ポケモン不思議のダンジョン 葉炎の物語 〜深緑の葉と業火の炎〜









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第二章 救助隊と探検隊
第四十三話 もどってきた
~~ ノコタロウのけんきゅうじょ ~~

「クックック……」

「この声は……!!」

 唐突に耳に入った不気味な声。聞き覚えのある嫌な感じの声質にグラスもファイアも警戒心を強めた。振り返ると彼らの背後には例のローブをまとった敵の姿があった。事の発端であるこの敵が現れてグラスは意識せずとも手に剣を取る。

「ようやくおでましか……」

「フフフ……ああやってリーフが使い物にならなくなった以上、お前たちはもうさして驚異ではないからね」

 遠まわしに自分たちが"弱い"と称されてファイアは下唇を強く噛んだ。グラスも同じようにバカにされて苛立ちは感じてはいるが冷静さを保つことはかろうじてできている。
 分かりやすいちょうはつにのったファイアは火の玉を投げつけた--が敵はそのことを予知していたかのごとくそれを軽くいなす。

「焦るんじゃないよファイアよ……お前の弱点もこちとら握ってるんだからな……」

「弱点……?」

 余裕さえ感じさせる敵の態度にファイアは眉をひそめながら敵を睨む。ローブの内側から敵はガサゴソと音を立てて何かを取り出した。









「はぁ?」

 大層な武器仕掛けがが出てくると身構えていたグラスからしてみれば敵が取り出したのは拍子抜けするものであった。ローブの中から出てきたのは植物--それも木の枝の一部であった。一般にスギと呼ばれる木の枝--果てにはこの木の枝は葉もついており殺傷性の欠片もない。こんなものでどう攻撃するのか、グラスの脳裏に木の枝でファイアをぺちぺちと叩く実に滑稽な光景が一瞬であるが脳裏によぎった。

 場違いであるのにも関わらずグラスは笑いを堪えられずに吹き出してしまう。それを知ってか敵はその笑いを増長させるかのように木の枝を振り始めたではないか。

「おいファイア……こんなヤツさっさと--」

 相変わらずこみ上げてくる笑いをこらえながらグラスは声を発した。







--が彼のふき笑いを止め、閉口する。






「--ファイア……!?」

ふと隣を見るとファイアが目に涙を貯めてくしゃみを繰り返していた。何事か分からずとまどうグラスとは対照的に敵のほうは得意げににクククと怪しい笑い声を出す。

「ファイアの弱点……それは花粉症」

「おい、どういうことだそれは」

「ヤツの花粉症は前作葉炎の"残された島編"を確認して既に予習済みだ」

「メタい!?お前もそういうコト言うのか!?」

 思わずずっこけそうになる。味方二人が思わぬ形で使い物にならなくなったこと以上にこの敵がボケにまで走ることにグラスは焦りを感じていた。

(クソっ……!なんだこの空気は……!!この感じはツッコミ役がいない!これでは私がつっこんでいかなくてなならんではないか!!)

 味方不在に加えて不慣れなツッコミ役とのプレッシャーでグラスの額から汗がにじみ出る。焦りを見せたグラスを見て、敵がほくそ笑んで懐から取り出したスイッチを押す。











「あ、あれ……?」

 グラスが身構える中、ローブの敵が初めて間の抜けた声を発した。いつまでたってもなにも起こらない。グラスは首をかしげ、敵は"この!?" やら "壊れたのか!?"などとつぶやきながらスイッチを連続で押し続けるが、それでも何も起こらない。
 敵もグラスもなにがおこったと思っていたそのときであった。








「あんたのお探しのモンは……こいつらかな?」

『--!?』

 "敵か味方か"。お互いにそう思いながら声のした方向に振り返った。彼らの振り返った先には中年のピカチュウが数多のポケモンをロープで拘束している姿があった。ポケモン達はピカチュウにやられたのかボロボロにも関わらず、中年ピカチュウは無傷でありピンピンしている。
 ローブの敵もグラスもその予想だにしていなかった光景に目を見開く。

