第二十八話 助け船
--「てーへんだ!てーへんだ!あいつらがダンジョンで倒れただと!?」
マッハポケモンという名目にふさわしいスピードで辺りを駆け抜けるのはガブリアス--マッハ。彼の仲間のゲンガーとハッサムが自分を置いて"吹雪の島"と呼ばれるダンジョンに向かい、そして冒険に失敗したという知らせを彼は知らされた。彼は仲間達を助けようと必死に走り回る--
--が、ふと彼はそんな足を止め、首をひねった。
「しかしどうしようか?あんな辺境の地に俺一人で行けるのかどうか--」
「--はーい!いらしゃい!いらっしゃい!」
「ん?」
唐突に響いた客引きの声。マッハが振り返った先にはテント下にて、福引きを運営しているシャンデラとカポエラーの姿があった。シャンデラはハンドベルでカランカランと音をたてている。
「なっ!三等の景品が"吹雪の島"行きのチケットだと!?」
(--様……。本当にこんな作戦が成功するんですか?)
福引きの商品に食いついたマッハを見てシャンデラ達は彼に悟られないようにほくそ笑む。しかしカポエラーは不安なのかシャンデラに耳打ち。
(心配いらないわ。このガブリアスを利用して"あの子達"を吹雪の島へ連れていき、そして誰の助けもなくなったところを仕留める!私の計画に狂いはないわ)
「--でもよくよく考えたら俺、福引き券持ってねーや……」
『----!!』
がっくりとうなだれるマッハを見てシャンデラは慌てて彼を引き止める。そんなシャンデラを横目に隣でカポエラーがため息をついている。
「ちょっと待ちなさいおにーさん!特別サービスよ!一回だけただで引かせて上げるから!」
「--ホントか?!」
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「よし!」
気合いを入れて、福引きをまわそうとするマッハ。カラカラと音を立てて回されて出てきたのは、真っ白な玉。俗に言うはずれだ。
「あーらー、残念ねぇ。ハズレのたわしよ」
「ちぇー」
(って!なんでわざわざハズレ入れるんですか!)
ハズレを通知するシャンデラにカポエラーがマッハにまで聞こえそうな声量で突っ込んだ。
「ちょっとまったーッ!もう一回だけ引かせてあげるから!」
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「今度こそ引いてやるぜ!」
同じように勢い良く福引きをまわす。次に出てきたのは金色の玉。
「おめでとーッ!一等のトレジャータウン3泊4日、二名様への旅行券よーッ!」
「おおおおおおおおおぉぉぉッ!」
「って!だからなんでわざわざ一等までいれるんですか!」
時事ネタにしてもちと遅い。
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と、マッハが三等を引けずにいること7回目。
「いよっしゃああああああああああああああああああああああああぁ!」
無事(?)にマッハは三等の"吹雪の島"行きの船のチケットを入手。嬉々として彼は船着場への地図を手渡され、その場をさっていった。そして彼が去ってのこと--
「よしよし。なんの問題なく彼らを"吹雪の島"という名の地獄への片道切符を渡せたようね……」
「"なんの問題もなく……" じゃありません!
どこの世界に7回もただで引かせる福引きがあるんですか!あのガブリアスの間が抜けていたからよかったものを!」
カポエラーがシャンデラに問い詰めるように怒る。シャンデラは鬱陶しそうにカポエラーから目をそらす。そんなシャンデラに引き続いてシャンデラに説教を続けた。
「…………」
そんな二人を睨むように隠れて監視している一人のポケモン。そのポケモンはシャンデラ達の姿を確認するやいなや、マッハのあとを悟られないように追っていった。
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「スパークさんが倒れた!?」
--慌てた様子でルッグの口から知らされたこと。それはスパークが倒れたとのことであった。突然の知らせにリーフの顔に動揺がうかがえる。
「急ぎましょう!」
と、言葉とは裏腹に足が遅いリーフと素早さが遅いズルズキンのルッグだ。帰還するまでに相応の時間がかかったのであった--
-- 十分後 リーファイ基地 --
「スパークさん!」
バタン!とリーフによって、けたたましく扉が開かれた。扉の先にいたのはリーフにとって見ず知らずのジャローダの姿のみ。そしてジャローダが優雅に椅子に腰掛けて紅茶を飲みふけってる(それもリーフが普段使ってるカップで)。
「あ……あなたは!?スパークさんはどこ!?てゆうかなんであなたわたしのカップ勝手に使ってるの!?
