第十二話 バトル終焉! vsカイ
『----長らく続いたバトル大会もついにシングルバトルの決勝戦のみとなった。決勝戦出場者は前へ!!』
「よっし!!」
審判に指示され、大歓声にこたえながらわたしは決勝戦のフィールドへ上がっていった。お祭りのバトルだからか言っては悪いけど実力はそこそこのものであって割とすいすいと決勝戦へ上がることができた。ファイア達は”こりゃ相手がかわいそうだ”とか好き勝手にぶつぶつ言っているのが聞こえてきた。--そんなヒトを宇宙怪獣みたいに形容しなくてもいいんじゃないの!?
さて相手は誰なのやら……。!?うそでしょ!?相手凄く緊張していてか手と足が同時に出ているし……。このポケモンは今までの相手よりも小柄で水色の体に黒色の耳が特徴的なポケモン--リオルだったわね。もしかしてあのポケモンが相手?でもこう言っては失礼だけど--
「悪いけどわたし、ここの優勝賞品のために負けないから!!」
「はっ……はぁ……?」
さっきまでの緊張が抜けたところを今度は拍子ぬけた様子で彼がそう返した。そんな変なこと言った?
『--カイ選手とリーフ選手。互いに準備はいいだろうか?』
『--はいっ!!』
わたしと彼--カイ君が全く同じタイミングで返答した。そこまでは普通だったけど……。
--ニッ
なっ!?何今の!?審判がさっき彼にアイコンタクトを送ったのがわたしの目にも見て取れた。さっきまであのヒトそんな動作見せなかったのにどゆこと!?ひょっとして知り合い!?だとしてもえこひいきとかしないでよね!!
--なんてことも言えるはずもなく、否言う間もなく心中にとどめているうちに”バトル開始!!”と宣告された。
「葉っぱカッター!!」
「電光石火!!」
先に動いたのはわたしだった。今までの相手なら攻撃一本槍に突っ込んで来てくれたから簡単に決めることもできたけど彼はそうはいかなかった。葉っぱカッターが出されたタイミングとほぼ同じところで電光石火を使った。
葉っぱカッターを掻い潜りわたしは懐まで詰め寄られた。でもこれぐらいどうってことは--!!
「はっけい!!」
下から思い切り殴らた。でもあらかじめそこから攻撃が来るとわかっていれば防御することは容易い。力を込めた部分が攻撃を受けたので大したダメージにはならない!!
「まだまだ甘いわね!!カウンター!!」
「うわっ!!」
よっし!!突っ込んでくるくらいだから物理技で攻めてくるよね。文字通りのカウンターが決まって相手は顔をゆがませたわ。
「今度はこっちから行くわ!!--メタルブレード!!」
はっけいを放ってくれたおかげで既にわたしとカイ君の距離は俗に言う”ゼロ距離”とも呼べるほどの新近距離であった。この距離なら決まる!!
「くっ……!!」
--成程……ジャンプでかわしたか……。でもこれならどうかしら!?わたしは手に持ったメタルブレードをそのまま投げ飛ばした。それもかわされたけどこれも予想の範囲内ね。
----ドスッ!
