第五十四話 環境の違い
クローに命じられたシノとシードは仕方なしにリーフ達に知っていることを話
し、自分達のアジトへと案内することになった。
~~ クローのアジト ~~
「このおおバカもんがああぁあああああ!!!!」
『ごめんなさああああああああああああぁい!!』
余計な来客を連れてきた手下を容赦なく制裁するクロー。だが彼の傍らのマナ
フィが泣き出すや否や、よしよしと甘えた表情で宥める。今まで見たこともない
クローの表情にリーフ達も唖然。
つれてきたものは仕方ないとクローはリーフ達に事情を説明し、また逆にリー
フ達もクローに事情を説明した。
「うぬぬぬ……お前達に協力したいのは山々じゃが今この子がその技を使えるか
どうかだなぁ……」
まだ会話すらままならないマナフィを抱えたクローは困った表情でそう呟く。
傍らで見ていたリーフ達もあの様子のマナフィじゃとても技なんて使えるように
見えない。
「でしたらどうでしょう?この子が無事に育つまでわたくし達が育てることのお手
伝いをさせていただけませんこと?」
「うーぬ……、まぁワシ等じゃ分からんことも多いし……。頼んでもいいか?」
あの無駄に頑固なクローが容易く承諾したことにリーフもルッグも目を見開い
ていた。特にルッグは彼女のやり取りに見ほれていた様子で頬を染めていた。
「はぁ……やっぱお嬢様はすごいなぁ……」
「ルッグさん……?」
ジェットの姿でリーフはボーっとしているルッグの顔を覗き込んだ。そんな彼
の様子を見てリーフはニヤニヤと笑い出す。
「はっはーん。ルッグさん好きなんでしょう?」
「な、なんですか?」
ようやくリーフに気がついたルッグは慌てた様子で聞き返した。依然としてニ
ヤニヤとしているリーフは--
「わたしのことが」
「そんな訳ないでしょうが!誰がアンタなんか好きになるんですか!」
自身満々でドンと胸を叩くリーフにルッグは容赦のない言葉と共に突っ込みを
投げかけた。何気なく毒づいた突っ込みだがリーフは特に気にも留める様子ない
。
「バカかテメェは、あいつが恋なんかする訳ねぇだろうが」
リーフの姿で粗雑な口調でジェットがそう口にする。それに対応するかのよう
にリーフだけでなくシノやシードも入ってくる。
「そうだよねぇ。あの顔だもんね」
「誰があいてしてくれるんっていうんや!!」
「恋なんかしたくてもできねぇ顔だな!!」
『ハハハハハハハ!!』
「やかましいわ!なんでそこまでボロクソに言われなきゃならんのですか!」
草タイプ三人(正確にはリーフは違うが)は大笑い。ルッグは完全に堪忍袋の
緒が切れて激しく突っ込んでいこうとするもキュウコンに止められる。
「ルッグ、こんな一大事に大声を出してる場合ですか」
「なんで僕だけが怒られなきゃならないんですか!?」
目の前に生じた理不尽な出来事にルッグは半ば怒りつつも、一向は”ハートス
ワップ”を習得するまでマナフィを育てることに取り決めた。
「ねぇねぇお嬢様。お嬢様ってルッグさんのこと好きだったりするんですか?」
本人には聞こえないように小声でリーフはジェットの低い声でキュウコンへと
耳打ちする。そのことを耳にしたキュウコンはふっと含み笑い。
しかしルッグ本人に聞こえていたのかこっそりと聞き耳を立てる。
「まさか。ルッグと付き合うくらいでしたら野生のベトベターと付き合ったほう
がましですわ」
(どんだけランク低いんですか!!)
ボロクソに貶されたルッグは心の中で突っ込みを入れるも傷心しきっていた。
さすがにここまで言われては仲間のリーフも黙ってはいないだろうと彼女のフォ
ローを期待する。
「ハハハハ、野生のベトベターも落ちたものですねー」
フォローされるかと思えばこの言われよう。すぐに冗談だと口にされたものの
ルッグはがくりと膝をついてうな垂れた。
キュウコンのバックアップを受けたクロー達はどうにかこうにかうまい事マナフ
ィを育て上げていった。マナフィの育成を彼らに任せたリーフ達はそれぞれ相手
になりきって周りの目をごまかしていた。
~~ リーファイ 基地 ~~
「父さん!!いい加減にしてよね!!」
基地内から響いたファイアの怒声。何事かと思い部屋から出てきたのはやや苛
立った様子のリーフの姿のジェットだった。
「そうぞうしいわねー、一体どうしたのよ〜?」
「聞いてよリーフ!!また父さんが出前でお子様ランチ頼もうとしてたんだよ!!」
(またって……年甲斐もなく何やってんだこのオッサンは!?)