「スパークか……!?」

「お前か……我が下僕を捕まえたのは」

 グラスは中年ピカチュウの名を呼び、敵は苛立った様子でピカチュウ--スパークに口を出す。スパークは鼻であしらういながら"他にだれがいるよ?"とだけ馬鹿にするように言い放った。敵は"くっ……!"と漏らしながら下唇を噛む。
 そのことを確認できたスパークはニヤリと笑みを浮かべ、右手にバチバチと音を立てながら電気をためる。

「さって……、少しおいたがすぎるんじゃないですかな? 黒幕サマ?」

「スパークよ……何故お前がここに……?」

 相変わらず脳内にクエスチョンマークが浮かんでいるグラスはそう口にする。一方のスパークはグラスの前に立ち、敵に対して電気を纏った右腕を突きつけながら"たまたま通りすがっただけ"とだけ残した。

「まぁいい、いくぞスパーク……」

「--はい」






 グラスとスパークの姿が一瞬のうちに消えた。勿論本当に消えたのではなく目で追えない程の猛スピードで敵につっこんでいったからである。
 気が付くと敵のローブの一部が破ける音がした。敵も自分に攻撃が来ているのは予測していたのか自らの正体を晒さない部位を切らせてはいる。キモリとピカチュウという素早さに優れた二体の攻撃を敵は掠らせるように交わすのが精一杯。たまらずバックステップで距離をとり浮遊する。
 その一連の動作を一瞬たりとも見落とさずにスパークは電気をためた両腕を一層強めながら--



「さぁ、その体を貫かれたくなければ、大人しくリーフ達を元の世界に返すことだな」

「--!!?」

 自分たちが異世界の者であることを既にスパークに悟られていた。これには敵もグラスも驚きで目を見開く(尤も敵のほうはローブで目が隠れているが)。明らかに自分のほうが分が悪いと悟った敵のほうは--






「いいだろう……。こんな不完全な幻術ではお前たちをとらえるなどかえって大変だ」

 と意外にもあっさりと承諾した。承諾を確認したグラスは"元の世界に戻す方法を教えろ"と剣を向けながら威嚇するように吐き捨てる。しかしながら戻すことを承諾した割に敵の態度は歯切れが悪く"ククク"と含み笑いを浮かべるだけであった。

「それは自分で探してもらおうかな」

「ふざけるな。体を貫ぬかれたいか」

「まぁ落ち着け。ヒントは教える。そう簡単に元の世界に戻られたら今回の話がすぐ終わってしまうだろ?」

「だからメタいんだが!?」

 躊躇なくメタなことを口走る敵に思わずグラスは普段あまり見せない驚きを顕にする。しかし驚くグラスにスパークも敵も気にすることもない。

「元に戻す術はここの家の主が残してあるよ。んじゃ我はここで……」

 そう言い残して敵はすっと姿を消した。姿を消した相手には流石にどうしようもできずスパークもためていた電気を発することを止めた。ここの家の主--それはこの世界では亡き者となったノコタロウにほかならない。
 思考を一度止めたグラスはスパークのもとに近寄る。



「スパークよ……、何故私達がこの世界のものでないとわかった?」

「どうも三人の様子がおかしいと思いまして、悪いとは思いましたがこっそり話を聞きをしていました」

「そうか……」

「とりあえずはリーフとファイアを回復させてから研究所内を散策しましょう」








~~ 数分後 ~~

「はぁ……全く生きた心地がしなかったよ……」

「……」

 リーフは床用ワックス、ファイアは花粉症から回復はしたものの既にグロッキー、ファイアはともかくリーフのほうは自業自得なのでグラスから"お前が悪い"と吐き捨てるようにたしなめられる。











「皆!こっちに来てくれ!!」

 唐突に研究所内に響いたスパークの大声、リーフ達はスパークのもとに急いで駆け寄る。スパークが立っていた部屋の中央部には紅く染まった文字の羅列が鎮座している。

「なるほど……"ダイイングメッセージ"というやつだな」

 口に手を当てて考える素振りを見せたグラスがそう呟く。







「それって……家族揃って食事しながら書いたの?」

「それ"ダイニング"」

「海に潜りながら書いたメッセージだね!!」

「それは"ダイビング"!!ダイイングだからノコタロウはくたば……息を引き取りながらこれを書き留めたの!」

 さりげに恐ろしいことを口走りそうになりながらリーフとファイアのいつもどおりのやり取りが繰り広げられる。グラスもスパークもやれやれといった様子でこの動作を眺めていた。
 この茶番が終わったことを確認したスパークは文字を読み始めた。

