第十話 出動!ターマンマンズ!
今現在”英雄際”は毎年恒例のバトル大会のエキシビションマッチを終えて大いなる盛りあがりを見せている客席。ここで唐突だが少し話をさかのぼる。
「な、なんだとぉ!?」
「ふざけんじゃねぇ!!」
ガヤガヤとしていた会場付近が一瞬だけこの怒声に近い大声のために沈黙し、そしてまたざわつきはじめる。会場がざわめき始める。
「なんでオイラとこいつが一緒にゾンビ組まなきゃならねぇんでぃ!!」
「ブルー……、ゾンビじゃなくてコンビなんじゃ……」
こいつとチームメイトをけなしつつ指を指すブルーにちゃっかり突っ込みを入れるホワイト。ブルーは”そうそう、それそれ”と両手をポンという音を出して納得する。
「……おれもこんな鉄板頭と組むなんて考えただけで虫酸が走るな」
「あぁ!?誰が鉄板頭だぁ!?もっぺんいってみやがれ!!」
「ストーップ!!」
またも喧嘩が勃発する寸前にリーダーのレッドが仲裁に入り喧嘩を(なんとか)止める。しかし止めたところでこの2人のにらみ合いが止まる訳でもなくガンの飛ばし合いが続いていたのだが。
「日常生活で喧嘩をするのは勝手だがチームとして支障をきたすようでは困るからな。そこで!このダブルバトルで最低限はそつなく行動できるようにならんと困る」
ちなみに登録はもう済ませたからなとレッドは続けた。無論勝手に登録されて驚かないはずもなくノリ気のグリーンやチームメイトに不服のブルーとブラックもあまりノリ気でなかったホワイトも--
『はあああああああぁっ!!?』
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「くそっ!!なんでよりによってこんなどら猫と組まなきゃならねぇんだ!!」
「こんな鉄板頭と組むなんてこっちがおかしくなりそうだぜ……」
「んだとぉ!?」
導入の導入のダブルバトル一回戦第一試合が始まりバトルフィールドに立つ……がいきなり喧嘩を初める始末。対戦相手のポケモンも ポカーンという擬音が似合いそうな表情でその喧騒を眺めていた。無論ダブルの審判役、ルテアも似たような表情でその喧騒を同じように眺めていた。
ルテアのバトル開始の合図が発せられてもこの2人は喧嘩を止めるところを知らない。--俺達馬鹿にされているのか。相手のポケモンは両方共に顔を真っ赤にして合図と共に襲いかかってきた!!
「なめんじゃねぇ!!」
血相を変えて襲いかかる相手のポケモンにようやく気がついたブルーにブラック。その距離はほぼゼロ距離にありよけるのはほぼ無理があったが--
『ごちゃごちゃうるせぇな!!』
『ひぃっ!?』
らしくないハモリを見せながら怒りのこもった声を出す。先ほどまで真っ赤な顔が真っ青に化した相手のポケモンは足を止めざるを得なかった。
「喧嘩の邪魔を……」
『するなっ!! 』
ドカッ!!
今までのいい争いが嘘のように息のあった攻撃で相手を跳ね飛ばした。相手にもならんと言わんばかりの光景に審判のルテアも”ほぉ”と声を出して驚嘆する。
「一瞬で終わったダブルバトルオープニングバトルはブルーとブラックの勝利だ!!」
少しだけ驚きの顔を見せるルテアだが、いつも通りのテンションで高らかに勝利の宣言を言い放った。そしてブルーとブラックの快進撃は止まらずに……。
「おらぁっ!!」
「……フン」
「辻斬りィ!!」
「き、棄権します」
ちなみに最後の台詞は偶然にも相手になったグリーン&ホワイトチームのホワイトのものであった。悪タイプ二体に順調に勝ち上がってきたにも関わらずすぐさま棄権してしまった。予想に反して険悪な仲のコンビが決勝に勝ち上がることに。
「さっすが俺様ブルー様!!決勝に上がるなんて造作もないぜ!!」
「おれのフォローがなければ突っ込んでボコされてただろうが……」
バトルフィールドへ続く階段に立ち意気揚々とするブルーに対してブラックは今にも帰りださんとせんばかりに分かりやすくため息を吐いた。
「さて、こっからは同時進行から単発でバトルをお送りするぜ!!まずはダブルバトル決勝戦!!まずは正義のヒーローのターマンマンズの登場だ!!」
ルテアの相変わらずのハイテンションに観客は何度目かわからない大歓声をあげた。このハイテンションにのせられたブルーはハイジャンプをし着地した瞬間--
「正義のヒーロー、ターマンブルー参上!!」
一々対戦の開幕にビシッと決めポーズを見せるブルー。観客は飽きることを知らずに騒ぎたてた。(言うまでもなくブラックはため息をついていた)
「ケッ、な〜にが”ターマンブルー”だ。だっせぇ名前だぜ」
「アニキ、こんな馬鹿そうな連中が勝ちあがってきたんすか?」
