第二十一話 襲いかかる四本柱 ラピス
--私はトレジャータウンの騒動をスバルと共に行動し、調べることになった。皆が散り散りになり様子を伺うことにしたのだがさっきからスバルの様子がおかしい。
「--スバル?」
私に呼びかけられてスバルはさっきまで俯いていたところをハッとした様子で顔を上げた。分かっている、スバルはあの時からずっと様子がおかしかったのだからな。
「……気になるようだな。"彼"のことが……」
走るスピードを少し落としそう問いかけ、否、確認をした。あえて"彼"とはぐらかしたのは彼女にはわかりかねているようだ。
「……お父さん、わかるの?」
「嗚呼、わかりやすいほどに顔に書いてあるからな」
「ご、ごめんなさい……」
--やはりな。"カイ"が意識を失ったそのときからスバルの様子がおかしかった。そして意識を取り戻した時に表れた"ルアン"への態度。私の予想は確信へと変わった。
「……どちらも大切でいいんじゃないのか?」
「え……?」
まるで私がテレパシーでも使っているのじゃないのかと驚いた声をあげるスバル。
「カイもルアンもスバルにとってはどちらも同じくらい大事なのだろう」
そう、たとえルアンがカイの体に身を宿していたとしても必ず同じように接してもらう権利はある。
「そのことをルアンはわかっていなさそうだ。だからわからせてやれスバル。悩む必要なんてない」
「うん……ありがとう……。お父さん……」
"イーブル"を止める為にいるのだが、その状況に似つかわしくないほど俯いていたスバルの表情がすうっと変わっていった。ふっと私も気を抜きそうになったそのときであった。
「--ふわああぁぁ……。茶番だわさ。あくびが出るだわさ」
「--!?」
上から場違いなほど間の抜けた声。だがそれは私たちを瞬時に身構えさせるには十分すぎる要因であった。声のした民家の屋根に視線を向ける。
「全く……眠くてしょうがないんだわさ。さっさと終わらせるんだわさ……」
ゼリー状の体に大きな手をもったあのポケモン。あれは確か……。
「ランクルスか……」
間違いない。こいつの態度からしてこのランクルスがこの騒ぎの張本人、すなわち"イーブル"の一員であると瞬時にわかった。隣のスバルもおそらくは察しているだろう。
「おかしいだわさ……相手側にピカチュウは一人しか居ないはずだわさ。だのになんでおっさんのピカチュウがいるんだわさ?」
-ピクッ
「おっさん言うな!
--まぁ……あってるんだけどな……」
突っ込んだすぐに少し小声になる私をスルーしスバルがランクルスに叫ぶように詰問のように正体を問いかける。
「ふわぁ……そんなことどうでもいいんだわさ。どうせそっちも僕が敵だと認識しているんだわさ……。まぁでもボスに宣戦布告してもいいと言われたししておくだわさ」
なんなんだこいつは……。今ひとつつかみどころのない奴の態度に私は脳内に”?”が浮かんだ」
「僕は……"イーブル"四本柱のラピスだわさ。まぁ覚えてなくてもいいんだわs……ぐぅ」
「いや、寝るなッ!」
いかん、体が反射的に突っ込んでしまった。だが相手はとてもいつものように侮れるような相手ではない。私は頭をふるふると振り集中させる。
「スバル、準備はいいか」
「もちろん……」
「--僕を倒そうとしているなら、やめておいたほうがいいんだわさ」
私達の相談を察したのかランクルス--ラピスはあくび混じりにこう言い放つ。驚く私たちを尻目に奴はこう続けた。
「もう準備は終わったんだわさ。君たちの負けは決まったんだわさ」
「なんだと……ッ!」
ハッキリと負けを宣告され私は自分でもわかるほどの苦虫を噛み潰した表情に変わった。どういうことだ……。
「証拠を見せてあげるんだわさ。僕に試しに攻撃するんだわさ」
「攻撃……ですって?」
「--面白い……。ならどうやって私達を負かすのか……見せてもらおうか!」
動揺を悟られまいと私は電気袋に電気を為こう言い放った。だが、それを隠そうとしても自分の体から冷や汗が出ているのがわかった。
「スバルッ!」
「は、はいッ!」
ゆくぞ……!
「「十万ボルトッ!」」
二つの電撃が一瞬にしてラピスへと放たれた。電撃がすでにラピスの眼前にまで差し迫っているところはバッチリと見えていた。だが--
「--おそいんだわさ」
そう言ったラピスは私たちの背後で気だるそうにあくびをしながら両手に念力の弾丸を作り上げていた。なぜだ!?あやつはさっきまで屋根の上にいたはず……!
