ポケモン不思議のダンジョン 葉炎の物語 〜深緑の葉と業火の炎〜 - 第一章 英雄祭編
第二十五話 おかえり
※注 冒頭と最後に盛大な茶番有り













--見てろよーあいつら!オレをほったらかして全部解決しようとするなんてそうは問屋がおろさねぇからな!

どことなく不謹慎な目的を持ち、破壊されていく街並みを失踪するのは赤いマスクと赤いマントを纏ったカメール。もとは探検家であった彼だがなぜか一人だけ置いてけぼりを食らい取り残された。そして正義のヒーローコスチュームを見に纏いチームメンバーに協力を要請。自分達の力で騒ぎを食い止めようと逆恨みに近い闘争心を燃やしていた。

「(……っとあぶねぇ!)伏せろ!」

イーブルの配下らしきポケモンが怖くなったのか地面に伏せてがたがたと震えているポケモンに襲いかかっていた。彼は襲いかかったポケモンに一発飛び蹴りをかますことで震えていたポケモンを救出する。

「おい……!大丈夫か……!?」

すっと手を差し伸べる--

--ガタッ!!

唐突に起き上がったポケモンに身構える。--まさかトラップか!その可能性が脳裏によぎった瞬間--

「うおおおおおおおおおおおぉぉん!助かったよありがとおおおおおおおおおおおおおおおぉおぉぉッ!!」
「ぎっ……し、しぬる……」

そのポケモン--ドラピオンは号泣しながらカメールにこれでもかという位抱きついていった。しかし自動車をスクラップにするほどの力を持つドラピオンの抱擁に耐え切れずにカメールは意識を飛ばしてしまった。



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「ま、全く……本気で死ぬかと思ったぞ……!」
「ご、ごめん……」

それから数分後意識を取り戻したカメールにドラピオンは申し訳ないと言った表情で謝罪を口にする。よろよろと立ち上がったカメールはドラピオンを目視する。

(こ、こいつは確か……ジェットの野郎の手下か……!)
「んで……あんたは誰?この辺の奴じゃなさそうだけど……?」

--あれはジェット達が英雄祭に来たときに付いていたドラピオンと同じ奴だ。でも幸いにもこっちの正体はあちらにバレてないようだな。よし--

「私は正義のヒーロー!ターマンマンズだ!しかとその目に焼き付けておくがよい!」
「せ、正義のヒーロー……?」

こんなときにオレは何をやっているのだ……。ドラピオンも何か残念な奴を見るような目付きでこちらを見ていた……。

「そうだ!この町が悪者に襲撃されているのを知ってな!君はなぜここに?」
「あっ……!そうだ!ジェットさ……俺の友達がさ!ここに来たけどまだ戻ってきていないんだ!だから探してんだけどよー」

こいつ思い切りジェットって言ったな……。しかし待てよ……ジェットは確か騒ぎの鎮圧に(強引に)連れて行かれたんだっけな。だったらこいつと俺は目的が合致してるんじゃないか?

「おそらくだが、私は君のお友達を見たことがある。どうだ?しばらく私と一緒にいかないか?」
「え、!?いいの?」
「決まりだな!よし!行こう!」


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アブソルかた放たれた二度目の"かまいたち"を真っ向から食らい、地に力なく落ちていくルアンをリーフは息を飲むように見ていた。

「ル……ルアンッ!」

ふっと我にかえりルアンのもとに駆け寄る。リーフは何度も彼の名を叫ぶように呼びかけるもルアンが目覚めることはなかった。すぐにでも切れてしまいそうなか細い呼吸をしているだけであった。

「あなた……!」

リーフはルアンを傷つけた張本人--アブソルをキッと睨む。しかしそんなリーフとは対照的にアブソルはなんともないといった表情だ。

「許さない……!」

アブソルの戦闘力の高さは先ほどの戦闘で十二分に思い知らされてる。しかしリーフとて黙ってやられている訳にはいかない。何より彼女のプライド・正義感がそれを許さなかった。

