ポケモン不思議のダンジョン 葉炎の物語 〜深緑の葉と業火の炎〜









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第一章 英雄祭編
第二十四話 vsイーブルボス
・注意事項(ちゅーにじこー)

・今回の話も温度差(平たく言うとシリアスとネタの差)が激しいです。そういった類のが苦手な型はご注意ください。

・コラボ回ということで更新ペースは(いつにも増して)不定期です。ご了承ください。


以上の点を了承されましたら以下からは本編です。













カイ--もとい、ルアンとリーフがいるトレジャータウン中央部、そこから見て東側にて真っ黒な煙が立ち込めていた。シャナとファイアが向かったところだ。ふっと目線をそちらに移すルアンに--

「大丈夫よ」

と、リーフが彼の心中を当てたかのようにそう言う。

「シャナさんって強いんでしょ?それにファイアだって。本人はそう思ってないけどファイアだってホントは強いんだから」
「……」

確かにとルアンはファイアのことを思い出す。しかし彼はそれなりの強さがあるにも関わらずどうにも自信が足りないように見受けたことに一抹の不安は拭えていない。

「それよりもルアン。あなたは気がついている?この気配に……」
「……嗚呼」

この付近にて--まずこの騒動の仕掛け人がいる気配を感じた。それもその正体はまるで自分達が来るのを待っているかのごとく余裕すら感じられる。

「間違いない。この先にいるのはイーブルの頭だ。気を引き締めていこう」
「えぇ……」



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ルアンとリーフは中央の広場に到着。開会式が行われたこのステージは、当初の賑やかな雰囲気は微塵も感じられなかった。特に周辺のテント等は焼け跡、それらの煙が立ち込めており、リーフもルアンも普段はそれほどに感じないであろう"恐怖感"という感情を抱くほどであった。

 --ステージの下に誰かいる!

中央に向かった二人は同時に足を止める。こいつが騒動の黒幕だろうかと
このうえないほどの緊張感を持ちリーフが口を開いた。

「あなたも……"イーブル"ね……」

フードを纏ったがその正体は四足であることがわかっていた。その相手はすぐに攻撃の素振りを見せない。ルアンにはまるで自分の存在を知らしめることが目的だと感じていた。

「四本柱……いや、違うわね。あなたは何者?どちらにしても答える気がないならここでわたしたちが倒すまでよ」

リーフがバクフーン位にしか見せない剣幕で問い詰める隣でルアンは全身に警告を流していた。
--こいつは……間違いなく危険な相手だ。

「……私は、"イーブル"のボスだ」
『--!!』

"ボス"が名乗り上げた刹那、ルアンが"サイコキネシス"でリーフを横に吹き飛ばし自らも跳躍し飛び上がる。

「……きゃッ……!」

--ドゴッ!

先ほどまでルアン達が立っていた地面が狭く、そして深くえぐられていた。

「あ、あれは……"かまいたち"!?」

乱暴ながらルアンに助けられたリーフが地に伏せながら地面の跡を見てつぶやいた。そして二人は相手の姿を確認する。
既にかぶっていたフードは既に落ちていた風に流されていた。

「なるほど……それが"ボス"の正体か……」

--アブソル。真っ白な体毛に額から伸びている鋭い藍色の鎌を有する災いポケモン。それこそがイーブル"ボス"の正体であった。ボソリとルアンが"やっと姿表したかと"口から漏らす。


「一体あなたは何なの……!?""イーブル"を結成しトレジャータウンを襲わせて--」
「--悪夢を作り上げて虚ろにさせ、"カイ"を襲った。その目的は?」

半ば激昂した様子のリーフとそれとは対照的にあくまでもいつもの口調でのルアンが問うが、"ボス"--アブソルは虚ろな瞳をルアン達に注ぐ。

「私には目的がある。誰も邪魔はさせない。それがたとえ"英雄"であったとしても……だ」
「……!」

"英雄"のふた文字を聞いたルアンの表情がわずかだが揺らいだ。その瞬間リーフには彼のいつもの静寂な波導から今にも相手に攻撃的なそれへと変わっていくのを感じた。

「この襲撃はそれを我々に決めさせるもの……それかクレセリアの"器"を奪うためか……」
「そうだ、そして……」

アブソルもまた同じように鎌に風を纏い戦闘態勢に入った。

「邪魔者を始末するためでもある」

瞬間的に"かまいたち"が発せられ、リーフとルアンはほぼ同じタイミングで飛び退いた。"かまいたち"の発せられた鋭い風邪を感じたリーフには直撃していないにも関わらずに背筋に悪寒を感じる。