プチッ。知らぬ間にバトルフィールドに上がってきた相手の声にブルーの血管が切れる音が人知れずに発せられた。またブラックもほんのわずかながら眉を曇らせ、相手の方を睨めつけた。
「ケッ、リーダーの亀は一回戦で尻尾を巻いて逃げ帰るし、他の奴らもすぐ棄権するような腰ぬけばっかだぜ。馬鹿か?死ぬのか?」
「おれっち、あん時はおかしくて腹がよじれるかと思ったっすよ」
「お〜お、お〜お、お〜う、な〜に勝手なことぬかしやがるんだてめぇらは……」
好き勝手に御託を並べる相手、ドクロッグとルッグと同種族のズルズキン。両者ともに最悪な人相を併せ持つこの2人にブルーが黙っていられるわけもなくブルーがドス黒いオーラでも纏ってるのかと思うほどの笑みを浮かべる。
「さっきからだまってりゃいい気になりやがって……。おめぇらのようなチンピラの方がよっぽどだっせぇんじゃねぇのか?」
「珍しくキサマと意見があったな鉄板頭。おれも同意見だ」
よほどこのドクロッグ、カガネとズルズキン、ギンジの言葉が気にいらないのか珍しくブルーの意見に同意したブラック。普段表情を変えることは少ない彼も怒っているのは誰の目にも見て取れる。
「あぁ!?んだとてめぇ!?やるってのか!?」
「上等だ!!」
互いに似たような気質を持ってるからかまだバトルの合図が始まってもいないのにカガネとブルーは技を出しにかかった!!
「待て!!まだバトルは始まってねぇだろ!!」
切羽詰まった様子でルテアがこの2人を止めにかかった。制止がきいたのか両者共に攻撃を中断し(かなり不服そうであったが)。制止こそはできたが4人のにらみ合いが止まらずにルテアは咳払いをして左手をあげた。
「ダブルバトル決勝戦!!ターマンマンズvsヤンキーズのバトル!!開始!!」
「辻斬り!!」
「ケッ!毒づき!!」
待ってましたといわんばかりにブルーとカガネは得意の持ち技を互いにぶつけあった。しかし激昂しているからか技の選択はお世辞にもいいとはいえずに--
「アニキ!?」
「……あの馬鹿が」
ギンジとブラックが身を乗り出すように叫んだ(ブラックは叫んではいないが)。ガキィンと固いものとかたいものがぶつかり合う音が響いた後カガネが若干辻斬りの勢いで飛ばされかけた。
「ダメっすアニキ!!あいつは鋼タイプだから毒づきは無効っす!!」
「格闘タイプに悪技を放つドアホがいるか……」
力任せに放った技のチョイスに相性の2文字は存在せずに相方から悪態という名の手痛い指摘を食らうはめに。ある意味では開幕の技のぶつかり合いよりも痛かったかもしれない。
「ギンジィ!!」
「了解っす。にらめつける!!」
先ほどのルッグの威嚇にも引けを取らない最悪の人相で文字通り”にらめつけ”てきた。本来物理防御力を弱める技だが人相の悪いギンジが使っては別の効果も期待できる--
「残念だが、キサマの足の遅さが出たようだな」
「なっ!!」
嘲るような口調はブラック。しかしそこにいるのはマニューラの彼ではなかった。小さなサイドンに近い緑色の人形がちょこんとブルーの隣に置かれてあっただけであった。
「み、身代わり……」
ギンジが悔しさからか唇を噛みながらその正体を口にした。”身代わり”毒といった状態異常や今回のように能力低下を一切受け付けない技。持ち前の素早さを用いてブラックはいち早く身代わりを出していた。ブルーには当たったのかと確認するギンジに--
「燕返しッ!!」
「ゲッ!!」
ブルーが迫っていた。自分に睨めつけられても一歩も臆することもなく、むしろ臆するどころかその血気盛んな勢いに火に油を注いだかの如く放たれた燕返しは勢いよくギンジにクリーンヒットする。
明らかに先ほどの辻斬りとは相性云々でなく火力が違っているのはカガネの目から見ても明らかであった。しばらくはその高い火力の原因がつかめずに普段から怒っているような顔つきをゆがませた。
「へへっ、俺は”負けん気”が強いんでね。おめぇのくだらねぇ脅しにはのっからねぇよ」
「ケッ、後でほえ面かくなよ!!かわらわり!!」
「うおああぁっ!!」
大の苦手の格闘技が飛んできた為にブルーは特性をひけらかしていた得意顔から一変、慌てふためき形容のしがたい顔つきになり情けない声をあげて辛くもかわらわりをよけるもかすったようで傷が入っていた。かすりとはいっても格闘技なのでダメージは決して小さくない。
「こんにゃろ!!ヒトがこんだけていね〜に説明してやってんのに攻撃する奴があるか!!」
「ケッ!!バトル中に攻撃して何が悪い!!」
「……じゃあいま貴様等を斬っても文句ないな」
ブルーが大げさなジェスチャーで文句を言っている間にブラックの身代わりからマニューラに戻り自慢の鍵爪でカガネとギンジに斬りかかった。
ズバン!!
