ポケモン不思議のダンジョン 葉炎の物語 〜深緑の葉と業火の炎〜









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第一章 英雄祭編
第七話 お祭り
※食事中の閲覧非推奨


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「ノコタロウ!!いるの!?いるなら出てこい!お前は完全にわたしによって包囲されている!」

ノリが完全に悪ノリと化したリーフは部屋の主がいると思われる部屋へと突撃するように入っていった。



バタン!!


「うわああぁっ!!」

驚きの声をあげたのはマグマの体をしたナメクジのような風体のポケモン、マグマッグだった。だがマグマッグはリーフの姿を確認するや否やマグマッグらしからぬ猛スピードでリーフによって開けられた扉を閉めた。


--しばらくして扉が再び開いた。そこには先ほどのマグマッグが殻を装着した姿でコホンと咳払いをしながら出てきた。リーフはそんなマグマッグを見て”はぁ”とため息をつく。

「全く何をやっていたのよノコタロウは」

訂正を加える。マグマッグではなくてマグカルゴだった。リーフにノコタロウと呼ばれたマグカルゴは指摘されてバツが悪そうにする。ノコタロウは--おめぇのせいだろ、と反論する。

「ちょっと殻を着替えていただけだ!!着替えの最中に覗くんじゃない!!このスケベ!!」
「えぇっ!!それ服なの!?」
「殻はカルゴ族にとっては服みたいなものなの!!ところで何の用だ?」

話がそれたことに気にかけノコタロウは話を元にもどし、なぜ自分のところに訪れたのか。

「ノコタロウはこれでも研究所持っているからわかるよね……?








ポケモンが別世界から来た原因ってのは」

リーフの口から発せられた言葉。それはフーディン、ケンタロス、ナッシーが自分達の世界とは違うところからやってきたことに他ならない。ケンタロス達の言動から彼女はそう察したのだ。リーフは今までのいきさつをノコタロウに話す。

「成程……。確かに別世界にもポケモンが存在する……」

そのあとにノコタロウはでも……と続けた。いつの間にか入ってきたフーディン達もリーフの後ろで話を聞いていた。

「そこのフーディン達にはこの世界の多くのポケモンや技を知らないんでね。そこのフーディンさんよ。お宅はこのノコタロウの種族はご存じ?」
「へっ……、いやぁ、見たこともないんですが……。てかケンタロスとナッシー以外は誰なのか種族すら……」
「それじゃもひとつ質問。お宅”気合玉”って技使えます?」
「ほえぇっ?何その技?」

知能指数をゆうに5000を越すフーディンがこのありさま。パワフルズは無知ともとれるフーディンに驚きを隠せない。そんな2人をフォローするようにノコタロウは続ける。

「こゆこと。つまり彼らの世界ではそんな技はないってこと」
「うん、ケンタロス達もわたしの姿を見て種族すら分からなかったからね……」
「付け加えると彼らの世界では同じ種族で同じようなレベルも全然能力に差がでることが多い。例えて言うならあちらのケンタロスが特殊攻撃が強いってとこか……」

