第六話 異世界の訪問者
爽やかな朝の陽ざし、それが窓越しにベッドで横になっているわたしに向かって燦々(さんさん)と降り注ぎ夢の渦中にいるわたしの目を覚まさせる。
--もう朝か……。
そんなことを漠然と思いながらベッドから降りて居間へと向かっていく。
ドスリと音を立てて椅子に座り机の上にある葉の入った急須(きゅうす)にお湯を入れその後にコップにお茶を注ぐ。これが朝起きてからのわたしの日課みたいなもの。--誰?柄にもないっとか似合わないとかいったのは?こう見えても食べてばかりじゃないからねわたし。
と、話がそれたけど注いだお茶をある程度冷ましてからそれを飲み始める。うん、今日もおいしいな。
大体朝はこんな感じ。ファイアはトレーニングに行ってウォーターはまだ寝ているしスパークさんはほとんど二日酔いでダウンが常。ルッグさんは起きているんだけど大体家事や研究とか探検隊の雑務をしていてまず姿を現さないから朝方はわたしが真っ先に姿を現してこうしてお茶を飲むのが日課。--いつもならね……。
『おはようございます!!』
入口の扉からそれはそれは大きな声が響いた。多分ウォーターもとび起きるんじゃないかって思うくらい。だいたい声の主は予想できる。見てみるとチコリータとリオルが気合の入った様子で玄関前に立っていた。
「お、おはよう……」
とりあえずはあいさつを返したけどその声は彼女たちほどの元気はなかった。すっかり忘れてた……。えっ?何を忘れていたかって?実はあの後ご飯食べてから帰ったあとルッグさんがなぜかこの子たちを連れてきた。そしたらなんだか半強制的にこの子たちに探検について教えてくれとルッグさんに頼まれて……。
それで現状に至るって訳。--どういうことかわからない?文句はノコタロウにいってください。
「さっ!!早く行きましょう!!」
「オイラ昨日は一睡もせずに待っていたんでやんす!!」
一睡も!?子供の遠足の前日じゃないんだから……。とリオルのリオ君がいっていると隣のチコリータ、リツキちゃんが大げさに言っているだけですとフォロー。な〜んだ、そうだったのね。
「それじゃ準備するからちょっと依頼掲示板の前で待ってて」
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「う〜ん、中々ちょうどいいのがないな〜」
サクッと準備をして掲示板前に来たのはいいけど、正直なところちょうどいいレベルの依頼が見つからなくて……。流石に初心者の子達を連れて行くのに高難易度の依頼はねぇ……。
「あっ!!これ面白そうでやんすね!!」
ビリッと音を立てて一枚の依頼書をひったくるようにとるリオ君。えっとどれどれ……。
〜〜 依頼主 フーディン 〜〜
〜〜 内容 救助 〜〜
〜〜 場所 最果て砂漠 〜〜
〜〜 詳細
野生のポケモンに襲われていたらなんか見ず知らずの土地にワープしてしまいました!!誰か〜!!〜〜
ワープ?どういうことだろ?どっちにしても彼が食いつきそうなネタであることはわかった。子供故にこんな依頼を選んだのだろう。さて慎重に依頼を決めていたリーフはというと……。
「うん、じゃあこれにしますか」
い、いいのかよ!! byノコタロウ
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「あ……あつい……」
「あついって……言わないでよ……ったく」
最果て砂漠に来るや否や大汗をかき、苦悶の表情を浮かべる2人。リオに至っては汗がメガネにまで降りかかり視界がほとんど無と化している始末である。
「あっ!!見て!!」
戯言に近い2人の愚痴には聞く耳を持たずにリーフが声をあげた。依頼主らしきフーディンが牛のようなポケモンと木みたいなポケモンと交戦をしている最中だった。