キレのいい斬撃の音と共にブルーの用いる技と同じ燕返しがクリーンヒット。格闘タイプのギンジ達には効果はあったが威力が足りなかった。
「き、汚いっすよ!!身代わりで隠れて攻撃なんて!!」
「貴様らが言えたセリフか」
自分達のことを(正確にはカガネだけだが)棚に上げたギンジにブラックがざっくりと言い返した。既に彼の体は身代わりの人形へと戻っていった。--あのマニューラの身代わりを壊さねぇと……。
「凍える風」
身代わり越しにマニューラは風起こしよりもさらに微弱な風が発っした。しかしその凍える風はカガネ達には当たることはなかった。
「うぅっ……さみぃ!」
「ケッ、おい見たかギンジよ?」
「あいつ仲間攻撃したっすよ?」
凍える風は仲間であるブルーにヒットしたのだ。マニューラの特殊攻撃と凍える風の威力ではダメージは小さいものであったが、カガネ達はその滑稽な光景に嘲りの笑みを浮かべたのだ。--ブルーが攻撃するまでは。
「笑ってるとは余裕じゃねぇかよ!!不意打ち!!」
ブルーがものすごいスピードで突っ込んで来てケラケラと笑っているカガネ達を勢いよくぶん殴った。文字通りの不意打ちは相性の悪さをもろともしないパワーを持ち合わせていた。不意打ちは悪タイプなの筈だが……。
「言ってなかったのか?オイラは”負けん気”が強いってな!!」
「ま、まけんきぃ?」
カガネの口から彼らしくない若干抜けた声でブルーの言葉を復唱した。察するに彼はまけんきが特性によるものだと気がつかない様子。
負けん気。それは自身の能力が落ちると物理攻撃力が大幅に上がる代物。睨めつけると凍える風を食らったブルーの火力は相性にも影響されないものと化していた。尤も下がった能力値は無視できないのだが。
「おりゃもういっちょ!!」
「----ケッ!!アホめ!!」
勢いよく不意打ちを放ったはいいが攻撃技を放っていないと成功しないのがこの不意打ちというもの。カガネもギンジも不意打ちを食らうことはなかった。何のことはない、2人とも技すら出していなかったのだ。
「かわらわり!!」
「げげぇっ!!」
不意打ちが失敗してつんのめったところを容赦なくカガネの鍵爪に近い拳が襲いかかってきた。バランスが取れていないためによけることはできず--
「あのバカが!!」
ブルーにとってはこのバトルで負けるより屈辱的なことを受ける羽目になった。身代わりを残したブラックがかわらわりを止めるために救援していった。自分の眼前で背中を見せたマニューラにブルーはしばし口をぽっかりと開けていた。
自身に起こったことが徐々に飲み込めてきてその直後に彼に現れた感情は悔しさだった。散々悪態を吐いたブラック(こいつ)にあろうことか助けられたのだから。
「燕返し!!」
「かわらわりっす!!」
燕返しでの相殺を図るも頭上からギンジの方もかわらわりを出してきた。両手は燕返しでふさがっていた。しかし避けるとブルーに攻撃が入る。ではどうしただろうか--
「けたぐり」
「--!?」
本来相手の足をけって転ばせるけたぐりだがブラックはギンジの腕を思い切り、それもカガネの攻撃を腕で止めた状態でギンジの攻撃を足で止めた。その流れるような止め方にブルーはまた驚き--というよりは驚嘆を見せていた。
一瞬の隙をついてブラックはもう一度凍える風を放った。今度はキッチリと相手(カガネ・ギンジ)に直撃させた。
「のろのろするな愚図が。さっさと攻撃しろ」
ぼさっとしていたためブラックから容赦ない罵倒と共に叱責が飛んできた。いつもなら真っ先に反論する
ブルー出会ったはずだがこの時ばかりは素直に従った。
