第三十九話 仲間
--絶体絶命のファイアを庇ったのは彼の最も信頼しているパートナー、リーフだった。彼女だけではない。彼のよく知ったピカチュウ、ズルズキンがリーフと同じようにファイアに背を向けてバクフーンと対峙している。果たして……。
「なっ……!!」
しばし続いた沈黙を破ったのはバクフーンだ。口ぶりこそはいつものように冷徹なままであったがプルプルと震わせている拳が彼の怒りを物語っている。そんな彼と同じほど--否、それ以上に怒りを露わにしたピカチュウ--スパークが額にしわを寄せる。
何故ここまで愛する我が子を執拗に、それも血のつながった肉親のバクフーンが付け狙うのか、スパークには理解できなかった。尤も彼には理解する気なんど毛頭ないのだが。怒りに任せたスパークはバクフーンに"十万ボルト"を打ち出す。
「あなたが……バクフーンでしたか……」
力任せの"十万ボルト"は軽くいなされ、スパークはもう一発放とうとするもズルズキン--ルッグに制された。リーフ達のなかで最も冷静でいられているルッグが一番初めに口を開ける。彼だけはバクフーンとは対面したことはなかった。
「また邪魔者が入りおって!!でてこい!!」
『--!?』
重ねて邪魔をされて苛立つバクフーンが声を荒らげた。刹那--彼の配下らしきポケモンの集団がリーフ達を取り囲んだ。その中にはリーファイが知ったポケモン達の姿も--
「久々だなチームリーファイよ!!私はお前たちと再び相見えるこの時をずっと待ちわびていたのだ!!」
その声質とは全くもって不釣合いな口ぶりで大口を叩くのはせいれいポケモン--フライゴン。リーファイのことを知っているからには最果てさばくにてリーフ達に退治された個体で間違いない。フライゴンの姿を確認し、一つ疑問を持ったルッグが--
「おかしいですね。どうしてジェット達に仕えていたアナタがバクフーンのもとにいるのです?」
そうたずねた。ジェット達に拾われてこき使われていた筈の彼が今や彼を裏切ったバクフーンの配下となっている。このフライゴンだけではない、見覚えのある奇妙な風体のゼニガメの四人組など、配下にはジェット達の手下であったポケモン達の姿が多々あったのだ。
「フン!あんな無能なサメの手下なんどもう終わりだ!!今や我々はバクフーン様に忠誠を誓った身なのだ!!なぁ皆よ!?」
声を張り上げるフライゴンに答えようと配下達は一層盛り上がった。個々の戦闘力は低くてもこれだけの数だ。真っ向から挑んでしまうものなら多勢に無勢と言わんばかりに瞬時に叩きのめされてしまう。
ルッグは瞬時にこの状況を打開する術を考えついた。その術をリーフやスパークにもすぐに伝達する。
バクフーンが "かかれ!!"と命じた瞬間に大勢のポケモンがリーフ達に襲いかかった。
--辺り一帯が眩い光が立ち込めた。スパークがフラッシュを炊いたのだ。一瞬にして視界を奪われた配下ポケモン達は慌てて目を覆う。
「うろたえるな!!ただのめくらましだ!!じきにやむ!!」
フラッシュ一つでうろたえる手下共に苛立った様子でフライゴンが激を飛ばす。そうタカをくくった彼の懐にはすでに一つの影が迫っていた。
"グヘェッ"と情けなくも彼らしい呻き声があがった。めくらましに乗じてルッグがフライゴンに迫り攻撃をしかけていたのだ。棒術の連携を浴びせ続け、そのまま彼の体を宙に突き上げた頃にはすでにフラッシュのめくらましは止んでいた。
「"つるのむち"!!」
宙にかち上げられ、体制を整えようとするフライゴンをリーフがとらえる。
「スパークさん!!」
そう叫びながらリーフはとらえたフライゴンを拘束した状態で勢い良く地面へ向けて急速に近づける。拘束から逃れようとするもリーフの力が強くなすがままにフライゴンは猛烈な勢いで地面に迫る。
「"クロスアイシクル"!!」
スパークは地面に両手をあてる。地面が彼の両手に触れたとたんに落下しているフライゴンの真下から二本の氷柱が"X"の文字を描くように交差しながら表れた。勢いに逆らえないフライゴンはそのまま氷の柱に激突。
地面とドラゴンを併せ持つポケモンが氷の攻撃を受けてはひとたまりもない。氷の柱に全ての体力を奪われたフライゴンは力無く錐揉みながら宙を舞い、地面に落ちる。
この間僅か5秒足らず。自分達の上司があっという間に倒された配下ポケモン達はあまりの出来事に後ずさった。この瞬間をリーフ達は見逃さない。