決まった。何のことはなかったメタルブレードをブーメランの要領で投げただけであった。固いもので殴られたような音と共にカイ君はうつぶせに倒れ込んだ。
「--戦闘でもゲームも相手より一歩先を読み切った方が勝てるのよ。メタルブレード!!」
続けざまにメタルブレードを投げ続けた。やっぱり接近戦を挑んでくる当たり遠距離技はない、もしくは待ち勝てないから接近戦を挑んだに違いない。だからこそわたしは相手が嫌がるように遠距離戦を選んだ。
思った通り彼はただ避けるだけで遠距離技の打ち合いになることはなかった。でも--
--おかしい
リオルは確か波紋ポケモンと呼ばれるくらいだから波導で目で見なくても攻撃場所がわかる筈……。でも彼は波導を使わずに視覚に頼って攻撃を避けていた。どういうこと?思わずわたしは戻ってくる一枚のメタルブレードをキャッチして口を開けた。
「あなた、リオルでしょ?波紋ポケモンなんて言われてるくらいだから波導を使えば簡単に避けれる筈だけど……」
「あいにくっ、僕はそんな便利なリオルじゃないんですっ……!!」
波導が使えない?どうして?正直純粋にその原因が知りたかった。後でお茶でも飲みながらゆっくり話したいけど正直それどころじゃないわね。
「そう……。でもだからって手加減はしないから!!全力で行くわよ!!」
今更手加減するのも失礼だし無論そのつもりなどない。先ほどキャッチしたメタルブレードを投げて攻撃。それを相手がジャンプしてかわしていたら--
ギシィ
--な、何なの!?この何とも形容できない嫌悪感あふれる音は!?着地のたびにフィールドが軋むようなこの上なく耳をふさぎたくなる音に自然と眉をひそめてしまった。
「審判!!」
「ん?どうしたんだ?」
「さっきからフィールドが鳴ってるけど大丈夫なの!?」
「大丈夫だ。突貫工事だけど俺の技も耐えたんだ」
--そういう問題なの!?
ギシッ!
うっ!!またあの音……。もぅっ嫌!この音は!!
「蔓の鞭!!」
「うわっ……と!」
半ば強引な蔓の鞭は決まるはずもなくあっけなくカイ君によけられて、捕まれてしまった。そう……綱引きでもしようって訳?だったら……。
「そぉれっ!!」
「うわあああぁっ!!」
力負けする心配はなかった。引っ張られる筈の蔓は逆にこちらが彼を引っ張り、その勢いを保った状態で楽々と空中に投げ飛ばした!!よし!!空中なら避けられることはない!!
「これで決めるわっ……!!」
わたし達メガニウム族のシンボルでもある首元の花に照りつける太陽の光を集めた。幸いなことに祭り日和なだけあって”この技”に必要なチャージの時間もほとんどかからなかった。
「--ソーラービーム!!」
わたしは勝利を確信した。流石にあの状態でソーラービームを相殺されることはないと踏んでいた。そんなところを--
「な、何あれ!?」
空中に投げだされたカイ君の両手が光り輝き、その光は剣に近い形状で同じ剣でもわたしのメタルブレードを上回るほどの力を本能で感じ取った。
「いっけえええええええぇっ!!
--ソウルブレード!!」
うそ!?彼の雄たけびと共に放たれた右手の剣がソーラービームを一刀両断されてしまった!?しかも刃が弱まるどころか威力を保ったまま近づいてくるじゃない!!
「これを受ける訳にはいかないっ!!守る!!」
到底避けることも相殺することもできないと考えて守るで防いだ。連続で使用されたり”フェイント”でもされない限り絶対に破られないこの防御で辛くも”ソウルブレード”とやらを防いだ。”ガアアァン!!”と激しくぶつかりあう音と共に守るの壁越しに強烈な衝撃が全身に走った。
「危なかった--
っ!!?」
油断してた。守るの解除の一瞬の隙をつかれてカイ君はすでにわたしの眼前に迫ってきていた。それも左手には”ソウルブレード”を残した状態で。
「はあああああああああぁっ!!」
先ほどの雄たけびとほぼ同じボリュームで左手の刃が斬りかかってくる!!--ダメ!!よけきれない!!
「きゃああああああああぁっ!!」
彼の雄たけびの直後にわたしの悲鳴が辺りに響いた。ソウルブレードをまとも受けそのまま吹っ飛ばされてしまった。--な、なんなのこの威力は!?
「ルッグさん?なんでリーフがあんな簡単に吹っ飛ばされたの?」
「確かに高威力とは思いましたがここまでは……?」
客席で観戦していたこの2人も似たようなことを思っていた。他の観客も同じことを思ったのかざわめきが止まらない。
「今の攻撃が--」
ここでわたしや観客の晴れない疑問に救いの手を差し出すように審判が口を開いた。
「リーフ選手に大きなダメージを与えた原因はカイ選手の嫌な音という技だ」
--い、いやな音ですって!?
