第三十二話 あぁ、やっぱりだめだったよ
--ガチャリ!
リンが口を開こうとしたら村長宅の扉がまたもけたたましく開いた。誰にも聞こえない声量でノーザが"ドアが壊れそう……"とぼやいてはいた。
そこにはズタボロになっていたオーダイル、ドダイトス、フシギバナ。三体ともぜぇぜぇと息を切らしてリンに睨みながら口を開く。
「おいお前!お前の連れのメガニウムはどこにいる!?」
「メガニウム……?」
初対面からこの口ぶりのオーダイルにリンはイラっとはしつつも身に付けている探検バッジからリーフの知り合いかなと思い正直に教えることに。
「あの子ならさっきまでここにいたけど……たぶんこの村にいると思うわよ?」
「そうか!感謝するぞ!行くぞお前たち!」
『はい!クロー様!』
クローと呼ばれたオーダイルは手下らしきフシギバナとドダイトスを引き連れて嵐
--とよぶには余りにも大げさなので春一番くらいの勢いで飛び出していった。一応礼を言うあたり悪党ではないと認識しつつもリンはあのオーダイルにはいい気分を感じていない。
「ガハハハハ!やつの知り合いのガブリアスをついて行った甲斐があったというものだ!」
「流石クロー様!執念深さ だけ は天下一品ですね!」
「当たり前だ!」
-- アイス宅 --
「うっひょおおおおおおおおぉぉ!ヨダレ出てきそうだぜ!」
アイス宅に招かれたリーフとマッハは早速アイスの準備した食事を目の前に浮かれきっている。リーフに至っては(既に食べているにも関わらず)じゅるじゅるとヨダレをたらしまくっている。
そんなざまだからチームメイトから女の子として扱われないのだ。
「はやく!はやくたべよーよ!」
「はいはい、それじゃ--」
--リーフはおらぬかあああああああああああああああああああぁ!!!
扉をぶち壊しながらオーダイルとオーダイルが率いるフシギバナとドダイトスがアイス宅に乗り込んできた。
「ちょっと何すんのよあんた達!」
「やっと見つけたぞリーフ!」
自宅の扉を理不尽に壊され当然アイスも怒るがクローの脳内にはそんなことは初めからから入っていない。幸せそうな顔で食事を口にし続ける。
「こいつ……ワシをおちょくってるのかッ!
おいッ!」
しびれを切らしたクローはリーフが手にとった骨肉を奪い取った。途端に先ほどまでの幸せそうな彼女の顔が一瞬で豹変する。
「こんなもんよりワシの方に集中せんか!ばかやろうが!……ガツガツ、モグモグ……」
「…………ッ!」
強引に奪い取った肉をクローに食われてしまいリーフは息をのんでその理不尽極まりない光景を見ていた。
「さぁ、リーフよ!さっそくワシと勝負しろ!」
「……さない…」
リーフは肉を奪い取った張本人--クローをキッとにらめつける。その目付きは彼女が本気で怒っている時のそれと酷似している。
「あなただけは……絶対に……!」
「……ッ?リーフ……?」
リーフは左手にグっと力を込めてエナジーボールボールを生成。そのエナジーボールにリーフストームの勢いを凝縮していく。そのただならぬ雰囲気にクローも冷や汗を垂らしながらずっと後ずさる。
「絶対に許さないんだから!"エナジーストーム"ッ!」
「ちょっと待てッ!そのリアクションはどう考えても極悪なラスボスに対するものだろ!
