第四十八話 vsゲッコウガ
「クソっ!しつこい奴だ!!」
ジェシカ扮するジェットに追われ続けるゲッコウガ。見かけから素早さには自信のある彼だがジェットの隠れ特性"加速"が発動した状態だからか巻くことができずに、それどころか徐々に距離を詰められていく。
しかし追い込んでいる側のジェットも決して楽ではなかった。如何せんローブをまとっている状態であり、それがはだけないようにしながら走っているのだからか自然と加減が入っていた。
「チィッ!!」
とうとうゲッコウガはジェットに追い詰められてしまった。行き着いた先は行き止まり。果てには自分を追っている相手は自分よりも素早い。彼には"たたかう"以外の選択肢は残されていなかった。ゲッコウガは手裏剣のかたちを模した水をジェットに向かって投げつけた。
素早さには自信のあるジェットもその速度には完全についていけきれなかったからかわずかに纏っているローブを掠めた。
(リーフの奴……何をトロトロしてやがる……!!こんな状態の吾輩が満足に戦える訳ないだろーが……!!)
正体をあかせない以上ローブを纏った状態でのジェットは満足にたたかうこともできずにリーフを待っていた。しかし彼女の足が遅いことを知っているジェットはさすがに待っていられないと不思議玉を取り出した。苛立ちを隠せないジェットはやや乱暴に不思議玉をかざした。
不思議玉が光を放った直後、リーフが姿を現した。ジェットが使ったのは"あつまれ玉"はぐれてしまった仲間を使用者の近くまで呼び寄せる性質がある。始めは呼び出されたリーフは困惑していたものの目の前に探していたゲッコウガを目にして態度を変える。
「畜生が……!!こんなところで捕まってたまるかよ!!」
今にも襲いかかろうとしているゲッコウガを見てリーフも戦闘の構えを取る。しかし微動だにしないジェットを見てからリーフは慌てた様子で彼に駆け寄った。
(ジェット!?なんでぼーっとしてるの!?まさかわたし一人で戦えって!?)
(あたりめーだろーがスカポンタン!!吾輩がバトルなんかしたらローブがはだけて姿が丸見えになるだろーが!街の奴等にジェットだってバレたらアイツを捕えるどころじゃないだろうが)
(そ、そっか……)
納得した表情を浮かべたリーフをジェットは容赦なく蹴飛ばし(サメハダーに足はないが)ゲッコウガの目の前まで吹っ飛ばした。
「このレグルス……こんなところで捕まる訳にはいかねぇ!お前に恨みはないが覚悟してもらおう!!」
そう啖呵を切りゲッコウガ--レグルスは"れいとうビーム"をリーフに向かって放ってきた。鈍重なリーフには攻撃を避けることができずに"れいとうビーム"を受けてしまう。
しかしリーフは先制攻撃を受けることも想定の範囲内からか既に反撃の準備を整えていた。"エナジーボール"を攻撃した直後のレグルスにぶつけた。威力は十分であるかレグルスは勢いよく吹き飛ばされる。
(あれ?なんか手応えがない……?)
見るからに水タイプの外見である筈だがリーフには思ったほどの手応えは感じられずに首をかしげる。吹き飛ばされたレグルスはもう一度"れいとうビーム"を放つ。次にリーフは"めざめるパワー炎"の準備をとり、口に赤いエネルギーを溜め込む。
「"れいとうビーム"!!」
「"めざめるパワー"!!」
タイプ相性からか"冷凍ビーム"はめざめるパワー"にとかされて消滅していった。炎のエネルギーは勢いを衰えることなくレグルスに向かっていき直撃する。
「ぐわああああああぁぁっ!?」
「えっ!?」
今度は妙な手応えを感じた。それと同時にレグルスは大げさともとれるほどの悲鳴を上げて"エナジーボール"を食らったときよりも勢いよく吹き飛ばされる。
吹き飛ばされたレグルスは頭を起こして策を練った。まともに殴り合えば間違いなく力負けする。
(そういやアイツ……試してみるか……)
有力な策が思い浮かんだのかレグルスはほくそ笑んだ。刹那、リーフの懐に潜り込んで"こうげき"を加える。リーフが反撃を入れようとした瞬間にはレグルスは既に距離をとっていた。
リーフの弱点である鈍足をレグルスはこの短時間で見破っていた。自分より圧倒的に鈍重なリーフは
所謂"ヒットアンドアウェイ"戦法に弱いと判断した。事実リーフは全くレグルスの動きについてこれずに一方的にこうげきを受け続ける。
しかしながら防戦一方にも関わらずにリーフの表情は苦悶の表情とは程遠く、どちからと言えば余裕さえ感じさせるものであった。
(アイツのことだ……なにか策があるんだろうが……一体何を考えてやがる?)
ジェットには彼女の余裕の原因が見えずに首をかしげていた。依然としてリーフはレグルスをとらえることができずにこうげきを受け続けている。一発一発の威力が低いとはいえこうげきが積み重なればそれなりのダメージを受ける筈。だがリーフの余裕は変わることはない。
しばしこうげきの打ち合い(とはいっても一方的なのだが)が続いた。ダメージが溜まってきたからかリーフの体に傷がところどころに付けられている。しかしレグルスも無傷という訳ではなかった。あれだけ繰り返しで激しく動き回っているのだから疲労が徐々に蓄積しており息が上がっている。そんな疲弊している彼を見てジェットは何か思い出したかのように目を見開いた。
「げっ……!!」
疲弊しきって動きが鈍ったところをとうとうリーフにとらえられてしまった。蔓で拘束されたレグルスは逃れようと必死にもがくもリーフの力が強く微動だにすることができない。
勢いよく掴んだレグルスを上空に投げ飛ばした。立て直そうとするレグルスに隙を与える前に再び蔓で拘束、そのまま落下する勢いを利用して地面に急降下させ--
「うおりゃああああああああああああああああああああぁぁっ!!」
とても♀ポケモンのものとは思えない掛け声と共にレグルスを勢いよく地面に叩きつけた。激しく動き回った疲労がたまっていたレグルスの体にこの衝撃は耐えられる筈もなく目を回して気絶している。
「うわぁ……」
クレーターのような地面のヘコみを見てジェットがそう漏らした。彼女のつよい力を知っているジェットでもあまり見慣れない光景に絶句。ツカツカと気絶しているレグルスに近づいているリーフに歩み寄る。
(しかしまぁ……、相手が疲れるまで耐えるとは……ある意味お前らしいな)
リーフのとった戦法は相手のスタミナ切れ。素早さが高い相手はそれを生かそうとどうしても短期決戦になりがちなことをリーフは経験から知っていた。幸い相手の攻撃力が低めだったからかリーフは余裕をもってこうげきを耐えることができたのであった。
(まぁね。いくら素早くても20のうち1でも捕まえればいい。それができたらカタをつけられるからね)
したり顔でのリーフはレグルスを拘束しようとした。そんな時に--
「ちょっと待ってー!!!」
『--!?』