第二十話 襲いかかる四本柱 ポードン
--ルッグとミーナの眼前に表れたダストダスのポードン。この騒動の根源となった彼を迎え打つ二人であるが……。
「グヘヘ!"ヘドロ爆弾!」
ポードンの初激のヘドロ爆弾。しかしその勢いは爆弾というよりは鋭い矢のような勢いで素早く飛んでくる。
「ぐっ……!」
ヘドロ爆弾は威力だけでなく臭いも強烈であった。ミーナはその臭いをこらえながら上空に飛行し攻撃を凌ぐ。一方のルッグは棒を使いながらヘドロをかいくぐる。
「はっ!」
ポードンの目の前にたどり着き勢い良く彼の頭上まで飛び上がった。そして力いっぱいポードンの脳天に棒を勢い良く振り下ろす。
--ガキン!
「グヘヘ、遅いねぇ……」
しかし棍棒での攻撃は鉄くずのついた手によって塞がれた。驚きから目を見開くルッグとは対照的にポードンはにやりと口角を上げる。
「ミケーネちゃんの愛のムチのほうがよっぽどはやい--」
「--ルッグよけろ!"エアスラッシュ!”」
反射的にルッグは叫び声に従い咄嗟に飛び退いた。彼が下がったすぐに風で作られた刃は容赦なくポードンに被弾した。エアスラッシュの衝撃により"グヘッ!?"という彼の呻き声と共に砂塵が舞い上がる。
「助かりました----
--うえぇ!?」
ミーナに令を言いルッグはふっと棍棒に視線を走らせた。刹那彼は普段出さないような奇声を発した。
「どうした!?」
「ぼ、棒が腐食しています……!」
その腐食した部位はポードンに受け止められた部位であった。木の幹のような茶色をしている筈の棒が黒ずんだ青色の変色している。ルッグはトントンと軽く棒を地面に叩くとベチャと音を立ててその部分が崩れ落ちた。
「グヘヘ……」
静まった砂塵からあの声が聞こえてきた。その様子からエアスラッシュのダメージなどもろともしていない様子だ。
「いいねいいねぇ……。それでこそ溶かしがいがあるってものだねぇ……」
「ちょっ……!こいつの頭どうなってるんだ!?」
「心配するのば僕たちの身のほうかもしれません……よっと!」
再びポードンの"ヘドロ爆弾"が飛んできた。ルッグはしれませんと言い切る寸前に飛び退きミーナもその反対によけてやりすごす。
「グヘ……」
だがポードンが不気味に、かつ意味深に目元を細めた。その様子を怪訝そうに眺めているミーナのもとに避けた筈のヘドロが自分のほうに向かってきたのだった。
「なっ--!!」
とっさに避けることができなかったミーナに容赦なくヘドロが襲いかかった。その場で爆発が生じる。
「ミーナさんッ!?大丈夫ですか!?」
ルッグはミーナのもとに駆け寄る。
「だ、だいひょうふ……」
ヘドロ爆弾を食らったあとどうにかこうにか体制を立て直そうとするミーナであったが
その表情はよくなかった。草タイプのミーナには毒技は効果抜群。さらに--
「これは……"毒"!?」
ヘドロ爆弾の追加効果に毒状態に陥らせる追加効果がある。運悪くその状態にかかってしまっていたのだ。
「ミーナさん。あなたは戦わないほうがいいです。少し下がっていてください!」
「ま、まてルッグ……!」
かすれたような静止の声もルッグには届かない。彼はそのままポードンに迫る。
「飛膝蹴り!」
「グヘェ、痛そうだなぁ!」
--ドゴッ!
鈍い打撃音と共にルッグの膝がポードンの顔面にめり込んだ。ポードンはそのままゆっくりと仰向けに倒れる。
--やった!?いやでもあっけなさすぎる……。
「グヘヘ!!」
「なにっ……!」
背後からあのいやらしい笑い声が響いてきた。ルッグはとてつもなく嫌な予感と俯瞰感を感じる。--なぜ背後からあの声が?もしかしたらこの目の前にいるこいつは?
