第二十二話 スパークの意地!子は私が守る!
私とスバルの前に表れた四本柱と名乗るランクルス--ラピス。種族柄想像もできない素早さを見せつけられ私達は想像以上の苦戦を強いられていた……。
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「ちっ……!」
しばらくの間戦い続けていたが体力差は歴然であった。こちらはすでに立ってることすらきつい状態であるが相手はほぼ無傷といった状態。
「スバル!挟み撃ちにするぞ」
「"電光石火"!」
電光石火で奴を挟み撃ちにする。ここまではうまくはいっているのだが……。
「"十万ボルト"ッ!」
これ以上はそうはないほどに息を合わせた電撃攻撃を同時に炸裂させる。だがラピスは完全に舐めてかかっておりあくびをかみ殺すような眠たげな表情。
「学習能力のない奴らだわさ」
それでいてその表情とはかけ離れた素早さでひょいひょいと、どこぞの砂ガブを彷彿させる回避っぷりで電撃をよけていった。
「なめないでよ……ねっ……!」
ラピスが余けた先にはスバルの打った電撃がくいっと曲がりながらラピスに迫っていた。スバルは電撃の起動を操れると聞いていたがまさかこれほどのコントロールとは
……。
「"シャドーボール"!」
しかしその電撃もラピスによって生成された黒い塊によって容易く相殺される。その相殺の際に小規模の爆発が生じ、煙が出てきた。よし--!
「--!」
先ほどの電撃に気を取られ、そして煙に紛れ込んだ私の姿まではラピスにとっても予想外だったのだろう。私の電撃を避けようとするも間に合う筈はない。もらった!
「だわああぁっ!?」
よし!うまいこと攻撃を当てられ奴のゼリー体はところどころ焦げていった。
「ひるまずに打て!"十万ボルト!」
「やってくれるだわさ!"サイコキネシス"!」
ラピスのサイコキネシスの衝撃波は私の攻撃など容易くくだいてしまい、勢いを落とさずにこちらに向かってきた。--まずい!これは避けられん!
「きゃああああっ!」
「ぐおおおおぉぉっ!」
攻撃を食らい私の意識は徐々に遠のいていった……。ぐっ……!
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結構長い間気を失っていたようだな……。私が気を失っている間に体感でも結構な時間がたっていたようだ。……そうだ!スバルは!?
「--いきなりでてきた奴に"父親だ"って言われて……誰がそんなのに
心を許すんだわさ?」
あの声はラピスか!?ふっと声のしたほうに振り向くとなぜかラピスがスバルに攻撃ではなく嘲るような口調でしゃべっていた。
「どれだけ家族ごっこをしたところで血の繋がりをこえることなんか不可能なんだわさ」
--……今すぐにでもラピスに攻撃をしかけたいという意思とは裏腹に本能では別のことを思っていた。親子の血のつながりか……。たしかあの時も……
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「ねぇ、スパークさん……」
「どうした?」
何気なく依頼を終えて帰ったあの日、リーフがいつになく神妙な面持ちで私に話かけてきた。いつもおちゃらけているあいつがあれだけ真剣な表情をするのも珍しい--
「スパークさんってファイアやウォーターとは血がつながっている訳じゃないんですよね……?」
「なんだ?藪から棒に……」
正直何を今更なことを真剣に聞いてきた。
「ファイアもウォーターもうらやましいなって思ったんです。血のつながりがなくても本当の親子みたいで……」
「…………」
リーフは元々は人間で記憶を失っていた。相棒のジュプトルに過去のことを聞かされてはいるが実際に記憶を取り戻した訳ではない。つまりリーフは家族の記憶がないという訳か……。つまり……
「まどろっこしいこと言ってないでさっさと言ったらどうだ……」
歯切れの悪い態度を続けるリーフにしょうがなく背中をおしてやった。それを受けたリーフは--
「スパークさん!"お父さん"って呼んでもいいですか!」
「ああ」
--二つ返事。普通ならこんな頼みを容易く了承はできんだろう。だが私は了承した。なぜかって?あいつも"親や家族の温もり"それを知らない。
だから私がそれを伝えてやればなぁと思ったんだ。
「一つだけ条件があるがな」
「じ、条件……?」
このふた文字を聞いてリーフの顔がまた歪んだ。
「これからは私としゃべる時はその敬語をやめろ。お前に敬語なんかしゃべられるとファルコ肌がたってたまらん」
「は、はい……!ありがとうござ……ありがとうスパークさん!」
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あの時のリーフも……スバルも、本気で私を父親だと呼び……慕ってくれた。血のつながりなど関係はない。
「--!!」
--好き勝手スバルにいい放題のゼリーめ……!私はゼリー--もといラピスに抑えきれぬほどの怒りを込めながらツカツカと奴に悟られないように近づいた。
「消えるんだわさッ!」
--ガシッ!
