第十六話 ついに終止符!? vsバクフーン
「へへっ……やっぱ無茶ってのはするもんじゃねぇな……」
バクフーンと取り巻きをただ一人で迎え撃ったジェット。手下達は全て倒したものの、サメハダーという種族上防御が著しく弱いため数回攻撃を食らったジェットは満身創痍に近いからだであった。
「全盛期ならこんぐれぇ楽に突破できたんだがな……ってて……」
よろよろと弱弱しく立ちあがるジェットだが傷の痛みから立ち上がることをやめ、座り込む。
「……リーフだけなら大丈夫かもしれんがあの疲れきったおっさんにガキ2人まで抱えてるからな……。仕方ねぇな……」
小さくため息をついたジェットはバクフーンが逃げていった奥地に向かってゆっくりであったが歩いていった。
-------------
〜〜幸せ岬奥地〜〜
「ぜぇ……ここまでくれば……」
荒い息使いを続けるバクフーンは奥地のワープゾーンのエリアまでたどり着いていた。もう少しで逃げれると確信した時--
「待て!!」
「----!!」
変わらず息を切らしながら逃げるバクフーンであったが、背後から鋭い声がかかった。振り向くと自身を追っているメガニウム、リオル、そして2人のピカチュウ、私とスバルが立っていた。
「ぬっ!!ジェットはどうした!?見捨てて逃げてきたのか?」
手下で撒こうとしたバクフーンは一人だけ足りないことに気がついたようだな。くっ……!!
「貴様のような下劣なお尋ね者と一緒にするな!!」
あいつめっ!!--奴の嘲るような口調は私を激昂とまではいかずとも怒らせるには十分なものであった。怒りに身を任せようとする私だが、すっと上から制止がかかる。り、リーフ!?
「わたしが前に出て戦うからみんなは援護をお願い」
そう志願するリーフの目はさっきモンスターハウスに足を踏み入れた時とは別人のような真剣なまなざしであった。疲弊している私に奴のことはよく知らないカイにスバル……。確かにまともに戦えるのはあいつしかいない……。
「わかった……。まかせる……」
「お父さん!?」
承諾する私とは対照的にスバルは驚愕の表情を見せていた。無論カイも同じようである。確かに炎タイプのあいつに草タイプのリーフを戦わせるのは普通なら愚の骨頂とも言えるからな。--普通ならな。
「大丈夫だ。あいつを信じるんだ」
そう言い切った私はスバルの首を縦に振らすには十分に事足りた。私と彼女はリーフの援護に回ろうとしているが……?
「カイ?」
「……あっ!!すいません!リーフさんの援護……ですよね!?」
どうしたんだ?どうも顔色がおもわしくないが……。だがそうも言ってられんな。
「バクフーン!今日こそこの手でお前を捕まえる!!」
「はっ!タイプ相性も知らぬ愚か者め!!火炎放射!!」
火炎放射にリーフは真正面から突っ込んでいった。普通なら炎に飛びこんだらリーフには大きなダメージが入る筈だが……。
「なっ!!」
持ち物”癒しのオーブ”の効果だ。アレをつけてる限りリーフには炎技ではダメージは与えられない。だが私以外はそのことを知らないためかバクフーンのみならずスバルもカイも驚いていた。
「蔓の鞭!!」
「ぐぼはぁっ!!」
反撃の蔓を食らったバクフーンは情けない呻き声をあげて勢いよく飛ばされた。相性の悪い技を食らったとは思えない光景に2人とも三度目の驚きをあらわにする。"草と炎じゃ相性悪い筈じゃ……!"とかいろいろと……。
「お前は気がつかなかったか?さっきの私の出した水滴が何なのか?」
とはいうものの通常のピカチュウではめざめるパワーを使わない限り出せない水技だ。分からないのも無理はないだろう。私はバクフーンに言っているのかカイ達に言ってるのかよくわからない口調で続ける。
「水浸しだ。お前の炎技の威力下げさせてもらったぞ……」
「何……ッ!!」
さっき奴に拘束された時に放ったのはただの水滴ではない。相手を水タイプにさせるれっきとした技を放ったのだ。虚をつかれたバクフーンは自身の不利に気付いたようだ。
「スバルッ!!」
「わかった!」
私が叫んだとほぼ同時に私達はバクフーンに十万ボルトを放った。十万ボルトは今の水タイプのバクフーンには十分に機能する。当然奴はかわしてくるな。
「--!!」
「メタルブレード!!」
殴りつけるようにリーフが鉄の葉を叩きつけた。しかしバクフーンに対する怒りからかいつもの防御寄りな戦い方のリーフには似つかわしくない攻撃的な戦い方だな……。
「こしゃくなぁっ!!」
怒り狂ってリーフに殴りかかるがそれも受けた直後に返り討ちにあった。そろそろ動くな……。
「--!!」
リーフにはかなわないと見てか奴め、私達の方に向かってきた。そのパターンも読めているぞ。向かってくるバクフーンに向けて私とスバルはそのまま十万ボルトをぶつけた。
「小癪なぁっ!!」
逆上するバクフーンは体中から赤いオーラに纏い、口には高密度のエネルギーを溜めこんでいた。あれはたしか!?