「あなただけは……絶対に……!」

傷ついた体による特性"深緑"。そしてアブソルに対する怒り。十分すぎるほど戦闘する準備としては整った。リーフは足に力を込めて、今にも地面を蹴りアブソルに飛びかかろうとしたその瞬間に--


「--リーフ!」

背後から聞こえた鋭く、そして聞きなれた声がリーフの耳に入っていった。その瞬間からか、今まで気丈に振舞っていたリーフの胸にこみ上げる何かが--

「ファイア……!」

紛れも無くその声の正体は彼女の一番の相棒であった。振り向いた先には息を切らしてこちらに走ってくるマグマラシの姿が……。

「リーフさん!カイ君!大丈夫ですか!?」
「ルッグさん……!」
「おい!一体何が起こってやがる!」
「えぇい!一々吾輩の耳元で怒鳴るんじゃねぇ!バカモン!」
「ジェット……ルテアさん……!」

スピーカーからの声を聞きつけた仲間たち。深刻な自体には変わりはないがリーフにとっては、今なによりも"仲間"の存在を心から欲していた今、彼女の目にはうっすらと涙がこみ上げてきた。

「おいてめぇ……なにもんだ……!」

アブソルに向かって一歩踏み出したルテアが持ち前の厳つい面で"威嚇"しながら口を開けた。一度彼と手合わせをしたファイアは味方ながらにしてその気迫に一瞬であるが息を飲む。

「……多勢に無勢……といったところか」

一方のアブソルはそうつぶやき背を向けた。その態度はルテアの問いかけなど全く興味ないといった素振りであった。そしてその素振り通りにここには用はないといった体で走り去っていった。

「ま、待ちなさい!」
「リーフ、追うな」

アブソルを追おうとしたリーフだがジェットに制された。

「周りをよく見てみろ。もうこの面々で"イーブル"を止める余力がある奴なんていねぇよ」

そのジェットの言葉に誰も返すことができなかった。ジェット自信もチッと舌打ちをしていたことがそのことをよく表していた。


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スパークをギルドに連れたスバルだが自信もそこで意識が切れる。再び二人が目を覚ましたときにはすでに"イーブル"には撤退命令がくだされ、全て終わっていたあとであった。

スパーク達が目にしたもの。それは"イーブル"の残した町の爪痕。それに怯える住人達。そしてルアンのことであった。彼は今現在でも意識不明。そして一切面会ができないとのこと。

それよりも、特にスバルには心苦しいことが、
『ルアンは本当に味方なのか。あるいは敵であるのか』
トレジャータウンの住人には"イーブル"に対する恐怖心とともにルアンにたいする疑心暗鬼が徐々に募っていったのだ。彼が疑いをかけられていることはスバルにとってこの上なく辛いものであろう。

「ねぇ、お父さん……」

楽しくなる筈の祭りがこんなことになるとは思わず不安になったスバルはスパークの手をそっと握る。

「ルアンはね、いっつも一番にカイや私のことを助けてくれて……悪いヒトなんかじゃないよ……!みんなそのことをわかってないよ……!」
「わかってるさ」

スパークの断固とした表情、声質でスバルの不安気なそれらにかぶせた。

「わかっている。私もリーフ達も。信じているさ。なんだってルアンは--」

スバルに握られていた自分の手にぐっと力を込めて握り返した。



「--私達の家族なんだからな」
「……かぞく」

スバルの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
ルアンは気がついているのか。彼の周りにはこれほど沢山の仲間がいること。家族だと認めているヒトがいることを……。

「ルアンには私がびしっと言ってやらねばならぬ。なぁ、スバルよ」

スバルの不安を少しでも拭うためか、スパークは余裕さえうかがえるほどの悪戯な笑みを浮かべる。

「今夜、こっそりルアンに会ってみないか……?」



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時は少し遡る。トレジャータウン中央広場。そのジェットの制止の言葉に誰も返すことができずにいた。--その重くるしい空気を打破したのは--

「--とうッ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉッ!」

一つは高台から飛び降りるような声、もう一つは崖から突き落とされたような恐怖に満ちた声。これらが重い空気をぶち破るかのように発せられた。

--シュタッ!

