第十八話 もう一人の……
「うぎゃあああああああああああああああああああああああああぁっ!!」
平和でのどかなはずのトレジャータウンに悲鳴が響いた。そこは医療テントの中であり、その悲鳴の主は苦手な電気技を浴び、まっくろこげになっていった。
まぁそれはさておきリーフ達は……。
「ってさておくなああああああああああああああああああああああっ!!」(by ウォーター)
「ったくなんでこのジェット様が……ブツブツ……」
文句を小声で愚痴垂れるジェットには誰も気に留めることはなくリーフ、ファイア、ルッグ、ジェットの四人はスパーク達の下へ向かっていった。
「痛い!!痛いですって!!」
正確にはリーフが残りの三人を引きずっているといったほうが正しいだろう。どういうわけか、他の二人は彼女の背に乗せられているにもかかわらずルッグだけは、引きずられている形であった。したがって今の彼は生傷が耐えない状態となっている。
「--あーーっ!!」
しばし二人を引き連れ、一人を引きずったリーフの目には、数多のポケモンと和やかな空気に囲まれ、多少狼狽えの表情を見せるリオル--カイの姿があった。
リオルの姿を確認したリーフは三人を投げ捨てるように放り投げて一目散にカイの元へ駆け寄った。自分で引きずっておいて投げ捨てるとはやりたい放題である。
「カイ君無事だったのね!!」
ドタドタとメガニウムらしい重量級の足音と共にリーフは猛スピードで接近していった。
「ぐっ!ちょ……ちょっと待てっ……!」
「カイ君ホントに心配してたのよ!!」
ギュッとカイを抱きしめるリーフだが、加減をしてなかったのかその抱きしめる力は強く彼の表情は瞬時に険しくなる。それと呼応するように周りの表情も険しくなっていった。(しかし少しばかしファイアが嫉妬していたのはあとのお話)
「リーフ!それ以上やったらカイ君死んじゃうからぁっ!!」
一瞬の嫉妬もすぐに拭い必死にリーフを止めるも全く止まる気配がない。そんな彼女を止めたのは……
「離しなさい……馬鹿……」
ルッグであった……。
場所は変わってトレジャータウンのとあるギルド内。スパーク、ウォーターやスバルと合流し、スバルの提案によってギルド内の大広間にて話をすることに。
「んで?どうしたんだスバル?んな深刻なことなのか?」
そう問いかけたのは以前エキシビションマッチにてルッグ達と戦ったレントラー--ルテアである。
「愚問だね。そうじゃなかったらわざわざテーブルを囲って話をするわけないじゃないか」
小馬鹿にするような口調で返したのは質問されたスバルではなく、白衣を着たデンリュウ--キースであった。その煽るような口調にルテアの表情が強ばる。
「うるせぇんだよてめぇは!だいたいなんでお前はまだいやがるんだ!帰れ!!」
「ふん、気になることだからね。帰るなんてもったいないじゃないか」
次第に言い争いが始まりいっきに周りが騒がしくなった。それを止めるようにバシャーモ--シャナが咳払いをしてその場を静めた。
「それでスバル。話とは?」
「は、はい……実はカイのことで……」
スバルは緊張のためかゴクリとつばを飲む。そのシリアスな雰囲気に一同(ジェット・キースをのぞく)もじっと目を見開く。
「今ここにいるカイはね……」
--カイじゃないんだ」
「はいぃ!?」
予想だにしない言葉を発せられほとんどの面々は驚きの声を上げた。こうなることは予想していたからかスバルは淡々と続けようとするが……。
「……イマイチね……」
「へっ?」
腕組みをしたリーフによって遮られた。しかし彼女のこのセリフは明らかに話とかみ合っておらずに全員の首を傾げさせる。
「イマイチって……何がイマイチなんだ……?」
「いや、ボケるにはあまりにも大味でわかりにくいってことよ」
「はぁ?」
リーフはこの話がネタだと勘違いしているのか、ボケだと思い込んでいたのだ。そして彼女はネタ張と書かれた手帳を取り出し--
「どうせボケるなら、今は英雄祭なんだからそれにちなんだこんなネタを……」
--バコッ!!!
「あんたのその脳内英雄祭をとっとと終わらせなさあああああああああああああああぁいいい!!!」
ルッグ鉄拳制裁というなのツッコミでリーフは星になった……。
「すいません……。続けてください」
「うん……これはホントは秘密なんだけどね……」
”もう一人のカイ”。その存在はカイのピンチの際に現れる存在のことである。詳細はへっぽこサイドにて!!
「って、なんだこの宣伝くせぇ言い回しは……」
「--それでね、今のカイは見た目はカイなんだけど意識は”もう一人のカイ”なの」
とスバルが締めくくると”もう一人のカイ”は小さく頷いた。するといっきに視線が自分に集まったので彼は少し焦りを見せる。
「な……なんか頭がこんがらがってきた……」
「お……おれも……」
頭を抱える兄弟を横にルッグが”はい”と手を挙げた。スバルは先生のように”はい、ルッグさん”とふる。
「そのも”もう一人のカイ君”は……ピンチの時にしか出て来れないんですよね?カイ君の体に負担をかけるから……」
「うん」
「それでは、なぜ全くピンチとは程遠い今でも彼がカイ君の代わりの人格として出ているのです?」
「あっ、それは今から説明するね。……あくまでも仮説だけど……」
スバルの言う仮説。それは”もう一人のカイ”も予想外なことで、カイの肉体が本物の”魂”の判断を誤らせたというものであった。
「ほほぅ、面白いね」
キースが怪しげに言った。その表情からしてロクでもないことを考えているのは明らかであり、ルテアに釘を刺された。
「それじゃ……本当のカイ君の人格は……」
そう口にするファイアであったがそのボリュームは決して聞き取れるほどではなく、最後の方では誰も聞き取れないほどであった。
「本当に……あなたはカイ君じゃないのね……?」
「あっ、リーフ……」
「戻ってたのか……」
人知れず戻ったリーフに驚くスパーク、ウォーターを気にも留めずに彼女はそう口を開けた。カイは一言”そうだ”と口にした。そのいつものカイとはかけ離れた口調にほぼ全員が二度目の驚きを見せた。
「……くだらん……ばかばかしい……」
ジェットは初めから興味をもってないからかフンと鼻であしらった。一瞬全員の冷ややかな視線が彼に注いだが、それも次の言葉でとどまる。
「それで……君のことはどう呼べばいい?」
スパークだった。一瞬驚くカイであったが少しだけ緊張を緩和させた顔つきで口を開いた。
「……ルアン……。ルアンという……」
「そうか……。いい名前だな」
ふっと笑を浮かべるスパーク。そのときであった。
「--大変だコラーーーーーーっ!!」
大広間の出口からごろごろと転がるような音と共に紅白のボールようなポケモン--マルマインが転がってきた。
「どうしたんだ。そんな大声で」
シャナがマルマインに対して呆れ気味に問うが、彼のその焦りに似た興奮は収まらなかった。そして--
「一大事なんだコラぁッー!!祭りに変な集団が乗り込んできているんだコノヤローッ」
「変な集団ですって!?」
切羽詰った表情で立ち上がるルッグ。
「まさか……ジェット達の仕業……!!」
「んなわけあるか!!組織総動員で来てるからもう来ねぇよ!!」
「そ、それじゃあ一体……」