「あんなの……一発でも受けたらひとたまりもないわよ……ッ!」
「"はどうだん"」

跳躍して空中にいるルアンは初撃の"はどうだん"を放つも、アブソルの"辻斬り"で容易く処理する。ルアンは構わずに二発目、三発目と続け--

「リーフ!」
「わかってる!」

リーフが突っ込む。ルアンの"はどうだん"で相手の動きを制限させリーフが接近して大技を叩き込むというもの。そんな
簡単かつ堅実な作戦を二人は意思の疎通のみで行なっていた。リーフは"メタルブレード"を手に取る。
が、アブソルとてそれに気がついていないわけでない。"はどうだん"を回避しながら鉄の葉を持って自分に迫るリーフには気がついていた。

--遅い……

文字通りの"不意打ち"がリーフに放たれた攻撃を仕掛けようとせんばかりのリーフの頬へ"影"が横なぶりに打たれた。

「きゃあっ!?」

不意打ちをまともに受けたリーフはバランスを崩しそこへアブソルが追い打ちをかけようとせんばかりに迫る。

「まずい」

ルアンはリーフとアブソルの方へ走っていく。リーフは"つるのむち"でアブソルの足を絡めようとするもアブソルに"見切られ"ており動きを止めることができない。リーフはこの時にこの戦法に失策を感じていた。

リーフは元々性格の為に普通のメガニウムより動きが鈍重。はやさが他のステータスより低い彼女ではアブソルより速さで上回り接近戦をこなすのは無理があった。自分は後ろに回るべきだったと後悔の念に駆られる。

軽くリーフの攻撃をあしらうように避けながらアブソルは"かまいたち"の準備に入る。互いの技で周りの機材、マイク等が壊れていく。その都度にハウリングの音がいく度となく響く。

"かまいたち"を放とうとせんばかりに鎌を振るうアブソルとリーフの間にルアンが入っていった。しかし先ほどのようにリーフを技で避けさせる余裕はない。

「ルアン!」
「"守る"ッ!」

 がいいいぃん!

本来"フェイント"以外の技で崩されることのない"守る"の強固な壁が耳を紡ぎたくなるような音を立てて崩された。"かまいたち"の刃はルアン--カイの体を容赦なくえぐりこんでいった。

「が……はっ……!」
「ルアンッ!ルアンッ!」

激痛に堪えられずにルアンは意識を手放した。だがアブソルは容赦なく彼を狙ってくる。"辻斬り"の構えにはいり切りかかった。

「……っぐ!」

彼の盾とならんばかりにリーフがルアンの前に立ち、"辻斬り"を真っ向から受けた。手を緩めることはないアブソルの攻撃でリーフの体には次々と傷が増えていく。

「--!」
「ルアンッ!気がついた!?」

彼が意識を飛ばしてから数十秒ほどであったが、リーフにもルアンにもそれ以上の時間がたっているように感じた。既にボロボロのリーフと無傷のアブソルの姿を確認する。

「あなただけでも逃げてッ!こいつは……こいつは強いッ!」

アブソルが一歩詰め寄るのと合わせるようにリーフもルアンも一歩ずる後ずさる。すでに満身創痍のリーフも意識を取り戻しはしたが、それでもいつ気を失ってもおかしくないルアンにはこのアブソルには勝てる気がしなかった。

--しかし、今ここでアブソルをとめねば……!