まじめな表情でファイアはとんでもないことを口にしだした。しかし本気で驚
いているジェットをよそにスパークが言い訳をしているあたり嘘ではないのだろ
う。
「あれだ!!セットについてるゼリーが食べたかったんだ!!リーフ!お前も何とか言
ってくれ!!」
食べ物に関してケチを付けられることが大嫌いなリーフなら間違いなく自分を
フォローしてくれるだろうとスパークはそう振り出した。しかし残念(?)なことに
眼前にいるのはリーフの姿を模したジェット。当然そんな返答が帰ってくるはず
もない。
「あのな?いい年なんだからそんなみっともない真似はやめろ。わかったか?」
『へ?』
思わず素で喋ってしまったジェットにスパークもファイアも首をかしげた。し
まったと口を押さえるジェットを、たまたま傍らで見ていたルッグがその場から
ジェットを退場させる。
「ちょっと何やってるんですかアンタは!!」
「す……すまん……」
完全に自分が悪いと思ったのかさすがにジェットも平謝り。しかしルッグはま
だ怒ることを止めない。
「何でスパークさんのフォローをしないんですか!?」
「そっちかよ!!」
確かにリーフはこういったことにこだわらないとはいえなんで真っ先にそこを
注意されるのかとジェットは思わず反発。だがそのままジェットはルッグにリー
フの素行などをそのまま叩き込まれていた。
~~ ジェット達のアジト ~~
「〜〜〜〜♪♪」
アジトの厨房に立って鼻息交じりに陽気に歌っているのはジェットの姿を模し
たリーフだった。いつになく陽気なジェットの姿に見えた部下のドラピオン--ラ
オンはその様子を覗き込む。
「ジェットさ〜ん。何作ってるんですか〜?」
「ん?チョコレートだけど」
「へ〜、また何でなんですか?」
子供のように無垢な彼の表情は悪者のわの文字さえ感じさせなかった。またリ
ーフも本来のジェットの無愛想な態度とは正反対の態度で答えている。
「今日はバレンタインでしょ?だからみんなにチョコ作ろうかな〜って思ってね」
「なるほど〜バレンタインだから僕達にチョコを-----ってええええええええええ
ええええぇ!?」
このリーフの台詞が雌のメガニウムの姿で発せられればほほえましいのだが残念なことに発したのは雄のサメハダー。当然ラオンも聞き漏らすはずもなく、このとんでもない台詞にひっくり返る。
ラオンの大声を聞いて駆けつけたオノノクス--ノンドとクロバット--バット。
何事かと問い詰めて今度はノンドとバットがひっくり帰る。
「ジェ……ジェットさんにそんな趣味があったなんて……」
「これじゃあバレンタインデイじゃなくてバレンタインゲ○じゃんかよ」
「違う違う!!皆最近がんばってるからご褒美として作ってたの!!それがたまたま
バレンタインだったって訳だよ!!」
必死に弁明するリーフにあっさりとノンド達は納得。そして子供のようにはし
ゃぎだした。
こうしてお互いがお互いになりきることに苦労しつつもリーフとジェットはそ
れぞれの生活を送っていた。
~~ 数日後 ~~
「ごきげんよう皆さん……、どうされました?」
クローのアジトに足を運んだキュウコンだが手下達を含めた三人の様子がおか
しい。キュウコンは何かよからぬことを察してクローの方に問いかけた。
「どうなさりましたか?」
「あぁお前か……実は……」
クローの足元にはマナフィが眠っていた。しかしその顔色は悪くマナフィが病
気になっていたことは誰の目にもとれていた。
「こ……これは……」
病気に苦しんでいるマナフィの姿を見てキュウコンには一つこの症状に思い当
たる節があった。考え込んでいる彼女の姿を見てクローが問いかける。
「何か知っているのか?」
「--本来マナフィは海に住んでいるポケモンです。ですが、あまり長期間陸上で
生活することには体が慣れてないので体を壊したのかもしれません……」
「そ、そんな……」
「ごめんなさい。本来はもっと早く海へと返すべきだったのですが--」
一刻も早くリーフ達の人格を入れ替える為に加えてマナフィを溺愛するクロー
の態度を見たキュウコンは彼らにマナフィの面倒を見ることを許したことを後悔
した。しかしクローは彼女を責めることもせずに首を横に振る。
「クロー様、病気を治す術を聞いた方が……」
「そうだな。何か治す方法知っているか?」
真剣な表情でキュウコンへと問いかけるクロー。それにつられてか彼の部下達
も同じような眼差しでキュウコンを見据える。彼女はすっと地図を取り出して三
人に説明を始める。
「ここから南西にある奇跡の海と呼ばれるところにフィオネと呼ばれるポケモン
がいます。彼らはいかなる病気を治す雫を作るといわれてます」
「それじゃあその雫があれば病気は治るんだな!?よし!!」
キュウコンは無言で首を縦に振る。それを確認したクローを居ても立ってもい
られずにキュウコン達の制止を振るきって飛び出そうとした。