今にも技を放ちそうなラピスの腕をガッとつかむ。
「"十万ボルトッ"!」
「--!!」
文字通りの不意打ちに無防備になっていたラピスに電撃が放たれた。じっくりと力をためた電撃に叫び声を上げる余裕すらもないようだ。
「--ふぅ……。長いこと寝てたようだな」
「お……お父さん……!」
「ぐっ……!まさかそんな体力が残ってたんだわさ……!?」
ラピスが信じられるかといった表情でそうつぶやく。ふんっ、そんなこと--
「--当たり前だッ!娘がピンチの時にノー天気に寝てる父親がどこいるかっ!」
「--!!?」
ラピスは解せないといった顔。
「おしゃべりが過ぎたようだなゼリー!とっとと私に止めをさせばよかったものをな!」
私の不意打ちの攻撃は避けられず結構なダメージを負ったのだろう。ぐっと膝をつくラピス。
「私がぶっ倒れてる間に……ずいぶんと娘に好き放題いってくれたようだな……!」
「ふ、ふん!本当のことを言って何が悪いんださわ!血のつながりのない、まして合ってまだちょっとのポケモンに父親なんかつとまらないだわさ!」
--……。こんな下らない口論なんぞファイア達を養っていくと決めた時から腐るほどきいた。何も分かってない奴らほどそんな口をきいてくるものだ……。
「はんっ!時間!?血のつながり!?そういったテンプレの常套句なんざ耳にオクタンができるほど聞いたわ!そんな覚悟もできんやつに--」
--ダッ
一歩足音を立てて踏み出す。
「--父親なんぞつとまるものかッ!」
「お、お父さん……」
--グッ!やっぱり奴から食らったダメージがでかかったようだな。担架切ったはいいもののこちらのほうが不利なことには変わりない。
「そ、そんな大口叩いたところで既に終わりだわさ!蹴りをつけてやるだわさ!」
ラピスにもしっかりとダメージ量を見破られてはいたようだ。
「だいいちあんたらは僕に勝てる筈ないだわさ。僕のスピードにはついてくれないんださ!」
たしかに。奴の言うこともごもっともだ。こちらからの有効打はさっきのような不意打ちでもない限りまともに攻撃が入らない。どうするか……。ふっ--
「ふん!"勝てる訳がない"?面白い。ならそれが本当だと見せてもらおうか!」
少し八方塞がり感は否めないがそれを奴に見せることはない。ブラフであるが私はニヤリと笑みを浮かべた。
「お父さん、ちょっと耳を貸して!」
「--?」
「ふ、ふん!思う存分相談すればいいだわさ!どれだけ策をねったところで僕には勝てないんだわさ!」
助かる。慢心しきっているラピスは悠長に時間をくれた。
「お父さん。あいつのはやさのカラクリがわかった」
「何!?それは一体……」
「"トリックルーム"よ!」
「……トリクルか」
トリックルーム、通称トリクル。素早さが遅いほど速くなり、速いポケモンほど遅くなるトリッキーな技。……なるほどな。完全に失念していたな。あの時電光石火を打ったときだけは先手をとれたときに気づくべきであったか。だったら--
「なるほど、そういうわけか……」
「でもそれが分かったところでラピスを倒せるかどうか……」
「いや、私に一つ考えがある。……だがこれはスバルの協力が必要不可欠だ。私の指示に従ってくれないか……?」
「それでラピスを倒せるのね……わかった!」
「相談は終わっただわさ?」
ラピスが退屈と言わんばかりの口調でそう問いかけてきた。ふっ、その余裕いつまでもつかな?
「行くぞスバル!二手に別れろ!」
"電光石火"で私とスバルは左右に別れた。
「ま、まさか……!気がついたんだわさ!?」
「どうした?さっきまでの余裕はどこ行ったんだ!?ゼリーよ?」
「"十万ボルト"!」
こちらに気をそらした隙にスバルが電撃を放つも素早くさけられてしまった。そろそろだな……。
「スバル!」
少し技のやり取りがあったあと私は大声で叫ぶ。
「"私に"!十万ボルトだっ!」
「はっ!?」
何をトチ狂ったんだと言わんばかりにスバルはもちろん敵であるラピスもあきれ果てたような声を表情を見せる。当然私がトチ狂った訳ではない。
「そんなのできるわけないじゃない!」
「ついに血迷ったんだわさ!?"サイコキネシス"!」
「いいからはやくしろッ!」
だがスバルはなかなか動かない。--頼むッ!
「私を……信じろッ!」
この叫びを聞いたスバルは決意を決めたようだ。バチバチと電気を貯める。しかし若干の迷いが見えるが……。
「……いくよ!--"十万ボルト"!」
私に向かってスバルの強力な電撃が直撃した!
「ぐおっ……ぬおおおおおぉぉっ!」
さすがにキツイ!だがここで倒れる訳にはいかん!
「あ、頭おかしいんじゃないだわさ……!?」
やはりラピスもあきれ果てた声質で呟く。今にもぶっ倒れそうだがそれをこらねば……!
「--いいや……」
「--!!」
「これも……あんたを倒すための布石なのさ……
どうだ?あんたのそのスピードのトリックも……そろそろ切れそうなんじゃないのかい……?」
その様子だと図星のようだ。トリクルのターンもキレたようだ。いそいでラピスはトリクルを貼り直そうとする。
「と、トリックルー……!」
「させるか!喰らええぇぇっ!」
--スバルの電撃で威力を底上げした最大出力の……
「----"かみなり"ぃッ!」
「……!!」
自分でもこれほどまで巨大な雷は出せたことがなかった。その巨大な雷が猛スピードでラピスに迫る……!トリックルームの始動準備にかかっていたラピスはよける暇もなく……
「だわあああああああああぁっ!」
そして雷がやみ終えたころには……、ラピスはまっくろこげになって倒れていた。やった……なんとかなったようだな……。
「はははッ……やった……な……」