「いつの間にそんな技がでていたの!?」
斬られた部分の痛みにこらえながら体制を立て直したわたしは突発的に口を開けた。嫌な音といえば受けたら防御力が格段に落ちる極悪な技。そんな技を受けたなら普通は気がつく筈だけど……。
「フィールドに着地する瞬間にギシギシとなっていて気になったんじゃないのか?」
--まっ!!まさか!!
「あのフィールドは本当に壊れそうなんじゃなくて技だったのね!!」
気がつくのが遅かった。気がつかない間に嫌な音をかけられて相手の大技を決める。すっかり術中にはまってしまったのだ。悔しい……。わたしは下唇をかみしめていた。気がつかなかったなんて……。
「”--戦闘でもゲームも相手より一歩先を読み切った方が勝てるのよ”あなたは確かさっきそう言っていましたね……」
「--!!」
あえてわたしの口調を真似てカイ君が口を開けた。彼の、否皮肉にもわたしの言った通りこの駆け引きは見事に相手に一手先を読まれ、結果として大技を受けてしまったのだ。--い、痛い……。想像以上に受けた大ダメージをこらえながらもなんとか立ち上がれた。
「はぁっ……」
「スタミナ切れってところ?それじゃ今度はこっちから!!」
--このダメージなら!!わたしの全身から緑色の目に見えるほどのオーラを纏った。”深緑……”とボソリとつぶやいたところにわたしは首を横に振った。半分はあっているけどね。
「ただの”深緑”じゃない……。わたしのは|ダメージを受けるたびに《・・・・・・・・・・・》技が強化されるの」
「ダ、ダメージを受けるたびに……!!」
この特性の説明をしたのは一度や二度じゃない。中には”ドМ”だとか”マゾじゃねぇか”だとか馬鹿にする相手もいたけどそう言う相手に限ってこの特性で確実に仕留めていった。だが彼の反応は驚きを含んだものであり決して馬鹿にした様子は見せていない。
--まだダメージは足りないかもしれないけど……
いくら嫌な音が飛んできたからと言って攻撃を一度受けただけ。致命的ではないダメージだがこれを使わ
ないと……負ける!!
シュルシュルシュル!
わたしは左手に緑色の球体を手にした。一般的にはエナジーボールって思われるけどこれは違う。エナジーボールの中でリーフストームの葉を大量に、嵐のように高速で回転させ、凝縮していた。
--エナジーストーム
正直この技を使うとは思っても見なかった。この自分でも体感している高密度のエネルギーを肌で感じたのかカイ君も(察するに)本能的に身構えていた。
「これで決める!!エナジーストーム!!」
エナジーストームが決まった瞬間。一瞬であったが当たり一帯の視界が全て遮られた。今までのドゴームもびっくりの騒ぎが嘘のように、まるでゴニョニョのささやきも耳に出来るほど静まり返っていた。
視界が晴れた先にはぐったりとしているリオルの姿が目に入った。やった……わたしが勝った。いまだに痛む体を押さえながらピクリとも動かない相手を確認し、自然と口元をあげてしまった。審判のヒトも彼が動かないことを確認して手をあげた。
「カイ選手戦闘ふの……」
「カイーーーーーーーーーーッ!!」
--!?誰あの声!?反射的に大声のした方向に顔を向けた。大声を出したのは声質から♀のピカチュウ……ってちょっと待って!!なんで隣にスパークさんが!?まさかスパークさんのの隠し子!?
「ス、スバル!?」
「まだだよっ!!まだやれるってカイ!!起き上ってよ!!」
隣で唐突に叫んだからか驚くスパークさんも含めて周りの視線を一瞬にして集めたスパークさんの隠し子(?)は人目もはばからずに必死に声を張り上げていく。
「--もっと私に……かっこいいとこ見せてよ----!!」
「ぼ……ぼくはっ!!」
「えっ!?」
最後の大声が終わったのとほぼ同じ瞬間にさっきまで倒れていた筈の彼が声を出した。ま、まさか……!!
