第四十四話 ルッグはどうなっちゃうのか?
~~ リーファイ きち ~~
謎の敵からの強襲を受け、幻世界に飛ばされたリーフたちだが、まさかの手法で帰還することに成功。しかし勝手に飛び出したファイアとウォーターはルッグに、そして治療中にも関わらず同じく勝手に飛び出したスパークはラックとリンに、よりにもよって親子揃って説教を受けていた。
「~~♪♪」
他の面々が説教タイムということもあって一人で鼻歌を歌いながらリーフは依頼を受け取るポストの中身を探っていた。そこに基地内の殺伐とした空気に耐えられなくなったガブリアス--ガブちゃんが現れる。
「だからガブちゃん言うなってんだろうが!!」
「あっ、ガブちゃんおはよ〜」
「あのなぁ!!」
本来聞こえない筈の声とリーフに同時にツッこむ。当然リーフはそのことに反応する筈もなく依頼の文面に目を通す、がすぐに訳も分からずといわんばかりに首をかしげる。
リーフとの付き合いももう短くもないガブ--もといマッハはため息をつきながら言おうとしたことを察して先に口を開ける。
「リーフ……お前は字読めねぇんだから、一人でそんな文面ながめてもしょうがねぇだろーが」
呆れ果てた表情でマッハはリーフから依頼が書かれた紙を奪い取るように手にとった。痛いところを突かれ、そして言いたいことを言えずにリーフは"ハハハ……"と乾いた笑いを浮かべる。さっきのお返しと言わんばかりにマッハはそのことを無視して依頼の文面を読み上げる。
「"リザードンが暴れて手がつけられません。どーにかしてください"だとよ……。これ行くか?」
「リザードンかぁ……ガブちゃんも来てもらっていい?」
自分の攻撃技がろくに通らない相手だからかリーフはマッハに協力を求めた。真意を理解したマッハは"しょーがねーな"とぼやきながらも首を縦に振る。
~~ 一時間後 ~~
「はぁ〜終わった終わった〜」
「って戦闘シーンカットかよ!?」
「だってコレ話の本筋じゃないし」
「いや、だからそういう台詞はなぁ……」
既にコトはリザードンを容易く片付けた直後だった。自重の二文字が全く見られないリーフの発言をマッハが諌めた。そんないつもどおりのやり取りを繰り広げながら基地に戻ろうと帰路につく。
「ただいま〜」
「遅い!!」
玄関先に鬼面を浮かべたルッグが開口一番、もどってきたリーフと(ついでにマッハ)を怒鳴りつけた。ふっと時間を確認するとすでに集まる時間を過ぎていた。説教の直後だからかファイアもウォーターも縮こまっている。
彼の口うるさい説教は今に始まったことじゃないからかリーフは鬱陶しそうに彼のほうに視線を
移した。
「別にいいじゃん遅れたくらい……、それにわたしさっきまで依頼してきたんだからもうフリーでいいよね。それじゃ」
逃げるようにそそくさと(ファイアとウォーターとマッハを連れながら)基地からリーフは去っていった。話を勝手に遮られた挙句反省すら見られない態度にルッグも思わず額にしわを寄せる。
「とりあえず……お前も落ち着けって……な?」
「黙りなさい!!あとまだ話は終わってないからちょっと待ちなさい!!だいたいリーダーのあなたがそんなんだから--」
険悪な空気が流れ、これはまずいとマッハは判断。なだめにいくが呆気なく制されてしまう。大声を張り上げるルッグに臆することないリーフを見てファイアもウォーターは彼にたいする恐れが鳴りを潜めた。形は形だがリーフのことを頼っているのだろうか。
去っていくリーフたちは怒鳴り声を上げるルッグをチラリと眺め--
「クソ真面目」
「チンピラ」
「小姑」
「だからお前らも煽るなって!!」
言うだけいってリーフたち三人は去っていった。これだけ怒りで肩を震わせるルッグを見て取り残されたマッハは慌ててリーフたちの後を追った。この場に居座れば間違いなくとばっちりを食らうだろう。
~~ ジェットたちのアジト ~~
「スパークさんの療養はいつになったら続くのかなぁ?」
気怠そうに呟くリーフ。彼女等はほとぼりが冷めるまで勝手にジェットのアジトで時間を潰すことにした。その前では椅子に腰掛けているジェットの手下のクロバット--バットが何やら装置を作っている。同盟を組んでいる故に割とあっさりと入ることが許されたようだ。
「早く治ってほしいよな。ルッグのやつが酷くのさばってしょうがねぇや」
半ば暴言に近い形でウォーターがそう吐き捨てた。そこをマッハがなだめられたがウォーターは"フン"と鼻を鳴らす。年頃故に小うるさい彼のことを鬱陶しく思っているのだろう。
「ところでさ?一体何作ってるの?」
ルッグの話題になるとあまりよくない空気になることを恐れ、話を逸らそうとファイアがバットの作っている装置に気になり尋ねる。不意に話題を振られたバットは一瞬だけ驚きを浮かべるがすぐに得意げな笑みを浮かべて答える。
