ポケモン不思議のダンジョン 葉炎の物語 〜深緑の葉と業火の炎〜









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第四章 ハートスワップ
第五十三話 海の皇子
~~ あのお屋敷 ~~

「リーフさんとあのサメハダーの人格が……」

 久々に屋敷へと来訪したルッグから発せられたことに彼の主だるキュウコンも目を見開いた。一度は信じられない様子である彼女だがすぐにいつものような冷静な表情へと戻る。

「それで……、お嬢様は何かポケモンどうしの人格を入れ替える術などはご存知でしょうか?」

「うーん……、いくつか方法はありますがいずれもリスクを背負うような方法ですからね……」

「そうですか……」


 さすがのお嬢様でもそこまでは知らないか--ルッグは顔を伏せて落胆する。すると唐突にキュウコンはハッと何かを思い出したかのように--


「そういえば……」

「--!?何です!?」

 そう発したとほぼ同時にルッグも食い入るように反応する。彼女の口から”マナフィ”というポケモンの名が発せられた。聞き覚えのない名前にチームの頭脳であるルッグも首をかしげる。


 ”マナフィ”というポケモンには互いのポケモンの人格を入れ替える力があるらしく、その際には互いの体にも悪影響を与えることもないというらしい。その話を聞いて早速そのポケモンを探しに行こうとするルッグだがなぜかキュウコンに呼び止められる。

「ルッグ。今回の件、わたくしも付いていててもよろしくて?」

「……だめといっても着いてくるんでしょう?」

「はい」

 満面の笑みで即答。このヒトは一度言い出したらきかない。仕方ないとため息をつきつつ彼女を引き連れてコトの発端であるリーフとジェットを集めて”マナフィ”の捜索にあたった。

















一方--リーフやジェットが怪盗のレグルスを追っている最中、存在すらも忘れ去られたあいつ等が未踏の地へと足を踏み入れた。






















『うわあああああああああああああああああああああああぁぁあああっ!?』







 訂正しよう。彼らは踏み入れたのではなく吹き飛ばされたのだった。極寒の地から吹き飛ばされたオーダイル--クローとその手下達。リーフの友達(?)のラプラス--アイスの怒りを買った彼らは、見ず知らずの地へと吹き飛ばされてしまった。
 その地はあたり一帯が水でできていたことから彼らは海のダンジョンへ落ちていったのかと類推する。

「クロー様、どうします?とっとと脱出しますか?」

「いや!!こんなとこまで飛ばされて何もせず帰るのもシャクだ!!お前達!!ワシ等もこれでも探検家の端くれ!ワシ等の力をあわせてこのダンジョンを開拓するぞ!!」

 威勢(だけは無駄に)良くそう発するクローに手下二人も勢いよく返事し、ダンジョンへと足を踏み入れた。

 しかし脳みそが欠落しているのではないかと思うほど思考が恐ろしく単純なクロー達、未開の地をそうやすやすとクリアできるのだろうか?

 答えはもちろんノーであった。















「ぬおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉおおおっ!ワシに“種マシンガン”はやめろおおおおおおおおおおおぉぉおおお!!!」

 オクタンの”種マシンガン“をはじめとする数々の遠距離攻撃。










「げえええええええぇ!?このキングドラくっそはえぇんだけどおおおおおおおおおぉおおおお!?」


 ”あまごい”からのすいすいキングドラの来襲。












「なんでルギアまで出現するんやあああああああああああああああああぁああああ!?」














 極めつけはたまたまこの海に訪れていたルギアの怒りを図らずも買ってしまい、その猛攻を受ける羽目になり。クロー達はこの短時間で幾度となく死にかけていた。

 最早倒れなかったのが奇跡なほどにやられたクロー一行はお世辞にも無事とはいえない状態で最深部へとたどりついた。

「はぁ……全くいつものことながらえらい目にあったぞ……」

 やられなれている彼らでさえも疲弊しきったのか、がっくりと疲れのあまりへたり込んでしまうクローだが、そんな彼が見つけたのは何かの卵--それもよく見かけるポケモンの卵とは見た目も全く違うそれはそれは不思議な卵だった。
 クローはその見たこともない卵に興味津々。思わず駆け寄って卵を手に取る。

「おいお前達。この卵見たことはないか?」

「いえ、見たことないですね……」

「右に同じですわ……」

 常に自分と行動をしていた手下達が知るはずもないと半ばクローは感じていた。クローはこの手に取った卵を凝視--そしてワクワクしていた。きっとこの卵からとんでもなく強いポケモンが現れ、そして自分の仲間になって動くに違いないと。クローは我慢してはいたものの笑いがこみ上げてくるのにこらえられず思わず高笑いしてしまう。

「ガハハハハ!!ワシ等の冒険は成功をおさめ、ここの新たな同士が誕生しようとしている!!お前達!!戻るぞ!!」

『はい!!』













「……とはいったもののだ」

「どうするんですか?おれ、卵の世話とかしたことないんですけど……」

 ダンジョンから脱出し、久しぶりに戻ってきた彼らのアジト--(とはいっても木の上に作られたごく簡易な住居なのだが)の傍らに置いた卵を目の前に頭を抱えるクローとシード。とてもじゃないが子供の世話とは無縁な彼らが卵の世話の仕方なぞ知るはずもない。
 