フーディンが知らないのは単なる無知ではなく、彼らの世界では存在すらしないもの。ノコタロウはこう結論づけた。

「ただ本来はこっちの世界と彼らの世界は決して交わることはないはず……」
「原因は何かわかるの?」

頭をかくノコタロウにリーフが尋ねた。交わることのない筈のポケモンがなぜこの世界に来たのか。少しばかし彼女は嫌な予感が脳裏によぎる。

「詳しいことはわからん。だが、なんらかの仕業と考えるのが妥当だな。








……っとそうだ忘れていた」

話を続けるノコタロウだが突然話をそらした。いきなり机の上にある封筒に手を伸ばす。

「以前ルッグがお嬢様方の依頼を受けた時の報酬がなんでだかこっちに届いたんだ。渡してもらえるか?」
「いいけど……。なんだろこれ?」

興味深い様子で封筒に手をかけるリーフ。ルッグに渡された筈がどういうわけか彼女が勝手に開封した。

「あっ!!これってトレジャータウンへの連絡船のチケットじゃないんですか!?」
「とれじゃ〜たうん?」

聞いたことのないワードのリーフは間の抜けた声で復唱する。そんな彼女にリツキが簡単にトレジャータウンについての説明を入れた。

「まっ、報酬だから渡しておいてくださいな……。例の渦についてはこっちでも調べておく……。





ん?なんだろ……」

ガコンという音が玄関先から発せられノコタロウ達の耳に入る。よっこらしょと重い腰をあげながらノコタロウは玄関先へと向かう。飛び去っていく郵便カバンをかけたペリッパーの姿を確認。ペリッパーが投げ込んだであろう一通の手紙が郵便受けに入っていた。

「なになに!?この手紙!?結婚式の招待状!?」
「んな訳あるかっての……どれどれ……」

結婚式=ご飯食べるという謎の方程式を確立させたリーフにノコタロウが諌めの言葉を発し、手紙に目を通した。後ろでリーフが興味津津とした様子で後ろからのぞき見をする。



 〜案内状〜

今年もやります!“英雄祭”!
トレジャータウンが総力をあげて主催するタウン全体のお祭りです!!
露店、屋台など盛りだくさん!!
祭り最大の目玉であるバトル大会ももちろん開催!
老若男女どなたでも、どしどしご参加ください!!



「トレジャータウンでお祭りねぇ……」
「お祭り!!屋台!?露天!!バトル大会!!?」

目をキラキラと輝かせてノコタロウから案内状をひったくる。祭りよりも食べ物がメインであることは最早言うまでもなかろう。そんな彼女を見てわかってはいたがノコタロウははぁとため息をついた。

「まぁチケットあるからいってきなはれ」
「ノコタロウは?」
「この三人を元の世界に戻す機械作ってみるよ。へいパワフルズ」

ノコタロウに名を呼ばれてびくっとなる、ぞくに言うきょどる態度をとる2人。

「ちょっと人手が足らないから手伝ってくれ」
「な〜に、それならスターミー連れてくればいいんじゃないの?」
「ヒトデじゃない!!人間の手が足りないってんの!!」
「人間なんていないし」
「だ〜か〜ら!!たとえだ    た    と    え!!」

くだらないやり取りがしばし続いた。




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「な……なんだとおおおおおおおおおおぉ!!」

チケットと祭りの案内状を手にして帰宅したリーフ。パワフルズがいないことと祭りの案内についてメンバーに話たのだが、最初に発せられた声は喜びや驚嘆とはかけ離れたものだった。

「ふざけんじゃねぇこの野郎!!なんで俺様だけが留守番しなくちゃなんねぇんだ!!」

血相を変えて文句を言うのはウォーターだ。足の怪我など露とも知らずにリーフの胸倉を掴んで食ってかかるも怪我もあってか簡単にあしらわれる始末。

「俺が留守番って冗談じゃねぇ!!普通じゃんけんだろじゃんけn……うごぉっ!!」

猛烈な勢いで食い下がるウォーターに鉄拳が飛ぶ。それを証明するように頭にそれは大きな大きなたんこぶができた。

「不注意で怪我はするわ、兄弟げんかを嗾(けしか)けて他人に迷惑をかけるあんたは連れていけるわけがないでしょ〜が。罰として留守番してなさい」
「なんだと!?大体リーダーでもないお前が偉そうに指図するんだ!!しかも喧嘩両成敗だろ!!ファイアにも罰として留守番させろ!!」

リーダーでもないルッグが留守番を命じたことによってウォーターの怒りは沸点をこした(といっても元の沸点が低すぎるためにとっくに越してはいるのだが)

「そうだよね。ふつ〜はリーダーが決めるものですよね。でも、


こ〜んなリーダーが決めていいと思いますか?」

ルッグが指差した先、そこには目を輝かせて食べ物の想像を張り巡らせるあまり周りが見えていないリーダーの姿があった。







--このリーダー、だめだ……。







メンバーのだれしもがそう思ったのだ。

「元々の喧嘩の原因はあんたがバカみたいに騒いでそんで文句言われても一言も謝りすらしなかったんですから、あんたの方が一層悪い。これくらいの罰は当然です」
「うぬぬぬぬっ……」