「………………」

「スパークよ、一体なんと書いてある?」










「…よ……読めない」

 全く考えてもいなかったスパークの間抜けな返答にその場に居合わせた全員が派手にずっこける。一体どれだけ汚い字なのかと思いながら訝しげな表情をしながらグラス達は文字を眺める。

『"幻術世界から戻るには UFO を入手すればよい……"だって』

 グラスとリーフが全く同じタイミングで復唱した。ファイアも文字が読めないのかわけもわからないといった様子で首をかしげている。

「ねぇ……なんで二人共この文字が読めるの?」

「私とリーフにしか読めずにあの男が書いた文字ということは、コレは人間の文字だからな。ポケモンのお前たちには読めないのも無理はない」

「ふ〜ん……」

 "そういえばこの二人"人間だったっけ、と納得しながらファイアは小さく"UFOか……"と復唱した。とても簡単に見つけたり、ましてや自分たちのものにするのはとてもでないが難しい。
 それはスパークもグラスも同じことを考えていた。あれほど大層なものをどうやって探し出すのか。そう頭を悩ませていたところにリーフが"はいはい!!"と勢いよく手をあげる。

「わたし、UFOある場所知ってる!!持ってくるね!?」

「……大丈夫?」

 これまでロクなことしかしていなかったにも関わらず自信満々なリーフの態度にファイアは思わずそう口走る。

「大丈夫!ドーンと大船に乗ったつもりでいて!それじゃ!!」

 ドンと得意げに胸を叩き、リーフは勢いよく外へ飛び出していった。勿論それだけで信用されるはずもなくファイアには"大船ってかでかい泥船だよ"と称された。











~~ 5分後 ~~

「見つけた〜!!」

 ドタドタと足音をたてて騒がしくリーフが戻ってきた。最早保安官たちが捜索してることを忘れる程フリーダムな雰囲気に最早ファイアたちも慣れつつあった。半信半疑でファイアたちはリーフの成果を心待つ。

「本当に"UFO"を見つけたんだろうね?」

「本当だって!!みんななんでそんなに信用してない訳!?」

 どう見ても自分に疑いの眼差しが投げかけられてリーフも声を張り上げる。そんな中スパークが二人をなだめるように入り、リーフの成果を伺った。
 話題を振られてリーフは得意げな笑顔を浮かべてトレジャーバッグに手をツッコミガサゴソと音を立てて探していた。


 この時点でファイアたちは嫌な予感しかしなかった。無論リーフはそんなことは露知らずと言わんばかりに得意げに"ソレ"を取り出した。


「はぁ……」


 沈黙が訪れた。勿論この空気からリーフは三人が予想していた"未確認飛行物体(UFO)"を持ってきたことはなかった。彼女が持ってきたのは一杯のカップ焼きそば。ここまでふざけられるとファイアも堪忍袋の緒が切れた。

「いい加減にしてよ!!なんで"UFO"って聞いて未確認飛行物体じゃなくて焼きそばのほうを持ってくるんだよ!!」

「え〜?だってUFOと聞いたらこっちのほうじゃないの?」

「そんな訳ないんでしょ--」

 まくしたてるように怒鳴るファイアだが、突然彼の怒鳴り声が止んだ。自分の体が、そしてグラスのリーフの体が唐突に光を漏れ出した。その場に居合わせた全員がこの光の正体を察した。

「ホラホラ!!やっぱりこっちのほうだったじゃん!!」

 一層強まる光を見てリーフが得意げにそう言葉を発する。







「なんでこうなるんだよ!!!!」

 展開についていけなくなったファイアが半泣きでそう叫びながら彼らは現実世界へと戻ることができたのでした。


■筆者メッセージ
悪ふざけもいいとこ。

ちなみにわたしはカップ焼きそばはぺヤ●グをよく食します。
ノコタロウ ( 2014/04/06(日) 12:50 )