ぐああああああああああああああああああああああああああああぁあッ!」
リーフもち技の最強技と言っても過言ではない--エナジーボールとリーフストームの合わせ技--エナジーストームをクローに容赦なくぶっぱなした。クローは情けない叫び声を上げなら吹っ飛ばされていく。
「クロー様!」
「この女ッ!」
クローがあっけなくやられたことで取り巻きの彼らも仕返しを目論む。--がそんなことを許す筈もない。
「クロー様をボコッた落とし前は俺達が付けやる!」
「落とし前を付けるのはどっちかしら?」
草タイプの取り巻き二体の背後に聞き慣れない低音ボイスが耳に入る。彼らは嫌な予感が頭によぎり恐る恐る背後を振り返る。
「ヒトの船に不法侵入するわ家の扉壊すわ……しまいにはあたしの大事な友達を襲おうとするわ……
あんたたち……覚悟はいい?」
『えっ……?』
自分達をにらみながら見下すこのラプラスが以前因果があったことを思い出した二人は、先ほどまでの威勢はどこへやら二人でガタガタと互いに身を寄せて震えていた。
「ぶっ飛ばす! "ふぶき" !」
『あげえええええええええええええええええええええええぇぇぇッ!!!』
上が上なら下も下と言ったとこかフシギバナ、ドダイトスもその"吹雪"をモロに食らいクローのもとに吹っ飛ばされていった。
(こ……こえぇよ……)
隣で食事をしていたマッハも直に受けていない吹雪に背筋を震え上がらせていた。
尤も彼が震えていたのは寒さよりもガチ切れしたリーフやアイスに対する恐怖心なのかもしれないが。
--半時間後--
「もう出ちゃうんだね」
クロー達を縄でがんじがらめにしたアイスが村から出るリーフ達を見送っている。既にリンが村長から目的地の場所を聞いている。
「うん。あと……その三人はどーするの?」
「決まってるじゃないの。それは--」
その三人とは言うまでもなくクローとその愉快な部下たちにほかならない。
「前からの"かり"を返そうと思ってね……フフフ……」
ゾクッとアイス以外のその場に居合わせた全員が彼女の笑みに体を震わせた。その場から早急に切り上げたほうがいいと思いリーフ達は村を離れていった。
「さーて……あんたたち?覚悟はできてるかしらね?」
『は……はい……』
アイスの目がキラーンと妖しく光る。
--リーファイ基地外--
「何?私に修行見てもらいたい?」
遡ることリーフがマッハに連れられて吹雪の島に向かっている時のこと。マグマラシを後ろに連れていたマントを装着したキモリ--グラスが驚いた様子で口を開ける。
「はい……」
意気消沈した様子で口を開くマグマラシ--ファイア。彼の脳裏にはあの英雄祭のことがずっとよぎっていた。
「なぜ?」
短くグラスは口を開ける。ファイアはそこから口を開けた。自分がパートナーよりずっと弱く彼女と助け合える存在に成り得ないと思っていたこと。あの事件の時、自分は結局何もできなかったこと。と、彼が悩んでいることを全てグラスにぶつけた。
「ふむ……、なるほどな」
面白いと言わんばかりに笑みを浮かべるグラス。
「いいだろう。だが私はやるからには徹底的にやるぞ?」
「あっ……はいッ!ありがとうございます!」
「それじゃ……しっかり捕まってろよ?」
「えっ……?」
すっと唐突にグラスがファイアを後ろから抱きかかえた。あまりに唐突なことにファイアはあわてふためく。
「ちょ///……グラスさん一体なにを////」
「何も糞もない。私が修行するにはうってつけの場所に連れていこうとしてるだけだ」
『ちょっとまったーッ!』
小生意気な声質。ウォーターが制止をかけた。
「なぁ、グラスのじいさん。ファイアを修行つけるんだろ?俺も連れてってくれ!」
「ファイアよ。なんだこの失礼なカメールは」
「すいません……ぼくの兄です……一応」
初対面から失礼な口調のカメールにグラスも余りいい気分ではなさげ(尤も彼もヒトのことを言えるほどの礼儀はないが)
「おいファイア!一応ってなんだ一応って!」
「それでファイアの兄よ。一体私に何のようだ?」
「決まってるだろ?アニキであるオレも同伴させてくれ!」
「断る」
同伴とグラスに耳に届いた瞬間の即答。"なんでだよ!"と激昂。
「私は礼儀のならん奴は嫌いだ」
(ムカッ!)
どっちもどっちとはよくよくいったものである。かたや大人げないともいえるグラス、もうかたや年上相手に思い切り失礼な態度のウォーター。ファイアにはこの光景は見苦しいの一言が思いついた。
「(チッ……)グラスさん……オレも弟の付き添いに来てもかまいませんか……?」
「……仕方ないな」
承諾こそはされたもののファイアのときとはえらい態度の違い。ファイアの目にはこの二人がとてもいい関係が作れるようには見えない。
「さて、ファイアについでにウォーター。私につかまれ」
「はい」
「どーゆこと……ですか?」
ファイアもウォーターもグラスが空を飛べることを知らない。二人はうやむやな気持ちで彼の体を掴む。
「しっかりと捕まってろよッ!」
勢い良くそう叫ぶとグラスの羽織ったマントが羽に変化。勢い良く羽ばたいて三人の体が宙に浮いた。