すると飛膝蹴りを食らったポードン(?)が煙のように跡形もなく消えていった。
「やっぱり……身代わりっ!」
妙に感じなかった手応えの原因を把握する暇もなくルッグは慌てて背後に振り返った。背後にいる”本物”のポードンは既に技を出す準備をしていた。
ルッグではなくミーナに
「や、やばい……っ!」
「そんなッ!」
「グヘヘェ!"ヘドロ爆弾"!!」
ルッグは全速力でミーナのもとに駆け寄るが間に合わない。ミーナは"毒""ダメージ""臭い"の三重苦に耐えながらよろよろと浮遊しヘドロをかわそうとする。
「な、なんでついてくるんだよーっ!」
ヘドロ爆弾はホーミングミサイルかのごとく執拗にミーナを追い続けていた。叫ぶミーナの意思とは反対にヘドロは迫ってくるばかりである。
「一体なんなんですか!?」
「ぐ……っ!"エナジーボール"!」
ヘドロ爆弾の数発をどうにか相殺しきったが全てを相殺できたわけでない。そこに駆け寄ったルッグがかばうように前に立つ。
「"ドレインパンチ"!」
残りのヘドロ爆弾を拳で相殺に利用する--が。
「あれ?」
まの抜けた声がルッグの口から発せられた。まるでヘドロが意思を持っているかのごとく彼の拳を避けているのだ。そして避けたヘドロは当然のごとくミーナのもとに。
「うわああああああぁっ!」
「ミーナさん!」
ヘドロ爆弾が直撃し、ミーナは地に崩れ落ちた。あわててルッグが駆け寄るも既に意識を手放していた。ダメージが蓄積しすぎていて既に戦える状態ではなかった。
「グヘヘ……」
「…………」
ルッグは倒れているミーナを抱えていたが、ゆっくりとその体を地面に下ろす。
「……ゆ……」
そしてその場からゆったりと立ち上がる。
「許しませんよ」
ポードンのいる向きへギロりと振り返る--
そして--
「なんでミーナさんにしか攻撃しないんだこのド変態がああああああああああああああああぁ!」
「グヘェエエエッ!?」
ルッグのその豹変した形相にポードンは絶句。その勢いに一歩後ずさりをした。ルッグのその形相は"鬼のようだ"なんて表現が生易しいほどの恐ろしいものとなっている。
「さっきから見ていりゃなんなんすかあんたは!?えぇ!?スケベなんかロリ●ンかは知らないけど僕のほうはシカトしてミーナさんばっか攻撃しやがって!?ええ根性や!おのれの根性叩き直したろかわれええぇ!」
普段誰にでも使っているルッグの敬語が消失。明らかに口調がおかしくなってはいるがその剣幕にポードンも突っ込む暇もなく冷や汗を流した。
人知れずミーナが意識を取り戻し"ぼくはメスじゃない……"と口にするも誰にも聞きいられなかった。
「い、いや……ぼくちんそんなつもりは」
「なーにが"い、いや……そんなつもりは……"じゃあ!それじゃなんでミーナさんばっか集中攻撃すんだよおおおおおおおおおおぉ!」
「な、なんでこいつこんな変わったんだよぉぉ!"ヘドロ爆弾"!」
今までのポードンは自分が感じられなかった"恐怖"を覚えながら闇雲に"ヘドロ爆弾"を放った。だが今のルッグには到底通用することはなかった。
「またそれでミーナさんだけ狙うつもりですかあああああぁッ!」
ダッと左足で踏み鳴らす。そんなルッグの怒りを表すかのように彼の体から黒い衝撃波のようなものがヘドロを押し返した。
"悪のはどう"だ。とはいっても意図的に使っているのではなく怒りに身を任せて打てるようになっていた。しかしなれない技なのかヘドロ爆弾を相殺しきれずにルッグに迫ってくる。
「これは……?」
だが今度のに限っては一発たりともミーナのもとには向かうことはなかった。残りのヘドロを冷静にドレインパンチで処理しながら首をひねった。
「……なんすか?これで僕に攻撃してちゃらにするつもりですか?」
「ひぃっ?」
ルッグがポードンに向かって一歩踏み出す。それに呼応するようにポードンが一歩後ずさりする。
「ち、ちがうんだよぉー!ぼくちんは、ぼくちんはぁ!」
「あぁ!?だったらなんですか!はっきり言いなさいッ!!」
"怖い顔"をしながらポードンに詰め寄る。ズルズキンという出で立ちにその形相から今にもポードンの胸ぐらをつかみそうな勢いだ。どちらが悪役かわからない構図である。
「ぼ、ぼくちんは”ヘドロ爆弾”を"サイコキネシス"でコントロールしていただけなんだよぉお!」
「ん?サイコキネシス……?」
「そうだよおおおおぉぉ!"サイコキネシス"でヘドロをよけれないようにしていたんだ!でもあんたは悪タイプで効かないからよけてただけなのにいいいいいぃいぃ!」
「…………」
ふと考えてみた。あの時"悪の波動”を受けたヘドロ爆弾だけ方向転換をすることはなかった。ポードンの言うとおり本当に"サイコキネシス"でコントロールしているのであれば悪タイプの自分には一切被弾しないのも説明がつく。
「なるほど……面白いことを聞きましたねぇ……」
--バキッ、ボキッ。指を鳴らしながらルッグはにやりと悪魔のような笑みを浮かべ、ポードンをどう仕留めようかと画作していた。そんな恐ろしい彼の様子にポードンは一層冷や汗を垂らす。
--ことはなく意外にも彼が浮かべたのは恐怖ではなくいつものような笑みであった。
「グヘヘ……残念ながら時間切れだねぇ」
「……どういうことです?」
「グヘヘヘへへ。さぁねぇ。まぁぼくちんはキミとは会いたくはないけどね」
「ま、待ちなさい!」
のそのそと、だが速い速度でポードンはその場から離れていった。ルッグも慌ててあとを追おうとするが--
「!?」
英雄祭の為にそこらじゅうに取り付けられたスピーカーが雑音を放ち始めた。しばらくはザーっといった雑音ばかりであったがしばらくすると彼の耳に聞き覚えのある声が響く。
「この声……!」