「僕はっ……僕はまだやれますっ!!」
「た、立ちあがった……」
信じられない……。さっきまで全く動けなかったのに立てるなんて……。
「カイ選手が戦闘可能なことを認める。試合続行!!」
今までの静まりから一変、試合続行の合図が出された瞬間に今まで通りの……今まで以上の歓声がわき立った。せっかく応援があるところを倒そうとするのはちょっと気が引けるけど……。
「蔓の鞭!!」
「はっ……!!」
えぇっ!?目の前の相手は到底立っているのがやっとの筈!?なのに蔓の鞭は簡単に避けられてしまった!!な、なんで!?
「はっけい!」
「くっ……!!」
蔓を掻い潜られ放たれた”はっけい”はわたしをよろめかすのに十二分の威力を保っていた。そっか……まだ嫌な音の効果は続いていたんだ……。
「アイアンテール!!」
「は……はぁっ!!」
--な、何があったの!?まるで別人のような動きに思わず心に思っただけのことを口に出してしまった。アイアンテールを避ける時もさっきの蔓の鞭を避ける動きにも全く無駄がない。もしかしてこれも新手の特性の一種なの!?
いずれにしてもまずい!!いくら火力が上がっても当てられないと勝てない!!
「こうなったら!!」
賭けに出た。実戦でこれを試すのは初めてのこの技を。わたしの周囲には”岩落とし”程度の小さな岩を周りに浮かべて投げつけた。
「--原子の舞!!」
原子の力の要領で石にも近い岩を投げつけた。でもその岩は原子の力のそれよりも威力もサイズもスピードも小さく、簡単によけられた。--お願い!決まって!!
「もう一発!!」
もう一度原子の舞で岩を投げつけた。でもこれもジャンプで避けられたけど--
「こっちよ!!」
「えぇっ……!?」
--岩が大きい!!体も軽い!!もう一度原子の舞を放った。その岩の大きさは初弾のそれとは比べ物にならないほどの大きさと速度を保ったまま発せられた。よっし!!成功!!
こっそりとガッツポーズをするわたしとは対照的にうろたえるカイ君。
「”原子の舞”は威力を代償に追加効果を高確率で発動させる技……。まだ未完成だけどね」
ちょっと不安だったけど成功してよかった。今度こそこれで決める!!」
「リーフストーム!!」
深緑と原子の舞で強化されたリーフストームは避ける隙も与えずに決まった。
「カイ選手戦闘不能。リーフ選手の勝ち!!」
今度こそわたしの勝ちは確定した。会場は大盛り上がりとは対照的にわたしは会場の観客のように沸き立つことも歓声にこたえることもなかった。勝ったよろこびよりも悔しさが上回っていたから。
「くっ……!!」
痛みが走るほど下唇を噛んだ。手加減しないと豪語しておきながら自分は確実に相手を見くびっていた。そこに差し込まれて一度はピンチに追い込まれた。それが悔しくて悔しくてならない。あのミス一つで余裕だと思っていた試合が一瞬でひっくり返されかけたのだから。否、余裕だと思い込んでいた次点で油断していた。
--ゲームでもバトルでも多く良手を指したものが勝つのではない。一手でも悪手を指したほうが負けるんだ……。
ふっとあいつの台詞が思いだした。あの時はすごく癪だけどその言葉が今わかった気がする……。悪手、それはまぎれもないわたしの”油断”に他ならない。
--まだまだ甘いわね!!
最初の方であんな偉そうなこと言ってたけど甘かったのはわたしだった。
「ありがとう」
きっと倒れている彼にはとどかないであろう。でも言わずにはいられなかった。思わぬ自分への課題を見つけてくれるきっかけとなったカイ君に感謝しながらわたしはフィールドに背を向けた。