あと……やっぱいいや」
これには流石のリーフとて頭に"?"が浮かぶ。マシンガンのごとき質問を飛ばしまくる。
「そんなにいっぺんに答えられないわよ……」
「このヒトは救助隊の方ですよ。ラックさんとグラスさんのチームに所属している」
「えっ?そうなの!?」
ブラザーズの単語。それはリーフを安堵させるには十分なものであった。このチームには優良な医師がいる。それだけでも十分であった。
「そっ。それであたしは救助隊ブラザーズ所属のジャローダのリンよ。よろしくね」
「リ……リーフです……。よろしくお願いします……」
やたらと馴れ馴れしい口調のこのジャローダ--リン。リーフもこんなときに似つかわしくない彼女の口ぶりに戸惑いを見せる。
「それで、スパークさんはどうして倒れたんですか?」
「スパーク……あのピカチュウのおっさんね。なんでも帯電状態になっていたそうよ?」
「帯電状態?」
「電気タイプのポケモンが時折なるんですよ。体に許容範囲以上の電気を溜め込むことで高熱を出したりと……厄介な症状らしいですよ」
ルッグの口からはブレインらしい解説がなされた。リンからも"そうそう、それそれ♫"とニコニコしながら首を縦にふる。
--ガチャリ
スパークの寝室から白衣をきたラグラージとラグラージの手下のようにへらへらと笑っているカメールの姿が。
「それで……どうだった?」
「大丈夫だ。二三日寝てりゃすぐによくなるだろう」
ラグラージ--ラックの口からはスパークの無事が知らされた。リーフとルッグはほっと安堵を浮かべ、ウォーターはラックに気持ち悪いほどの笑みで気持ち悪いほどのボキャブラリーでラックを賞賛し、気持ち悪いほどしっぽをぶんぶんと振っていた。
「ラックさん!本当にありがとうございました!」
「いいってことよ。んで報酬の代わりっていっちゃなんだがよ……」
頭を下げ、お礼を述べるリーフに対してラックは若干バツが悪そうに口を開ける。
「"吹雪の島"って知ってるか?俺達は本来はあそこに向かおうかと思ってるんだがよ--」
「吹雪の島って……なんでわざわざラックさん達がそんなとこ向かおうかと思ったんですか?」
リーフ達でさえ滅多に耳にしないウォーターの敬語でラックに尋ねる。
「あそこの最深部には、万能薬と呼ばれてる薬草があるのよ。あたし達も医者としてその薬草は気になるでしょ?だから行ってみようかと思ったんだけど--」
「あのピカチュウのオヤジさんが倒れたろ?医者としてもそうだがリーファイよ、
一度はうちのバカキモリが世話になったお前さんの仲間を放ってまでいけねぇだろうよ?だから--」
後ろでウォーターが"流石ラックさん!医者の鏡っす!"と誰も聞いていない賞賛の声がなされるなか、リーフはというと--
「わかりました!それじゃスパークさんの治療費としてその薬草をとってきます!」
「そうか。済まないな。リン!」
リーフの賛同にラックはニッコリと笑みを浮かべる。そして彼の隣にいたリンの名を呼ぶ。
「この嬢ちゃんを吹雪の島まで案内してやってくれねぇか?俺とこのカメールの坊主とズルズキンの兄ちゃんはあのオッサンを看てるからよ。お前さん、"吹雪の島"に行きたかったろ?」
「任せといて!それじゃリーフちゃん!行くわよ!」
と意気揚々とリンはリーファイ基地をあとにしようとする--
「ちょっと待ってリンさん!」
「何?」
リーフに呼び止められる。
「"吹雪の島"ってここからめちゃくちゃ遠いですよ?どうやって行くんですか?」
「そっか……。どっかに船を出してくれるヒトとかいないからしらね……」
と二人が頭を抱えていたそんな時だ。
「リーフー吹雪の島行こうぜー」
『いた!』
待ってましたと言わんばかりのガブリアス--マッハのご登場。
「ちょっとそこのフカヒレ!それで本当に"吹雪の島"に行けるんでしょうね!冗談だったら食うわよ!」
「ほ……本当だってば……!(なんだこのジャローダ……滅茶苦茶こえぇぇぇ!)」
あまりに都合が良すぎたのかリンは悪戯かと思い込みマッハを睨みながら問い詰める。マッハはリンに怯えながらもチケットを見せ、冗談ではないことをなんとか証明する。
(--なんか知らないジャローダが入ったけどまぁいい!こいつらも来てくれればあいつらを助けられるだろうしな。待っててくれよ!)
突発的に表れた文字通りの助け舟によりリーフ達は"吹雪の島"行きの船へと足を運ぶのであった。