リーフ達の眼前に表れた二体のポケモン。新たな敵襲かと全員が身構えた。しかしその姿は皆が見覚えのあるポケモン達であった。

「ん?あんたは確か……?」
「ぬおぉっ!?てめぇは!」

仮面を付けたカメールにルテアが、カメールに抱えられたドラピオンを見てジェットが口を開いた。次第に警戒を解いていく。

「ふっふっふ、待たせたな!正義のヒーロー!ターマンレッド参上!町を荒らす悪党め!懲らしめてくれよう!」

ターマンレッドと名乗るカメールが決めポーズをとりながら力強く叫んだ。

『…………』

またもしばしの沈黙の時間が流れた。しかしそれはアブソルが去った時のそれとは全く別物であり、皆が皆ジト目で彼を見ていた。

(あのバカ……!)
(兄さんなにやってんの……)
(そーいや、リーファイにカメールの奴もいたな……)

ルッグ、ファイア、ルテアが呆れ果てた目付きで彼--カメールを眺めていた。ジェットは彼が抱えたドラピオンに近寄りこれでもかと言うくらい(なぜか)罵声を浴びせ続けた。

「………か……こい……」

リーフがプルプルと震えながらカメールを見続けていた。

(やっぱリーフも怒ってるよ……。まぁ皆必死に戦ってるのに、兄さん一人だけあんなふざけた格好されちゃ誰だって怒るか……)

隣でファイアがリーフを見ながら小さくつぶやいた。事実彼もルッグも必死なときにこんな風体をして表れられて少なからず怒りを覚えているのだから。
--と、ファイアが思っているさなか、リーフは猛ダッシュでカメールの元に突進していった。

(や、やっべぇ!)

ファイアやルッグの冷たい眼差し。そして自分に向かって突っ込むリーフにカメールはいそいで土下座の構えをとった。そして--







「か、かっこいい!」
『へ?』

予想だにしなかったリーフの言葉。それは先ほどまで怒鳴り散らしたジェット・上司に怒られていたドラピオンもそれまでのいきさつ忘れ、彼女のほうに視線を移していたのだ。
そんなことは気にもとめずにリーフは目をキラキラと輝かせてカメールを見ていた。カメール本人もあっけにとられたのかしばし微動だにしなかった。

「は……ハハハハハハ!どうやら君は私のことをよーく理解しているな!素晴らしい!私も嬉しいぞ!」
「はい!わたしも正義の味方に会えるなんて嬉しいです!」
「お、おい……?」

アブソルと対峙したリーフとは到底同一に見えない彼女の態度にルテアは唖然。リーフのことを知っているファイア達はもはや何も言うまいといった態度でそのやり取りを眺めていた。

「けっ!バカ二人どもが……!」

悪態を吐くジェットだが誰一人として彼を批難しなかった。少なくともあのやり取りを見てそれを咎めることは誰もできなかったのだから。

「すごい!やっぱり正義のヒーローって顔は隠すものなんですね!」
「当然だ!正義のヒーローはその素顔は誰にも晒してはいけないのだッ!」
「おい、こんな奴らほっといてそのぶっ倒れてるガキをとっとと運ぶぞ。ラオン!てめぇが運べ!」
「は、……はいッ!」

見に見かねたジェットが指揮を取り手下のドラピオン--ラオンにカイの体を運ぶように命じた。ルッグも彼の手助けの為にカイの体を慎重に持ち上げる。

「リーフ!そろそろいくよ!」

ファイアがそう声かけるもリーフもカメールも話をつかせる様子はない。しまいにはリーフはカメールにサインをねだる始末。徐々にファイアは苛立ちを見せ眉間にシワを寄せながら彼女達に声をかける。
--が、全く反応しなかった。

「いい加減に……





しろおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉッ!」

--ドカッ!ガツッ!


二度の打撃音が響きファイアはメガニウムとカメールを引きずりながら中央広場を去っていった。


■筆者メッセージ
おかえり。いつものリーフよ
ノコタロウ ( 2013/07/04(木) 00:15 )