ポケモン不思議のダンジョン 葉炎の物語 〜深緑の葉と業火の炎〜









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第二章 救助隊と探検隊
第三十八話 兄弟
~~Side ウォーター 空の頂 ~~

「くっは〜ッ!!ダメだ!もう立ってられねー!!」

俺とファイアはグラスのじいさんに頼んで空の頂ってとこで修行を見てもらってたんだが……。思った以上にキツくて俺はノックアウト。五合目と呼ばれてるところで休憩している。











「しっかしまさかファイアの奴があんなにタフだったとはなー。昔はあんなに泣き虫だったのに……」

最早ヒノアラシだったあいつがすぐに泣いたり怖がってりしているののが凄く懐かしく思える。あいつもルッグも……あいつらも成長したんだよな……

「俺は成長できたのかな……」

--!!?ため息が出た瞬間空が暗転しする。何事かと思って上を見上げると巨大な何かが俺の上空を飛行していただけだった。どっかで見たようなシルエットだが……。






~~ Side Out 空の頂 頂上 ~~


「……来たか」

頂上にてファイアを待つバクフーン。彼がニヤリと口角を釣り上げて振り返った先。それは剣を持ったキモリ。そしてバクフーンが待っていたあのマグマラシの姿があった。二人共バクフーンの姿を確認した瞬間から険しい表情を浮かべる。

「……ケリを付けよう……。兄さん……」
「ここに来たということは……覚悟はできてるようだな……」

ファイアの実兄を呼ぶ声質が、さっきまでとは全く違うものだということを感じた。弟は初めて本気で自分を止める気が感じられた。






「グラスさん」





羽織ったマントを翼へと変形させ、宙に浮かんでいるグラスを見上げたバクフーンが声をかける。飛んでいる辺り戦闘の構えに入っているのだろうかとバクフーンは警戒を緩めない。

「--要らぬ心配だ。一人でキサマを捉えるのがファイアの意思だ。それを妨害するつもりはないんでな」
「--そうですか……」

邪魔をするなと口を開く前にグラスのほうから口を開ける。
ファイアもバクフーンも体から炎を吹き上げ、燃え上がらせる。



「--??」

ほんの一瞬であった。ファイアの視界がぼやけた。目の前のバクフーンが二重に見えた。すぐにそれは元通りになり戦闘の極度の緊張かと結論づけてこの光景を気にするのを止めた。

『"火炎放射!!"』

両者の炎ポケモンから業火が発せられ、ぶつかり合う。ファイアから発せられた炎はバクフーンが今までに感じたそれよりも遥かに高火力を出されていた。しかしそれでもバクフーンの火炎放射には叶わずに徐々におされる。

「--!!」

バクフーンの火炎放射が眼前に差し迫る。ファイアは間一髪でそれをかわして一旦バクフーンと距離を取る。バクフーンはそれを予期してか下がるファイアに詰め寄っていく。そのままファイアの頭上から、さながら"アームハンマー"のごとく勢い良く右腕を振り下ろす。


ドゴォと音を立てて地面にヒビが入った。右腕は勢いをつけすぎて外れて地面を叩いたのだ。その威力の凄まじさを悟ったファイアは額に汗をにじませる。

「"ファイアボール"!!」

懐に潜り込んだファイアは全力の火の玉をバクフーンの腹部にぶつける。炎タイプにも耐え難い熱さを堪えつつ懐に潜り込んだファイアの体を捕らえようと両腕を伸ばす。

首根っこを掴まれた。そのままファイアを地面に叩きつける。その衝撃で辺りに散乱しているヘドロが弾け飛んだ。痛みで呻き声を出す。

「さぁ、ファイアよ。そろそろ私の前に立ったことを死地で後悔するんだな……!!」
「だ……だれが……」

瞬間に怠惰感に見舞われた。口では強気に返すもさっきまでは僅かに感じていた違和感が顕著に現れる。体中から力が抜けている。つかんでいた首根っこをパッと離して先刻と同じように右腕を振り下ろす。

「だったらこれをよけてみろ!!」

前よりも右腕を大きく振り上げる。簡単によけられそうな大ぶりな動きにファイアは全身に力を込めてそれをよけようとした--





「……っく……!?」

体が動かない。否、言うことをきかなかった。麻痺に近い感覚はファイアの神経を確実に狂わせていた。無情にも振り下ろされた右腕はファイアの腹を捉え、その衝撃で再び地面も砕く。