「ブラストバーン!!」
やはりな。だがあの技は出したら大きな隙ができるから容易に出せるものではないばかりか炎技を無力化できるリーフがいる。私達はそれほど危険視はしていなかった。
勢いよく放たれたブラストバーンだがそれは私達にも、リーフにも届くことはなかった。--なっ!!
「カイ!?」
なんてことだ!!あいつの狙いは膝をついて疲弊していたカイの姿だ!!まずい!!奴の狙いは初めから弱っていたカイだったのか!!?しかしなぜカイが!?どうにかしようにも距離が遠すぎる!!
「カイ君!!」
ほっ……助かった……。幸いにもリーフが近くにいたようだ。リーフはブラストバーンからカイをかばうように前に立った。これでやり過ごせると安堵してた時であった。
ドォオオンッ!!
「きゃあああッ!!?」
「--!!?」
私達には到底信じられないことがおきた。ブラストバーンの爆音と共にリーフの悲鳴が辺りに発せられた!!なぜだ!?さっきまでは平気だった筈なのに……!!と思索していた私にスバルが--
「お父さん!!あれ見て!!」
スバルの指差した先を見るとそこにはさっきまでリーフが身につけていた癒しのオーブが奴の手に握られていた。そうか……!さっきのどさくさに奪い取っていたのか……!!
「カイ君……大丈夫……?」
「リ……リーフさん……」
カイにはダメージこそはなかったようだが炎が晴れた先に見えたのは体中が焼け焦げたリーフの痛々しい姿だった。いくらタイプが不一致といっても炎技をまともに受けたのだから当然……。くっ!よくもリーフをッ!!
「バクフーン!!貴様ッ!!ボルテッカー!」
術中にはめることに悦にいってたかニヤリと口元を釣り上げたバクフーンを見てとうとう私は激昂を抑えられなかった。反動で動けないところもあってか抵抗することはなかった。ズドンと音を立て、渾身のボルテッカーを食らったバクフーンは限界が来てそのまま倒れた。
「お父さん!!リーフさんが!!」
スバルに言われてその先を見るとよろよろとおぼつかない足取りで立っていたリーフの姿があった。
「リーフ!カイ!大丈夫か!?」
「えぇ……なんとかね……」
「あっ……はい……」
よかった。2人共大丈夫なみたいだな。と私達が安心しきっていた時だった。
「貴様等のような奴らに……」
--!?まだ立っていたのか!!後ろからバクフーンの声が!まずい!!
「私を倒せるわけがな--」
ぷっつりと空気の抜けたように切れたバクフーンの声と共にドシンと倒れる音が今度は聞こえてきた。あいつか……。
「けっ、やっぱり俺がいないとダメだな……」
やはりジェットか……。察するにジェットが止めを刺して黙らしてくれたんだろう。助かったな……。これで流石のあいつも起き上れないだろう。だがジェットの方も足止めがきいたのか相当な傷を負っていた。
「さってと……」
一通り私達の安否を確認したジェットはしめしめとバクフーンに近づいていった。一体何をやらかすつもりなんだと思っていたら--
「おのれバクフーンめ!!よくも我輩を裏切りおったなあああああああああああああああぁっ!!」
--なっ?なんだぁ?いきなりジェットが倒れてるバクフーンにありとあらゆる罵詈雑言及び攻撃を(という名の八つ当たり)をしてきた!!?怒り狂うジェットは噛みついたり叩きつけたりと容赦なく攻撃をしかけてる。--よほど裏切りがこたえたんだろうか……。
そして怒り狂うこと数十分。
「あ〜すっきりしたのだ」
一通りバクフーンをボコしたジェットは清々した様子で奴を縛りつけていた。今回ばかりはボコされたバクフーンが少しだけ気の毒になってきたな……。
「ジェット?大丈夫なのその傷?」
「フン!お前が言えたセリフか!!」
ジェットの体を心配するリーフだがジェットに返された。お互い様としか言えないほど互いに傷を負っていた。とにかくバクフーンを連れて戻るとしよう。
「よかったねカイ。バクフーンが捕まって……カイ?」
スバルがほっと安堵した様子で声をかけるがカイは反応をしない。どうしたのかと気にかける私達の前でカイが--
バタン!!
「カイ!?」
倒れてしまった。うろたえを隠せないスバルは慌てて彼の元に駆け寄るも起き上る気配は一向に見せない。どうしたんだ!?
「落ち着くんだスバル。とにかくここでは場所が悪いから一旦戻るとしよう。リーフ、ジェット、自力で歩けるか?」
「う、うん……!!」
「お前の手なんかかりるか!!」
幸いにも2人共自力で動くことはできるらしい。私は倒れたカイを背負って幸せ岬を後にした。