ルッグの言っていることに間違いはない。だからこそウォーターはよほど祭りに行きたかったのか反論できずに唇をかみしめて苦い表情を浮かべてのだ。渋々留守番と言う名前の罰を甘んじて受けることに。

「さて、リーフさん。号令を……」
「まず焼きそばから入って〜。その次はオクタン焼きを二つほど食べた後に〜。リンゴ飴から入るのもいいな〜」

ルッグがリーフに号令を求めるもこのありさまである。しばらく沈黙が生じたあと……。






スパーン!!






『それでもリーダーかあああああああああぁっ!!!』

四人分のハリセンがリーフの頭に炸裂した。






「ちっくしょ〜!!こうなったら!!」

たった今留守番を命じられ、ただ一人基地に取り残されたウォーター。無論他のメンバーは彼をとり残してトレジャータウンの祭りへと行っている最中だ。しかし当たり前だが留守番に納得できない彼の考えは……。

「よしっ!!」

どこかで見覚えのあるコスチュームだ。これを見てピンときたかたも多いのではないだろうか。いや、むしろなんだか気がつくほうが自然であるかもしれない。そして彼が取り出してのはそれだけではない。何か別のものをもとりだした彼は一旦自分の部屋に入っていく。











「こちらレッドだ!今からトレジャータウンへ出動するぞ!!」

そう言い残して部屋から出てきたのはイロモノコスチュームを身の纏ったカメール、通称ターマンレッドだ。誰かが見ていないにも関わらず謎のポーズを決める。

「成程……そういうことでしたか……」
「……んそうだ!!そういうことだ……?





ってうあわああああああぁっ!!」

誰かが見ていないのところは見ていないと思われるに変更する。勢いよくポーズを決めたのはいいがそこには鬼面に近い表情を浮かべたズルズキンが立っていた。その表情を見たレッドか尻もちをつきガタガタと震える。

「わわわわわわわわわ!!ごめんなさい!!ごめんんさい!ごめんなさい!!」

全力で土下座をするレッドに対して怒りの表情を続けながらレッドを睨めつける--だが……。

「……っぷ……。あ〜はっはっははっはははははは!!リーダー!!怖がりすぎよ!!」
「な、なんだぁ?」

今まで恐ろしい形相でレッドを睨めつけていたこのズルズキンであったが急に声をあげた笑いはじめただはないか。その代わりっぷりに一瞬はあっけにとられた顔をするも明らかに様子のおかしいズルズキンに疑いのまなざしをかける。

「はははっ!!あ〜リーダーの慌てっぷりったらもう最高っ!!」
「ああああああぁっ!!お前!!」

ズルズキンらしからぬ高い声をあげる目の前の相手にウォーターは疑いから少々怒りのこもった声を出した。

「あ〜面白かった〜。リーダー、わたしよわたし」
「ホ……ホワイト!?」

ズルズキンの頭が抜けた。というよりはズルズキンのきぐるみの頭部がとられたのだ。きぐるみから現れたのは彼の知るマスクをつけたキルリアの姿が。

「お前、質の悪いいたずらはやめろっての!!ったく……。





んで他の面子は?」

落ち着きを取り戻したレッドが見る限りキルリア以外の面子はいない。まだついていないのだろうと思いながらレッドは尋ねる。

「あぁ、他のメンバー?それだったら……」
「……?」

何か奥歯に引っかかるような言い方に首をひねる。来ていないならそう言えばいいものをなぜかハッキリといわない。--なんでだろうか?と少々疑問を抱きつつもキルリアのホワイトに先導されついていくことに。









『はぁ〜……』

ご丁寧に座布団まで敷きヒトの部屋で勝手にお茶を飲んでいる青いコマタナ、ナットレイ、そしてマニューラがいたのだった。指令があって(どういうわけか)すぐにたどりついたにも関わらずこの四人はいたずら及び休息を優先したのだとか。