「覚悟しやがれ!!これが正義の鉄槌だ!!」
凍える風の影響からか上手く動かない足をどたどたと動かしながら攻撃を止められているカガネ達に突っ込んでいった。お世辞にも早いとは言えないスピードであった。だが同じく凍える風を受けたカガネ達は寒さのあまり体を動かすことができずに--
「アイアンヘッドォ!!」
渾身の鉄の頭が炸裂。単純な頭突きだがフルパワーのそれを真正面から食らったカガネ達は”グエッ……”と声を漏らしてノックアウトした。審判のルテアは倒れている2人の様子を確認した。--身代わりだった。倒れた振りをしてからの悪質な不意打ち。バトルではよくあることから審判役のチェックはそれなりに重要な役割となっている。
「……こりゃ無理だな、
ダブルバトル優勝は、正義のヒーローズとなった!!優勝した2人に惜しみない拍手を頼むぜ!!」
ルテアが高らかに優勝の宣言をしたとたんに会場が凄まじいとは形容しがたい程の盛り上がりと歓声を見せた。
「ケッ……あんなふざけた格好の奴らにやられちまうとはな」
「まいったっすね」
大観衆の前で大げさなリアクションで手を振るブルーにそっぽを向いているブラックに向かってボソリと放った。それに気がついたのかどうかは定かではないが歓声にこたえていたブルーが彼らの方に向かってきた。
「おぅおめぇら大丈夫か?おめぇら中々やるじゃねぇかよ〜」
その彼の表情は今まで馬鹿にされたりと決していいものではなかったが今ではにこやかなものとなっていた。しかしカガネ達にはいいものではなかったのだが」
「ケッ、正義のヒーロー様が馬鹿にでもしにきたのかよ」
「何言ってるんだ。んな訳ねぇだろ。おめぇらはこの辺のポケモンなのか?」
しかしこの2人はこたえることなく、カガネはケッと漏らしそっぽを向くだけだ。
「まぁいいや。名前きかせてくれよ。オイラはターマンマンブルー。んでこの愛想の悪いどら猫がブラックだ」
「ケッ、だっせぇ名前だぜ?ターマンマンだぁ?」
いつも通りの憎まれ口を叩くカガネに”んだとぉ!?”と激昂するもその顔や口調から本気で怒っているわけではなさそうだ。
「俺はヤンキーズのカガネだ。ぜってぇ俺達の方がチーム名も名前もかっこいいと思うぜ」
「おれっちはギンジっす。同じくヤンキーズっすよ」
ここで初めて4人が自己紹介にて名を知った。ギンジの名を知ったところでブルーがニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「ギンジっていったよな……。今からオイラがすんばらし〜あだ名つけてやろうか?」
「あ、あだな……っすか?」
おう!と胸を張ってこたえるブルーにギンジは首をかしげた。きっと頭にクエスチョンマークがでていることだろう。そしてブルーはニコニコしながら続けた。
「おめぇ、今日からオイラがギンちゃんって呼んでやる。ありがたく思えよ」
「なっ……!!なんなんすか!!ギンちゃんって!!」
ギンちゃん。ブルーが即興でギンジに対するあだ名を思いついたのだ。ギンジはおたおたと諸手と首を横に振りながら反対した。さてこのあだ名を聞いた他のメンバーはというと……。
「ケッ、かわいいあだ名つけてもらってよかったじゃねぇか」
「おまえにしてはおもしろいもの考えたじゃねぇか……」
「な、なんなんすか!!あんたやアニキまで一緒になって!!おれっちはすんごく嫌なんすけど!!」
頭のトサカと変わりないほどに顔を真っ赤にさせて首を横に、それはそれはシェイクするほどの勢いで振りまくるギンちゃん----もといギンジにドばっと笑いが込み上げていった。