第二十六話 馬鹿息子……
--内緒でルアンに会ってみないか?子供のようなスパークの誘いに今のスバルが乗る筈もない。二匹の電気ネズミ達は皆が寝静まる夜中を待ち、作戦を決行する……。
お祭りの余韻でさらなる盛り上がりを見せるかと思われた今夜。"イーブル"の襲撃によって予想だにしなかった静寂が支配する夜の中、スバルとスパークはひっそりとルアンが寝静まっている部屋へと慎重に近づく。
とスバルが何かを思い出したかのように小さな声お出す。
「もしかして……誰かがルアンを監視してるかも?」
「そのときは"すいみんの種"でもぶつけりゃいいだろう」
「そっか」
とても善良な探検家達の言ってることではない会話も、この夜では誰の耳にも届いていない。
「あそこを曲がったらわたし達の部屋よ!」
嬉々とした表情でスバルであるが壁の影から通路をのぞき込むと、その表情が一変。
「うわ……マルマンさんだぁ……」
ルアンのいる部屋にたっているのはマルマインのマルマン。誰がどう見ても厄介なことこの上ないポケモンがその場にたっていた。
「気づかれたら絶対大声だされるよ……もしかして爆発するかも……」
「爆発て……」
スパークの声は驚きを通り越した呆れを表した声質だった。"すいみんの種"もマルマインの口が開く瞬間を見たことのない、それ以前にマルマインに口があることさえ知らないスパーク。そんな彼をスバルが上目遣いに見る。
「ど、どうする?」
「--いちかばちかだが……私にいい考えがあある」
「マルマンさーん……」
今ルアンの監視役を任されたマルマン。うとうとしているところにある声によって起こされる。だがその表情から完全に眠気が抜けているようには見えない。
「なんだぁ、スバルかコラァ……ここは通すなと言われてんだコノヤロー……」
「ち、ちがうよ!そろそろ交代の時間だから来ただけだよッ!」
「交代……?」
しばし両者の間で沈黙が流れた。考え込んでいるようにも見えるマルマンにスバル、そしてその様子を壁の影からのぞき込んでいるスパークは冷や汗をかく----
「わかったんだぜコラァ……眠かったからたすかったんだぜコノヤロー」
「う、うん……お疲れ様」
「んじゃあとは任せたぜコラァ……」
眠気をこらえつつマルマンは通路をごろごろと転がり去っていく。その姿が完全に見えなくなったことを確認したスバルはほっと長い息を吐く。
「ふぅ……うまくいったな」
ここでスパークもひょっこりと現れる。彼自信もこの計画がここまでうまくいくとは考えていなかったらしい。
「早いとこルアンと話しよう。あのマルマインが戻ってくると面倒だ」
スパークがそう言い切る前にスバルは部屋をひょっこりと覗いた。
「う、うん……。そう思って部屋を覗いたんだけど……」
「--?」
「ルアンが……いない」
--はい!?