「ダメだ……!リーフ、君こそ逃げろ……!」
「……なぜだ」
『!?』

不意にアブソルが詰め寄ることを止め、声を上げる。

「"英雄"貴様はなぜそこまで私たちの邪魔をする……

貴様は"イーブル"を止める目的のためにそのリオルのなかにいる訳ではないだろう」
「敵である私に……それを聞いてどうする……、なぜに止めをささない……」
「質問をしているのは私だ」
「--!!」

アブソルはその鎌をリーフの首に突きつけた。ルアンの答えによっては彼女を殺すことも厭わないであろうがリーフは一瞬驚きはするも気丈に表情を崩さない。

「答えろ、貴様はなぜ魂だけ存在する?なぜ"イーブル"の脅威になる?なぜカイというリオルのなかに存在する?どんな秘密や使命感を持っている?私たちに脅威になることは全て話してから死ぬがいい。洗いざらい話せばこのメガニウムだけは見逃してやらんこともない」
「ルアン!敵にそんなこと話す必要はないわ!」

リーフはアブソルの鎌に臆することもなく言い放つが、わずかに鎌を首元に刺される。だがルアンにはその声も聞こえずにいる。

「何が……ッ!」

漏れる声。

「何が使命だッ!何が英雄だッ!」
「ル、ルアン……!?」

ルアンから禍々しいほどの波導が発せられ、リーフとアブソルに直撃。二人は地に伏せることとなる。災いポケモンとだけあってアブソルはいち早くこのことを察していた。彼の危険予知の能力が全身に警報を発している。四足に力を込めて跳躍し、ルアンから距離をとる。
しかしルアンは全力でアブソルを肉薄する。




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力任せに放った僕の"ファイアボール"。シャナさんはエルザを道連れにして"ファイアボール"に突っ込んでいったけど……。

「えっ!?」

まるで小火のように容易く消えた炎の珠。い、一体何が!?
--と思ったらあの二人を助けるかのような黒い影が……一体誰?

「シャナさん……!」
「来るなファイア!」

シャナさんに制されその場に駆け寄ることを許されなかった。一体何が……。
しばらくしてその黒い影とエルザは去っていった。これは一体……。

「シャナさん……"探偵"って?」

あの黒い影が行っていたワード。一体あいつは何を言っていたんだろ……。シャナさんがしばらく難しい顔で
考え込んでいた時に……。

--ザッ……ザッーガン、ガシャンッ……--

祭りの為に取り付けられたスピーカーが唐突に雑音を放ちはじねた。

「うわっ、な、なに……?」

とても朗報が流れるためにスピーカーが動いているとは考えにくい。一体何が……?

『--英雄、貴様はなぜそこまで私たちの邪魔をする?』
「!!」

だ、だれの声だろう……。この聞き慣れない声にシャナさんも僕も同時に反応していた。あれって確か中央広場のマイクの音だっけ。だとしたら!

「シャナさん……確か中央に向かったのってリーフとカイ君じゃ……」
「--!!」

シャナさんも嫌な予感を感じていた。そしてスピーカーがさっきの声やリーフのそしてカイ--ルアンの声を拾い……。

『全部……、壊してやる……!』
「ファイア!」
「は、はいッ!」
「広場に言ってくれ!オレもローゼさんを助けにいった後すぐに向かうッ!全速力だ!」

ロ、ローゼさん?だ、だれのことだろうと考える間もシャナさんはくれなかった。

「はやくッ!」
「は、はいッ!」

シャナさんは僕と全く逆方向に走っていった。何が起こったかわからない。でも間違いないリーフ達は今とんでもなくピンチ状況におかれているに違いない!待っていてリーフ!今度は……

「今度は……僕が助けてみせる……!」



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「ルアンッ!」

アブソルに肉薄するルアンにリーフが叫ぶ。彼の様子がおかしい、否、確実に何かが壊れていることはリーフには分かっていた。先ほどまでの攻撃での傷口からの鮮血にかまわずにルアンは拳に力を込める。今の彼にはただ"アブソルと自分の運命の破壊"。それしか頭になく"はっけい"をかまえた。