「これはね、"性格変更銃"さ!!」
『性格変更銃!?』
いかにも興味ありげのリーフたちの反応にバットの得意げな笑みは続く。名前どおりこの装置で打たれた者は性格が大きく変わってしまうというこの装置。そのことを聞いたウォーターが"そうだ!"と手を叩きながらそうさけんだ。
「なんだよ大声だして?」
「これでルッグのやつを打てばいんだよ!!そしたらあの口うるさい小姑みたいな性格もおさまるんじゃないか!?」
ウォーターの突拍子もない提案だったがリーフもファイアも満更ではないようすを見せる。そんな子供じみた考えにマッハは付き合ってられないといった風にため息をつく。
一方のバットは意外にもあまり歯切れのよい態度は見せなかった。ただただ乾いた笑い声を出すばかりだ。
「いやぁ……性格は変えるとは行ったけどまだ調整段階だから思うような性格に変えることはできないよ?」
「それでもいいよ!!ちょっと借りるぜ!?」
まるでひったくるように銃を奪い取りウォーターは矢のように部屋から飛び出していった。
--かと思いきや部屋を出た矢先、何かにぶつかったのか転倒してしまう。出鼻をくじかれたウォーターは怒りを込めた眼差しでぶつかった相手を睨む。
「どーこほっつき歩いていると思ったらこんなところでうろついてたんですか……」
「ゲッ……!!」
どうやら追いかけたルッグがここまできたようだ。当然ウォーターも血の気が引いたように青ざめるところに右手に握られた銃を見てふっと思いだした。銃の存在を思い出したウォーターは活路を見出したような笑みを浮かべ--
「それえッ!!」
「うわあぁッ!!?」
引き金を引き、銃口から怪しげな色の光線がルッグに直撃した。光線を食らったルッグは意識が飛んだのか背中から倒れて起き上がる気配がない。しばらく動く気配がない彼の様子に遠目で眺めていたリーフたちも彼の様子が徐々に心配になってくる。
「お……おい!!アイツ動かねぇじゃねぇか!!」
「だからまだ未完成品って言ったじゃん!!」
「ざけんな!!気絶することは言ってねぇだろうが!!」
ウォーターバットの水掛け論が勃発。文字通り引き金を引いた本人と装置を作った本人だからか大事になって慌てふためいている。その論争が終わったのはルッグが意識を取り戻したときだった。
「お、おーい……大丈夫かー?」
言うことを聞かず飛び出してきた相手に突然打たれればルッグでなくとも誰だって怒る。恐る恐るマッハが様子を伺う。目を覚ましたルッグは様子を伺うマッハのことが視界に入り、彼のことをじっと見続ける。そのことにマッハは思わず身を引きつらせる。
「マ……マッハさん?な、なにか僕に用あるんでしょうか……」
「えっ……?」
「ルッグさんが……ビクついてる……?」
強面のガブリアスに近寄られたからかルッグは何故か今更になって彼のことを怖がりだし、体を震わせた。まるで出会った当初のような彼の態度に思わずリーフたちも閉口する。
「お、おーいルッグさーん。大丈夫?」
「ん?ウォーター君ですか?ぼ、僕は大丈夫ですけど……」
(やっぱり様子がおかしい!!)
明らかに今までのルッグなら何かしらウォーターに怒ることはなくともお小言の一つは漏らしていた筈だが今のルッグはその様子がない。それどころか長い付き合いの彼にさえどこか怖がっているようにさえ見受けられる。
「ねぇファイア、やっぱりあの銃の効果でルッグさんの性格が変わったんだよ!!」
「そうだよね。でないといつものルッグさんならこんなことされちゃ烈火のごとく怒ってるからね」
どこか嬉しそうにさえ見受けられるリーフとファイア。一大事にも関わらず嬉々としたこの二人をマッハが諌める。
「お前ら、呑気に喜んでいる場合じゃねーだろ……。どーすんだ?アイツあのままでいいのかよ?」
『いい!!』
「即答!?」
口うるさい彼がこんな形とはいえ大人しくなったことを喜んでいるのかリーフもファイアもあっさりと受け入れた。
「後からどーなってもオレは知らねぇぞ。こうなったのはお前ら三人の責任なんだから」
「大丈夫大丈夫!!ガブちゃんは心配症なんだから〜」
ルッグがこうなってしまったからか、今度はマッハのほうが口うるさくリーフたちにそう告げるも全く相手にされない。またここでウォーターが何か突拍子もないことを思いついたのか大声で"そうだ!"と張り上げる。
「お、オレさ!!ちょっと急用があったんだよ!!だから少し出かけてくるわ!!じゃあな!!」
それだけ言い残してウォーターは慌ててその場から飛び出していった。あまりに突然なことだけに誰も彼を止めることはできない。マッハはもとに戻す方法はないのかと尋ねるも期待通りの答えがバットからはかえってこない。
「しょうがない。オレ達も一旦戻ろうぜ」
諦め切ったマッハは一度戻ることを提案した。