体中に痛みが走る。それはバクフーンの攻撃による物理的な痛みよりも神経が麻痺するような鋭い痛みがファイアの体を支配していた。

「……こ……これ……いったい……いつ……」
「フン、お前はどこまでも愚かな弟よ……」

体の痛みを堪えつつ発したファイアの言葉はとぎれとぎれ。バクフーンは得意げな顔をし、口を開ける。

「ここはかつてベトベターやベトベトンの住居でな。今でもここは絶えず"どくびし"に似たヘドロが散乱されているのだ」
「そ……んな……、ひきょ……う……だよ……」

弱々しく発せられたファイアの言葉。

「探検家たるもの地形も把握できないとは……やはり貴様は仲間がいないと何もできない愚図でしかないな」

最もファイアが気にしていたこと。吐き捨てるようなバクフーンの暴言はファイアの戦意を大幅に削いでいった。徐々に弱々しくなっていくファイアの顔を見たバクフーンはいやらしく笑い出す。

--やっぱりぼくじゃダメなのかな……強くなんかなれないのかな……。






「ファイアッ!!」
『--!!!』

上空から張り上げるような大声が発せられた。その先には厳しい表情を浮かべている。

「お前はそんな簡単に折れる意思でアイツを倒しにきたのか!!何と言って私に修行を頼み込んで来た!!思い出してみろ!!」
「…………!!」

グラスからの怒声。この手でバクフーンを捕まえようとした気持ちが僅かながらによみがえる。全身の痛みをこらえながら立ち上がり、バクフーンを睨む。

「……面白い、それでこそ……殺しがいがあるというものだな!!」
「……"ファイアッ……ボール"!!」

"猛火"で強化された火の玉を投げつける。それでもスピードも火力も大幅に上昇した攻撃をバクフーンはそう労することなくかわす。しかし今度はファイアの瞳から闘志が消えることはない。その瞳は僅かに色を変えている。

バクフーンの死角から"じんつうりき"でよけられた火の玉をコントロール。敵に悟られぬように火の玉を引き寄せる。

「ぐぇ……な、なんだこれは……!!」

バクフーンは火の玉を食らった背中に左腕を回しておさえる。予想だにしなかったファイアの反撃に驚愕よりも怒りで脳天にちがのぼる。特性で火力があがったとはいえ相手は炎タイプのバクフーン。自分が見下していたファイアに反撃されたことに怒りを覚えさせたにすぎない。

「ファイア……きさまぁッ!!」

既に弱りきっているファイアの体を掴み首をしめ上げ、再び地面に叩きつける。既に体力がつきかけているファイアだが先刻とは違い威勢よくバクフーンを睨めつける。全身の神経を張り巡らせて策を考える。こんな状況を打破する方法はどうすれば--




「--やはりファイア一人じゃ限界があったか……」

ヘドロに感化されぬように常時飛行していたグラス。多少は自分が鍛えたとはいってもこの二人ではレベルに差が大きい。それを埋め合わすのは明らかに時間が足りなかった。限界まで自分が手を出さないと取り決めていた。もうこれ以上は無茶なのか。グラスはそのまま勢いを付けてファイアとバクフーンの間に割ってはいろうと低空で飛行し、突っ込む。


『--!!?』


その場が一瞬にして暗転した。何事かと重いバクフーンはファイアへの攻撃の手を止め上空を見上げた。その先には巨大な何かが頭上で飛行している。

「フン!!覚悟しろファイア!!」

みたび勢いよく、今度は銀の針を持った腕を振り下ろした。とうとう限界が来たファイアの体は撃をかわすことをできずに反射的に目をつむり--














--ファイアの耳には体が切り裂かれる音が入った。しかし自分の体にその痛みが走ることはなかった。恐る恐る目を開ける。

辺りにはドシンと大きな音と土煙が出てきた。それらを巻き上げた正体はファイアの盾のごとく背中を見せ、バクフーンを対峙している。その大柄な黄緑色の体はファイアにとってよく知ったポケモンの姿だった。

「貴様……ッ!!」
「ど、どうして……?」

驚きで目を見開くファイアとバクフーン。言葉には出さないもののグラスも驚きを浮かべていた。そしてその黄緑色のポケモンはふっと笑いを浮かべて口を開ける。













「行ったでしょファイア?あなたはわたしが守るって」
「リ……リーフ……!?」

■筆者メッセージ
ファイア君マジヒロイン。正直最後のがやりたかっただけです。
ノコタロウ ( 2013/12/22(日) 00:16 )