「くらえ!!オレの最強技!!破壊光線!!」
「……!!」
牛の放った破壊光線はいきおいよくフーディンに直撃。そのまま勢いよく吹き飛ばされてフーディンは地に伏した。--間違いない。このフーディンが依頼主だ。そう悟りリーフは止めをさそうと近づいた。慌てた様子で彼女の後ろにいたパワフルズも後を追っていく。
「待ちなさい!!」
「あぁん?」
倒れているフーディンの前に立つリーフに牛の風体のポケモン、ケンタロスは一瞬は邪魔をされたことで怒りを込めた目つきで彼女を睨めつけた。だが次第に彼の(念のためですがケンタロスは皆♂です)表情は意外なものへと変化する。
「な……なんだこのポケモン……見たことがねぇな……」
「なんであろうアルねケンタ君?ワタシこんな恐竜みたいなポケモン知らないアルよ?」
「俺もだ……ってケンタ君って呼ぶな!!ヤシ!!」
ケンタ君と呼ばれたケンタロスに背後にいたナッシーがリーフの姿を見て互いに首をひねる。まるで本当に恐竜を目の当たりにした人間……(とは違うかもしれないが)のようだった。
「は……はぁ……。と、ところで2人して何でこのフーディンを攻撃したの!!」
「はっ!!俺達は攻撃したもなにもポケモンバトルをしていただけだ!!」
「そうそうアル。でもなんか変な渦にワタシら三人は巻き込まれたアル。そしたらそこのフーディンの相方の姿が消えてワタシらは変なところへ飛ばされたアルがね」
ご丁寧にもナッシーが状況の説明をしてくれた。そのあとに--まっいいアルがね。と見ず知らずの環境に飛ばされてもなおバトルに専念するつもりだったそうな。
「と〜に〜か〜くだ!!俺達はバトルしていただけだ!!邪魔すんじゃねぇ!!」
「バトルしていたポケモンが救助依頼なんて出すと思ってるの!!」
「う……うるせぇ!!だったらお前が相手になれ!!ヤシ!」
「わかってるアルよ。サイコキネシス!!」
ナッシーの目が怪しく光りそれを確認したリーフは攻撃に備えて身構えた。
だがいくら待ってもサイコキネシスに襲われる感覚がしない。訝しげな表情を浮かべ、リーフ一瞬構えを解く。
「な、なに!?」
「うぐっ……動けない!!」
背後から聞こえた苦しそうな声。そこにはパワフルズの周りに怪しげなオーラに包まれているところであった。経験からリーフはナッシーのサイコキネシスがこの二体にかけられたものだと推測する。
「そこのボーヤ達はワタシの目から見て経験不足アル。恐竜、あんたがワタシらの相手をするアル」
「成程……実力はそれなりにあるってことね……」
相手を見ただけでその力量がわかる。そのスキルは戦闘経験によって自ずと蓄積されるものだ。--この二体は確実に強い。そう感知したリーフには額に汗をにじませる。
「行っくぜええええええぇっ!!吹雪!!」
ケンタロスの口から勢いよく豪雪と暴風が発せられた。広範囲の吹雪は避けることを許さずにそのまま身構えていたリーフを包み込む。ケンタロスの吹雪などたかが知れている。リーフはあえて守るを使わずに攻撃を受けることにしたのだった。
「ケ……ケンタロスの吹雪なのに……!!」
しかしその判断は誤りだとおよそ五秒後に気がついた。自分の体が想像以上の寒さに襲われ体が徐々に凍結していっているところに気がついた。必死に凍結に抗おうとするも体にまとわりつく氷を溶かすことはできずにそのまま凍結に飲み込まれ……。
カキン!!
そのまま凍り状態へと陥ってしまった。ナッシーのサイコキネシスのバリア(と形容すべきもの)のおおわれたパワフルズは驚愕の顔つきになる。
「へっ……あっけなかったな」
「そ……そんな!!」
凍結状態にしたことを確認し、ケンタロスはすでに勝利を確信し、笑みをうかべた。その顔つきは今までの勝利を裏付けする笑みでもあった。だがこの直後には彼の自信が付け焼刃の如く崩れることになる。
パリーン!!