「なにしてくれてんだおめぇらああああああああああああああああぁっ!!」

当然だがのほほんとお茶を、それもヒトの部屋で飲んでいてキレないほうがおかしい。レッドも三人に向けて勢いよく怒声を飛ばす。

「いや、ホワイトがちょっとリーダーにいたずらするから待っててっていいやがっからよ」
「何か面白そうだからってさ〜」
「…………だそうだ。しかし中々のビビリようだったな」

普段は”くだらん”の一言であしらうであろうマニューラことブラックも口元を釣り上げて嘲笑を見せる。よほどホワイトのいたずらが気にいったのだろう。

「う……うるせぃ!!いいからターマンマンズ出動するぞ!!」
「へっ?どこへ?」

妙なリーダーのテンションとは裏腹に特にこれといった事件もなさそうなのに出動と言い張るリーダーに間の抜けた声をあげるナットレイのグリーン。しかしレッドは謎に近いテンションを保ちつつ続ける。

「トレジャータウンというところにバトルもある祭りがあるそうだ。それを我々が殴りこみに行こうというわけだ!!どうだぁ!!」
「うおおおおおおおおぉっ!!」
「祭りぃ!?」

この手のものに食いつきそうな青いコマタナ、ブルーとグリーンは歓喜に近い声をあげた。対照的にホワイト、ブラックは無表情を貫く。

「そうだ!てことでしゅっぱ〜t……」
「勝手に決めるなあああああぁっ!!」

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「おおぉぉ〜!!」
「流石豪華客船だねぇ〜」
「えぇ!?業火客船(そんなの)すぐ沈没するんじゃないの?」
「だから意味が違うっての!!」

船に乗り込んでから早速リーフのボケが炸裂しファイアが突っ込む。既に見慣れた光景に特にルッグもスパークも呆れることもせずに自分達に与えられた客室を見回す。


バタン!!



『--!?』

唐突にけたたましく扉が開かれた。一瞬は敵襲かと構えるが扉から現れたのはそれとは考えられにくいポケモンだった。帽子をかぶった首長竜に近い風体のポケモン、ラプラスが扉をあけるや否やリーフに慌てた様子で口を開いた。

「お願い!!ちょっとかくまってもらえる!?理由は後で話すから!!」
「え……えぇ?」




ガチャ!!バタン!!



了承を得る前にラプラスはその大きな体を手なれた様子で小さく折りたたみ客室にあった棚に収納させる。ラプラスが隠れきったころを見計らったようにまた別のポケモン、ピクシーが現れる。ラプラスを追いかけているのだろうか。

「あぁ、すいません。ここに帽子(・・)をかぶったラプラスを見かけませんでしたか?」

ピクシーは帽子の部分を強調しながらリーフ達に尋ねた。ラプラスからの視線(プレッシャー)を感じたのかルッグは一度は迷うも口裏を合わせることに。

「帽子をかぶった?うぅ〜ん、そんなヒト見たことないですね……」
「何があったんですか?帽子とられたとか?ちゃんと帽子の盗難を防止しとかないと」
『…………』










--少々お待ちください




「そもそもラプラスがここにいるならこんな部屋には隠れきれないんじゃないですか?
「……見てなさそうですね。失礼しました。では」

残念そうにピクシーは部屋を去っていった。扉を閉め、徐々に小さくなっていく足音を聞いてラプラスはかはぁっ!!と苦しそうな息を吐きながら棚から出てきた。やはり窮屈なのだろう。

