングだが所詮コイキング。リーフは全く臆することなく名を尋ねる。

「あなた何て名前なんですか?」

「ワシか?ワシは”コイイチ”ってモンじゃ」

 コイキング--コイイチの名を耳にしたリーフはなぜかうれしそうに表情を明るくする。コイイチは怪訝な表情でリーフを睨んだ。

「こんなところまで宅配してくれるんですか?じゃあわたしも注文いいですか!?」

「おい、お前誰と間違えとるんや?」

「えっ?さっき”ココ○チ”って言ったでしょう?」

「誰が”コ○イチ”や!!チェーン店のカレー屋違うわ!!」

「わたしビーフカレー大盛りで7辛で!!」

「えっ、お前7辛いけるんか?」

 なぜかコイイチが反応。リーフを見る彼の目が若干であるが尊敬を込めた眼差しになってさえいる始末だ。

「えぇ、この前6辛完食しました」

「マジか!!ワシもこないだ辛さ挑戦したんやけど4が精一杯やったんや……。6ってどんな感じなんよ?」

 なぜかカレーの辛さの話題で二人して盛り上がりはじめた。キュウコンにクロー、ジェットは呆れ顔でショウリュウは段々苛立ち始めた。二人のカレートークがピークに達した頃コイイチはニコニコしながらショウリュウに話しかけた。





「おるもんなんやなぁ、アレ食いきれる奴って……。兄貴ー!!兄貴は何辛までいけますか!!?」

「やかましいわボケェ!!」

 笑顔で帰ってきたコイイチの頭をショウリュウが太い尾で思い切り叩き付けた。コイイチは大きなたんこぶを作り陸に打ち上げられた魚のようにぴくぴくしてる。

「黙って聞いてたら楽しそーに話しやがって……!オイ!お前ら!俺様に歯向かうなんて1億年早いわっ!バカにしたことを後悔するんだな!俺様の邪魔をする奴はようしゃせん!グオオオオォォーーーッ!!」

 べらべらと脅し文句を垂れるショウリュウだが、彼がしゃべればしゃべる程、傍から見たもの全員が”このギャラドスは弱そう”という印象を植え付けるだけであった。べらべらと口数が多い者はすぐにやられるイメージというのは多くの者が印象にあるからだろうか。

「よし、ここはわたくしに任せて下さい」

「えっ?でもお嬢様大丈夫なんですか?」

 意外な者が志願し、リーフも驚嘆の声を上げる。リーフの脳裏にある者の台詞が脳裏によぎる。






 〜〜

 召集されて奇跡の海へ向かおうとしたリーフとジェットにルッグが表情を渋らせながら声をかける。

「いいですか?もしちょっとでもお嬢様を傷つけるようなことがあればあんた等一週間飯抜きですからね!!」

 〜〜




 ルッグの過保護(しかたないかもしれないが)にジェットもリーフもキュウコンを戦わせるのを止めようとしていた。

「お二人は体がチグハグで戦いにくそうですし、クローさんはまだ弱ってるでしょう。大丈夫ですわ、あの程度ならひとりで戦えます」

 思い切り自身を軽く見られたショウリュウは青筋を浮かべた。元々ギャラドスという種族が怒っているような表情だがその様子から本気で彼が怒っていることは目に見えている。

「おい姉ちゃん。痛い目にあいたくなかったらとっとと下がってな」

「お断りしますわ」

 沸点の限界がきたショウリュウより先にキュウコンのほうが先に攻撃の構えをとった。口に炎を溜め込みそれを放つ。

「”大文字”!!」

「へっ、相性も知らねぇのか--」

 あざけるようなショウリュウの態度も攻撃を食らう寸前に身を潜めた。”大文字”が直撃するとショウリュウの体を彼の叫び声と共に火柱が包んだ。相性を無視したその火力を前にジェットは過去に彼女にやられたことを思い出した。

(我輩もあの火力にやられたんだよなぁ……)

 火柱が収まると体の半分以上を黒こげにされたショウリュウの姿があった。お返しといわんばかりに彼の口から水が溜め込まれる。”ハイドロポンプ”が発せられ、水流はキュウコンに向かってくる。
 水流は確かに直撃した。しかしやはりジェットの思ったとおりにキュウコンにはダメージにはなっていなかった。ショウリュウは思わず目の前の光景にすっかり臆してしまっている。

「さぁ、まだやる気ですか?」

「ぐっ……ぐぬぬぬぬぬぬぅ……!おいコイイチ!お前も協力しろ!!」

「あっ、わかりやした!!」

 悔しそうに下唇を噛むショウリュウは下っ端に向けて協力を要請する。コイイチはボーっとしてたからかはっとした様子で加勢しようとするが--


「待ちなさいよ!!」

 リーフが止める。怒りに満ちた眼差しでコイイチを睨む。思わず睨まれたコイイチは身をすくませる。誰もが彼女が加勢することを予期していた。













「早く7辛ビーフカレー持ってきてよ!!」

『そっちかよ!!』

 なぜかまだコイイチをカレー屋と認識しているのかリーフは本気でカレーが来るのを待っていたようだ。これにはリーフとコイイチ以外の全員がずっこける。

「悪い!!すぐ持ってくるわ!!」

「ちょっと待てコラァ!!」

 あわててカレーを取りに行ったコイイチをショウリュウが呼び止めるも矢のように飛び出した彼を止めるには至らなかった。孤軍奮闘になったショウリュウに容赦なく

”大文字”が飛んできた。

 既にダメージを負った彼の体は限界を向かえ、黒こげになって倒された。それと同時にコイイチはカレーを持って姿を現す。リーフは嬉しそうにカレーを受け取った。





「おい!次はただで済むと思うなよ!」

 ショウリュウが捨て台詞を残しこの場から逃げ去った。兄貴分が逃げ帰ったのを確認してかコイイチも逃げようとする。






「おい!次はただでカレー食えると思うなよ!!」

「カレー屋違うだろ!!」

 突っ込みを受けコイイチも逃げるように去っていった。邪魔者が去ってから改めてクローはフィオネに頼み込もうとする。

「すごーい!」

「すごい! すごーい!」

「おれいデス♪」

 クローが頼み込む前にフィオネたちがキュウコンに近寄り賞賛、リーダーらしきフィオネが差し出したのは紛れもなくクローが捜し求めていた”フィオネの雫”だった。

「おぉ!これが”フィオネのしずく”か!!早くマナフィに上げに戻ろう!!」

 

■筆者メッセージ
このあとコイイチはカレー屋に就職しました。
ノコタロウ ( 2015/03/08(日) 14:35 )