アブソルは避ける素振りを見せず、それどころかルアンをあざ笑うかのようにうすら笑いを浮かべていた。

「だめよッ!ルアンッ!」

リーフの声が裏返る。彼女もルアンを止めることで必死であるがルアンの耳には入らない。やはり彼の脳内は破壊衝動によって支配されている。

「ルアン……!」

リーフはどうにかルアンを止めねばならない。彼女は息をすぅっと吸い、ありったけの声量でルアンの耳に届くように……。




「このままじゃ、カイが死んじゃうッ!」
「--!!」

ルアンの耳にようやく届いた。--がそれが一瞬の隙を作りアブソルは無情にも鎌を下ろした。

「死に急ぐか……ならば、望み通りに……」

二度目の"かまいたち"がルアンの肩を裂いた……。


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「ぜぇ……ぜぇ……、ま……待ってよ……」
「……チッ」

リーダーの命を受け三手に回って町の鎮圧に向かったマニューラ--ターマンブラックと、ナットレイ--ターマングリーン。だが余りにも足の速さに違いのあるこの二人ではグリーンがブラックにかなり置いて行かれる形となっていた。

「ねぇ……ちょっと休もうよ……オイラもう……げ、げんかい……」
「……仕方ないやつだ……」

舌打ちをしながらも近くにあった木陰で休むことをブラックは提案。グリーンは全身が汗だくの状態で木にもたれかかった。そしてどこに潜めているかわからない水筒と取り出してお茶を飲み始めた。

「はぁー……」
「全く……これだけの騒ぎによくそんなマネができるものだな……」

のんびりしている仲間にあきれ果て不意にため息を吐く。実際に彼らの周りでも戦闘が起こっているのか当たりに電撃などが発せられていた。しかしマイペースなこのナットレイはまったりとお茶を飲んでいる。

「……そろそろ向かうぞ」
「えぇー、もうちょっとだけ……」
「……」

文句をタレるグリーンだがブラックの怒りを買うのかと察し、渋々重い腰を上げた。

「いくぞ………

……!!?」

唐突ブラックの全身に重りが付けられた感覚に見舞われた。なれない感覚にブラックは膝をつく。

「どしたの?どっか怪我した?」

そんな彼を煽るような軽やかな動きでグリーンは彼の周りを回っていた。その動きは到底ナットレイにはマネできる代物ではなかった。自分の体と仲間の様子がおかしい……。

「貴様こそどうした?いつもはノロマな貴様がそんな動きできる筈がないだろ……!」

急な体の違和感にブラックは半ば苛立ちさえも覚えていた。露骨な舌打ちさえ出してしまうが正直彼ら二人にはそんなこと感じてる余裕などなかった。グリーンもこの体の軽さに違和感を感じていた。

「大丈夫?しばらくオイラが連れてこうっか?」
「必要ない……!」

プライドの高い彼にナットレイの助けなど受けたくはなかった。しばし重いからだを引きずって動く。

「チッ……!一体何者の仕業だ……!」
「さー?あ……あれ……?」

しばしこの謎の違和感を感じつつ動いていると、唐突にその違和感が消え、刹那ブラックは体の重りが消えた感覚に見舞われた。

「一体なんだったんだこれは……?」
「さー?」

----バチバチッ!

『!!?』

強烈な電気が帯電している音、二人が身構えた。雷が発生するには天候は穏やかだ。まさか刺客かッ!?

「うわっ!?な、なんだぁ!?」

グリーンがまるで地球に帰還した宇宙飛行士のような重い体を動かし、キョロキョロと当たりを見回す。ブラックはいち早く察する。これはポケモンが出せる技の規模じゃない--!

「--あれは!?」

今まで見たことのない巨大な雷。自然現象でも簡単に起こり得ないほどの規模のそれが辺りに分散され、その一部が二人にも襲いかかる。

「--!!」

いち早く察したブラックはともかく、グリーンにはその目にも止まらない速さで迫る雷をよけることはできず、さらに非情にもブラックの盾にされたグリーンはその強烈な雷に見舞われた。

「うああああああああああああぁ!」







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「さっきの雷の時……誰かを巻き込んだ気がするんだがな……。気のせいなのか」

ランクルス--ラピスを破りスバルに肩をかりたスパークは止めの雷を放った際に誰かを巻き込んだ感覚を感じていた。

「……まぁ、あの場に我々以外の者がいるはずもないか……気のせいであろう……」

■筆者メッセージ
葉炎書いて三年になるがここまでヒロインしているリーフを初めて書けてノコタロウは満足です。とりあえずグリーン君は草場の影で応援をお願いします(殺すな
ノコタロウ ( 2013/06/21(金) 22:14 )