「たすかったわ〜、ありがとうね!!」
「は……はぁ、しかしあんたは一体?」

初対面ながらこのラプラス、良く言えば随分フランクな、悪く言えばかなり慣れ慣れしい態度で接してくる。そんな態度にスパークもたじたじ。

「あたし?あたしはアイスって言う名前、種族は見ての通りラプラスよ。よろしくね」

アイスと名乗るラプラスが相変わらずの態度で自己紹介。そのテンションにスパークもついて行けない様子。

「へぇ〜、お米が好きなんですね」
「だ〜れがライスよ!!アイスよ!!ちゃんと覚えときなさい!!」
「せ〜ん〜ちょ〜……」

名前を間違えられて怒るライス……もといアイスだがその声が聞こえたのか彼女の背後で低いトーンの声が響いた。怒っていたアイスも態度を一変させて恐る恐る後ろを振り返る。

「あっ……」
「やっぱりここに隠れてたんですね船長。さっ、早く船長室に戻ってください」

あきれ果てた様子で声の主--ピクシーはアイスを船長と呼ぶ。

「せ、船長……?」
「そうです、この方はこれでもこの船の船長なんですよね。……おかざりみたいなもんですが」

これでもとか、おかざりとか散々に船長をけなすピクシーにリーファイ一同は若干引き気味。船長のアイスも”どういう意味よ!”と怒りをあらわにするもピクシーには軽くいなされる。

「嫌よ!!大体あんなところにいたって退屈なんだもん!!そんなに部屋にいてほしかったら副長のあんたがなんか退屈にならないもの考えなさいよ!!」
「大体この仕事は道楽じゃないんですから……。船長がぶらぶら離れられたら困るんです。さっ、部屋に戻ってください」

かたや大声で、かたや冷静……というか冷たい態度で言い争う船長と副長。しかしアイスは何かに気がついたのかはっと気がついた様子で--

「(そうだっ!!)さっきね!!この子たちがあたしに船の中案内してほしいって言ってたのよ〜!!だからちょっと案内してくるからいいでしょ?」

当然だがリーフ達は案内をしてほしいとは一言も言っていない。よほど部屋に戻りたくないのだろうか苦し紛れについた嘘であることは明白であった。

「はぁ……仕方ないですね。終わったらすぐに戻ってきてくださいよ」

だが心が折れたのかピクシーはあきらめて去っていった。無論彼も”戻ってきてくださいよ”のパートに期待するはずもなく案内が終わり次第すぐに連れていくつもりだろう。

「何勝手に決めてるんですか……」
「ごめんごめん!!後でうちの船上レストランに案内するから……」
「しゅっぱ〜つ!!」
「おぉ〜っ!!」

意気投合したのかリーフとアイスは部屋を出て船内を散策することに。

「……あの二人だけじゃ不安だから僕も行ってくる……」
「頼んだ……」
「頼みました……」

--ファイア(君)一人じゃ無理だ!!心中ではそう思ってはいたもののあの二人のテンションについて行ける気がしない2人は部屋で留守番をすることに。




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「へぇ〜リーフちゃんって探検家なの!?」
「うん、そうだよ〜」

すっかり意気投合した二人は後ろでついていくファイアを思い切りスルーしつつガールズトークに花を咲かせる。体格的にも性格的にも似通っているだけにファイアの入り込む余地は皆無であった。

--ついてくるんじゃなかったかも……。彼はこうして後悔していったのだ。

「まずここが甲板ね」
「”あぁ災害が起こった時の食料でしょ〜”とか言うんでしょリーフ?」
「そんなこと言わないわよ!






宣伝とかする大きな板のことでしょ?」
「乾パンでも看板でもないってば!!」

ファイアに自分の口調を真似ながら先にボケを言われてしまったがすぐさまボケを続けるリーフ。そんな2人に突っ込みを入れるもすぐさま青空に視線を向ける。そして--

「こうやっていい天気の時に甲板で昼寝するのが最高なのよね〜……」

ゴロンと音を立ててアイスは太陽光線の当たる甲板に横になった。つられてリーフやファイアも横になった。

「あぁ〜気持ちいいぃ〜……」
「ほんとだね。こうやってたら心が洗われるようだよ……」

ほどよく温かい日光にそれによって暖められた甲板は三人の睡魔を促進させるには十分すぎた。次第に重くなる瞼に身を任せて眠りに陥る……。







ジャカジャカジャカ!!