「リーフ!!」
「わかってる!!」
スパークに促され、リーフは配下達の間をかいくぐりながらバクフーンのもとに迫っていった。中には向かってくるリーフを迎撃しようとしている手下達もいたが、狼狽えが混じった攻撃ではリーフを止めるには至らない。リーフはバクフーンと対峙することに成功する。
~~ ~~
「な……フライゴンさんが一瞬で……」
自身の上司が倒されて狼狽える配下達。そんな配下達を見てスパークはほくそ笑みながら右腕に力を込める。その右腕には眩い程に輝く電気が溜め込まれていく。
「ルッグ、少し時間稼ぎを頼む。すぐにカタをつける」
「……わかりました」
--これだけの群集をどうカタをつけるのか。承諾こそしたもののルッグの脳裏には一抹の不安がよぎる。ルッグはスパーク近寄る手下達を妨害する。
「いいぞ、下がれルッグ!!」
そう言われてルッグはその場から飛び退いた。準備完了と言わんばかりにスパークの右腕からは凄まじい程の電気がバチバチと音を立てている。その勢いは彼の持ち技"ボルテッカー"そのものだ。
「行くぞ……ッ!! "ボルテッカー 一閃" !!」
右腕に帯びた"ボルテッカー"は猛スピードで次々と敵をなぎ倒していった。
フライゴン達を含めた配下達が登場してから、この間僅か25秒程度のことであった。
「今のお前たちじゃ私には勝てないよ」
~~ ~~
バクフーンと対峙したリーフ。彼女は鋼鉄の葉の先端をバクフーンに向けつつにらめつけている。
「わたしは お前だけは絶対に許さない」
「何……?」
リーフの言い分が気の触ったのかバクフーンは苛立ち、眉間にシワ寄せる。無論その程度でリーフが臆することはない。
「お前はファイアを わたしの仲間達を 関係のないポケモン達を傷つけた」
いつものリーフとはかけ離れた冷たい目。既にカタがついたスパーク達はその冷たい目にわずかながら仲間ながら戦慄する。
「だからわたしはお前を止める。"チームリーファイ"の名にかけて……ッ!!」
言い切った瞬間にリーフは鋼鉄の葉を投げつける。バクフーンは向かってくる鋼鉄の葉に"火炎放射"をぶつけた。鋼の属性を併せ持つ葉は熱を帯びた瞬間から消滅、勢いは衰えることなくリーフに迫った。
当然だが今のリーフには炎技は意味をなさない。炎の中から無傷のリーフがバクフーンの眼前から現れる。
殴りつけるようにバクフーンの腹にリーフの蔓が叩きつけられた。情けない声をあげてバクフーンは膝をつく。そこに追い打ちをかけるように首元に蔓を振り下ろす。
「させるかぁ!!」
かろうじて蔓を食らうことなくバクフーンは攻撃をふせぎ、そのまま銀の針で蔓を痛めつける。蔓を痛めつけられてからか、リーフの体に痛みが走り顔を歪ませる。それを見てかニヤリと口角を釣り上げるバクフーンは数本の銀の針を投げつけた。
針がリーフの体に突き刺さることはなかった。リーフの眼前ではマントのキモリが針を弾き飛ばしている光景が目に入った。重ね重ねに来る邪魔者のバクフーンは怒りを爆発させる。
「どういうつもりだぁッ!!邪魔をしないのではなかったのかぁッ!!」
「そんなことお前に言われるいわれはない。お前とファイアの勝負はカタがついたはずだ?」
全く悪びれる様子もなくこのキモリ--グラスは吐き捨てるように言い放ち、バクフーンに襲いかかった。それ以降はリーフにも劣らない程の冷たい目付きでバクフーンを睨み--彼を切りつける。
「リーフ、私が時間をかせぐからさっさとカタをつけろ」
バクフーンとの戦闘をこなしながらグラスがそう言い放つ。
--"エナジーストーム"。奇しくも同じ技を同じ場所で見せてきたグラスとバクフーンの前で再びこの技を見せることになろうとは。リーフはこんなことを考えつつも自身の持つ最強の技を準備していた。
"エナジーボール"に凝縮された"リーフストーム"からなされた鋭い風圧はグラスとバクフーンの肌にも感じていた。彼らの背筋に悪寒がはしる。
"エナジーストーム"の準備が整い、それを確認したグラスはバクフーンの口の中に"縛られのタネ"を放り込む。準備は整った。
「これで 終わり……ッ!!!」
渾身の"エナジーストーム"が発せられ、バクフーンの腹に直撃。回転しながら吹き飛ばされて近くの岩に体ごと叩きつけられた。