「敵にあくびをする暇を……
与えるんじゃないだわさ!"サイコキネシス"!」
「ぐっ--!?」
奴のはやさに気を取られているまもなく、飛んできた"サイコキネシス"の弾丸をもろに食らい吹き飛ばされた。
サイコキネシスをモロに食らいキリキリと体が痛む。ほんの一瞬だが気を失っていたようだ。スバルも同じように立ち上がる。
「だからいったんだわさ。あんたたちはもう負けるんだわさ。めんどくさいからこれ以上楯突くなだわさ」
そう言って"はいそうですね"と黙っているわけにいくか!--しかし奴のやる気とは正反対に流れはあちらのものとなっている。
「お父さん!大丈夫だよね!」
「もちろんだ。しかしなぜだ……なぜあやつはあそこまで速い……」
「……?」
妙な話だ。相手は素早さがネックになっているランクルス。大して私とスバルは素早さがウリのピカチュウだ。よっぽどのレベル差がない限り素早さが劣るなどありえぬ話……。
「ラピスの素早さには何かカラクリがあるはず!」
「それを暴くしか勝ち目はない……っと」
よっこらしょと声を上げそうになりながら腰を上げ、再び電気を帯電させた。やはり"四本柱”とやらだ。さぞ面白いトリックを持っているんだろうな。
「お前さんのその素早さ……。何かトリックがあるんだろ?
なぁゼリー」
「……ゼリーじゃないんだわさ」
ゼリーと言うワードを耳にした瞬間、ラピスの様子が変わったゼリーと呼ばれるのが嫌なのかその様子から怒りさえも感じられる。
「あんたたちはバカなんだわさ。僕に歯向かったことを後悔させてやるだわさ!」
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「ったくあのバカリーダー!どーこへほっつき歩いていやがる!」
バトル大会を終えた瞬間に姿を消したリーダーに怒り心頭のターマンマン、コマタナのブルー。街が大変なことになっているにも関わらず姿を表さないリーダーにほかのメンバーも彼ほどではないが怒りを表していた。
「あっ!来たよ!」
ナットレイ--グリーンが触手を指のように指す。その先には赤いマスクをしたカメール--レッドが走りながら四人の元へ向かってくる。
「どーこほっつき歩いていやがった!この大馬鹿リーダーッ!」
鼓膜が破れるといったら言い過ぎだがかなりのハイパーボイスでブルーが怒鳴り散らした。
「すまない……。それで今街はどうなっている!?」
「うん……、大勢のポケモンが、そいつらを引き連れた五体のポケモンに指示されて破壊活動を続けてるわ」
「一般ポケモン達は地元の探検家達に避難誘導を受け避難している。」
ブルー、グリーンとは対照的に冷静なキルリア--ホワイトとマニューラ--ブラックが状況説明に入る。彼女等二人は密かにリーダーの指示を待ちながら状況の観察を行なっていたのだ。
「んで、どーするのリーダー?」
「決まっているだろう!我ら正義のヒーロー、ターマンマンズの名にかけて奴ら"イーブル"の野望を食い止める!」
「「おぉう!」」
「「……」」
気合を入れた声を上げるブルー・グリーン。ゆっくりとクビを縦に降るホワイト・ブラック。リアクションに違いはあれど全員の意思は同じであった。
「ねぇねぇ、ブルー」
「なんだ!?」
ヒソヒソとブルーに話しかけるグリーン。彼の鉄の刺が近づいているのでブルーは少し距離をおく。
「やっぱり街の驚異をおいらたちで追い払ったら街のヒト達からお礼とかもらるのかなぁ?」
「もらえるかなぁって……おめぇそりゃそしたらオイラ達は英雄になるからそりゃとびっきりもてなされるだろーな」
と決意を示した直後この二人がなにやら雑談をおっぱじめた。だがそれを黙って聞き逃すリーダーではない。すかさず二人に向けて--
「何を考えているのだ!ヒーローたるものが見返りを気にしてどうするのだ!」
「なっ!ちょっとぐらい考えてたっていいじゃんかよー」
「そうだそうだ!勝手に外ほっつき歩いていたリーダーに言われたくねぇ!」
注意をするはずが"木乃伊取りが木乃伊になる"よろしく、仲裁に入った者が喧嘩に入ってしまった。そんなさなかに--
「ぬおぉっ!?」
街を破壊するイーブルの手下ポケモンに三人が揃いも揃って捕まってしまった。
「……はぁ……」
「ったく……!」
やれやれと言った様子でホワイトとブラックが臨戦態勢に入った。
「"凍える風"……!」
ホワイトが放った文字通りの"凍える風"は敵味方関係なく無差別に直撃した。元々の威力低いがその痛覚を刺激するほどの冷たさは対象者の素早さを奪っていく性質がある。
「イテテ!敵と見方の区別もできねぇのか!」
「ピーピー騒ぐな!黙っていろ!"けたぐり"!」
凍える風が当たりブルーが騒ぐ。しかし捕まった挙句、助けている自分たちに文句を付けられブラックは怒り気味に"けたぐり"で敵ポケを蹴り倒した。
「けっ、馬鹿どもが。さっさと行くぞ」
あきれ果てたブラックは一人先へと進んでいった。ホワイトも彼のあとを追い、リーダーはすっかり置いてけぼり。
「…………」
黙って二人を追いかけるもリーダーの威厳丸つぶれになりすっかり意気消沈するのであった。