と、思われたがいきなりブラシを床がこすれ合う音が耳に飛び込んできた。その音で三人の睡魔が一気に吹き飛ばされる。

「船長!!また部屋を抜け出すのは勝手ですけど掃除の邪魔しないでくれませんか!!!」

上からブラシを所持した船員の中年のキバニアがアイス達に怒鳴りつけた。ブラシのほかに水が入ったバケツ等も所持されている。

「あぁ〜ごめんごめんヘルニア」
「キバニアです!!誰が持病ですか!!とにかく邪魔するんだったらさっさと部屋に戻ってください!!」
「はいはい、行きましょ2人共







……おケチ腰痛魚……」

本当にこのキバニアがヘルニアを患っているのかは謎である……。


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「さってと、お待ちかねの……」
「おっ!?」

甲板から離れて船内へ戻った三人。しばらく船を案内していたアイスだがピタリと足を止めた(ラプラスに足と呼べるものがあるのかは不明だが)は含みを入れた笑みを浮かべた。一方のリーフも期待を込めたまなざしでアイスを見つめる。

「これが我が船自慢の船上レストランよ!!」
「おおおおおおぉっ!!」

パーティでも開いているのかと思われるほどの大規模なレストランにリーフだけでなくファイアも目を輝かせた。そしてこの船のチケットを自分達に渡してくれたキュウコンお嬢様に今一度感謝していた。

「でもさリーフ、この後また食べるんだから押さえておいたほうがいいんじゃないの?」
「ほぇっ?」

時すでに遅し。リーフは既に食事にがっついていた。しかしアイスはそんなリーフに呆れるどころか笑い飛ばす始末。無論ファイアは頭を抱えていた。

「ねぇねぇせんちょ〜。ドリンクバーとかない?」
「ドリンクバー?それだったらあっちにあるわよ」

ドリンクバーの場所を聞いた直後にコップを片手にドリンクを一気飲み。傍から見ればかなり飲みっぷりはよかった。







--しかしすぐさまそんな幸せそうなリーフの表情が変化。それを見たのかアイスの顔つきも変貌する。

「あっ……」
「どうしたんですかアイスさん?」

--何かうっかりして大事なことを忘れたんじゃないか?そう直感で感じたファイアは恐る恐るアイスに尋ねた。

「ごめん……そこは確か甲板の床用ワックスだったわ……。ドリンクバーはあっち」
「----ッ!!」

床用ワックス。そのワードはリーフの顔がフリージオやオニゴーリを超越するほど真っ青にするには十分すぎた。そして声にならない奇声を発しながら顔のみならず普段の緑色が生気のない青色へと変色する。








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「はぁ……さっき走馬灯が見えたわ……」
「ったく……食い意地を張るからだよ……」
「うぅっ……。何で床用ワックスがドリンクバーに置いてあるの!!」

普段怒ることは少ないリーフもこればかりは耐えられず怒りをあらわにする。しかしファイアの言うとおりリーフにも責任はあるはずである。

「流石にしばらくは食欲ないわね……」
「それでいいよ……ったく」

ワックスをすぐに吐き出したとはいえ一瞬でも口に含んだため流石に食欲を減衰させたようだ。これがしばらく続けばいいのにとファイア談。

「船長!!」
「な、なによ!!まだ案内してないんだから戻らないわよ!!」

後ろから呼びかけるピクシーに対してさながら遊んでいる最中に親に連れ戻される子供のような言い草である。

「違います!!非常事態です!甲板に不法侵入者です!!!」
「なんですって!?」

不法侵入者。その言葉を聞き、アイスは厳しい表情をへと変貌させた。ピクシーの表情はいささかうろたえが覗かせられる。

「ど、どうしましょう船長!?今すぐに甲板へ向かったほうが……」
「落ち着きなさい!!それよりもまずは乗客の安全最優先よ!!あなたは船内の乗客の誘導をなさい!!」
「せ、船長は!?」