 困り果てているクロー達をよそに不意に卵にヒビが入った。出産に立ち会うお父さんのごとく卵の反応にクロー達は慌てふためき、意味もなくあたりをバタバタと走り回る。彼らの意思とは無関係に卵はヒビをまし、揺れも大きくなり始め--











何事もなく無事に生まれた。水色を基調としてクリオネのような風体。加えて自身の背丈ほどの2本の触覚を有するこのポケモン。見たこともないこのポケモンにシードもシノも目を輝かせていた。

「すげぇ!見たことねぇポケモンだ!!」

「こいつを発表したらわい等もしかしたら第一発見者として有名なれるかも知らへんで!!」

 ずいっとそのポケモンに詰め寄る手下二人だが、そのポケモンは二人に気に留めずにクローのほうへ飛び込んでいった。虚をつかれて焦るクローだがうまい事ポケモンをキャッチ、そのまま抱きかかえる形となる。
 ポケモンはクローに向けてニコッと笑顔を浮かべた。その姿にクローは生まれて初めて父性というものを感じ、それを刺激された。早い話がこのポケモンに対してかわいいという感情を抱いたのだ。

「クロー様だけずりぃ!おれにも抱かせてくださいよ!!」

「あっ、わいもわいも!!」

 興味を持っていたシードとシノも介入。クローから半ば強引にポケモンを奪い取り抱きかかえる。
 するとどうだろう先ほどまで笑顔だったポケモンが今度はまたたくまに目に涙をため始めた。直にポケモンは大泣き。泣き声がアジト中に響き渡る。クローの額にもしわが寄った。





「”れいとうパンチ”!!」

『ぎゃいん!?』

 手下二人を氷の拳で吹き飛ばし、ポケモンを再び介抱するクロー。クローに抱きかかえられてそのポケモンは再び笑顔を取り戻す。

「お前達の顔が怖いから泣き出したではないか!!もういい!ワシひとりでどうにかするからお前達はこの子に近寄るな!!」

「で……でもクロー様……?」

「なんだ!?」

「名前やタイプ……果てには種族まで分からないポケモンをどうやっておひとりで世話するつもりですか?」

 シードにそういわれてクローは言葉を詰まらせた。なに一つこのポケモンのことについて知識がない。そんな状態では数日たりとも育てることなど不可能。ない頭をひねらせたクローは手下二人に情報収集へと向かわせることに。

「やれやれ……せっかく強力な同士が生まれると思ったら言葉も話せぬ赤子ではないか……」

 そのポケモンをあやしながらクローはぼやく。しかしすぐに”悪くない”と発し笑みを浮かべた。今までせわしなく動き、そしてやられいていた彼にとっては久しくなかった平穏、そのほっこりとした雰囲気を彼は感じていた。






~~ ~~


「あっ!お嬢様じゃないですかー!おひさしぶりですー!!」

「ぬわああぁっ!?貴様はあのときの!?」

 満面の笑みで出迎えるジェットと引きつった表情で出迎えるリーフ。キュウコンからすればこの異例の事態は本当の人格が入れ替わったのかと再認識する。既にルッグから話を聞いていた二人はルッグ達と共に情報収集に向かう。


「しっかしよー、あんなデレデレのクロー様なんて見たことねぇわなー」

「ホンマやで。しっかしあのポケモン--マナフィやっけか?えらい珍しいポケモンらしいな」

 目の前のフシギバナとドダイトスの会話から早速目的のポケモンの名が発せられた。早速目を光らせたキュウコンはこの二人に近づいて話しかける。久々に屋敷の外に出れて楽しいのだろうか。

「もしもし?少しお話よろしいですか?」

「あぁん?なんだおめぇは?」

「先ほどマナフィっておっしゃってましたけど、あなた方は何かご存知なのですか?」

『--!!?』

 そうたずねられてドダイトスもフシギバナも思わず顔を引きつらせる。大方存在のことを知っていた上で秘密にしているのだろうとその場に居合わせたリーフ達全員が察した。
 しばしうろたえた後にまだあわてた様子でフシギバナが口を開ける。

「知らん!マナフィなんてしらねぇ!!」

 額に汗を滲ませながらフシギバナは首を横に振る。ドダイトスも同調するように”そうだそうだ!”と口にする。

「クロー様がマナフィの卵を手に入れたからわいらが情報収集しているなんて口が裂けてもいえるか!!」

「わかったらさっさとよそへ行った行った!!」

 






「ってアホか!!」

 うっかりなのか確信犯なのかは定かではないがドダイトスが口走ってしまいフシギバナは頭をひっぱたく。当然リーフ達も聞き漏らすわけもなく彼らは仕方なしに知っていることを話し、自分達のアジトへと案内することになったとさ。

ノコタロウ ( 2015/01/25(日) 00:06 )