第十三話 家族って
英雄祭のメインイベントでもあるバトル大会。そのシングルバトルの決勝戦はわたしとリオルのカイ君の熾烈なバトルが繰り広げられた。油断したばかりに足元をすくわれ一度ピンチに陥ったことがどうしても気になり晴れない気分のままフィールドを降りていった。--あれ?そう言えば……!!
一瞬決勝戦の時にカイ君を応援していたピカチュウとその隣にいたスパークさんが脳内にフラッシュバックされた。そうだ!!そう言えばあの時はそれどころじゃなかったけどアレってもしかして……!!
「リーフ!!」
はっ!一人で思索していたわたしにファイアが声をかけてきた。
「お疲れ様。一瞬危なかったけど、流石だねリーフは!!あんな大技を耐えられるなんて!!」
「ありがと……。あれ?ルッグさんは?」
「うん、なんかすぐ戻るからって言って離れちゃったよ」
一体何があったんだろう……。ってそうだ、それよりも大変なことが……!!
「な、何が?」
「よく聞いてね。実は……」
わたしはスパークさんに実は隠し子がいるんじゃないかということをファイアに話した。あの時の応援の時のピカチュウの隣にスパークさんがいたことを。それを放して--
「と、父さんはどこ!!?」
「た、確かステージからみたらあの辺りにいたけど……」
血相を変えて彼はわたしに詰め寄ってきた。体格差の関係でみあげられる形になったわたしはその勢いにおされてスパークさんが見えた場所を指す。そのことを確認したファイアは矢のように群衆をかぎ分けて走っていった!!ま、待ってよ!!
「じゃあお父さん。ここで待っててね」
「嗚呼」
スパークさん達がいたテントの入り口付近でピカチュウ同士でそんな会話が繰り広げられていた。お、お父さん!?やっぱりスパークさんには隠し子がいたの!?
「父さん!!」
わたしが問い詰める前にファイアが凄い顔でスパークさんに詰め寄っていた。もしかしてファイア……怒ってる?確かにわたしもどういうことか気になるけどいくらなんでも怒る必要はないんじゃないかな……。
「おぉファイアにリーフか。どこに言ってたんだ全く……。探したぞ」
「そんなことはどうでもいい!!父さん!!これは一体どういうことなのさ!!」
やっぱり……。ファイアの口調からして彼が怒っているのは目に見えていた。でも、わたしも何とも思っていないわけじゃない。ちゃんと話を聞いておかないと!!
「そうよスパークさん!!あの隠し子は一体誰なの!?」
「か、隠し子ぉ!?」
隠し子のワードでスパークさんは間の抜けた声を出した。知らない振りでもしようっての?でもそれでもわたしの目はごまかせないから!!この目でキッチリ確認してこの耳でしっかり”お父さん”と呼ばれるところを見たから!!」
「か、隠し子なんか知らん!!どういうことだ!!」
「じゃあなんでお父さんなんて呼ばせてるのさ!!」
「はぁ!?」
まるで自分のしたことがわかってないみたい……。でも隠し子なんて聞いたからファイアの様子がいつもとは豹変したといいほど。
「とりあえず2人共待ってくれ!!話せばわかるから……。なっ?」
「全くあんたってヒトは!!ちゃんと留守番しろといったのにど〜してちゃんと留守番しないんですか!!」
あれ?確かこの声は……?いつの間にかルッグさんがいるはずのないウォーターを連れて説教をかましていた。まさかウォーター……言いつけを破ってこっちに来ちゃったの?そりゃルッグさんも怒るわよ……。
「だってよ!!やっぱ俺だけっておかしいじゃねぇか!!俺だってみんなと同じようにお祭り行きた……
ぎゃいん!!」
「黙りなさい。その間抜けな脳天カチ割ってやりますよ」
言い訳の隙を作ることも許さずに鉄槌という名のこん棒が飛んだ。やっぱりルッグさんも怒っている……。そんな2人のやりとりからフッと目を放したらテントから出てきたリオル、カイ君とスパークさんの隠し子らしきピカチュウの2人がこっちを見て唖然としていた。ま、まさかみられてた!?やだ、恥ずかしい。人様にこんな醜態さらすなんて……。
しばらくこのいざこざと(一旦は)終わらせてわたし達リーファイ、カイ君、そしてさっきのピカチュウの2人で屋台の近くにあるテーブルセットに腰かけていた。
「えっと……それじゃ自己紹介するわね。わたしはメガニウムのリーフ。探検隊リーファイのチームリーダーをやっているわ」
と、そこまでを言いきってメンバーの4人を指す。
「チームメイトを紹介するわ。左からマグマラシのファイア、カメールのウォーター、ズルズキンのルッグさん。そしてピカチュウのスパークさんよ」
「あ、あの〜」
「なんだよ?」
なぜかカイ君がウォーターの方を見て控えめに声をかけた。ウォーターは機嫌が悪いのか粗雑に返した。
「ウォーター……さんでしたっけ?以前あなたとはどこかでお会いしませんでしたっけ?」
「は、はああああぁ!?あ……あ……あ……あ……あ、あってね〜し。俺とお前初めてだからしらね〜し……」
いやウォーター、初対面の子に”お前”呼ばわりはないと思うけど。でもなんで焦ってるのかしら?