いつもの子供のような態度を一変させ厳しい口調で指示を出す。焦っていたピクシーも立場云々ではなく反射的に彼女の言うことを聞いていた。

「あたしはその不法侵入者をブッ飛ばしに行くわ。リーフちゃん達もここは部屋に戻っていて」
「待って!!わたし達も行く!!」
「ダメ!!船長として船上で客を危険に巻き込めないわ!!」

あくまでも自分だけで行くとの一点張り。しかしリーフも黙ってはいない。


「そ、それって……」

いや、黙ってはいた。しかし彼女たちは自分の誇りでもある探検家バッジを見せつけた。

「もし船長に万が一のことがあったら誰がこの船を守っていくの?わたし達もついていくから」
「そうです。リーフはそう簡単にくたばるような奴じゃないですよ」
「……な〜んか引っかかるんですけど……」
「……わかったわ。お願いするわね……」

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「アクアテール!!」
「ぐっ!!」


既に甲板では不法侵入したと思われるポケモンが船員のキバニアをアクアテールで吹き飛ばした。既に甲板には三つ程の大きな穴や攻撃によって叩きつけられたキバニアのたたきつけられた跡によってそれなりに損傷を起こしていた。

「全く!!一体全体どうなっているのだ!!」
「分かりませんよ!!ただ吹き飛ばされた先にこの船に不時着して……」
「このキバニアが問い詰めてきたことくらいしかわかりまへんで……」
「ちょっとあんた達!!」

不法侵入者らしき三人組のポケモンに下から怒声が発せられた。声の主のほうへ振り向くとラプラスとメガニウムとマグマラシの姿があった。三人組のリーダーらしきポケモンがラプラスの後ろのメガニウムを目にすると--

「ああああああぁっ!!お前は!!」
「あぁっ!!もしかして……」
「し、知り合いなの?」
「えぇっと……どこかで会った気がするんだけど……。





忘れた」

一度会ったようなそぶりを見せるもリーフは忘れたと言い張る。三人組はずっこけた。

「おいリーフよ!!ワシを忘れるとはどういうことだ!!」
「そんなことどうでもいいわよ!!あんた……あたしの船や船員に何やってるのよ!!」

リーフに怒鳴るアリゲイツ、そして背後のハヤシガメ、フシギソウだったが相手にされずじまい。船員のキバニアを抱きかかえアリゲイツ達をどうでもいいと一喝。

「し、知らん!!ワシはただ気がついたら吹き飛ばされてだな……!!」
「いやいや、気がついた体が飛んでたってそんなわけ……」
「大丈夫キバニア?動けそう?」
「は、はい……」

あきれ果てるファイアをしり目にアイスは倒れてるキバニアに優しく声をかけた。キバニアは傷こそはあったが動くのに支障はなさそうだった。

「よかった……。それじゃ今から甲板にいる乗客を早急に避難させて。できそう?」
「はい……」
「お願いね。何か船内であったら連絡いれて」

さっきまでの彼女の子供の喧嘩みたいな口調とはかけ離れたアイスの声にキバニアはよろよろと足取りがいささかおぼつかない足取りにも負けずに甲板の乗客を避難させにかかった。

「クロー達さ……なんでキバニアさんを攻撃したのさ」
「知るか!!あいつが不法侵入とは言いながら攻撃したんだ!!ワシ達は正当防衛だ!!」

クロー。それがこのアリゲイツの名前であった。彼曰く、なぜかこの船に不時着させられた挙句不法侵入者とみなされて攻撃されたのだという。しかし明らかにこんな話に信憑性がなさすぎることは目に見えている。