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確かにルアンがいるはずの部屋にその姿はなく、もぬけの殻となっていた。騒ぎになると面倒だと考えスパークは一人でルアンを探すことにした。相変わらず体の傷は癒えておらず調子はあがらないが、そうも言ってられない。スパークとスバルは二手に別れルアンを探すことにした。
面倒な騒ぎをおこしたくない、そして誰よりもルアンのことを案じた彼はいてもたってもいられずに手当り次第に探し回る。
「--いた!」
見覚えのある背中。自分の背後に気がつかれたのかそのリオルはピタリと足を止め、"なぜ来た"と短くスパークを批難する。こっそり去っていったことから彼が一人になりたいことはスパークにも気がついていた。
「少し私と話をしないか……」
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「ルアンよ……君に家族はいるか?」
月明かりが照らす原っぱに二人は座っている。スパークはあぐらをかき、ルアンは小さく膝をおって座っている。その様子からスパークにはルアンがとても小さな存在に見えた。
「なぜそんなことを聞く……」
「聞いちゃいかんのか?」
「--いや」
ルアンは折った膝に頭を置く。
「いた……。だがもう霞みそうな記憶でしかない。
物心がつかないころ……。父と母と……どこか静かなところで暮らしたことだけは覚えている」
「父と母がどうなったかは覚えていない。幼いころに死んだがどういういきさつで死んだかはよく覚えていない。……多分山賊か何かに襲われたんかと思う」
「……そうか」
スパークの声質は、平静を装っているがどこか感慨深いところが伺えた。
「そんなことを聞いてどうする」
「さぁな。ただこれだけは言える--」
スパークの言葉に焦らされたルアンはスパークの方を見る。スパークはその顔を見てニヤリと笑みを浮かべた。その顔がカイと家族について話した時と驚くほど酷似していたのだ。
「お前さんも私達と同じだろう?」
「…………」
「お前さんが英雄だと言われてもどれだけ気丈に振舞っても孤独に耐えることなんてできない。寂しさに嘘なんてつかない。そうだろう?」
そう言ったスパークは大げさなアクションと共にルアンの肩を組む。ルアンは一瞬だがその肩をビクリと震わせる。
「なぁルアンよ。あんたは自分が今孤独だと思ってるかもしれん。だがどうだ?少しだけ私達に肩をあずけてもいいんじゃないか?」
「肩を……?」
「お前さんにはカイがいる。スバルがいる。私も、リーフも、ファイアも、ウォーターも、ルッグも……。自分が独りだと思ったら大間違いだからな」
「私たちには血の繋がりなどない」
血のつながり。その言葉を聞いたスパークはふっと苦笑いを浮かべていた。彼にとっては耳タコのフレーズであるが、ここまで皆が"血のつながり"ばかり意識することにスパークはどこかおかしく感じていたのだ。
「やっぱり皆そのことを言うなぁ……。頭が固まっちまってる。そんだけ血のつながりって大事なのかぁ?」
「…………」
「ルアン、あんたも他のポケモンと何ら変わらない。ちょっと気丈で冷静な長男気質ってだけだよ」
膝を組んで黙ってスパークの話を聞いているだけのルアンに何かがこみ上げるものがあった。
--なんだろうか……。もう少しで……思い出せそうな気が……。
「独りで背負うことはない。町の皆がなんて言おうが私はルアンのことを信じてるぞ……」
ポンポンと音を立てて肩をたたいた。そのときルアンは久しく涙を流したい感情に見舞われた。彼は
スパークの言葉に安堵してるのか。ルアンは声を挙げずに腕で涙を拭う。
感情などとっくに捨てていたと思っていた彼に意味もなく涙が流れていく。
「家族とか……そんなもの私にはよくわからない」
「わからなくても構わない。思い出すのは後でいい。今は泣け!思い切りな!」
ガバっと両手を広げるスパーク。それは一体一で子供達と接するスパークと何ら変わりはなかった。
「だな……」
「ん?」
「私は……バカだな……」
「あぁ、そうだよ……。馬鹿息子よ……」
しばしルアンは溢れ出る感情に身を任せていた。涙が止まることはしばらくはなかった。
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"イーブル"襲撃によって史上最悪と称された英雄祭。その翌日動くことができるビクティニのギルドメンバーはトレジャータウンの修復の追われた。
ミーナはまだ毒の影響で動けずにいた。
ルテアは救助隊ながらジェットと喧嘩したことでこっぴどく叱られ、一方のジェットは"リーファイ"メンバー(主にルッグ)に鉄拳制裁を食らう。
