第三十五話 vsボーマンダ 2
~~Side リン 吹雪の島 奥地 ~~
「"りゅうのはどう"!!」
「く……ッ!」
あの超がつくほどの巨大ボーマンダの戦闘は苦戦なんて生易しい表現じゃなかった。冷凍ビームがきかないのなら草タイプのあたしやリーフちゃんのメインウェポンがまともに通る筈もない。渾身の"リーフストーム"もそよ風のように受け止められて返しの"りゅうのはどう"が飛ばされる。
「無駄だ!俺様にそんなヤワな攻撃なんぞ通用せん!お前たちはここで終わるのだ!」
「こいつ……」
半ば嘲る口調のボーマンダにも返す言葉が見つからず下唇を噛む。となりのオニゴーリさんなんかまくし立てるように吠えまくってるけど正直何言ってるかわからない。
そんなあたし達二人の隣からボーマンダをいつものようなどこか間延びした雰囲気の顔、だけでそれがどこか余裕さえ感じさせる彼女--リーフちゃんがボーマンダを見上げる。
「終わる?面白い冗談だね。でも言っとくけどわたし達そこまでやわじゃないから。やられっぱなしじゃ気が済まない。やられたらやりかえす--
--
"倍返し"だッ!」
って、あのネタやらなくていいから!彼女に突っ込んでいたら隣のオニゴーリさんが気合を入れ直した顔をしてボーマンダを睨む。
「そうだ!このオニゴーリ様がそう簡単にくたばるかよ!それにな!こいつらには借りがあるんだ!それはキッチリかえさせてもらう--
--
"おんがえし"だッ!」
同じようニュアンスで言わなくていいから!そんなくだらないやり取りをニヤニヤと眺めながらボーマンダがその翼を使って宙に浮かぶ。
「てめぇらにこの攻撃が受けられるか?俺様のタイプ一致の飛行技--
"
つばめがえし"だッ!」
なんでアンタまでそんな乗り気な訳!?しかも気がついたらボーマンダを含めた全員があたしのことを期待を込めた眼差しでみてるしコレって……。
「さぁ、次はてめぇのターンだぜ。草蛇?」
正直草蛇と馬鹿にされた呼び方されたことより、ボーマンダにふられたことに驚きを隠せない。まさかあたしの脳みそもさっきまであいつを倒すことにフル稼働してたのがこんなことを考える為に使われるなんて予想だにしてなかったろう。こほんと一度咳払いをする。
「ワカシャモとかが使える本家ポケモンじゃ使いにくいけど、ポケダンでは最強の技--
--"オウム返し"だッ!」
『…………』
なんでだか沈黙が走った。その沈黙を破ったのは--
「ちょっとまてーいッ!!」
ドラゴンクローを食らって気絶した筈のガブちゃんだった。その怒声にあたしも敵だったはずのボーマンダも全く同じタイミングで振り向く。
「何(だ)?」
まるであたし以外の三人はゲームを親に取り上げられたような恨めしい顔でガブちゃんを睨む。なんでボーマンダと一緒になってるのかと言いたげな彼は物怖じこそはしたが言い返す。
「おまえら何のーてんきに大喜利やってんだ!戦闘中だろ!」
「あー、そういえばそうだったな」
いやいやいやボーマンダさん?あなたがそれをお忘れですか?
「あー、でもなんかめんどくさくなったからもういいや。お前ら、悪かったな」
『えぇ?』
戦闘と聞いて途端にめんどくさそうな顔に豹変。しかも謝罪を入れる。本当にそれでいいの?