「そんな幼稚な嘘でごまかせると思ってるの!!素直に不法侵入を認めなさい!!!」
「本当だ!!信じてくれ!!」
「でも船員攻撃したよね?」

一瞬はクローの必死な顔に怒りを解くもリーフが”船員を攻撃”と言った。この言葉を聞いただけでアイスの怒りが再び増幅させられる。--そして……。




「……アクアテール!!」
「ふごぉっ!!」

渾身のアクアテールがクローに直撃。船上からその身を投げだされる。フシギソウとハヤシガメは口を大きく開け驚く。

「絶対零度、氷柱(ひょうちゅう)!!」

叫び声と同時に海中から巨大な氷の柱が現れてきた。その柱はさながら島の如く現れ、次第に船と同等の大きさへと化していく。

「ううぅっ!!寒いっ!!」
「流石絶対零度……」

氷柱が出現したと同時にあたりの気温が一気に下がりリーファイの2人やフシギソウ達も体をガクガクと震わせていた。尤もフシギソウ達の震えの原因は少し違うかもしれないが。

「覚悟なさいね」
「ぬっ!?」

覚悟と言い切ったあたりでそびえたつ氷柱が前触れなく折れてきた。それも空中に投げだされたクローに向かって倒れこむように迫ってくるではないか。慌てるクローだが氷柱が大きすぎるためにハンパな攻撃では軌道をそらすことはできなかった。

「ぬわああああああああああああああああああぁっ!!!」

バシャーン!!と尋常ではない量の水しぶきの大きな音と共に悲鳴が辺りに響いた。氷柱はクローごと海面をたたきつけた。氷柱はそのままクローを沈めるように自身も徐々に海底へと沈んでいきその姿を海面から隠していく。

氷柱の重さに抗えないクローはそのまま海底へと沈められていった。もともと水タイプなので呼吸こそはできても氷柱の衝撃が重く力が入らずに沈んでいった。

『クローさまああああああああああああぁっ!!』

そんな彼の後を追うようにフシギソウ達も海へと飛び込んでいった。


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「なんかあっけない終わり方でしたけどこれで騒動は収まりましたね。僕らついてきた意味なかったけど……。」
「そうね……でもちょっとやりすぎたかも……」

騒動が解決し、船は通常通り運行を再開した。しかし流石にクローが気の毒に思ったのかアイスは自分の行為を振り返る。

「大丈夫だって!クローは生命力だけは最強だからゾンビのようによみがえってくるわよ」

クローのことを知ってかリーフはゾンビと形容した。きっと彼は今頃氷柱から逃れて這い上がってるころだろう。それを知っているリーフは楽観視している。

「そう?じゃあ安心」
「やれやれ……」

 〜〜♪♪

『次はトレジャータウン、幸せ岬。トレジャータウン幸せ岬〜




Next port is treasure town a happiness point.』

船内のアナウンスが聞こえた。

「トレジャータウンって降りるところじゃないの!?」
「おっとそうだった!!」

既にスパーク達とも合流していた。急いで船から降りる準備をする。

「もうお別れか〜。リーフちゃん!!」

唐突にアイスが一枚の紙切れを投げるように渡した。リーフはその紙切れをキャッチし凝視する。

「それあたしの船の時刻表とあたしの連絡先。必要な時はいつでものせてあげるから連絡してね〜」
「本当にありがとう!!」
「あ〜りゃりゃ。これでローブシンさん達に頼む必要なくなりましたね」
「あのじいさんは嫌がってたからこれでいいかもな」



『到着いたしました。お気をつけてお降りくださませ





the ship arrived a point.







please one more chance』

「なんでもう一回やり直すんだよ」

間違った英語でのアナウンスに思わずスパークが突っ込みを入れた。だがアイスはユーモアユーモアと笑っていたが。

「それじゃありがと!!」
「お祭り楽しんで来てね〜!!」

リーフ達は幸せ岬の港にて船を降りた。上からアイスがまた子供のように手を振っており、それに答えるようにリーフも蔓を振る。


「あぁ〜楽しかったな〜」
「船長……これからはちゃんと船長室にいてくださいね……」
「……あっ!!あたしまた船の案内をお客さんに頼まれたんだったわ〜






じゃあね〜……」

明らかに無理ないいわけと共に再び船が出港された後アイスは船長室から逃げ出した。

「待たんかあああああああああああぁっ!!」

ノコタロウ ( 2012/07/16(月) 22:49 )