「な、なんだとぉ!!?」
何のことはない情景、ただケンタロスやナッシーにとってはありえない情景。リーフの凍結状態が解除された。その証拠に彼女を覆っていた氷が割れ、その破片が砂漠の強烈な日光によって昇華されていった。
「お、俺の吹雪を食らって氷が解けた奴なんていなかった筈……!!」
「うろたえるなんてケンタ君らしくないアルよ。眠り粉!!」
ケンタロスの横からナッシーが頭の葉っぱを勢いよく振るいそこから大量の粉を振りかける。だがリーフは先ほどの吹雪が繰り出された時のように避ける構えはとらない。
「マジックコート!!」
技名を叫ぶリーフの体が妖艶な色のコートのようなオーラに包まれた。襲いかかる眠り粉はマジックコートに触れるとロックオンをした後の攻撃のように技を出したナッシーに向かって言った。慌てふためくナッシーに容赦なく眠り粉、それも自分で放ったものが直撃する。
「……zzz」
ナッシーは眠ってしまった。音量のでかいいびきをかき無意識にケンタロスもリーフも耳をふさぐ。と、少しばかし余計なことが入ってしまったが。
「んの野郎!!さっき訳のわからん技ばっか使いやがって!!破壊光線!!」
猛スピードの破壊光線で攻撃をしかける。--なんだこいつは?さっきから全然攻撃を避けようとしねぇぞ!!破壊光線を出すケンタロスだがさっきから微動だにしないこのメガニウムに思索を張り巡らせていた(尤も初手の吹雪に対しては単純なミスなのであったのだが)
「よっし!!今度こそ俺の勝ちだ!!」
「そう考えるの……はやすぎるんじゃないの?カウンター!!」
「なっ!!ぐへぇ!!」
勝ちを確定したケンタロスだが自分の放った破壊光線によって生じた煙から予想もできない声を耳にし二度目の驚愕を浮かべる。よけようとするも破壊光線の反動によって動くことができないケンタロスはなすすべもなくカウンターを食らう。
よほど威力に自信のあった破壊光線なだけにその威力を二倍にして返されたらどうしようもない。彼の体は今までの自信と同じように崩壊し、地に崩れていった。
「……zzz
はっ!!ケンタ君!!なんで倒れているアルか!?」
眠り状態からさめたナッシーだが最初に目にした光景は仲間のケンタロスがノックアウトしている様であった。無論ナッシーも顔面フリージオよろしく真っ青になっていた。
「ケ、ケンタ君!な、何があったアルか!」
少し前にうろたえるなといったナッシーが今度は自分がうろたえる始末。次第に焦りのせいかナッシーの体が光始めた。
「あ……あれは!!」
頭から発せられた危険信号。ナッシーの様子から次にどんなことが起こるか容易に想像がついた。そう……
「大爆発!!!」
文字通りナッシーは自分の体を爆発させてしまった。ここで大爆発なんぞ使った日には彼らに勝ちはなくなるも同然。それなのに使ったのはパニックのあまりだとフォローする他ならない。決死の大爆発は辺りに爆風を発生させた。
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「ふぃ〜。まさか大爆発を使ってくるなんてね……」
爆発を守るでやり過ごしたリーフ。彼女の後ろには既にサイコキネシスの呪縛から逃れたパワフルズが守られているように立っていた。
「なっ……ワ……ワタシの大爆発を無傷だなんて……。ぐふぅっ!!我がバトルに一生の悔いあり!!」
捨て台詞を残してナッシーは倒れていった。だがリーフも傷が深かったのか倒れそうになり体をふらつかせる。
「リーフさん!!」
「わたしのことはいいから早くフーディンを!!」
「わ、わかりました!!」
リーフに言われパワフルズは倒れているフーディンの手当てに向かった。それを確認したリーフは交戦したケンタロス達……(正確にはナッシー)の言っていることを復唱する。--変な渦にワタシ達三人は巻き込まれた。そしたらそこのフーディンの相方の姿が消えてワタシ達は変なところへ飛ばされた……。
「こういうことって……あいつが詳しそうね」
”あいつ”の部分を強調しながらリーフは通信機に近い機械を取り出し。通話を始めた。そして数分後、通話を終える。
「リーフさん!!傷の手当てが終わりました!!」
「よくやった!!リオ隊員よ!!」
『…………』
いきなりのリーフの変貌ぶりにパワフルズのみならず復活したフーディンまでもが閉口した。
--ボケたのに!!ボケたのに何で誰も突っ込んでくれないの!!
「さっ、ちょっとついてきてもらえるかな〜」
この上ない彼女の棒読み。三人はケンタロスとナッシーを担ぐリーフを見て絶句。
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「ここは?」
バッジの効果で最果て砂漠から脱出。リーフ達はとある一軒家の前に立っていた。
「フーディンさん」
「は、はいぃ!?」
「確かあなた達はケンタロス達と戦っていたところ変な渦に巻き込まれたってことは間違いないですか?」
「は、はい……私と相方とであの二人とバトルしていたんですが……」
話の途中でフーディンは俯いた。察するに本当に例の渦に飲み込まれて彼の言う相方とはぐれ、そして完膚無きまでに叩きのめされたのだろう。
「やっぱりね……」
そう漏らしたリーフは無造作にノックすらせずに扉を開けた。そんな突拍子もないことに驚く三人には目もくれずにリーフはずけずけと中に入っていく。