「あっスパークさんはファイアとウォーター(これ) のお父さんなの」
「えっ!?」
「っておい!!な〜にが”これ”だ!!名前で呼べ!!名前で!!」
いつもルッグさんやファイアがウォーターを弄っているノリでそう紹介した。ウォーターの抗議にかぶさるようにカイ君等の驚きの声が発せられた。確かにピカチュウがマグマラシやカメールの親って聞いたらびっくりよね。
「それじゃ次はこっちだね」
「う、うん……、僕はリオルのカイで、隣のピカチュウがスバルです。探検隊シャインズで最近ブロンズランクに昇格したばかりです」
えっ!?
「ブ、ブロンズなの!?」
正直にわかには信じ難かった。自分で言うのもおかしいと思うけどわたし、最近であれほど苦しめられた経験はめったになかった。その相手がノーマルの次点に低いランクのブロンズランクの探検隊と言っていた。これって俗に言う初心者詐欺?な訳ないか……。
「リーフがあれだけ苦戦するなんてなぁ……」
「本当にブロンズランクなんて信じられないですよ。その実力ならダイヤモンドでも十二分に通用するんじゃないですか」
ファイアとルッグさんが代弁するようにそう唸った。あの実力ならブロンズはありえないと思うんだけどなぁ……。
「わたしも油断していたわ。あそこまでいいバトルはめったにできませんもの……。ありがとう、カイ君」
「こ、こちらこそ……」
「--んで?話戻すけど父さん、隠し子の件はどういうことか説明してもらえるかな?」
「か、隠し子!?どういうことだよ!!」
大方流れを知らないウォーターが声をあげた。みるとルッグさんもどういうことか分からないみたいから簡単に説明すると……。
「隠し子!?親父に隠し子なんて俺は認めねぇぞ!!」
状況を飲み込んだウォーターはファイアと同じスパークさんに怒りを見せながら隠し子(?)のピカチュウ、スバルちゃんに視線を向けた。息子2人から反論されたスパークさんはというと……。
「だから隠し子じゃないって言ってるだろう!!」
そう反論したスパークさんは今までのいきさつを話した。なんでもわたし達とはぐれた後、彼がお金がなくて屋台の食べ物をかえずにいたスバルちゃんとたまたま居合わせておごってあげた。そして彼女が親のぬくもりを知らないことを知ったスパークさんが自分を”お父さん”って呼ばせたんだとか……。あれ?ひょっとして隠し子じゃなかった……?
「リーフ……」
「お前らしいっちゃお前らしいが……」
「早とちりもいいところですねぇ……」
ファイア、ウォーター、ルッグさんがジト目でこちらを睨んできた。えっ?これわたしのせいなの!?だっていきなり見ず知らずのポケモンがお父さんなんて呼んでたらびっくりするでしょ!?
「親がいない苦しみがどんなものかみんなわかってるだろう!!だからわたしは呼ばせたんだ!!文句あるのか!!」
「開き直らないでよね……」
誤解がわかったとしてもファイアの気分が晴れる様子はなくぷいとそっぽを向いた。確かに自分の親が他の子をお父さんって呼ばせたら複雑かも知れない。でもスパークさんの気持ちもわからなくはないわね……。
「そう言えば気になっていたけどカイの両親の話ってきいたことないんだけど?」
「えっ?ぼ、ぼくの?」
この不穏な空気を打破するかのように不意にスバルちゃんが話題を切り替えてカイ君に振る。
「僕の両親は生まれてから一度も見たことないんです……」
両親を知らない……?
「今まで自分の両親が誰か気にならなかったの?」
「親代わりがいなんです。でも……今は無事かどうかわからなくて……」
正直あまりヒトのことは言えないといった直後で気がついた。だってわたしの両親も記憶をなくしてから一度たりとも会ったことはない。彼も同じで親代わり(スパークさん)がいた。ただ違うところはそのヒトが今はいない……。
「あ……会いたい……」
それ以上続かなかった言葉がわずかに聞き取れる程のボリュームで聞こえた。
「リンがいないと……やっぱり寂しいな……」
この年の子。親がいなくて平気でいられる方が不自然よ……。みんな同じ気持ちなのか複雑な顔つきを並べていた。--このヒトが動くまでは。
「ご、ごめんなさい。僕のせいでみなさん気を悪くしてしまいましたね……」
「いやっ!!」
ん?いきなりスパークさんがガタっと音を立てて立ちあがった。
「皆!!私は今決めたぞ!!」
そう一通り周りを見渡して彼はそう言い放った。
「--私は、この2人の父親になるっ!!」
--は……
「はああああああああああああああああああああああああああああぁっ!!?」
な、何言ってるのこのヒトは!!?スパークさんが父親に!?