スパークは無茶をやらかしたことを聞いたことを知らされた彼の娘、息子達(スバル、リーフ、ファイア、ウォーター)にもの凄い剣幕で怒鳴られることに。
シャナは報告書の作成に徹夜作業を強いられていた。彼にとっては慣れっこであるとはいえそうとう消耗したのだろうか……。
またトレジャータウン襲撃の際に各地でイロモノ集団の風体の怪しげな集団が目撃された。住人達はそれを正義の味方、新たな敵かと色々な憶測が飛んでいた。ただ敵だと耳にした瞬間、ウォーターとリーフが凄い剣幕で"正義の味方だ!"と言い放った。そんな二人をスパーク以外のリーファイメンバーが白い目でみたいたのは言うまでもない。
そして----
「もう、行っちゃうんだよね」
トレジャータウン入口のアーチにて"リーファイ"のメンバーとスバル、シャナ、ルテアが立っていた。もうリーフ達は自分達の家へと帰るのだ。
「せっかくの祭りを楽しむために来てくれたのに色々とすまなかった」
シャナは申し訳なさげに言うが"リーファイ"のメンバーは誰一人として後悔した様子ではない。
「こちらこそあまり力になれなくてごめんね?」
リーフの言葉にスバルはぶんぶんと首を横にふる、その姿に皆が笑った。
「ぼくはここに来れて本当によかったと思うよ!ねぇ兄さん!?」
「あ……?あぁ、まぁな……」
「新しい家族も増えましたし……」
「おい貴様!貴様と吾輩の決着はついてねぇからな!」
「上等だこの野郎!」
「やめろルテア」
ジェットの喧嘩文句に今にも飛びかかりそうなルテアのしっぽをシャナがすかさず掴む。ジェットはジェットでルッグの棍棒の一撃を食らいなんとか収まりがついたようだ。
「スバル」
騒ぎの収まりがついた頃合いを見計らい、スパークがずいっとスバルのほうへあゆみよる。
「何があっても私達がいる。それを忘れないでくれ。カイもルアンもな……」
「うん……」
「ジェットさまーッ!船の準備ができましたーっ!」
ジェットの手下のドラピオンの声を合図にメンバーはアーチを潜っていった。察するにジェットの船でメンバー達を送っていくのだろう。その際にジェットが"吾輩に感謝するのだ!"と独り叫んでいたが特に気にも止めていない。とスパークがくるりとスバル達のほうへと振り返る。
「それじゃ、もうお父さん達は行くからな」
そう言い残しスパークは皆のあとを追うようにアーチをくぐっていった。
「お父さんッ!みんなッ!」
徐々に遠ざかっていく姿にスバルが大きく叫ぶ。
「ありがとうッ!」
既にスパーク達にはスバル達の姿は見えていなかったがその声はキッチリと彼らの耳には届いていた。
「……元気でな……。みんな……」
--★あとがたり(あとがきじゃ絶対収まらないのでここに書き連ねます)
本編物語は以上となります。ここから先は本編とは関係しない話なので興味のない方はブラウザバックして帰るなり、そのまま居座るなり、「ノコタロウ次からはアップ速度あげろよこの野郎」と文句を言うなりお好きにしちゃってください。
長かったこのコラボもようやく終焉を迎えました。いやー、長すぎましたね。このコラボを企画したのが実は去年の1月辺りに、私がものかきさんと"コラボやっちゃいますか?"と声をかけたところ快く承諾して始まったのです。はい、あまりにも時間がかかりすぎました。某サイトからずっと応援してくださった方々には待たせまくって本当に申し訳ありませんでした。
幾分ノコタロウにとっては初めてのコラボ、かたやお相手のものかきさんはコラボの経験者ということで、右も左もわからなかったノコタロウが足を引っ張りまくって時間をかけまくった感が否めないです。えぇ、存分にこのノコタロウを馬鹿にしてやってください。
某サイト閉鎖、そしてお相手視点でのアクシデントと何かとハプニングが酷かったですが、何よりノコタロウは本当にこのコラボを楽しめたのではと思います。やっぱり自分はポケモンが大好きで、ポケモンの話を読み書きするのが好きなんだなぁとこのコラボに教えてもらいました。それだけにこのコラボ最終話を投下するときはどこか寂しい気持ちになりました。
これだけ長ったらしいあとがたりを入れて、ガチの最終回を迎えた気分(少なくともノコタロウはそんな気分を味わってます)ですが葉炎はまだ続きます。また最近ポケダン小説増えてきたなぁって思うんで、アップ間隔開けすぎて忘れされないよう努力していきたいです()
という訳で今回はこの辺りで締めようかと思います。某所から応援してくださった方々、最近知って読んでやるよーって方々、そしてこのコラボを快く引き受けてくださったものかき様。本当にありがとうございました!