「あー、あれだよ。俺元々雇われてあんたの別荘占拠してたのよ。だけどなんかめんどくさくなっちまった。あとお前らと喋るとなんか楽しいから倒したくねぇと思ってな」
そ、そんなんでいいの……?なんだかこのボーマンダ凄く適当なヒトっぽいんだけど。他のみんなもキョトンとしている。そんななかガブちゃんが口を開ける。
「なぁ、ここに俺達の前にゲンガーとハッサムのチームがこなかったか?」
「ゲンガーにハッサム?あぁ、こいつらのことか?」
そう言い切ると彼の前に二つの眩き光が降り立った。そこには彼が名を読んでいたゲンガーとハッサムがボロボロになった状態で気を失っている。
「おいお前ら!大丈夫か!?」
「そいつらお前らの連れだったのか。悪かったな。」
二回目のボーマンダの謝罪には耳も傾けずに彼は仲間のゲンガーとハッサムに駆け寄った。大声で彼によばれてあたしもその二人にかけよって看ることに。
「--うん、結構傷は深いけど大丈夫。早いとこ暖かいところで療養すれば大丈夫そうね」
「だったら速く!」
「なぁ」
ゲンガー達を看ていたあたしと焦っている彼に割って入ったのはまさかのボーマンダ。オニゴーリさんとリーフちゃんは完全に空気となっている。
「俺がお前らの家まで連れてってやろうか?色々悪かったからそのくれぇしたいからよ……」
このヒト、やっぱり性根はいいヒト?凄く申し訳なさそうな顔している。弟がどうとか言っていたのにそんなことすっかり忘れてるみたい。
「ホントか!?それじゃ頼ん--」
「おまちなさーいッ!」
『--!!?』
聞き慣れない、そして耳障りな声が発せられた。その声の主はシャンデラであった。
「あーッ!あんたは!」
「お久しぶりね。お仲間を探しに来たガブリアスさん?」
声の高さに反したこの口調……ひょっとしてこのシャンデラ……。いいや、考えないようにしようか。
「なんであんたがここにいるんだよ!?」
「そんなことはどうでもいいのよ。それよりもボーマンダ。あなた、ワタシ達を裏切ってそいつらにつくとはどういうつもりかしら?」
ひょっとしてこいつがボーマンダを雇った奴ら!?自然と一帯に緊張が走りあたしも戦闘の構えに入る。あの一人は除いては。
「うるへー、つまらねぇお前らよりも、面白いこいつらに付いていきたいんだよ!」
「な、なんですってー!!」
「んな変な口調してる奴とは根暗そうな奴に誰がついていくか!」
「ね、ねくら……!」
根暗と称されたカポエラーが人知れず膝をついてうなだれるも誰も気にはしていない。
「ふふふっ、悪いけど裏切りものはワタシ達の組織では容赦しない方針なのよ。悪く思わないでね」
「組織……!?あなた達一体何者!?」
ここでさっきまで空気だったリーフちゃんが出てきた。組織と聞いた瞬間にあのいつもの間延びした声じゃなく真剣な時の声質へと変貌する。
「そんなこと一々君たちに言える訳ないだろ?そんなことも分からない程君、頭悪いのかい?」
さっきまで落ち込んでいたカポエラーがヒトを小馬鹿にしたような口ぶりで返す。何こいつ……凄く喋り方が腹立つんですけど……。
「そうよ。そこにいるガブリアスを利用してこの島におびき寄せてボーマンダを雇ってあなた達--特にメガニウムのあなたを一気に仕留めてしまおうなんて考え、言える訳ないでしょう?」
「わたし達を仕留めるですってぇ!?」
正直あのボーマンダを雇っていた時からそんな気はしていたが本当にそうだったとは……。やっぱりこのシャンデラ達--
「なっ!なんであなた達がそのことを知っているのよー!?」
「あんたが全部ペラペラペラップのように喋るからでしょーがッ!!」
あのカポエラーのいやみったらしい口ぶりはどこへやら、頭をかかえているお馬鹿な上司にツッコミを入れている姿はどこかしら滑稽であった。それを見たらどこかホッとしているあたしがいた。正直こいつらには絶対に負ける気がしていない。
「五月蝿いわよ!とにかく!あいつらをやっつけるわよ!タック!」
「は、はい!トウロウ様!」
シャンデラ--トウロウが何かのボタンを取り出した。アレって……。
「ワタシ達を裏切ったらどうなるか。体で教えてあげるわ……!後攻になると威力が倍になる悪技--
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"しっぺがえし"だッ!」
あのー、そのネタ終わりなんですが。
「えっ、マジー?」