「なっ……!!どういうことだよ親父!!」
「そうだよ!!なんでそうもいきなり……」
やっぱりこの発言に食いかかったのは息子のファイアとウォーターだった。
「スパークさん……もしかして酔ってるんですか!!?全くあれほど禁酒といったでしょうが!!」
その隣で明らかにずれた話題で怒っているルッグさんが。確かに今のスパークさんの顔は赤く酔っているのは目に見えていた。--でも今に始まったことじゃないけどウォーターの時といいスパークさんの時といいルッグさん大変……。
「アホかっ!!私は至ってマジメだ!!酔ってなどおらん!!リーフ、それにルッグもみんなよ〜く聞きなさい!!」
いまだに席から立った状態でスパークさんは続ける。
「カイもスバルも両親がおらず親のぬくもりを知らずに育ってきた。そこで私達がこの”英雄祭”で偶然にも、このヒトざかりで出会った。これは偶然ってかたずけられることか?いや違う。これはそうだな……--運命だとは思わないか?」
う……うんめい……。その部分を強調するスパークさんの瞳は先ほどまでの酔ったことを彷彿させるあの座った瞳ではない。このヒト……本気であの2人を子供として迎えようとしている……。
「私はこの出会いでうっすらと感じていたんだ。私なら、いや!!私”達”ならカイとスバルに親の……家族のぬくもりを与えられることができるとな。ファイアにウォーター、血のつながりなどないお前達なら分かるはずだ。この2人は家族として迎えてもいいんじゃないか?----リーフ、お前はどう思う?」
わ、わたしに振るの?
「うん……わたしもすごくいい考えだと思うわ。この子たちなら家族として迎えてもいいし、何よりこうやって家族が増えるのって嬉しいし!!ファイアとウォーターはどう思う!?」
ずっとぱっとしないファイアとウォーターに話題を振ってみた。すると今まで腕組みをしてそっぽを向いていたウォーターがちらりとこちらに視線を向けて--
「お、俺は親父がそこまで言うなら構わねぇぞ。ど〜せ親父のことだから反対してもきかねぇからな」
「ファイアは?」
「僕は……最初はちょっと嫌だったかな。だって父さんは僕達の父さんだからもう僕達のことを息子としてみてもらえないと思ったから……。でも2人が家族になるんだったら、僕にも弟や妹ができるってことだし、それだったらいいかな……」
ファイアとウォーターの承諾を聞いてシャインズの2人、特にスバルちゃんの表情がぱっと明るくなった。やぱりスパークさんを親として接したかったのかなぁ……。
「よっし!!じゃあ決まりだな!!」
同じく満面の笑みを浮かべるスパークさん。
「今日からカイとスバルは私達家族の一員だ!!みんな仲良くな!!」
わたし達リーファイに家族が増えた。そしてスパークさんに子供ができた。
「よろしくお願いします!!」
「これからよろしくね!!」
わたしは新たにリーファイファミリーとなったカイ君、スバルちゃんと握手した。さっきまで穏やかな表情とはかけ離れていたウォーターもファイアもほんの少しだけ笑みを見せてよろしくと言ってきた。よかった……、一時はどうなるかと思ってたけどこれで一安心ね。
はぁ〜。安心したらお腹減ってきたな〜。
「よっし!!それじゃさっそく家族で屋台の食べ物食べに行くわよ〜!!」
「まだ食うのかよ!!」
「勿論!!と〜ぜんお父さんのおごりよね」
「はあああああああぁっ!!?」
お父さんことスパークさんは驚愕してうろたえていた。でも他の皆は賛成してるし、いっか!
「それじゃ行きましょ!」
「お、おい!!ちょっと待ってくれ!!」
わたしの掛け声でスパークさんを除くみんながぞろぞろと席を立った。スパークさんは慌ててこちらを追いかけてた。なんだろう……こんなほっこりとした雰囲気久し振りね……。やっぱりスパークさんの言うとおり”家族のぬくもり”って大切なんだなぁ……。わたし達はしばらくはお祭りを堪能していた。
……その和やかな雰囲気を壊す影が差していることも知らずに。
「ここがトレジャータウンってところか……」
「ボス〜、トレジャータウンってところ別の地方にもあったらしいですけど大丈夫ですか〜?」
リーフ達やターマンマンズが上陸した海岸付近で数多のポケモンが立っていた。ボスと呼ばれたポケモンは部下のポケモンに地図を見せるように広げる。
「大丈夫だ。我々がいるのは幸せ岬とやらの方だからあっている」
ボスと呼ばれたポケモンは自信たっぷりにそう答えた。
「英雄祭か……これから何が起こるかもしらずに騒ぎたてておるな。者共!!」
「へい!!」
ボスの号令で手下らしき数多のポケモンは一斉に返事をする。
「祭りの……始まりだ……!!」