第五十二話 悪戦苦闘
--突然魂を入れ替えさせられたリーフとジェット。予想外の事態に思わず敵を取り逃がしてしまい……。
「……ったく、貴様がいらぬ寄り道をするからなぁ!」
「……ていうか怒るのはいいけどわたしの体で怒らないでよ!なんか変な気持ち!」
「貴様こそ吾輩の体でそんな喋り方はやめろ!ったく……!」
レグルスから見れば極めて珍妙な光景だった。彼からすれば吾輩と自称しすさまじい剣幕で怒鳴るリーフと女々しい話し方のジェットが口論をしているのだから。レグルスが仲裁に入ろうとしたところへリーファイの探検バッジから連絡が入った。リーフの姿をしたジェットは思わず驚きのあまり飛びあがる。
「ど、どうするのだリーフよ!貴様の連れから連絡だぞ!」
「と、とりあえず出てよ!」
「ったく……!!」
しぶしぶジェットは連絡に応じた。バッジからはスパークの声が聞こえてくる。
『聞こえてるかリーフよ?私だ、スパークだ』
「お、おう……ネズミおや……じゃなくてスパークさんじゃない……ど、どうしたの……?」
慣れない話し方に戸惑うジェット。スパークはお構いなしに話続け、状況や今自分たちがいる場所をたずねてきた。そのたびにジェットはリーフの話し方を真似ようとおぼつかない話し方で応じていた。
一通りやり取りが終わりリーファイメンバーがリーフ達の元へ駆けつけることに。ジェットは通信を切った。
「……どーするジェット?このこと全部話しちゃおうか?」
ほんの数分程度のやりとりで苦戦していたジェットを見てリーフは芳しくない表情でそう発する。ジェットは舌打ちしつつ首を横に振る。
「アホかてめぇは、意識が入れ替わった--ましてもともと敵対してる貴様と吾輩が入れ替わったなんて話をしたところで信用する筈がなかろう」
「そ……そうだよねぇ……」
スパークを始めとする仲間には打ち明けないことに取り決める。ひとまずリーフがレグルスを連れてジェット達のアジトへ--ジェットがリーファイ基地へと戻ることになった。
~~ ジェット達の基地 ~~
「はぁ〜やっとついたついた!!」
「やっとって……お前何回買い食いして寄り道してんだよ……」
まだリーフの素行になれずにあきれ果てるレグルスはジェットや彼女の仲間を気の毒に思ってしまっていた。いつもいつもこんなことで振り回されているのかと・・・・・・。
「おかえり〜ジェットさ〜ん」
基地からジェットの姿を模したリーフを出迎えたのはジェットの配下であるオノノクスのノンド。一度対峙したこともある強敵だったからかリーフは思わず身構えてしまうも今はジェットの姿、彼女なりに威厳のある態度で応じた。
「どうしたのジェットさ〜ん?そのヒトだれ?」
ノンドから発せられたごく素朴な質問。しかしリーフは反射的に驚き、そして眼を見開いてしまう。こんな調子でごまかされるのかとレグルスは頭を抱えた。
~~ リーファイ基地 ~~
ごまかしが難航しているのはリーフだけではなかった。ジェットもなれない体でなれない口調を使いつつリーファイメンバーも目を欺かなければならなかった。
「リーフさん」
「なん……じゃない、どどどうしての……?ルッグ、さん?」
「いえ、あなたがこの時間帯になっても木の実のつまみ食いに走らないからなにか具合でも悪いのかと思いましてね……。まぁあなたに限ってそんなことはないでしょうが」
(てか、なんであのバカたれはなんであれだけ食ってて常時つまみ食いなんかやるんだ!!)
疑いを含めたまなざしでこちらを凝視するルッグ。彼に正体がばれそうになってジェットは心の底でリーフへ悪態を吐いた。するとルッグは何かを思い出したかのように慌しく立ち上がった。
「ど、どこへ行くの……?」
「ちょっと用事を思い出したんで出かけてきます。いいですか?くれぐれもおとなしくしていてくださいよ」
「わ、わかった……(我輩は貴様の子供じゃねぇんだぞ!ドチンピラ!!)」
最早、顔にも出ている勢いでルッグをにらむジェットだが既にルッグは外へと出て行った。こんな調子でジェットのほうも会話ひとつこなすのに酷く難航していた。
(しかしあのチンピラ……我輩のことを勘ぐっていたみたいだが……いや、まさかな。魂が入れ替わったなんて普通は考えんだろう……)
「失礼します」
ルッグが用事と称して出かけた先--そこは彼がかつてつとめていた先であるお屋敷であった。そこの主であるキュウコンの前に姿を現し、一礼する。キュウコンのほうは”久しぶりですわね”と笑顔を浮かべながら用件を尋ねた。
「実は……ポケモン同士で魂が入れ替わるということについてお嬢様が知っていることを何か教えてくださればと思ったのですが……」
ジェットが思っていたとは反対に既に彼らの人格が入れ替わっていることはルッグには筒抜けでしたとさ。